危険なお茶会
Presented by Aoi Hayami…
「今日の帰り、俺のうちに寄っていかないか?」
その、薄めの唇が紡いだのは、思いがけない一言だった。
「別にいいけど、いきなりどうしたんだい?」
ラケットをしまいながら、不二は問いかけに対して問いで答えた。
「イギリスのテニスの雑誌が手に入ったから、貸してやろうと思ってな。量が多くて、俺が持って行くよりもお前が読みたいのを持って帰ってもらったほうがいいだろう。」
「それはありがたいね。是非寄らせてもらうよ。」
少し遠回りをして商店街を通って帰ろう、と不二がしつこく言うので、手塚は帰宅コースを変えることにした。
手塚としてはあまり向こうの道は好きではない。
二ヶ月ほど前、あの道を彼と通ったときに言われたコトバ。
そして…土手に沈みゆくあの熱い夕日を…まだ体が覚えているから…。
「手塚?」
声をかけられてはっとする。
土手はいつの間にか過ぎていて、すでに商店街に入っていた。
人や自転車が行きかう道。
握りこんでいた手を開き、手のひらの汗を制服のズボンで拭った。
「ああ…いや、何でもない…。」
あれから二ヶ月…そうだ、二ヶ月も過ぎているのだ。
不二はその後何も言ってこない。
夢だったような気さえしてくる。
だってもう痕は残っていないし…などと考え、思わず熱くなった体を思い出してしまった手塚は、軽く頭を振ってその思い出を追い出そうとした。
ふと隣にいるはずの不二を見ると、ケーキ屋のショーケースを見ている。
「どうした?」
「手ぶらで手塚の家に上がりこむのは失礼かと思って。」
「気にするな。今、家族は皆出かけている。」
…一瞬、不二がにやっと笑ったような気がしたが。
しかし、不二はショートケーキを一つ購入した。
「それは?」
手塚が問うと、不二は微笑んで答える。
「ちょっとね。それにしても、随分と艶かしいセリフを…」
「何か言ったか?」
不二は何も言わなかった。
夕日が落ち、一つ二つと星が瞬き始める頃、手塚の家に着いた。
このところ日が暮れるのが早くなってきている。
相変わらず綺麗に掃除された玄関に、不二は躊躇いがちに足を踏み入れた。
「鍵を閉めておいてくれ。ジュースでも探してくるから、俺の部屋で待ってろ。」
真っ暗な家の中にぽつりぽつりと電気をつけながら、手塚は不二に背を向け、台所に消えていく。
不二は器用にも後ろ手に鍵をかけると、音がしないようにそっとドアチェーンまでかけ、淡くついた玄関の灯火を流れるように消し、階段を上がり始めた。
「遅かったね、手塚。」
開いたドアに向き直り、正座したまま不二は手塚に声をかけた。
手塚の手には、湯気が立ち上る二つのカップが持たれている。
「ジュースが無かったからコーヒーでもいいだろう?」
そのカップを、一つは不二の前のテーブルの上に、もう一つは自分の机の上に置きながら、積み上げられた雑誌の山を指差した。
「その中から読みたいの出せ。」
ぶっきらぼうにそれだけ言うと、不二に背を向けて、手塚は数学の宿題を始めた。
ちらりと横目で不二を見ると、その細い目で、雑誌の中の活字を追っている。
手塚は安心して宿題を続けた。
…五分程その静寂が続いたろうか。
「あぁ、手塚、そこ違う。」
すぐ後ろで柔らかい声がしたのにドキッとした。
いつの間にか、不二は肩越しに手塚の手元を覗き込んでいる。
背中に温かさを感じ、耳元に温かい空気が触れる。
不意に、シャープペンシルが手から滑り落ちた。
不二はそのシャープペンシルを握ると、覆いかぶさった状態のまま、すらすらと問題を解き始めた。
紙の上を踊るペン先は、手塚に視線をそらすことを許さなかった。
いや、もしかしたらこの自らの心臓の奏でる旋律を聞かれることを恐れ、無意識に誤魔化すために目が追っているのかもしれない。
「おっと…。」
消しゴムが、その手に弾かれて、手塚の膝の上に落ちる。
キャスター付きの椅子が、手塚を乗せたまま後ろに下がる。
手塚は、気付かれないかとひやひやしていた。
すでに…自身が緩く首を擡げていたからだ。
二ヶ月前のことをふと思い出す。
あの土手で…不二に言われた『好き』という言葉…。
戸惑っていた手塚を、不二は無理矢理狂わせたのだ…。
そんなことをぐるぐると考えているうちに、体が自然とびくりと反応した。
自身にそっと触れられているような気がしたからだ。
驚いて足元を見ると、机の下に潜り込んで、消しゴムを探す不二の手が、手塚の自身にズボン越しに触れている。
「ホラ、消しゴムあったよ。…何真っ赤な顔してるんだい?」
「…ちょっとこの部屋暑くないか?」
何も気にしていないふうの不二の口ぶりに、妙に意識してしまっている自分に気付く。
立ち上がって窓を開けようとするが、両足を不二が押さえている。
「ここをこんなにしちゃってるから暑いんだよ…手塚の体はエッチだね…。」
手早くジッパーを開け、手塚の自身を取り出す不二。
それは、開放を求めて脈打っている。
「喉渇いちゃった。コーヒーってすぐ飲んじゃうんだよね。」
「や…やめろ不二…っひあッ…!!」
ぱくっと不二が咥えこむと、手塚の自身はさらに天に向かって成長しようとしている。
喉の奥から情けない声が絞り出された。
「不二…やめてくれ…っ!だめ…だっ…!」
…言葉は頑なに拒むが、拒む為に手は動かない。
「素直にしてなよ…。」
不二はそれに囁くように口から離すと、手塚の肩を掴み、滑るように胸の高さまで目線を上げた。
そして器用に、左手で学ランのボタンとYシャツのボタンをはずしていく。
…精錬された、若い体のお目見えだ。
まだ青いその胸へ、不二の冷たい右手が這った。
「…っん…。」
その指が、何度か小さな二つの突起の上を通り過ぎるたびに、手塚の体はぴくりぴくりと反応する。
その様子を、不二はにやにやしながら見ている。
火照った顔を背けた時、不二の手が右の突起をきゅっと摘んだ。
「…っあん!」
「可愛いね…良い子だからおとなしくしてなよ…?」
荒い息の中、かくかくと反射的に頷いたのは、不二がうっすら開いた目がキラリと光ったからだ。
これ以上抗ったら何をされるかわからない獣の目…。
それに…気持ちが良いのだ。
腰骨からじりじりと伝わってくる快感が、手塚をまた狂わせようとしている。
そして、手塚の自身を不二が扱き始めた。
「う…あ…ッ!」
だんだんと昂ぶらされていく。
不二の唇が、肌蹴た胸に忍び寄ってきた。
その唇が音を立てて突起を吸い始めるまで、時間はかからない。
「出しそうになったら言うんだよ、手塚…。」
「な…んで…。」
高潮し、薄ぼんやりと濁っていく意識の中、無意識ながらにそう聞いた。
「喉が渇いたって言ったろ?」
手のスピードが上がる。
じんわりと先端が湿ってきた。
「粘り強いなぁ…結構自己処理してるの?」
その問いに、唇を噛んだままの手塚は答えない。
それを抗いと認識した不二は、手塚の自身をぱくっと咥えこむと、それに舌を絡める。
びりびりと腰から響いてくる何とも言えないこの感覚。
「…あっ…出…る…ッ!」
びくっと体が反った時、手塚は不二の口内で果てた。
口の端から白濁の液体の筋が描かれる。
「へぇ…手塚って口でやられるの弱いんだ…?」
ぐったりと椅子にしなだれかかっている手塚の体を抱き起こし、キャスター付きの椅子ごとベッドのほうに運んでいく不二。
「っ…まだ何かする気…か…?」
掠れた声のセリフ。
それをしっかりと聞き取ると不二は、またくすくすと笑い出した。
笑い上戸かサディストか。
そうとしか思えない。
「心外だなァ。手塚がぐったりしてて具合悪そうだから、ベッドに運んであげようと思ってたのに。でも、『何か』って、リクエストだよね?嬉しいなぁ。」
椅子から、ベッドへと体が転がるように移動した。
まだ自由の利かない体から、服を剥ぎ取られる。
その指の動きは滑らかでいやらしい。
脱がし慣れているのだろうか…何故か悔しい思いが、眉間に皺を寄せさせた。
しかし、その指の動きを見ているだけで、手塚は自分の体が疼いていることを否定できない。
思わず赤面してしまう。
抱カレタイ…
自身がそう思っているのか、欲望を放出したばかりの男根は、また起き上がっている。
ズボンに手をかけた不二は、社会の窓から覗いているそれを優しく引っ込めさせると、ズボンと下着を一気に引っ張り下ろした。
「アッ…」
思わず喉から零れ落ちる声を口づけで遮られる。
歯列を割り、口腔内に侵入してくる生き物のような舌。
這い回るそれは、中に徐々に苦味を染み込ませる。
そして、それが不意に液体として口腔内に滴らされた。
突然のとろりとした雨を、思わず飲み込む。
つーんとした苦味が、喉に刺激を与える。
これはもう、咳き込むしかない。
「ごほ…げほっ!な…こ…っ!?」
うまく声が出てこない。
今飲んだこれは、一体何なんだ!?
涙目になって咳き込んでいる手塚を、不二はにやにやしながら眺めている。
「自分が精製したカルピスの味はどう?結構くせになる味だよね…ちょっと濃いかな?」
その言葉は、手塚の体を凍りつかせた。
これ幸いと手塚の体からはいつの間にか服が消え、白くて綺麗な肌が露になっている。
口づけの間に脱いだのであろう。
肌と同様、引き締まった筋肉やそそり立った自身までも、手塚に視認できる。
「ごめんね手塚…キミ、ちゃんと返事くれないんだもん。もう我慢してあげられない。」
手塚の唇を、もう一度暖かくて薄い唇が覆う。
今度はゆっくりと口腔内を這い回るその熱い舌。
自らの舌も絡め取られ、吸われ、だんだん目の前がぼんやりと霞んできた。
ふ、と唇が離れ、互いの舌から舌へと蜜が糸を引く。
代わりに、二本の何かが突っ込まれた。
絡められる蜜。
「これじゃ少ないかな…?」
手塚の両足を持ち上げ、腰の下にクッションを置いた。
その、蜜の滴る二本の指を自らの口の中からさらに多量の蜜を絡めて出す不二。
人差し指と中指は、淫靡にぬらぬらと光っている。
そして、すっかりぐったりとした手塚に膝を抱えさせ、その未開発の蕾に二本の指を押し当てた。
「…っ!!!」
ビクッと腰が震える。
これは、快楽に溺れた動きではなく、痛みからのだ。
「い…痛…痛い…ッ!!」
「落ち着いて…すぐ良くなるから…。この前もそうだったでしょ…?」
この前…そうだ、この前だ…。
あの夕日を…思い出した。
しかし、このセリフからじゃ、不二はやめてくれそうにない。
そんな不二の視界に、小さな箱が一つ飛び込んだ。
目が、嬉しそうに細められる。
「手塚って、甘いもの平気だったっけ?
彼は突然そんなことを言い出した。
手塚の唇は、痛みで震えて言葉を紡げない。
「っくぅ…ッ!」
二本の指が蕾から抜かれる。
大きく息をついた。
箱に歩み寄った不二は、そそり立つ自身はそのままに、箱を開けた。
生クリームたっぷりのショートケーキ…それを箱ごと持って息が乱れた手塚のもとへ戻ってきた。
「一緒に食べようか。」
小ぶりな苺をその薄めの唇ではさみ、軽く開かれまだ乱れた息が零れる手塚の唇へ運ぶ。
親鳥が雛に餌を与えるようなその光景は、何故か神聖な儀式のようで…ぼんやりとした頭で苺を与えられた手塚は、素直にその苺をほおばった。
いつの間にか両目から流れ出した涙でしょっぱくなった口内に、苺についたクリームの甘みとそれ自体の甘酸っぱさがじんわりと広がる。
落ち着いた…のもつかの間。
再度蕾に近づいてくる二本の指。
今度はクリームがたっぷりついている。
「クリームはこっちの口にあげるよ。」
言い終わるか終わらないかの内に、素早く入り口にクリームを塗りたくると、中に入り込んでくる。
彼の指は先程までの痛みは伴わないが、ひどい不快感を手塚に与える。
いやらしい音をたてて馴染ませるように…指は中をかき回す。
「ひぁ…んッ!」
ある箇所に指の先端が触れたとき、手塚の体が激しく揺れた。
不二はにやにやしながらそこを集中的に攻める。
その度脅えるような動きで反応する手塚の体。
自身もまた、ゆったりと首を擡げた。
「感じてるね…ケーキ美味しい?」
優しく…手塚の男根に唇で触れながら囁く不二…。
するとそれに招かれたかのように、そこから溢れ出す透明な液。
それは先走り。
くすっと微笑むとそれを唇に塗りつけた。
「指じゃイかせてあげないよ…僕のをあげるから…。」
そっと腰を持ち上げると、自身を蕾に擦り付けてくる。
じわじわと侵入してくるそれを感じ、手塚は無意識に枕のほうへ逃げる。
ベッドの頭のパイプまで辿り着き、首を自身の方へ曲げる。
こうまでしても逃げたいのか。
しかし、自分の蕾がまだ半ばまでも不二の自身をくわえ込んでいないことを視認すると、痛みを堪えるように瞼を閉じた。
その表情を見た途端、不二の双眸が猛る。
クリームの油分での滑りを借り、手塚の中に入り込んで来た。
勢いをつけて…手塚の全身を突き動かすように。
「い…痛…ぁああっ!!」
喉から沸きあがる声。
嗄れて、掠れたその声が、汗を振り撒きながら揺さぶられる体と同じリズムで絞り出される。
「ああ…手塚の中はとても温かいよ…とろけそうだ…っ!」
リズミカルなその動きは、手塚の体を揺さぶる。
内臓が、体の奥へ奥へと押し込められていく。
その先端は先程の箇所に掠った。
「ア…っ!」
反られる背。
脳まで達する恍惚感。
酔いしれる、奪われる…どちらが正しいのか解らないほどの熱が、二人を満たしていった…。
手塚の中に産み落とされた白い液体。
それが引き抜くことを強要する。
生々しい音と共に引き抜かれた不二の男根。
その大きさを目にし、赤くなってしまった。
「まだ欲しいの?」
呟く一言に、弾かれたように首を横に振った。
くすくすとまた笑い出すその男。
体を起こした彼は残ったケーキを半分食べ、服を着始めた。
「手塚も、そろそろ親帰ってくるんじゃない?」
汗ばんだ体にまた制服を羽織ると、鞄に数冊の雑誌を詰め込んだ。
部屋中に甘ったるい匂いが充満している。
「これ借りてくよ。」
いつも通り細まった何を考えているのかわからない双眸をベッド上でぐったりとしている手塚に向けると、微笑を絶やさず言った。
「鍵開けたままになるから気をつけて。ありがたく借りていくよ。…あ、それと、ごちそう様。甘くて美味しかったよ。」
閉じられた扉。
その意味を理解するまで数秒かかった。
はっと気付くともうそこには彼の姿は無い。
真っ赤な顔をし、ぶつけられない恥ずかしさを枕に込め…ドアに投げつけた。
あの男には…勝てない。
しかし、そんな状態もいいと思ってしまう自分が怖い。
明日はテニスをちゃんとできるだろうか。
腰の痛みも怖い手塚くんであった。
THE END
はい、速水碧初めての不二×手塚小説、いかがでしたでしょうか?
ちょっと生々しかったかと後悔しておりますが、激しいのがお好きな腐女子方にはまだまだ足りないというお方もいるのでは?
では、三文小説でしたが読んでくださってありがとうございました。
Thank you and see you next time☆