奇術師の死闘 15
作:Gahal様


紅子「さあ、そろそろ行くわよ。」

紅子に促され、モニター室から5人(紅子、青子、中森警部、白馬、北浦)が出たのは5人が合流してからすでに
30分が経過してからだった。

それから約1時間、5人は廊下を歩き回ったのだが…
これからどこに向かえばいいのか…

わかっているのは、自分たちが今いるのが札幌のはずれにある廃墟と化した雑居ビルの地下に広がるなぞの研究所の地下6階のどこか、
ということだけだった。



 白馬たちがなんとか迷路から脱出したとき、怪盗キッドはB6階のほとんどを調べ終わっていた。

残すはドア一つ、キッドはついにその最後の扉に手をかけた。


ギギーッ


重たい鉄の扉はものすごい音を出して開いた。
その先には廊下がまっすぐ続いていた。その廊下には分かれ道もなく、窓もドアもついていなかった。

 キッドは思い扉を閉め、その廊下を進んでいった。廊下を半分進んだあたりにマンホールが一つあり、しかもそのふたは開いていた。
それはレッドが通ってきたマンホールだが、キッドがそのことを知る事はできなかった。
キッドは下に落ちないように気をつけながらマンホールをまたいだ。

そこから2〜3歩行くとはじめて廊下の突き当たりにあるドアが見えてきた。
それは所長室のドアだった。
 所長室の中には誰もおらず、100インチモニターにも何も映っていなかった。
キッドはまずその100インチモニターから調べようと近づいていった。そのとき

「うわあぁぁぁぁ〜っ!!!」
どこかすぐ近いところから突然とてつもない悲鳴、いや絶叫が聞こえてきた。
キッドがその声のした方をみるとそこには入ってきたのとは別のドアがあった。

「ぐぅゎぁぁぁぁぁー!!!」
キッドはその声に何となく聞き覚えがあった。
とにかく先に進むためドアを開け、8982の個人研究室へと入っていった。

 8982の個人研究室には、所長室同様誰もいなかったが絶叫のような悲鳴だけはまだ断続的に聞こえてきていた。
その声は個人研究室の外から聞こえていたが、そう遠いところではない、キッドは試しに所長室へと戻りさらにその外の廊下に出てみた。
しかし、声は個人研究室で聞いたときより小さくなった。

キッドは再び所長室を通り個人研究室へと行った。
やはり声は大きくなった。よくみると、個人研究室からさらにもう一つのドアがあった。
プレートには“中央実験室”と書かれていた。

キッドがそのドアに手を触れた瞬間…消えた。
絶叫がぴたりとやんだのだ。
キッドは迷わずそのドアを開け、中に入った。

 そこは…部屋の天井や壁から何本もロボットアームが出ている。
その間を縫うように透明のチューブや電気のコードらしきものもついている。
それらは実験室の中央へとのばされていた。
そして実験室中央には大きな台が置かれ、その上にはレッドの巨体が身動き一つせず横たわっていた。
透明のチューブは全てレッドの腕に刺さっている注射針につながっていた。

 実験室には今、キッドとレッドの2人しかいなかった。
ロボットアームや点滴を使ってレッドに何かをしていたと思われる人物の姿はなかった。
キッドが周りを見わたすと、この部屋にはドアが3つついていた。
一つはキッドが通ってきた“個人研究室”からのドア、2つ目のドアには“喫煙室”とかかれていた。

そして3つめのルームプレートにかかれていたのは“○○室”という部屋の名前ではなく、4ケタの数字…“5010”だった。


キッド到着の5分前、
8982「ついに…ついに完成した!!私の長年の研究の成果が、今ここに!!」
5010「おめでとうございます。」
2人は台に横たわっているレッドを見下ろしながら言った。

8982は自分の研究の“完成品”を何度も何度も見続けている間、無意識にたばことライターを取り出し、火をつけそうになった。

5010「いけませんわ、ここでお吸いになっては…」
8982「わ、分かっている。」

そう言って8982は“喫煙室”に入っていった。
それを見届けてから5010も“5010”のドアの方へ入っていった。
8982がたばこを吸いに言ったときは、5010はいつも彼女の部屋に戻って休むのだ。

 実験室のドアが完全に閉まったのを確認してから8982はタバコに火をつけた。
いつものことだが、実験室内でタバコを吸うとその煙に含まれるニコチンなどにより実験に思わぬ変化をもたらすことになる。
それになにより5010がうるさいのだ。

8982「ふう…」
8982はそのまま15分間、たばこ4本を吸いつくした。


キッド「レッド!!しっかりしろレッド!!」
キッドの呼びかけにレッドは全く反応しない。

8982「そこまでだ!!」
突如“喫煙室”のドアが開き、中から拳銃を構えた8982が出てきた。

8982「シルクハットにマント…貴様!!怪盗キッドだな!?」
キッド「レッドに何をした?」
8982「レッド?ああ赤島のことか?」
キッド「赤島?じゃあレッドはやっぱり…」
8982「赤島陣一、それがこいつの本名だ。そしてレッドというコードネームで私の元で働いていたこともある。だが今は違う…」
8982はレッドに向かって叫ぶように言った。
8982「さあ目覚めよ、そして怪盗キッドを殺せ!!」
その声に反応するようにレッドは静かに目を開けた。
そしてそのままスーッとまっすぐ上半身を起こし、足を台からおろし、そして立ち上がった。

キッド「レッド」
レッド「・・・」
キッドの声に全く反応せず、レッドはキッドに向かっていきなり手刀を繰り出した。
キッドは間一髪ジャンプでそれをよけ、レッドに問いかけた。

キッド「な、何をするんだ?」
しかしレッドは無表情のままでさらにキッドに向かって攻撃を仕掛けた。

8982「ふはははは…無駄だ無駄だ!!その男は私が開発した薬によってすでに殺人マシンと化している。」
キッド「薬だと?」
8982は内ポケットから得体の知れない黄緑色の液体が入った試験管を取り出しながら言った。

8982「そうだ。この薬は体内に入ると血管を通って脳内に到達する。
そして特定の脳細胞だけを破壊し、それによって相手の体と心を完全に支配する…すばらしいだろう?
もう一ついい事を教えてやろう。貴様はすでに敵として認識されているんだ。
だからレッドは確実に貴様を殺す。友達と思っていた奴に殺されるんだ。うれしいだろう?
ハッハッハ…ハーッハッハッハーッ…」

その瞬間、レッドの蹴りがキッドの腹部に命中した。

その衝撃でキッドの体は“5010”のドアを破り、その向こうの廊下まで吹っ飛ばされてしまった。
キッドはヨロヨロと立ち上がり、レッドをまっすぐ見ながら言った。

レッド「本当に忘れたっていうのか?」
一方のレッドは、声にならないうなり声を上げたままだ。

キッド「おまえが忘れちまったらブルーはどうなるんだ?守だって…」
レッド「ブ…ル…?マ…モ…」
ブルーの名にレッドはほんの少しだけ反応した。

キッド「思い出したのか?」
レッド「ウ…ウ…ウ…」
しかしレッドは突然頭を抱えて苦しみはじめた。

キッド「ど、どうしたんだレッド?」
レッド「ウウウウ…ウウ…ウ……」
うなり声がおさまってきた。レッドはもう苦しくなくなったようだ。しかし落ち着きを取り戻したとたん、レッドは再びキッドに襲いかかっていった。キッドはトランプ銃で応戦しようと銃口をレッドに向けた。
8982「ほほう?撃てるのか怪盗キッド?おまえにレッドが?」
キッド「クッ…」
キッドは、引き金のところまでなんとか指を持っていったが、それ以上は動かなかった…やはり撃てない。キッドは銃口を下ろした。
8982「やはり相当なアマちゃんだな…言っただろう。レッドの脳は破壊されたんだ。記憶を取り戻すことなど絶対にない。」
キッド「オレは…レッドを信じる。」
8982「そうか分かった。やれ!レッド!!!」
レッド「ウォォォーッ!!!」
研究所中が激しく振動するほどの雄叫びをあげ、レッドはキッドに向かってパンチを繰り出した。

ドゴォーーーン!

レッドのパンチをまともに受けたキッドの体は宙を飛び、そのすぐ後ろの壁に大穴をあけた。
キッドはさらに2メートル先で着地した。


その瞬間…

キッドの胸元から何かが飛び出した。それは一瞬宙を漂い、レッドの目前に到達し、その足元へと落下した。
それを見たとたんレッドの動きが変わった。
しばらく石のように固まった後、ゆっくりと身をかがめ、足元に落ちたものを拾い、それを手のひらにのせ、じっくりと眺めた。

レッド「ウッ…ウッ…ウッ…」
レッドの瞳に涙があふれた。
レッド「ウッ…ウッ…ウッ…ブルー…」
キッド「うっ…」
レッドが泣き始めたと同時にキッドが意識を取り戻した。

キッド「レッドお前…」
キッドはレッドが手にもっているものを見て全てを悟った。

キッド「思い出したんだな…それを見て。でもそいつは違うんだ。本物は…お前のポケットの中だ。」
キッドはレッドの手のひらからエンシェントブルーを取りあげながら言った。

レッドは思い立ったようにポケットに手を入れ、ペンダントを取り出した。
エンシェントブルーにそっくりな、ブルーの形見の青いペンダントを…

レッドはそのペンダントをゆっくり開いた。そして中に入っている写真をみてさらに泣き崩れた。
8982「何をしている!!」
8982はレッドの手からペンダントを取り上げ、投げ捨てた。

8982「何だこんなもの!!そんなことよりはやく怪盗キッドを始末しろ!!」
レッド「ウォォォォォー」
立ち上がったレッドは怒り狂い、くるりと8982の方に向き直った。

8982「な、何の真似だ?」
レッドは右手を思いっきり振り上げた

8982「や、やめろ!!」
千枝の…ブルーの形見を“こんなもの”といって投げ捨てた。その行為にレッドは怒り、右手を硬く握りしめながら8982に迫っていた。

8982「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
レッドの拳が8982に命中した。

8982は5メートル以上吹っ飛び、床の上に激しくたたきつけられ、大の字にのびた。

キッド「レッド!!」
レッド「ア…アッ…チ…」
レッドはキッドがぶつかって出来た壁の穴を震える手で指差して言った。

キッド「あっち…守はあっちにいるんだな?」
レッドがゆっくりうなずいた。

キッド「わかった。守のことはオレに任せてくれ。」
レッドが再びうなずいた。そして震える手で自分の持っている青いペンダントをキッドに渡し、
エンシェントブルーを自分のポケットにしまい込んだ。

レッド「キッド…ア…リ…ガ…ト…ウ…」
そういうとレッドはゆっくりと“武器庫”とかかれた部屋に入っていった。

キッド「レッド…ま、まさか!?」
キッドもレッドの後を追って武器庫に入ったが時すでに遅く、レッドは武器庫にあった日本刀を自分の腹に突き刺した後だった。
レッドはその場にバタンと倒れこみ、そのまま息絶え、二度と目覚めることはなかった。

キッド「レッド…このペンダントはオレが必ず届ける。」
キッドは、レッドが指差した壁の穴へと入っていった。


 壁の穴の奥には、細い通路が続いていた。おそらくは地下牢への隠し通路だろう。
分かれ道もない一本道だった。やがて通路はカギのかかった頑丈そうな扉のところに行き当たった。
キッドはトランプ銃を数発撃ち、カギを壊した。

中には独房が4つ並んでいた。そのうちの3つには誰もいない。残る1つにだけ人がいた…守だ。

守「あ、さっきのおにいちゃん!!」
キッド「ちゃんと助けにきてやっただろ?」
守「うん!!」
キッド「そういやまだ名前いってなかったな。俺は怪盗キッドだ。」
守「かいとう…キッド?」
キッド「ああ…さあ、早くここを出るぞ」
キッドは牢屋のカギを開け、2人は元来た道を引き返し、所長室を出た。
途中キッドは8982やレッドの姿が守に見えないように気をつけた。

白馬「キッド!!」
キッドと守が所長室を出たちょうどそのとき、白馬たち5人がそこに到着した。
キッド「白馬!!中森警部!!」
キッドはみんなを見回しながら言った。そして、そこにいるはずのない2人に気が付いた。青子…紅子…どうしてここに?
キッドは心の中でそう思ったが口には出さなかった。

青子「その子が守君?」
キッド「ああ。」
白馬「話は後です。とにかくここを出ましょう。」
7人は地上を目指し、走っていった。


8982「クッ…くそっ!!」
8982は意識を取り戻し、地面を這いながら所長室へと戻った。
8982「許さん!!許さんぞ怪盗キッド!!絶対に生かしては帰さん!!」
8982は100インチモニターのキーボードを操作した。数秒後、100インチモニターにたくさんの文字が表示された。自爆装置作動…研究所内全扉閉鎖…エレベーター全停止…
そして爆発へのカウントが始まった。

残り10分…


「自爆装置が起動しました。10分後に爆発します。全員速やかに避難してください。
これより全ての扉を開放します…ビーッ、エラー発生!!エラー発生!!全ての扉が閉鎖されました。
エレベーターも全て停止しました。繰り返します…」
研究所内に一斉に赤い非常点滅等が灯り、アナウンスが流れた。

中森「自爆装置だと!?」
白馬「ムリだ、10分じゃ地上まで行けません。」
北浦「扉がしまってるんですよ!!地上どころかB5階へも上がれませんよ!!」
守「そんな…ボクたちこのまましんじゃうの?」
7人の間に沈黙が流れた。

紅子「みんな私についてきて!!早く!!」
7人は紅子を先頭にB6階をどこかへ走った。

中森「どうするつもりなんだ?上へは上がれんのだぞ」
紅子「私たちが乗ってきた列車のホームへ行くのよ。」
青子「でもあそこはエレベーターに乗らなきゃ行けないよ。」
紅子「分かってる…信じて、私に考えがあるの」
その後7人は一言もしゃべらずに走った。

その時、所長室では8982が再びモニターを操作していた。
8982「ハッ…ハッ…ハッ…」
息を切らせながら8982は黙々とキーを押しつづけた。自分の脱出ルートを確保するためだ。

そんな8982の後ろに一人の人物が近づいていた。8982はキーを操作するのに夢中で気づいていない。
そして2人の距離がほんの1メートルまで迫った。そのとき…


パリン!!

その人物が床に落ちていた破片を踏んだ。

8982「ハッ!!」
その瞬間はじめて8982はその人物に気づき、驚いて後ろを振り向いた。

8982「何だ、君か5010君。…驚いたじゃないか。」
5010「…すみません。」
そういうと5010は何事もなかったかのように話題を変えた。

5010「ところで、あっちでレッドが倒れているようですが、何かあったんですか?」
8982「じ、実は…」
8982は5010に事のあらましを説明した。
5010「なるほど、自爆装置が起動したのはそういうわけだったんですね。」
8982「ああ…」

ピーッ!!

8982が最後のキーを押した。すると100インチモニターが床の下に消え、うしろから所非常エレベーターがあらわれた。

8982「さあ、この非常エレベーターで地上へ脱出するんだ。」
しかし5010はエレベーターには乗らず、まっすぐ8982に銃口を向けた。

8982「な、何のまねだ5010君」
5010「やっと集めた部下たちを次々と殺して、挙句の果てにはやっと出来た完成品にまで裏切られて…結局ただ北海道支部を潰しただけね。」
8982「そ、それについてはもう一度完成体を造れば取り戻せる!!」
5010「あの守って子にも逃げられたんでしょ?あの子の血液がなければあの薬は完成しないわ。」
8982「そ、それもなんとか代わりを見つければ…」
5010「無理ね、あの血液は10億人に1人しかいないきわめて特殊なものよ。」
8982「す、すまない。」
5010「いいのよお詫びなんて。私ははじめからここを潰すために来たんだから…」
8982「な、何だと!?それじゃあ1年前九州支部を潰したのも…」
5010「いいえ、それは私の彼がやったことよ…」
8982「なっ・・・・・!!」
5010「あなたも、この研究所とともに眠りなさい…永遠にね。」
そういうと5010は引き金を握る指に力を入れ、弾を発射させた。

8982「や、やめ…」

パン!!

弾は8982の眉間に命中し、8982はひざから崩れるように倒れ込み、そのまま事切れた。

5010は非常エレベーターから脱出し、爆発を継げるアナウンスのみが後に残った。
「自爆装置が起動しました。5分後に爆発します…」

紅子「ついた、あそこよ!!」
7人はある部屋の前に到着した。

白馬「ここは、大迷路の監視モニター室じゃないですか。」
紅子「そうよ。さあみんな中に」
7人は監視モニター室に入り、ハシゴで隠し部屋へあがり、さらにその奥の迷路へと入っていった。

中森「まったくどういうつもりだ?こんなところからどうやって地上へ行くんだ。」
中森は怒って言った。しかし紅子はそれを無視し、さらに何かを説明しだした。

紅子「いい、よく聞いて。さっきの監視モニター室がB6階の高さにあるの。
そして私たちが今いる迷路ととなりの隠し部屋はB5階になるわ。
でもこの迷路は隠し部屋のハンドルを回したことによってこの高さにまで上昇したわ。
上昇する前はB6階のモニター室よりも下にあったわ。」

中森「でもそれが何だというんだ!!」
紅子「中森さん、プラットホームからB6階までエレベーターで上がってきたのを覚えてるわよね。」
青子「うん。」
紅子「この迷路が下にあったときにはおそらくプラットホームと同じ階…つまりB7階にあったはずよ。」
キッド「なるほど、つまりもう一度この迷路を下に降ろしてB7階へ行くってことだな。」

北浦「で、でもうまくいくんですか?もし下に降りられてもその後ちゃんとプラットホームに出られるんですか?」
紅子「わからないわ。」
白馬「でも、やってみる価値はありそうですね。」
ようやく全員が納得し、試してみることになった。

紅子「キッド、あのハンドルをうって。」
キッド「OK」

パシュ!!

トランプ銃はハンドルに命中し30度ほど回った。
次の瞬間、ゴゴゴゴゴ…と轟音が響き渡り、隠し部屋と迷路をつなぐ扉が閉じ、迷路が下降をはじめた。

ドォン!!
ひときわ大きい音を立て、迷路が止まった。

7人はしばらく迷路を歩いたが、しばらくして先頭を歩いていた紅子が止まった。
紅子「エレベーターや迷路の位置から推測するとこの向こうがプラットホームよ。」
紅子は迷路の壁を指差し、言った。
北浦「どうするんですか?やっぱりプラットホームにいけなかったじゃないですか。やっぱり上に戻って…あーっ!!」
中森「どうした?」
北浦「ハンドルを回せる人がいないんだ。もう上には戻れないじゃないですか!!」
中森「あ、あーっ!!」
北浦「どうするんですか!?」
中森「どうするんだ!!」
(↑2人同時に)
そのとき、一人だけ少し離れたところにいた守が全員を呼んだ。
守「みんな、こっち!!」
そこには換気ダクトがあった。
守はそのフタを引っ張り、中に入っていった。
残る6人も守の後を追い、その中に入っていった。
「自爆装置が起動しました。1分後に爆発します…」

ガチャン!!
換気ダクトのフタを開け、7人は換気口の外に出た。

白馬「ここは…!?」
中森「プラットホームだ!!」
北浦「これで助かるんですね!!」
紅子「喜ぶのはまだ早いわ、ダクトに入った時点で爆発まで1分をきっていたのよ。もうほとんど時間がないわ。」
白馬「さあ、みんな乗って!!」
7人は列車に乗り込み、来るとき同様紅子が列車を動かそうとした。しかし列車は一向に動き出す気配はない。

紅子「どうして!?」
キッド「あれか」
あたりを見回していたキッドが何かを見つけ、列車から飛び出した。

それと同時にリミットを告げるアナウンスが流れた

「爆発まであと10秒…9秒…8秒」

中森「キッド!!」
守「おにいちゃん!!」
キッドは非常電源のところにたどり着き、それを起動させた。
同時に列車の動力も戻り、列車は徐々に動き始めていた。

その間にも残り時間はどんどん短くなっていく。

「6秒…5秒…4秒」
白馬「早く列車にもどれ」
白馬はドアから身を乗り出して叫んだ。
キッド「いいからそのまま行くんだ!!」
「3秒…2秒…」
中森・紅子・青子・白馬「キッド!!」
守「おにいちゃ〜ん!!」
「1秒…」
列車はプラットホームから走り去っていった。



ドォォォォォォォン!!!!!!!!!!!!!!


とてつもない轟音を上げ、研究所が爆発した。
B3階に始まり、B4,B5と爆発は広がり、ついにB6から迷路、プラットホームまで爆炎に包まれた。

その火柱は列車がとおる地下トンネルにまで侵入した。



守「おにいちゃん…」
5人が乗った列車内には守の泣き声だけが響いていた。他の4人は一言も話さない。
実はキッドの他にも北浦の姿もないのだが、5人はそのことに全く気付いていなかった。
その列車にもようやく爆発の激しい振動が伝わった。

青子はバランスを崩した拍子に列車のうしろの状況を見てしまった。

青子「火…火が追いかけてくる!!」
中森「なに!!」
5人は列車の後ろの状況を見て愕然とした。
巨大な炎の柱がものすごいスピードで6人の乗った列車を追いかけてきているのだ。

白馬「もっと、列車のスピードを上げてください!!」
紅子「分かった!!」
そういうと紅子はスピードを最高まで上げた。
それでも炎のスピードのほうがわずかに速い。刻一刻とその距離が迫ってきていた。

列車の約1キロメートル前方
そこにはポイントがあり、線路が2本に分かれていた。何物かがそこのポイントを切り替えた。


再び列車の中
炎に追われながら、列車は問題のポイントにさしかかった。そして列車は青子たちが来たのとは別の線路へと走っていった。

紅子「え、ちょっと!!」
白馬「どうしたんですか?」
紅子「違うのよ、私たちが来たのはこっちじゃないの」
中森「な、なんだって」
白馬「でも…」
白馬は列車のうしろの炎を見ながら静かに言った。

白馬「もう引き返すことは出来ない。」
紅子「ええ…行くしかないわね」
そしてとうとう炎の先が列車をかすめた。

中森「みんな何かにつかまれ!!」
青子「さあ、守くんも」
守「うん!!」
炎はさらに広がり、列車を完全に包み込んだ。車体がギシギシときしんだ。

青子「きゃーぁぁぁぁ!!!!!」
列車は火の玉になって走りつづけた。

そのときだった。
紅子「出口よ!!」
そしてトンネルの出口から列車と炎が同時に吐き出された。

列車はレールを外れ、新雪の上を数十メートル滑ってからやっと停止した。
そこはトミノ高原リゾートホテルの近くの山の中だった。
5人は列車から雪の上に放り出されていた。

青子「いたーい」
青子は雪の上で自分の体を起こしていた。紅子も白馬も中森も守も…5人は地上へもどってきた。

そのとき青子は気付いた。
自分の下に何かがあるのを。それは突然盛り上がり、青子を押しのけて起き上がった。

快斗「プハーッ!!あーつめたかった〜」
青子「か…快斗…」
快斗「青子」
青子「無事だったのね…」
青子はボロボロと涙を流し始めた
青子「うわ〜ん、よかった〜!!」
快斗「な、泣くなよ青子〜」
キッドの正体が快斗だと知っている紅子と白馬の2人も同時に安堵の表情を浮かべていた。


あの爆発の瞬間、キッドは北浦に助けられ、ハイパワーモーターつきのキックボードで列車を抜き、
ポイントを切り替えて先に地上で待っていたのだ。

しかも、キッドを助けた北浦は寺井(ジイちゃん)の変装だったのだ。
ニュースでホテルでの出来事を見た後すぐ北海道へ飛び、雑居ビルに入る直前で北浦と入れかわっていたのだ。

快斗を守るために…



中森「これでキッドの奴も無事ならいいんだがな…」
中森はタバコをくわえながらそういった。そしてあちこちのポケットをさわり何かを探しはじめた。ライターをなくしたようだ。
白馬「ライターならありますよ」
それはオイルが切れたため点かなくなった北浦のライターだった。白馬はそのことをわすれ、中森に差し出した。
中森はそのライターでタバコに火をつけながら言った。
中森「いかんな。未成年がこんなものを持っていちゃ…」
白馬「こ、これは北浦刑事の…」


そのとき白馬ははじめて気がついた。
点かないはずのライターの火がついたことに、北浦の姿が見当たらないことに…


 あのときニセ北浦(ジイちゃん)はオイル切れを装ってライターの火を消し、自ら襲われた振りをした後、
闇に乗じて白馬と中森を襲ったのだった。


ただ快斗を守るために…


まあその後中森をおぶって移動しているときにうっかりトラップにひっかかって迷路の中に落ちてしまったのだが…



白馬「中森警部、あの時動力室で僕たちを襲ったのは北浦刑事です!!」
中森「な、何だと!!」
白馬はライターのことや自分の推理を中森に話して聞かせた。
中森「なんてこった…それで、北浦はどこだ?」
白馬「いません。気がついたときにはもう…」
そのときだった。ホテルのほうから北浦が手を振りながら6人に近づいてきた。

北浦「中森警部〜。探しましたよ。さあ早く怪盗キッドたちを追いましょう!!」
もちろんこの北浦は正真正銘本物の北浦だ。ホテルで中森たちとはぐれた後ずっと探していたのだ。

白馬「何を言ってるんですか?あんたが僕たちを襲ったことはもう分かってるんですよ!!」
中森「そうだ、あの研究所の動力室でワシらを殴っただろう!!」
北浦「な、なんのことですか?僕は今の今までずっとホテルにいたんですが…」
中森・白馬「へ?」


ボン!!


突然7人のそばにピンクのもやが立ち上った。
真っ先に反応したのは中森だった。

中森「こ、これはもしや…」
そのピンクのもやの向こうから現れたのは怪盗キッドだった。もちろんジイちゃんが変装した怪盗キッドなのだが…

中森「生きてたのかキッド!!」
守「おにいちゃん!!」
キッド(偽)「怪盗キッドはあれぐらいでは死にませんよ」
中森「よ、よかった…よかった〜」
中森はうわ〜んと大声で泣き出してしまった。
キッド(偽)「よしてくださいよ中森警部。あなたの使命はわたしを逮捕することのはず」
その一瞬で中森は泣きやんだ。

中森「あ、そうだ。逮捕だキッド!!それからエンシェントブルーを返せ!!」
キッド(偽)「それは出来ない相談ですね。」
中森「なに〜」
キッド(偽)「それではまた…さらば!!」
そういうとキッド(偽)は空へと飛び立っていった。

中森「待て〜」
北浦「あ、待ってください警部!!」
中森と北浦もキッド(偽)を追ってどこかへ行ってしまった。

快斗「サンキュー…ジイちゃん」



一方、守は飛び立ったキッド(偽)を見送りながら、不思議そうな顔をしていた。

守「おにいちゃんじゃない…」
ポソッとつぶやいた後、守は快斗の方に視線を移した。
自分を助けてくれた怪盗キッドと目の前にいる黒羽快斗が重なって見えるのだった。

守「ありがとう、おにいちゃん…」
快斗の方を見たまま守はまたポソッとつぶやいた。



翌朝、快斗・青子・紅子・白馬の4人は東京へ帰ることになった。
中森に追われていたジイちゃんもなんとか警察を撒いて東京に帰ることができた。
そして守は東京の施設に預けられることになった。



かくして事件はようやく幕を閉じたのだった。

しかし、それで全てが終わったわけではなかったのだ。




ある夜のこと、新東京国際空港駐車場に1台の黒いベンツが止まっていた。
その中には一人の女性が乗っており、その車に飛行機から降りた一人の男が乗りこんだ。

5648「待ったか?」
5010「いいえ」
ベンツに乗っていた女性は8982の部下だった5010、そして飛行機から降りてきた男は5648だった。

5648「しばらくだったな。で、調子はどうだ。」
5010「北海道支部は壊滅、8982も死んだわ…あなたのほうはどうなの?」
5648「関西支部も潰してきた。」
5010「そう…それで支部長の3281はどうしたの?」
5648「ビビッて逃げちまったよ。ま、1人じゃ何もできねえだろうさ。」
5010「そうね…」
5648「次は…東京支部だ」
5010「ええ」

それだけ言うと5010はベンツのエンジンをかけ、ベンツはゆっくりと東京の闇夜に消えて行った。




Gahal様あとがき
完結しました、奇術師の死闘。といっても話はまだ続くのですが…
次作は「コナン&金田一final」です。
FINALとあるように、次作で完全に終わります。
また10章くらいになると思います。
ご愛読?ありがとうございました。

Gahal様の小説奇術師の死闘完結!!
ずいぶんアップが送れてすいませんっっ
でもでもイラストはへぼいけどかけてよかったぁっ←いえ、ほんとはちゃんと紅子と白馬も入ってました・・が・・(遠い目)
久しぶりに絵描いたら全然似てないし(;;´Д`)
この奇術師の死闘は好きなキャラみんなの活躍の場があり凄く見応えありました。
まじっく快斗に絞ったストーリー、個人的な好み(バイオハザードのゲーム(笑))展開でワクワクさせてもらいました♪
新作も今制作中とのことでものすごく楽しみにしてますっっ(*^▽^*)/ 
ほんとにありがとうございました〜♪byあっきー

戻る

TOPへ