2人のプレイボール(10)
修羅聖斗(ザ・ドクター)




 7回裏。

 遂に平次がマウンドに上った。

 審判に向かって平次は言った。
 「投球練習……いりまへんわ………」

 「本当にいらないのかね………?」

 主審がそう尋ねると平次が言った。
 「アタリマエやないケ?どこの世界に相手に自分の持っている球種をバラす阿呆が おるん?
 勝負は投球練習の前から始まっているんやで?そんなコトにも気づかへんなんて どうかしとるで?」

 その言葉をベンチ裏から聞いていた落合は呟いていた。
 「あのボウヤ……なかなかいいコトを言うな……確かに真理だ……勝負というモノを理解している」


 そして打席に氷室が立った。
 攻守を入れ替えて初めての対決。

 「フ………キミとまさかこうやって対決できるとは思わなかったよ……しかし 投球練習無しで大丈夫かね?」
 「心配はいらへん……大丈夫や………!」

 (甘いな……投球練習ってのには肩慣らしという意味もある……それが出来ないようでは……
  来る球も平凡!!)

 平次が大きなモーションから 大きく足を踏み出した。

 「ザシャァァツ」
 そこから大きく足を上げ 前に思いっきり踏み出し 大きく胸を張る。

 「ガバァァァァ」
 「ドシュゥ」

 (な……あ……あれは………ザトペック投法………!!)
 氷室はそのフォームを見ながら驚愕していた。

 ※ザトペック投法……故・村山 実投手(元阪神タイガース)の身体全体を使って投げる投法。
 重心を上下させるのでスタミナの消耗が激しく、頭も大きく動くためコントロールが乱れやすいと言うデメリットがある。
 逆に この上下運動により少ない力で速い球が投げられると言うメリットもある。

 「ドォォォン」
 それは轟音を立ててミットに収まった。

 「ボ………ボール!!!」

 「にぃっ………」
 そう服部は笑っていた。


 落合が呟いた。
 「まさか こんなところで伝説の投法を見られるとはな……楽しみになってきただろう?キヨ………?」
 「エェ………楽しみですよ………」

 2球目。

 「ズドォォォン」
 外角低めに外れるボール。

 3球目。

 「ドッパァァァァン」
 内角高めに外れるボール。これで3連続ボールだ。

 0−3(ノースリー)。後1球ボールを出せば 氷室をランナーとして許してしまう。
 「どうしたい 平次…?あれだけデカいクチを叩いてこの程度か?」
 氷室は人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべながらそう言った。

 「……へッ……大丈夫やって言ぅてるやろ………?」
 平次は余裕の笑みを見せながらそう言った。

 4球目。

 「………行くで………」
 そう言いながら平次はプレートの上に足を乗せ 大きく足を上げ 踏み出した。

 「ビシュッ」
 「ゴォォォ〜〜〜〜ォォォ」
 平次の投じたボールが空気を切り裂き 唸り声をあげる。

 「ド――――――ン」

 「ギュルルルルルル………」
 ボールがミットの中で暴れている。

 「スットライ――――――ク!!」
 「………やっとひとつ入ったか………しかし 続くかな?」

 5球目。

 「ズドォォォォン」
 また入った。先程 3連続ボールを出した時とは段違いだ。

 その球威を見て氷室の頭の中である考えが交錯し始める。

 (そ……そうか………!平次は投球練習はいらないと言った……しかし それはカモフラージュだったんだ……
  平次にとって あのボール球の3球が投球練習だった………騙されたぜ………しかし それもこれまでだ………
  打ち崩す……!!)
 そう思いながら氷室はグリップを力強く握った。

 6球目。

 「ビシュゥッ」
 平次の球が 内角低めにスルスルと勢いよく伸びていく。

 (……打てる………!!)
 そう思いながら氷室はバットを振った。

 (捕らえた…………!!)

 「ズバ――――――ン」
 「な………!!なにぃぃ!!?」
 捕らえた。そう思った。しかし 実際には空振り。

 氷室が三振。そして 真壁を打席に迎えた。
 (……コイツも氷室と同じや……いっちょ調理しちゃろかいなァ………)


 1球目。

 平次の左腕から球が投じられた。

 「ボッ」
 「ズダ――――――――ン」
 平次の剛速球がど真ん中に突き刺さった。

 「ストライーク!!」
 (な………!!? いきなり ど真ん中だと………?)

 落合は呟いた。
 「あのボウヤ……投球の組み立てを分かっている……若いのに素晴らしい才能だ……」
  ……これであのボウヤはこの勝負……優位に立った……!!」

 2球目。

 「ドォ――――――ン」
 (ま……また ど真ん中…………!!!)

 落合が呟いた。
 「ほぅ……ど真ん中を2つも続けるとはな……大した強心臓だ……しかし 3球目は………」
 「あの真壁に同じ球は通用しない………!!」

 3球目。

 平次が再び投じた。コースはまたもや ど真ん中――――――!!!
 (バカが………!! またど真ん中かよ……!!オレを舐めるな!!)
 そう思いながら真壁は全力でバットを振った。

 「カッ」
 バットにボールが当たった。

 「ズド――――――――――ン」
 なんと ボールはバットを弾き飛ばし ミットに収まった。

 「シュゥゥゥゥゥ…………」
 「ス……ストライクバッターアウトッ! チェーンジィ!!」

 「これが服部 平次やぁぁぁっ! 今まで快斗に いいとこばかり取られとったけど これが服部平次やぁぁっ!」
 平次がマウンド上でそう咆哮をあげていた。

 9回表。

 最終回だ。延長はない。必然的に この回が平次達最後の攻撃となる。

 ………しかし この回。快斗の打席はあっても順調に3人で終われば平次の打席はない。
 平次達が円陣を組んだ。

 「………頼む………皆に頼む………こんなコト……あのピッチャーには……
  氷室相手にはムリだと分かってはる……せやが敢えて言う……………
  頼むッッ オレまで回してくれッッッッ」


 平次が自分のプライドを捨て チームメイトに懇願した――――。




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ザ・ドクター様の小説第10弾!!
とうとう平次達の最後の攻撃・・・・・・・・平次まで打席はまわるのか??
でも相手はおもきしプロ・・・・・・(汗)草野球というのを忘れてしまいそうな緊迫・・・(笑) by あっきー

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