2人のプレイボール(16)最終章
修羅聖斗(ザ・ドクター)


 

 平次は思っていた。
 (9回裏……1点差……ツーアウト……同点のランナーを一塁に置き………………)
 (………後1人…………後1人なんや………せやが その最後のバッターが……………)
 「5番 サード 清原和博」
 巨人軍現役主砲の清原 和博。そのセンスはイチローに勝るとも劣らぬ男。
 その男が異様な雰囲気を醸し出していた。

 「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………」

 「ジャッ……ジャッ………ザッ………」
 足場を慣らして 清原が構えた。右打席だ。その構えはドッシリとしていた。重厚かつしなやか。
 これが清原の持ち味であった。

 (……なるほど これが清原の構えなんか……かなりの迫力を見せつけてくれるわ……せやが……)
 (オレには通じんで!!)
 そう思いながら平次は 外野をレフト方向に移動させた。バッターから見て左方向に。

 「………清原シフトか…………」
 落合がそう呟いた。

 清原シフト。それは96年 ダイエー監督の王が考え出したモノである。
 清原の打撃には「引っ張り」が多い。つまり 力で振り抜く打撃。
 力で振り抜く。それは レフト方向に飛ぶ打球が多いことを証明している。
 実際に 清原の打球の内訳は センター10%。ライト4%。レフトに至っては86%。
 この群を抜いた「86」と言う数字が如何に清原が「引っ張り屋」か と言うことを証明している。
 今の巨人軍で「強い」のは松井。「上手い」のは高橋。「巧い」のは元木。
 ……しかし「怖い」のは清原である。誰もが口を揃えてそう言う。

 「オイ 氷室 スピードガンで測って見ろ」
 落合はそう言いながらスピードガンを取り出し 氷室に渡した。
 「ア………ハイ………」
 氷室はそう言い スピードガンのスイッチを入れる。

 平次が第1球を投じた。ザトペック投法だ。
 「ゴォォォ〜〜〜〜ォォ」
 ボールが唸りをあげ ミットに吸い込まれようとした瞬間 それは起こった。
 「ガキィ――――――――――ン」
 ボールがあっという間に空に吸い込まれた。しかし ファウルだった。
 それを見た平次は思っていた。
 「な……………!!」
 いや。思っていたことが思わず口に出た。
 「ホームランならどんなシフトも関係ない!!」
 清原がそう言い放った。

 「お………落合さん………157km………です………」
 氷室のその言葉を聞いた落合は呟いた。
 「フフ………まだまだ進化するか………平次………しかし清原は それをも上回る『怪物』よ」

 第2球。またもや平次のザトペック投法だ。
 「ビシュッ」
 コースは ど真ん中。そこめがけて清原がバットを振りに行く。
 バットがボールの下を通った。清原の読みを平次の球が上回ったのである。
 (な!!!?)
 「ズド―――――――ン」
 「ストライクツ―――!!」

 「バ………バカな………!!?」
 落合はそう叫んで居た。その横ではスピードガンを見た氷室が驚きの声で呟いていた。
 「お……落合さん………このスピードガン……正常ですよね?」
 「あ……あぁ……一応………な……」
 「な………何かの間違いですよね?素人が………『草』のピッチャーが160kmを出すなんて………!」
 「160kmゥゥッ!!?」
 落合はそう叫んでいた。
 「160kmと言えば 昔 千葉ロッテマリーンズにいた伊良部と同じ記録じゃ無いか………」

 (オレの読みが通用しなかった!!?)
 清原はそう思っていた。そして 一言呟いていた。
 「あ……あのピッチャー……オ……オレには どうしても あの伊良部と重なる………!!」

 あと1球。あと1球で全てが決まる。その1球を必ず平次はストライクゾーンに投げ込む。
 それを清原が打ち 点を入れるか!!?平次が打ち取り 抑えるか!!?
 この試合の興味は もはや その一点にかかっていた。
 平次は叫んだ。
 「いくで 清原ァァァ! これで決着やァァ!」
 「来い!平次ィィ!!」
 清原はそう叫びながらバットを思いっきり握った。
 平次が全力で コントロールを考えずにストライクゾーンに投げ込む。ありったけの力で。
 「オオオォォォォォ!!!!」
 そう叫びながら―――――…………。
 「ビシュッ」
 平次の投げたボールが空気を切り裂き ストライクゾーンめがけて飛ぶ。
 「グォォ〜〜〜ォォォォ」
 それを見た清原は一瞬でボールを判断した。
 (内角低め!! ここから………浮き上がる!!?)
 平次のボールが浮き上がった瞬間を清原のスィングが捕らえた。
 「ガキィィン」
 清原が力で吹き飛ばしたという感じだ。
 それは高々と上がった。センターとライトの間に ふらふらと落ちるフライだ。
 これはポテンヒットになる。と なれば この勝負 清原の勝ちか…………。
 いや。まだ分からない。センターには あの男が居る。“怪盗キッド”こと黒羽快斗が。
 平次は叫んでいた。
 「快斗ッッ!!!」
 快斗が駆ける。駆ける。駆ける。駆ける。…………飛びつく。
 「バシィ」
 快斗のグローブが清原の打球をつかみ取った。
 「アウトアウトォォォ ゲェェムセットォォォォォ!!!」
 主審がそう叫んだ。
 試合の勝敗が決した。5−4で平次達が勝ったのである。
 平次は息をつきながら言った。
 「こない疲れた闘いは久しぶりやなぁ…………こりゃ明日は筋肉痛ちゃうか?なぁ?快斗?」

 その夜。東京ドーム。
 2人の男が居た。落合と清原である。
 「落合さん 悔しいッス あんなガキにコケにされて………」
 「オマエの気持ちは分かるさ 清原………なァ 清原……あの男に勝ちたいと思うか?」
 「えぇ 勝ちたいッス 素人に勝ってプロの力を見せつけてやりたいッス」
 その言葉を聞いた落合は一呼吸ついて言った。
 「そうか………じゃぁ……オレについてくる気はあるか?」
 「………エ………?落合さんに………?」
 「あぁ このオレに ついてくれば今までより さらに強くなるさ……この落合 あの長嶋より 王より!!」
 「………そして あの……平次よりもな………」
 それを聞いた清原はゴクリとノドを鳴らし 言った。
 「お願いします 落合さんッッッ」
 2000年 春の出来事であった。






ザ・ドクター様の小説最終章!!
か・・・勝ってしまった・・・・うおぉぉぉ(≧∇≦)
そりゃ筋肉痛になるって・・・・(;^_^A しかしっスカッとしたような(笑)
この試合で平次と快斗は更に上を目指して・・・・・・・・・ん?(違)
ドクター様のテンポの良い小説(笑)つっこみの激しさ・・・・すごいですね・・・
長編どうもありがとー!!!楽しかった(笑) by あっきー

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