2人のプレイボール(3)
修羅聖斗(ザ・ドクター)




 快斗は思っていた。

 (今の……優に……140kmを越えていたストレート……これがプロの球なのか!!?)
 (……それ以前に あのピッチャー……本当に左肩を壊したのか!!?壊したとは思えない 球の速さだ……)
 (一体 どうなっている!!?)

 快斗は構えた。その眼は爛々と光っている。獲物をつけ狙うかのように。
 獲物。そう。獲物。怪盗キッドが強敵を前に目覚めようとしていた。


 平次は呟いた。
 「……快斗は……快斗はもともと 右ききや……それが左打席に立ったのは………」
 「左打席の方が右打席より数メートル一塁に近いという理由からやろう……」

 氷室が振りかぶり 大きなモーションから威力のある豪速球が放たれた。
 「ビシュ」

 このボール。優に140kmを超えている。普通ならば打てるハズがない………!!

 しかし………………!!
 快斗には見えていた。ボールの軌道。その向かう先が。
 (外角低めに突き刺さるストレート!! 捉える…………!!)
 流れるように快斗のバットがスルスルと出てきた。
 (打てる…………!!)
 次の瞬間 バットは空を切り ボールがミットに収まった。

 「ズバ―――――ン!!」

 「な…………!!?」
 快斗は驚きの表情を隠せなかった。
 「打てる」と思った。しかし 結果は空振り。

 「フフフ………」
 真壁が不気味な笑みを浮かべた。
 「打てると思って振ったのかい 兄ちゃん……だが それは甘過ぎるんだよ…………」
 「仮にもプロのエースまで上り詰めた男の球だぞ 素人ごときに打てるハズが無い……!!」
 その言葉が怪盗キッドのプライドに火を点けた。

 「……確かに打つことは出来ないかも知れない………しかし………」
 「ビシュゥッ」
 氷室が第3球目を投じた。内角低めへのストレートだ。
 快斗にはそのボールがよく見えていた。よく見えているとなれば…………!!

 「当てることは出来るんだよ」

 「キィン」
 快斗はボールをバットに当てた。打ちに行ったのではなく当てに行った。
 つまり プロのバッテリーを相手にバントを決行…………!!
 ボールが落ちるのも見ずに一塁めがけてダッシュする快斗。

 バントされたボールを素手で拾った真壁は そのまま一塁に送球した。
 さすが元プロのキャッチャーだ。こういう簡単な打球処理に慣れきっている。
 快斗とボールの競争。どっちが先だ!!?
 「ズン」
 「バシィ」
 同時。同時だ。この場合野球のルールではセーフになる。

 それを見た真壁は顔を青ざめさせながら思っていた。
 (な……なんだ……あの足……?……あんな足なんかプロにも居なかった……!確実にイチローより遙かに上…………!!)
 (……塁に出してしまったら厄介なことになるな………)

 そして氷室が2番に対し ワインドアップからストレートを投じたその時 快斗が走った。

 平成の大泥棒に盗めないモノは無い………!!
 例え それが野球のベースでもッ………………!!

 真壁が氷室のストレートを取り投げた。速い二塁への送球………!!
「キ―――ン」

そのボールを見た平次は叫んでいた。
「は……速い!!」

2塁を狙っている快斗の耳にその声は入らない。ただ ただ塁を奪うことしか目に入らない………!!
 真壁の送球は低かった。言うなれば 余計な動きがいらない送球……取った瞬間にタッチに行ける………!!

 怪盗キッドは何かを奪うことにかけては天才的………!!
 「バシィ」
 セカンド(二塁手)が送球を取った瞬間 快斗は2塁に到達していた。文句なく セーフだ。
 「ぐぅぅぅぅ…………」
 真壁が唸り声を上げる。
 「バカな……現役の時に盗塁をさせたことがなかったオレが……初めて盗塁を成功させた!!?」
 「バカなッッッッッ」
 (あの男は 確実に3塁にも走って来る……プロの意地にかけて阻止しなければ………!!)

 そう思った真壁は従来のキャチャーが構えるところよりも後ろで構える。
 従来の場所より 2Mくらい後ろだ。打撃妨害を警戒しているのか?

 ※打撃妨害……キャッチャーがバッターが打つのを邪魔した場合バッターには無条件で塁が与えられる。
 例を取るならば バットがキャッチャーミットに当たる等である。

 いや。あの2人と源さんならともかく 他の素人衆がそれをやるとは考えにくい。
 それ以前に真壁はプロナンバー1のキャッチャーになれたかも知れない男だ。
 そんな男に何が通用するであろうか?

 いや。真壁がそんな姑息な手を通用させはしない。だとするなら 真壁のこの行動は一体………?
 その時 氷室がこの試合初めてセットで構えた。
 セットアップ。それは ランナーに走られないため素早く投げる投法。
 氷室が目で快斗を牽制する。牽制によって走る隙を与えない。

 快斗が徐々に 2塁から離れる。ジリジリと。
 その時 氷室が二塁を振り向き牽制球を投げた。快斗は慌てて帰塁する。
 「ズザ―――ッ」
 辛うじてセーフだ。それを見た真壁は思っていた。
 (な……なんだ アイツ……見事な走塁を見せたかと思えば帰塁が下手………上手いのか下手なのか わからんな)

 そして 氷室がセットからボールをバッターに投じた。
 普通 セットから投げたボールはワインドアップから投げたそれより威力が落ちるのだが この男にはそれがない。
 と 同時に快斗が3塁に走った。

 氷室の投じたボールは 内角高めのストレート。それを真壁は素手で取り 3塁に勢いよく送球する。
 このためだったのか。通常の位置で取って投げるならばバッターが邪魔だ。
 しかし 通常の位置から後ろにいるならば邪魔するモノは何もない。
 つまり 素早く送球の体勢に入れ 効果のある送球が期待できる。素手で取ったことも 素早い送球の要因だ。
 真壁の送球がサード(三塁手)に迫る。これも余計な動きがいらない送球…………!!
 「バシィ」
 「アウトアウトォォ」
 3塁審判がそう叫んだ。

 しかし 刺した真壁は青ざめていた。
 「バ………バカな……あ……あそこまでして間一髪でアウトだと………?……バ……バケモノだ……」

 快斗は笑いながらベンチに戻って言った。
 「いやぁ 刺されちゃったよ……やっぱりプロって凄いなぁ」
 自分のやったことの重大さも理解せずに あっけらかんと そう言い放っている。

 そして 氷室が2番 3番を軽く三振にとってチェンジ。
 1回裏。この回 平次達は苦境に立たされることになる。



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ザ・ドクター様の小説第3弾!!
並外れた運動神経の快斗を目の当たりにしたような気がする・・・・(笑)
やはりプロとでもレベルの違う快斗の動き・・・・さすが世界中をまたにかける国際指名手配KID←こらこら
そうなると・・・平次は・・・・(爆)次も楽しみに待ってます(*^▽^*) by あっきー

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