翼の行方(完結)
作:まお様



ほんとは、ずっと前からわかってた。
こんな考えは間違っていて、あの人なら私が求めている翼をくれるって事を・・。


だけど、受け入れられなかった。


あの人の隣には、あの人の片翼がすでにいたから・・・。

私じゃ、あの人の、片翼にはなれないってわかっていたから・・。



だから、わからないフリをしていた・・・。



ソレモ、オワリニシナキャイケナイッテコトモ。













『それじゃぁ、昨日の会議で決めたように、全員配備へついて』


私は無線マイク越しに、工藤君たちが隔離されているビルの周りにいるFBI職員に小声で語りかけた。

昨日、服部君と和葉さん達から聞いた話を元にすぐに会議を開き、どうやってあのビルに侵入するかを決めた。
侵入して、彼等を抑えてしまえばこっちのもの。
工藤君達がビデオ映像で流してきた組織内の様子やアポトキシンについての資料をもとに逮捕状を裁判所に請求できた。

すべて、計画通り。
このまま、きっと、うまくいく。


・・・工藤君達さえ、無事でいてくれたら。



昨日から、まるっきり彼と連絡がとれなくなってしまった。
恐らく盗聴完全防止の部屋にいるんだろう。

こうなる事くらい、予測は出来ていた。


だけど、やっぱり、不安だった。

私のせいで、彼が危ない目に遭っているとすれば・・。
もし、私のせいで、彼が・・。




いや、今はそんな事を考えてる場合じゃない。
そんな考えは何の役にもたたないって彼に言われたじゃない。


だから、彼を信じて、頑張るの。




私は自分自身にそう言い聞かせて再び昨日の事を回想しはじめた。


昨日、服部君たちから内部について詳しく聞かされた。
工藤君がFBI対策本部に送ってきた画像とともに服部君に聞かされた説明によると、彼等の本拠地はあのビルの地下にあるらしい。
そこに行くためには、ビルの表の顔、薬品会社であるオフィスを通って奥の部屋まで行き、そこにあるクローゼットの中に隠されている
扉を開くしか道はないと言う事だ。

そこで私達がたてた作戦はこう。


まずは特殊部隊が誰にも気付かれぬように一気に静かに薬品会社の方のオフィスに突入。
何の物音も立てずにレーザーポイント付きの銃をもって、それぞれ一人ずつオフィスにいる職員に狙いを定め、全員を黙らせる。
そしてそのまま服部君達についで私が率いる第二班が地下へ侵入。
そこで100人のFBI特別部隊の隊員を表に立たせ、地下で働く職員達に降伏を要求。

うまくいけば、そこで、すべてが、終わる。


うまく・・・いかせるしかない。


私は再び前をしっかり見据え、となりにいる服部君とアイコンタクトをとり、頷く。


・・・ええ、始めましょう。


『特殊部隊一班、静かにオフィスに突入!!』


私のその一言で30人の特殊隊員がオフィスへと駆け込んでいく姿が見えた。
まだビルの外で待機してる私達には中の様子はわからない。

無線で連絡を来るのを待つのみ。

私と服部君と和葉さんは、お互いに視線を合わせていた。



すると、静かに無線が入った。


『宮野チーフ。オフィス職員全員確保しました。奥へ進めます。』


その無線を聞いた私達は再び無言で頷きあい、階段の方へと駆け出した。

『了解。貴方達はそのままの体制で全員をそのまま確保しときなさい。地下にいる職員にばれるような物音は絶対たてては
 ダメよ!第二班は私達に静かに続きなさい。』

駆け上がりながら私がそういうと、忍者のように足音を消しながら特殊部隊の隊員が私達の後に続いた。


服部君が静かにオフィスのドアを開けると・・。
そこには、隊員たちに銃をつきつけられ、静かに両手をあげ、降参する職員の姿があった。


その中を、私達は無言でさえぎって歩いていく。
そして、奥の部屋へとたどり着き、クローゼットを開けた。

・・・一つの、鉄の扉が見えた。

服部君がその扉を静かにひらくと、どこまでも続くと思われる階段がそこにはあった。


そこを静かに下っていきながら、私は高鳴る鼓動を押さえられなかった。


ここの階段を下れば、そこは本拠地。



そこで、何が起こるか、何も、予測、できない。

そう、誰も・・。


暗く、冷たく、どこまでも続くその階段を下っていると、そこはまるで私の心の中の様に思えて仕方なかった。

・・・暗く、冷たく、どこまでも続く、終わりのない道。

ううん、終わりはあるわ。
どうやって、終わるのかはわからないけど・・。

私が丁度そう思った時だった。

階段が終わり、一つの扉がみえた。


ホラ、終わりはある。

・・・問題は、この扉の向こうよ。



私の心の冷たく暗い階段も、終わりがある。
どうやって、おわるのかはわからないけれど・・。


この扉を開けた先には、明るい未来ってやつのがあるのかしら・・?


それとも・・・?


そこまで考えを巡らせたとき、服部君に肩に手を置かれ一瞬ビクッとして後ろを振り返った。



「・・・・入るで」



小声でそういう服部君に、私はしっかりと頷いた。



この扉の向こうは、明るい未来に、きまってるじゃない。





だって、この扉の向こうには、・・・・彼がいるんだから。








『全班、今から突入する。』


私がそう言うと同時に特殊部隊の爆弾担当班が扉に爆弾をしかけ爆発させた。
一瞬にして扉は崩壊し、それに続いてすぐさま服部君と隊員が突入。
私は和葉さんをかばうようにしながらそれに続いた。



『我々はFBIの者だ!ここにいる全てのものに降伏することを要求する!皆、両手を頭の後ろに置け!』


服部君がそう言ったのと、隊員全員がこのオフィスにはいり、それぞれ一人一人に銃で狙いを定めたのがほぼ同時だった。



何がなんだかわからないといった様子の職員達は、とりあえず抵抗は無駄だと気付いたようで皆両手を頭の後ろに置いた。



・・・うまく・・いったの・・?



でも・・でも・・。



私は周りを必死で見渡した。


でも、・・工藤君と毛利さんは・・・どこ?!


降伏している職員の中に工藤君達の姿が見当たらない。

どこ?!

もしかして、連絡がとれなかった一日の間に何かあったの・・?!


冷や汗が、全身をかけぬけた時だった。





『つー訳で・・おめぇら素直にこのまま連行されろよ?』




聞き覚えのある声が、私の耳に入ってきた。


・・・この声は・・。


振り向くと、そこには・・。



「工藤君っ!!」



一人の男性に銃を向けたまま不敵な笑みでこちら側に一歩一歩近づいてくる彼の姿を、しっかりと私の瞳がとらえた。



『・・・キミがスパイだったとはね・・』


工藤君に銃を突きつけられていた男がそう呟いた。
その瞬間、服部君が彼の前へと歩いて言った。


『この前は毒薬を飲まさせて頂いてどうもです』


不敵な笑顔でそういう服部君に、銃をつきつけられていた男は怪訝な顔をした。


『おや・・?どこかでお会いした事があったかな?青年君?』
『俺や、昨日アンタんとこに取引にいって毒薬飲まされて殺された中年の日本人や』
『・・な?!』
『特殊メイクなんかにだまされとるようじゃアンタの組織もつぶれて当然やっちゅーこっちゃな』
『そうか・・お前達グルだったんだな・・』



その男の言葉に、服部君も工藤君も笑いも何もせずに、ただ、黙ったままその男を睨み続けていた。



そして、工藤君が、続けた。


『・・・おめぇらのせいで、一体どれだけの人間が悲しんだか・・。残りの人生、せいぜいムショで反省する事だな』



それだけいうと、工藤君はその男を隊員の一人に渡した。


そこにいた人間全員が、隊員によって捕獲され、連行された。
私達だけになったこの地下オフィスを改めて見回して、私は再び背筋の凍るようなキモチになった。

こんな・・。

こんな、犯罪のためだけに日夜働く場所と人がまだこんなにいただなんて・・。


私も、昔はその中の一人だったんだと思うと今も胸が潰されそうになる。



「・・・やっと・・終わったんだな・・」


工藤君が、ポソリとそう呟いた。



「うん・・終わったね、全部」


それに続く、毛利さん。




工藤君の腕をしっかり掴んでる。



「終わったんやなぁ・・何もかも」
「せやね・・」


服部君と、和葉さんも、この広いオフィスを漠然と眺めながらそう言う。


「長かったな・・」
「うん、長かったね」

しっかりと、毛利さんを抱き寄せて、工藤君がそう言った。


そんな二人を、見ないフリをして、私は再びこのオフィスに目をやった。



「・・・ホントによく頑張ったな、志保・・」


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、私に近寄ってきてそう話し掛けてきた工藤君。



頑張っただなんて、そんな事、言わないで。


「・・・いいえ、それは私のセリフよ・・。本来なら私一人で片付けなければならなかったこの事件を・・」
「それは、いいっこなしだろ?」
「・・・そうだったわね」

私がそういうと、工藤君は、心のそこから微笑んだ様な微笑を浮かべた・・。


「辛かったな、今まで・・」
「・・え?」
「一人で、こんな大きな事件抱え込んで、解決しようとして、罪の意識に悩まされて・・」
「・・そんな・・・事・・」
「博士がよくいってたよ。お前、夜はうなされて飛び起きてるんだって・・・。毎晩、毎晩。」


毎晩、見た夢。
ジンが私と工藤君を殺していく夢。
そして毛利さんを、博士を、服部君を・・。

私が作った毒薬で、死んでいく人たちの夢も見た。


でも、そんな事で苦しむ事位、私がしてきた事を贖うには生優しぎるのよ。

なのに・・。


「ホントに・・辛かったな、よく、頑張った・・」

そういって、工藤君は私の頭をポンポン、と二回軽く叩いて、軽く抱き寄せた。





気がつけば、いつのまにか、私の瞳から大粒の涙が流れていた。






「や・・やだ・・」
「・・・お疲れ・・」
「涙なんて・・どうしたのかしら・・」
「・・・」
「こんな・・こんな・・」
「・・・」
「私は、苦しむべきなのよ・・ずっと・・一生かかっても・・。なのに・・・」





止まらない。
涙が。



・・安堵からくる、涙が、止まらない。


「こんな・・この事件が解決したからって・・・安心して・・泣いてちゃ・・いけないのよっ・・」
「・・・・」
「私がしてきた事は・・こんな事件を・・・解決したからって・・贖われるわけじゃないわ・・なのに・・」





もう、あの夢を、見なくていいと思ってる自分が、いる。





「こんな・・涙を流していい資格なんてないのにっ・・」





なのに・・・涙が止まらない。





「・・・何いってんだよ」


そういって、工藤君が、強く、私を抱きしめた。


「誰よりも今まで苦しんできて、誰よりも今まで戦ってきたおめぇが、どうしてこれ以上苦しまなきゃならねぇっていうんだ?」
「・・・工藤・・くん」
「お前は、もう、解放されたんだよ」


涙が、あふれる。

止まらない。


「お前は、自分を責めすぎだよ。・・・もちっと自分を可愛がってやれ・・。おめぇは、誰よりも頑張った。戦った。それも
 一人で・・。おめぇはもう解放されるべきだよ・・。もう、おめぇは、悪夢を見なくていい。懺悔しなくていい。
 自由でいて・・・いいんだよ」


その工藤君の言葉に、私は今まで生きてきた人生で、始めて、思い切り声をだして泣いた。
お姉ちゃんが死んだ時、お姉ちゃんを救ってくれなかったといって工藤君を攻め立てて泣いた時とは全然違う声と涙で。



ああ、きっと・・。
私はその言葉を、ずっと誰かにいってほしかったんだわ・・。


すると、私と工藤君を抱きしめるようにして、毛利さんが大きく私を包んだ。


「志保さん・・本当に、お疲れ様・・・。志保さんのおかげでこれ以上誰も傷つかなくてすむんだよ・・」



優しい微笑でそういう彼女に続いて、服部君も続けた。


「せやせや!姉ちゃんは人様のためにえらい貢献をしてんで!しかも自分の命もかえりみず、や!」
「そうやん!一番志保さんが頑張ったんよ!」

和葉さんも、そう言ってくれる。





皆、傍にかけよってきて、私を抱きしめてくれる。













ねぇ・・。



私の翼は、すぐ近くにあったんだって・・。



そう、思っても・・・いい?




もう一度、羽ばたいても・・・いい?


ここにいる、皆と一緒に・・・自由に飛んで・・いい?








この翼を、手にとって、いいですか・・・?
















―3週間後―



「見送りなんていいって言ったのに」

空港で待ち伏せしていた工藤君に私はため息交じりでそう言った。

「なぁにいってんだよ。ったく、相変わらず水くせぇんだから」


あの事件の後、後処理のために私達は相変わらず忙しく過ごしていた。
得に工藤君は日本での事件も関わっていた為参考人として何度もFBIに要請をうけていた。
そんなドタバタで「私に関する事」が後回しになっていた。


そう、私が日本で、あの組織に関与していた事。


それはやはり裁かれるべき事なのだ。

その事で私は再びアメリカに戻って事情聴取を受けなければならなかった。

そして今日がその日。
今日たつことは一応皆には伝えたけれど、見送りにはこなくていいとあれほど念を押したのに、それを完璧に無視して
工藤君はやってきた。


「本当は蘭や服部達もきたがってたんだけどな・・・。ちょっとおめぇと話したい事があったから、遠慮してもらったんだよ」
「・・何よ?話したいことって?」
「俺が組織に潜入してる間、ずっとお前に言っときたいことがあってな。」

工藤君はそういいながら、座っていたベンチから勢いよく立ち上がった。

「もうわかってんだろうけど・・・。」
「・・・何よ?」
「おめぇは、一人じゃねぇんだからな・・」
「・・・え?」


くるりと背をむけてゆっくりと出発ロビーに私の荷物を持ちながら歩く工藤君の後ろを見て歩きながら、私はそう声を洩らした。


「お前、あの時、あの事件が解決しても、自分ひとりでいきていくしかねぇと思ってたんじゃねぇの?」
「・・それはっ・・」
「そんな辛気くせぇ考え、ぶっ放しといてやろうと思って」
「・・あのねぇ」

私が呆れた声でそういうと、工藤君はニカッと笑ってこっちを振り向いた。
そのバカげた顔に、私もちょっと微笑みをこぼす。


「・・・ええ、あの時はそう思ってたわ・・。」
「やっぱりな」
「でも・・ね。」
「でも・・・?」
「すべてが片付いた後、その考えが間違ってるって事に嫌でも気付かされたわよ。蘭さんや服部君・・貴方達ってホント
 お人よしよね。こんな私を抱きしめてくれるなんて・・。そして、許してくれるなんて・・」


私がそういうと、工藤君はいつもの、蘭さんにだけ向けるようなあの穏やかな笑顔を一瞬見せた。

・・・鼓動が、早くなる。


「お前は、一人じゃねぇよ。だから・・あっちでも、頑張れ。辛いときはすぐに帰って来い。」
「・・ええ。」
「そろそろ・・時間だな。」
「・・・ええ。」



二人の間に、沈黙が流れた。
お互い、見つめ合ったまま。



「私からも、言いたい事があるわ」
「・・え?」
「伝えたい事が、あったのよ。・・・ずっと。」
「・・・何を・・?」


何のことか全く検討も付かないといったような工藤君の表情に、私は微笑みを浮かべて、続けた。



「好きよ」



その私の一言に、工藤君は鳩が豆でっぽうでもくらったかのような顔をした。
だけど、すぐにいつもの微笑を広げた。



「・・サンキュ」



お互い、再び見詰め合ったまま、動かない。
でも、二人とも、微笑んでる。


心地が、良い。






「・・・ま、だからといってあなたとどうこうなりたいなんて思わないけど。まぁ蘭さんとヨロシクやっといて。あんまり事件事件で
 蘭さんをほったらかしにしてると、私が蘭さんを奪いにいくかもよ?」
「なんだよ、そりゃっ」


私の一言に、思い切り苦笑する工藤君。


だって、こんな風にして終わらせとかないと、私の気持ちが鈍るじゃない。
あなたの傍を離れるという、キモチが。



でも、本当に、前のような蘭さんに対する嫉妬心も、自分への焦燥感も、今は、ない。



ただ、純粋に、あなたが好きなの。


今は、それで、充分。



だって、私には・・・。


ステキな翼があるから。
仲間と羽ばたける翼が。


だから・・。





「・・・じゃぁ、行くわね」
「・・ああ、頑張って来い」





だから、今は、あなたの元から、旅立てる。




一人じゃないから・・・。











なくしてしまった私の翼。

今は、私の背中で堂々とその翼を広げてる。



未来へ、羽ばたくために・・。















<工藤まお様あとがき>
本当に長い間かかってしまってゴメンなさい(汗)
というわけで最終回ですっ☆本当に・・・いつから始めたんだよっってカンジですよね、この連載(汗)
ちなみに新一君が哀ちゃんを抱きしめたのは「家族愛」ってやつからですので(笑)
ヤツはどう曲がろうが「蘭ちゃん命」がまおのモットーなもんで(笑)

それでは皆さん、長い間本当にありがとうございましたっ♪


まお様ぁぁ(突進)
小説ありがとうぉぉ!!!ああ、完結するのは淋しいけどこういう形の最後もすごく不思議〜
哀ちゃんの心の葛藤が個人的に良かった〜〜←なぬ
新蘭がモットーなのにうっかりイメージイラストは新哀に・・・・←待てこら(笑)
素敵な小説これからも頑張って書いてネ〜〜♪byあっきー

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