「なぁ、平次。どこ連れてってくれんの?」
和葉は目をキラキラさせながら平次に聞いた。
ぽかぽかしている休日。
出かけるにはもってこいの日だ。
遠くではしゃぐ子供の声が聞こえる。
平次はというと、ガレージからバイクを出していた。
「あ、バイクで行くん?やった!」
平次のバイク。
和葉はこのバイクの後ろに乗って走るのが好きだった。
「よいしょっと。お前、こないだ魚見たい言うてたやろ?」
ガレージからバイクを出し終え、平次は和葉の方に向き直って言った。
「うんっ。覚えとってくれてたん?」
和葉はすっとんきょうな声をあげた。
「まぁな」
和葉の、素直といえば素直な、意外といえば意外な反応に、平次は一瞬どんなリアクションをしていいか迷ったが、そっけなく答えた。
話は遡ること一ヶ月。
いつものように二人で登校しているとき急に、和葉が、「魚が見たい」と言い出したのだ。
その魚というのも、めったとお目にかかれない、ピンク色の魚なのだ。
昔、和葉がまだ幼稚園に通っていた頃、家族で行った水族館で見たらしい。
その魚が夢に現れたので、もう一度見てみたくなったのだという。
この話を、一ヶ月たった今でも平次が覚えていてくれたことは、和葉にとってこの上なく嬉しいことだった。
「で、どこ連れてってくれんの?」
和葉はわくわくしていた。
(もしかしたら・・・)と、多少の期待もあった。
が、平次から返ってきた言葉は、
「商店街の魚屋や」
だった。
和葉はがく然として、しばらく何も言えなかった。
正直、ここまで期待と現実の差にギャップを感じるとは思っていなかった。
「商店街におるわけないやろ!このバカ平次っ!!」
怒りがだんだん悲しみに変わってきた。
「(平次に何期待しとったんやろ)」
そんな思いが込み上げてきた。
何故だか分からないが、涙が込み上げてくる。
「あたし、もぉ帰る」
和葉は、そうつぶやいた。
そして、平次に涙を見られないように、くるっと回れ右をした。
すると、平次があわてて和葉の肩をグッとつかんで引き寄せた。
「ちょー待てよ。ゴメン。ほんの冗談のつもりやったんや。お前がこんなんで泣くやなんて思わんかったんや。せやから・・・・・・・その・・・・・・・」
平次は少しバツ悪そうに言葉を続けた。
「その・・・・・ホンマ、ゴメン・・・」
「・・・・・・・・・・へっ?」
声が出るまで、一呼吸間があった。
平次が素直にあやまっている。
和葉は何が何だかわからなかった。
「ホンマは海遊館行こ思てたんや」
「海遊館?」
「そや。歩いて五分の商店街までバイクで行くわけないやろ?」
「・・・ほんま?」
「ほんまや」
「ほんまに、ほんま?」
「ほんまに、ほんまや」
目に涙を浮かべたまま問う和葉に、平次は念を押した。
「でも、もうこんな時間やで?」
家の前で、長い間ごちゃごちゃやっていたようだ。
腕時計のデジタルは、12時を過ぎていることをおしえていた。
心配そうな和葉をよそに、平次は明るく言った。
「大丈夫や。今日は朝まで帰らんつもりやから、時間はなんぼでもある」
「なっ、何言ってんの?!」
和葉は真っ赤になりながら、あわてていた。
「自分が何言うてんのかわかってんの?!」
そんな和葉をみて、平次はおもしろいおもちゃでも見ているかのように、ケラケラ笑って言った。
「うそやって。今日は、日付変わるまでならええって、オヤジに許してもろとるから」
「あんったねぇー、うそばっかり言ってんのちゃうでっ!!」
寝ている人までもが起きるかと思うくらい、和葉は大きな声で叫んだ。
「・・・和葉・・・、もうちょい考えて叫べや」
平次は両手で耳をふさぎながら、和葉を横目で見ながら言った。
しかし、平次の言葉を聞いているのかいないのか、和葉は別の心配をしていた。
「でもあたし、そんな遅なるて言うてきてないで・・・」
そんな和葉に、平次はあかるく言った。
「大丈夫や。和葉のオヤジにも許してもろとるよ」
「えっ、そうなん?!よぉ許してもろたなぁ」
和葉はビックリしているようだった。
「オレとやったら、何かあっても大丈夫やと思たんちゃうか?」
と、何故か得意げな平次。
「平次がなんかやったらシャレにならんけどな」
と、冷たい目で冗談を言う和葉。
「(でも、ほんま、友達とは許してもろたことないのに、平次とやったら、なんで、こんな夜遅くまでええんやろ・・・・・)」
考え込んでいる和葉に、平次はポンとヘルメットを投げてよこした。
「ほら、行くで。早よかぶって、後ろ乗り」
平次はすでにヘルメットをかぶってバイクにまたがり、エンジンをかけていた。
「(あんま深く考えんでええよな。平次といっしょにおんのも好きやし)」
そう和葉は思った。
そして、「うんっ!」と元気よく返事をすると、平次の後ろにまたがった。
「しっかりつかまっとけや」
「わかってるって」
「ほな、行くで」
けたたましいエンジン音とともに、二人を乗せたバイクは、流れる雲の下を、西へと向けて走っていった。
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(ひよりちゃんコメント)
この話は、「服部家の休日」の続編みたいな感じの作品。
ちょうど私が、「海遊館に行きたいなぁ」と思ったけど行けなかった時に、
「そうだ、平次と和葉に行かそう」と思って書いたものです。
二人の掛け合いが、思ったよりも難しかったかな。
でも、個人的に平和コンビは好きだから、書いてて楽しかったの(^^)
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はぁぁぁ♪やっぱ平次&和葉はいいよねぇ♪
提供ありがとう♪ひより様様様〜♪byあっきー