相対関係に成り立つ方程式 -名探偵と科学者と中学生の非日常的会話-

作:毛利桜依様



敵対するからこそ
惹かれあう


「私と彼の関係?そうね…ひどく気になる存在の敵対する男女ってところかしら」


にっこり。それはもう、「にっこり」って音がしそうなくらい。


…それが冗談に聞こえなかったボクは悪い子でしょうか?




そもそも、始まりには、博士の家に、僕が遊びに行ったことがきっかけでした。
博士が、新しいソフトを開発したというので、歩美ちゃんと元太君を誘っていこうと
思っていたのですが、歩美ちゃんはおけいこ、元太君はお使いという理由から、
雨の中僕が一人で行く事になりました。
これが、ボクの今日の不幸の始まりだったんです。



「あら、いらっしゃい」


阿笠邸に着くと、そこには宮野さん…いえ、志保お姉さんがいました。


少し前に、なんだか、二年前にアメリカにいったといわれる、
僕の好きだった彼女に…灰原哀さんに似ている為、聞いてみたところ、
最初は考えていたようですが、




「…哀の姉よ」



ストレートに返答が帰ってこなかったことに多少戸惑いましたが(お姉さんなのに答えに迷うのでしょうか)
やはり、灰原さんに似ていることが、僕を納得させました。
…あぁ、話がずれましたね。



「あなた、ひとり?珍しいわね。歩美ちゃんや元太君は?」

僕を単体で見てくれないのだろうか。
博士も、工藤さんも、蘭お姉さんも、僕が歩いていると、決まっていう台詞だ。
中学生になったんだから、一人で行動してもいいんじゃないかな?


「あ、歩美ちゃんは、おけいこです。元太君はお使いとか、言ってました」

「そう…、みんな忙しいのね。小学校の頃とは違って…」
 

一瞬、遠い目をした志保さんは、灰原さんにやっぱり似てるなと、思う。
小学校の頃をまるでみてきたかのような志保さんに、
これ以上質問はしない方が良いと思った。
もし、志保さんが灰原さんでも、この際どうでもいいような気がしたから。

 
「博士にようがあるんでしょ?」
 
声をかけられた僕は、思考回路の奥へ消えていた意識を取り戻した。

「あ、はい!」
 
どうも、志保お姉さんの前では調子が狂う。
…歩美ちゃんや、元太君といるときとでは、全然違う。
なんだか、ものすごく綺麗な、志保お姉さんは、どこか人間らしくない空気を纏っているよな気がする。
だから、志保お姉さんを見ていると、灰原さんを思い出すんだ。
…あの、甘い、そしてほろ苦いチョコレートのような、恋を。


「残念だけど、博士なら今しがた、出かけたわ。なんでも特売品がどうのこうのって…」

コーヒーをだしながら、志保お姉さんは言った。
呆れているように見えるけど、ちゃんと博士のことを優しく思ってる、そんな目だった。

「そうなんですか?」
 
「あら、あんまり驚いたり、しないのね。博士の方から、誘ったんでしょ?」

「あ、はい。でも…」

「でも?」

「あ、いえ…」
 
志保お姉さんと一緒にいるのも、悪くないかと思った。
なーんて、口が裂けても言えない。



ピンポーン…クシャ。
 
 
インターフォンの音がしたあと、何かを踏みつける音が聞こえた。
すると、志保お姉さんは、苦虫を噛み潰したような顔をして、
「いいかげんにしてよね」といいつつ、僕に、「少し待ってて」といって、
黒い上着を羽織り、玄関へ向った。
何か面白そうな事が始まりそうな予感がした。



「…で、今日は、何」
 
「つめてぇな、ソレ。その反応どうにかなんねーのかよ」
 
「ソレを言う為にわざわざ来たってわけ?貴方ほど忙しい、レーズン嫌いの東の名探偵サン」

「うるせー!」
 
 
 
僕が扉の向こうに見たのは。
そう、僕が尊敬してやまない、ホームズの次に名探偵だと思える、彼。
工藤新一さんでした。彼は、ものすごく、志保お姉さんと仲がよく見えます。
しかし、志保お姉さんいわく、「どこが?」だそうです。


新一さんは、六年前、一度姿を消していたようですが、ちゃんと戻ってきました。
そのときの、蘭お姉さんの喜び方は凄かったけれど、今、ふたりは付き合っている、というウワサは
一度も聞かないことに僕は不思議に思っていました。一度、志保お姉さんに聞いたところ、
一瞬、驚きと悲しそうな顔が混ざったあと、
 
「時が経つとみんな、変わってしまうから…」

と、目を伏せて言ったので、それ以来僕は聞くことができませんでした。
もちろん、今でもあの、探偵事務所に、蘭さんは迷探偵のおじさんと住んでいるみたいですが、
以前ほど、会わなくなりました。それは、コナン君がいないから、だと思います。
…コナン君と、新一さんも似ている気がするのは、きっと気のせいじゃないとも感じそた。

灰原さんとコナン君。
志保お姉さんと、新一さん。


どうみても、灰原さんたちが成長したら、ああなるだろうという関係の二人。
…でも本人に聞くと笑って否定されそうなので止めときます。







「で、用件は何なの?」
 
「博士にあるんだけど」
 
「博士なら残念ね、出かけているのよ。またいらっしゃい」
 
「なら、コーヒー飲んでく」
 
「無理。豆切らしてるの」
 
「嘘だね。今、コーヒーの匂いが微かに香るぜ?しかも…先客が居るみてぇだしなぁ、
オトコの」
 
「だから、何?先客が居るから、またにして」
 
「無理」
 
「こっちも、無理だわ」
 
「この雨の中、俺を放り出すんだ、志保は」
 
「雨降ってるの?へぇ…」
 
「だから、風邪引いちまうだろ?」
 
「なんとかは風邪引かないってことわざあるじゃない」
 
「俺は、馬鹿じゃない」
 
 
 
なんだか、不毛なけんかの声が聞こえます。
しかし、志保お姉さんは至ってクールです。でも、新一さんは、ひとりで燃えています。
なんだか、志保お姉さんのほうが一枚上手みたいです。



「で、先客は?」
 
「答える義務はないわ」
 
「いいじゃねぇかよ」
 
「黙秘権を行使するわ」
 
「ちっくしょ…」
 
「誘導尋問が下手なようね、名探偵サン」


「…スキあり!」
 
 
 
志保お姉さんが立っている横をすり抜けて、新一さんはリビングへやってきました。
そのふたりは、本当に灰原さんとコナン君のようだと思います。



「なーんだ、光彦か?」
 
 
「…いちゃいけないでしょうか?」
 
 
「だーれもいってねぇだろ?」
 
 
ニカッと笑いながら僕の頭をくしゃくしゃ、としました。
新一さんは、コナン君とやっぱり、くどいようですが似てると思います。
 
 
 
 
「ちょっと…濡れたまま入らないでよね。せめて、拭いて頂戴」
 
「あ、わりわり」
 
「全然反省してないようね」
 
「志保は固いなぁ」
 
「これ以上言うと、窓から放り出すわよ」
 
 
また、不毛な争いが続きそうだったから、僕は早々にソファーに退散しました。


 
 
 
「コーヒー飲むんでしょ」
 
僕に聞いたときとは打って変わって、ぶっきらぼうに志保お姉さんは言いました。

「あぁ。ブラック無糖で」
 
「ブラックは無糖に決まってるでしょう」
 
 
 
スタスタとスリッパの音が響き、志保お姉さんはキッチンへ向いました。



「あのぉ、新一さん…」
 
 
「ん、なんだ、光彦?」
 
 
気になってる事を聞こうと思います。
これでも、僕は探偵を目指しているので。
 
 
 
「新一さんは、志保お姉さんが好きなんですか?」
 
 
 
 
「はぃ…?」
 
 
 
 
「図星ですね!?」
 
 
 
 
「ちょっと待て…」
 
 
 
 
「やっぱり、そうなんですか!?」
 
 
 
 
 
「…最近の中学生はませてると言うかなんというか…」
 
 
 
 
 
「ぼそぼそ何か言って、どうしたんですか?」
 
 
 
 
 
「なんでもねぇよ…ったく…」
 
 
 
 

そういって、赤い顔をしてそっぽ向く新一さんは、やっぱりコナン君に似ています。
でも、もう似ているか似ていないかは構わないと思いました。
所詮、ふたりとも素直じゃない、という最大の接点がわかりましたから。








「何、仲良さそうね」
 
「はい!」「ちげーって」
 
「凄い仲いいのね。そう」
 
一部意見を無視して、志保お姉さんは言いながら、テーブルにコーヒーのカップを三つ
置きました。


「で、飲んだら工藤君は帰りなさいよ。光彦君も暗くなるし、雨酷くなるといけないし、車で送るから。」

「ありがとうございます」

「おぃ、随分俺と仕打ちが違うじゃねぇか」
 
「当たり前よ。貴方はとなりに住んでるでしょ。大の大人が何?」
 
 
このけんかも、耳に慣れると痴話げんかにしか聞こえません。










そうして、あっという間に時は過ぎました。
なんだかんだいって、志保お姉さんと、新一さんは凄く頭がいいので、会話のレベルも高いみたいです。
この前の事件の話をしている二人の目は、強い光を放っていました。
でも、僕の存在を思い出すと、優しい目で語りかけてくれました。


しばらくすると、僕と新一さんは寝てしまっていたようです。

僕が目を覚ますと、志保お姉さんは、読んでいた雑誌から目を上げ、
「あ、目、覚めたのね」
といいました。僕と新一さんには、別々に毛布がかかっていたので、僕は丁寧にたたんで、
渡しました。



「新一さんって、志保おねえさんにとって、どんな存在ですか?」

「私と彼の関係?そうね…ひどく気になる存在の敵対する男女ってところかしら。光彦君は、方程式って習ったでしょ?
あれでいえば、]=0ね。=0だと、その式の一方の辺の数は変化しないでしょう。だから、お互いに、
作用しあってよくなる関係にはならないってことね。」



にっこり

と音がするくらいの笑顔で言われたので、取りあえず僕は頷いておきました。
でも、志保お姉さんと新一さんは、相対関係に合ったとしても、きっと…
作用しあって、良くなる関係に見えます。そこに成り立つ方程式は、=0じゃない。
そういう風に僕は思います。

なーんて、いえるわけないですけど、ね。









「なかなか、おきませんね、新一さん…」
 
「そうね。…まぁ、あと4,5時間は寝てるんじゃないかしら」

「えぇ!?」

――――――とにかく驚きです
 
「…だって、コーヒーに睡眠薬入れたもの。あ、もちろん市販のじゃなくって、博士特製のね。
私が眠れないときとかに使うやつよ」
 
「で、でもどうして…」

「…最近ね、彼…寝てないのよ。ロクに。毎晩遅く帰ってきて…また早く出かけていくの。
隣だから、イヤでも分かるのよね。で、寝なさいよって言っても、平気平気!ってごまかすのよ」
 

そういった志保お姉さんの顔は、ものすごく心配そうでした。



「だから、ですか?」
 
「そ…無理やりにでも寝かせて、休養をとってほしかったのよ」

「志保お姉さん…」
 











 
「なーんて、本音のところは、うるさいから寝かせたかっただけよ」

クス。
 
 
とたんに、さっきの優しそうな顔は消えて、クールな笑が浮かびました。
僕の背筋が凍るのを感じます。
そろそろ、帰った方がいいかもしれません。



「車で送るわよ?いいの?」

「はい、大丈夫です。新一さんに、よろしく」

「ええ、またね。また、いらっしゃい…」


 
 
 
その後、阿笠邸のリビングでは。



「まったく…馬鹿も休み休みにしてほしいわね」
 
風邪、ひかれたら困るのよ。
私も、その中のひとり…なーんてね。
心配してる、なんて絶対に口に出せるほど素直じゃないもの。


優しそうに笑って、毛布をかけなおす志保お姉さんの姿がありました。




方程式で、=0じゃないとしたら、私達は幾つになるのかしら?
作用しあえる関係を望むわけじゃないけれど…
貴方と、また明日言い合うのがほんの少し楽しみになってるから。
今は、ゆっくり休みなさいよ?


工藤、新一クン?



-end-
 
 
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あとがき

あっきーサマからのリクエストで、「新一vs哀で、やっぱり哀は凄いなと思えるもの」
ということでした。ごめんなさい、まず!「新一vs志保 傍観者光彦」になりました。
しかも、新一→←志保だし(爆)こんなんでよければ、受け取ってくださいな〜(笑)
方程式の話は友人と、数学の時間、「]=0」だったら計算楽なのにねぇとかむかーし言っていたのを
思い出したんです。変なネタでごめんなさい(爆)意味分からないし、自分でも…(^^;)
 

桜依様に無理してリクった(何)新vs哀ちゃん小説です♪
というか・・・新×哀だぁ(*^▽^*)/
もう二人の掛け合いがすごい・・・。テンポも良くて最後まで目が離せませんでした!
無理難題言ってすいませんっっしかし・・・光彦を通してすごく判りやすく読めたのは才能??
うらやましい・・・・
小説ありがとうございました。幸せです〜☆byあっきー

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