奪いゆく仮面
速水 碧


 空の色は相変わらず泣き出しそうであるにも関わらず、私のシャーペンは軽やかにノートの上を舞っている。
 賑やかで、耳障りな教室もいつも通りで、集中してる私にとってはただのBGM。
 集中って言ったって勉強してるわけじゃないけど。

「おはよー、のんちゃん。」
「とっぴぃ。おはよ。」

 私の机の上を覗き込んできた眼鏡の少女…とっぴぃの、セーラー服のリボンが机を掠める。
 優しい、高い声。
 癖で、少し舌足らずな喋り方が、とってもおとぼけキャラで可愛い。
 彼女は後ろの席に荷物を置くと、また私の正面に戻ってきて、顔を覗き込んできた。
 少し落ち着きが無いのは、ちょっと悪い癖かな。

「何書いてるの?こないだのの続き?」
「ううん。新しいの書こうと思ってるんだけど、なっかなか題材見つからなくて。」
「ふぅん。書き終わったらまた読ませてね!あたし、のんちゃんの小説好き!」

 それだけ会話を交わすと、彼女は自分の席に戻っていった。
 邪魔をされることが、私が一番嫌うことだと知っているから。
 彼女とは女子校であるこの高校の入学式以来の付き合いだった。
 『刀真紀子(トウマノリコ)』が私の名前で、彼女は『都津川枝梨(トツガワエリ)』というので、彼女とは隣同士の席だった。
 実は同じ市内に住んでいて、お互いの中学の存在は知っており、中学二年生でテニス部を辞めたという経歴も似ていて、
 あっという間に意気投合したのだ。

 チャイムが響く。
 寝不足の頭にガンガンくるけど、それもまぁ遅くまで起きてた私が悪いんだし、自業自得かな。
 後ろから三番目って私の席は、あまりベストじゃない。
 居眠りしてても小説書いてても、周りの皆に知られちゃう。
 先生が来て、ホームルームが始まる寸前、私は小説ノートを机の中に押し込んだ。

 …あれは何だろう?
 周りの子達もひそひそ言い始めた。
 クラスで目立つほうの子達も何かひそひそやってる。
 私って、あんまり目立つことしないほうだし、黒板に落書きとかする仲間ってあんまりいないのよね。
 ちょっと彼女達の言葉に聞き耳を立ててみた。
 どうせ彼女達が書いたんだろうし、とか思いながらね。
 でも、どうも様子がおかしい。
「あれ何?」「知らない。」とか言っちゃってるし。


かめん持ってます
みんなきづいて


 かめん?
 かめん、って、「仮面」かな?
 どうせ誰かの落書きでしょ、とか思いつつ、でも内心私はわくわくしてた。
 何か面白い話が書けそう!


 休み時間になった途端、シャーペンが私の手によって踊り始めた。
 さらさらとスピードが上がってく。
 いい感じ!
 思わずにやけていたらしく、とっぴぃがミィの後ろに隠れながら様子を伺ってるのが視界に入った。
 でもそんなの気にしてらんない。
 あ、ミィっていうのは私の後ろのとっぴぃの後ろの席の子で、『富山美晴(トヤマミハル)』って子なんだ。
 大人っぽくて、私達の中で一番誕生日が早いの。
 いつも四人でつるんでて、もう一人は離れた列の子で、『斉藤加奈(サイトウカナ)』っていう、演劇部のちょっと変わった子。
 加奈は、今日は新聞委員の仕事で忙しいみたい。
 休み時間ごとに後輩が来て、ドアの前で何か相談してる。
 私がノートに小説を書きなぐってると、ミィが背中にとっぴぃをくっつけて私の席までやってきて、二人して机の周りにしゃがみこんだ。

「なーにー?」
「なーにじゃないよ。恐いよ顔。」
「何か面白いことでもあったの?のんちゃん。」

 相変わらずきつい物言いのミィ。
 対照的に、可愛らしい喋り方のとっぴぃ。
 にやにやしてる私が恐いって、ミィにとっぴぃが言いつけたみたい。
 これまた予想通り。
 芸が無いね、とっぴぃは。

「別に?小説書いてるからちょっと邪魔しないでくれる?」

 これだけ言っても、ミィは気にしないだろう。
 昔いじめにあった経歴があるみたいだけど、そんなの全然感じられないほど、彼女は強い意志の持ち主だと私は思う。
 思ったとおり、立ち上がって、とっぴぃに言ってくれた。

「ホラ。何でもないんじゃん。行こ、とっぴぃ。加奈も仕事終わったみたいだし。」
「ねぇ二人とも、あの黒板のメッセージ、誰が書いたか知らない?」
「メッセージ?」

 私は、自分のノートに視線を落としながら、黒板を指差した。
 あの落書きは、まだ消されていない。
 一時限目は担任の授業だったのに、先生もあまり気にしていなかったし、ちょっと変だなとか思ったりもする。
 うちのクラスの日直は毎日のように怠慢で、無関係なことでも何となく残しておいたりするんだけど、きっとあのメッセージも放課後までそのままだ。

「かめん持ってます…みんなきづいて?」
「かめん持ってます、みんなきづいて?」

 ほぼ二人同時に声をそろえて言ってる。
 可愛いなぁ。
 ちょっとしたときに息の合ってしまう仲間。
 それが私達四人だ。
 少しずつ考え方やキャラクターが違うけど、結局同じところに行き着く。
 女子校の中の仲間だから、お互いに可愛いなぁなどと思ってしまうのはご愛嬌。

「そ!意味深っぽくない!?」

 それだけ言うと、私はもう一度ノートに向かった。
 シャーペンを手に取ると、また小鳥のように舞い踊る。
 とっぴぃもミィも何か言おうとしてたみたいだけど。
 その様子を見て、二人とも呆れて加奈のところに行っちゃった。
 いつものこと、いつものこと。


 夜になって、私はその小説をパソコンで打ち始めた。
 題は「奪いゆく仮面」。
 主人公の女の子とその友達の合わせて四人は、あのメッセージを声に出して読み上げちゃって、呪われちゃうの。
 ありがちだけど、何だか惹かれる。
 夏に向けてのホラーっぽい小説が書けそうで、楽しみになってきた。
 続き物にするために、まず一人目の少女が消えちゃうところまで大まかに書いて、それから感情や行動の動きをつける。
 遅くなって親にちょっと怒られながらも、私はそれを一話だけ仕上げた。
 どうせ明日は日曜だし遅くまで起きていても平気だもん。
 でも、私はまだ気付いてなかったんだ。

 今日あったことは、何かのスイッチだったことに。
 そして、そのスイッチは…私が、押してしまった。




 月曜の朝、いつもの声が一つ欠けていた。

「ミィ、とっぴぃは?」
「休みじゃん?さっきメール送ったけど、返ってこないし。」

 ミィは、メール狂と言っても良いぐらいいつも携帯を握っている。
 ここは私立の学校で結構校則は厳しいけど、荷物検査とかないから皆普通に携帯を持って来てる。

 私やとっぴぃは学校にいるときはさすがに電源を切っているが、加奈やミィは電源つけっ放しみたいで、
 暇さえあれば鞄に手を突っ込んでいるのはミィだ。
 彼女は、とっぴぃが登校していないのを気にも留めない様子で、無心に携帯に文字を打ち込んでいる。
 メールだこを自慢にしているっぽい彼女。
 今日は誰がお相手やら。

 軽くため息ついてノートに向かうと…誰かが廊下を走ってくる音が聞こえる。
 カーペット敷きの廊下に足音が響くはずもない。
 重そうな体を、それでも走っているらしいスピードの彼女…明日香は引きずってくるようだ。
 力いっぱいドアを開けた音で皆が彼女のほうを向いた。
 汗だくの彼女は乱れた息の合間に話しているが、まあなんとか聞き取れる。

「けっ…警察っ…警察来て…来てるッ!!」

 クラスの誰もが、彼女の指の先の窓へと駆け寄った。
 そこにあるのは覆面パトらしい車両が一台と、そこから出てきた二人の男。
 彼らが手にしているのは、ドラマみたいな警察手帳!…っぽいもの。
 おじいちゃんと呼ばれる校長と、うちの学年主任の松田が、その男達と話をしている。
 と、担任の柴内先生が、まだゼーゼー言っている明日香の後ろから声をかけてきた。
 
「あー…刀真と斉藤と富山。いるか?」
「はーい。」
「先生、斉藤まだ来てません。」

 私とミィはほぼ同時に答えた。
 加奈は遅刻常習犯で、ミィ、私と続いて遅刻が多い。
 加奈は体が動き出すのが遅いらしく、私とミィはのんびりしているから…。
 でも、とっぴぃは皆勤狙ってたし、遅刻なんか絶対することが無かった。
 だから私は、心配していたんだけど。

「都津川枝梨さんと仲良くしてたのは、君達三人だね?」
「とっぴぃが何かやったの?」
「ちょっ…ミィ…!?」

 白髪の刑事らしき人の問いかけに、喧嘩腰で答えるミィ。
 付き添いで一緒に部屋に入った松田も柴内先生も驚いている。
 ミィは普段授業中は指されたくなくて大人しくしているから、先生達は皆彼女の過激さを知らないんだ。
 白髪の刑事はハンカチで額の汗を拭き拭き、隣にいる若い眼鏡をかけた刑事を小突いた。

「え〜っと…枝梨さんは一昨日の夜九時頃、塾に行くと言って家を出たまま、帰ってきていないのです。
 特に仲良くしていたお友達はあなた達三人だったようで、彼女のお母さんもあなた達の名前ぐらいしか知らない程でした。
 だから、あなた達なら何か知っているかと思って聞きに来たのです。」

 私とミィは目を瞬かせた。
 とっぴぃが?
 家出か遭難か…まさか誘拐!?

「私は知りません!」
「私も。知るわけ無いじゃん。とっぴぃ家出でもしたんじゃないの?」
「ちょっ…ミィ!」

 私は慌ててミィを小突いた。
 いくらなんでも言いすぎだ!
 白髪の刑事は相変わらず垂れてくる額の汗を拭っているし、眼鏡の刑事は頭を掻いている。
 ここにとっぴぃのお母さんがいなくて良かった。

「て、手がかりとか、無いんですか?」
「とっぴぃもいろいろ悩んでるみたいだしね。私達には何も言ってくれないけどさ。」

 私の質問を遮るように、ミィがまた発言する。
 どうしちゃったの、ミィ!?

「…とにかく、何も知らないんだったら戻っていいよ。何か思い出したら…」
「とっぴぃは…誰のせいでいなくなったの!?たとえ彼女が男と駆け落ちしていなくなったんだとしても…私が…私がぶっとばしてやるッ!
 とっぴぃーッ!!」

 泣き叫びだしたミィはテーブルを蹴り始めた。
 私も先生も呆気にとられるしかなかった。
 確かに、とっぴぃがいないのは、誰かのせいなのかもしれない。
 優しくて、可愛くて、頭がいいとっぴぃ。
 いなくなって初めて、彼女の存在の大切さが身に染みる。
 いつも人懐こく私達の傍にいたのに。
 私の頬も、いつの間にか濡れていた。


「ミィ、もう泣くなって。」

 放課後、保健室にミィを迎えに行った私と加奈は、まだ涙の乾いていない彼女を見て驚いた。
 いつも気が強くてリーダー格のミィ。
 彼女がここまで泣きじゃくるところを、私達は見たことが無かった。
 教室から、結局開くことの無かった彼女の荷物を運んできた私達だったが、その重さにも驚かされた。
 彼女がいつも言う、辞書三冊の重さは、こんな重いものだったのか。

 朝、彼女は叫び、そして失神した。
 心配して心配して心配した末の叫びが、彼女の意識を奪ったのだ。
 ようやく泣き止んで呆けたミィを、私達は彼女が自分で帰れると言うまで送って行った。
 電車のドアが閉まり、無理に笑おうとして引きつり笑いを浮かべたミィの姿が人ごみに消え、それは彼女を運び始めた。
 その様子を目で追いながら、加奈は呟いた。

「あたし達、もしかして何かボタンを掛け違ったのかな…。」

 加奈の言葉は、私の耳朶を打ち、私の心を打ち、そして私を不安にさせた。


 車窓から眺めていた雲はどんよりと重く、夏の空に似合っていた。
 今にも夕立が街中を支配しそうだったが、結局夜になっても降らなかった。
 孤独でか不安でか、どちらにしても良くない理由で私の心に居座っているこのもやもやしたものは、加奈の言葉がもたらしたものではない。
 漠然と…それを感じて、背筋が寒かった。
 今日は早めにパソコンに取り掛かれた。
 この間の小説の続きを、早く書いてしまいたいと思った。
 これも、漠然と。
 指が私の思うとおりに軽やかに踊って、平たいモニターに文字を書き綴っていく。
 でも、今夜は加奈に電話したいし、きりの良い所でやめにしておこうっと。
 そうして、二人目の少女が消えるところまでを、書いた。


「そういえば加奈は、黒板のあのメッセージ、読んだ?」
「メッセージ?ああ、あの『かめん持ってます はやくきづいて』ってやつ?」
「そ。あれがちょっと気になっててさ。それで小説書いてるんだけど。」

 …空白。
 黙っている加奈は困っているようだった。
 それを内心わかりながらも…声をかけずにはいられなかった。

「加奈?どしたん?」
「あれには…関わらないほうが良かったかもしれないよ。」
「何で?」
「何となくだけど…。」

 それ以上、加奈は何も言えなさそうだった。
 私は追及するのをやめ、他愛の無い話をし、電話を切った。
 次の朝にはとっぴぃが帰ってくることを祈って…。



 一度消えたものは元には戻らずに、他を巻き込んで減っていくらしい。
 次の朝、珍しく加奈が先に来ていた。
 私は遅刻ギリギリに来たから、同じぐらいに来たのだろうか。
 教室には何故か空席が目立つ。
 先生が何か用事を言いつけたのかな。

「加奈?早いじゃん。どうしたの?」
「ミィからメールが来ないの…彼女、休むときにはいつもメールしてきたじゃない?」

 確かに、ミィの姿は無い。
 でも、彼女もいつも遅刻ギリギリのはずだ。

「何言ってるのォ。加奈もミィもいつも遅刻組じゃん。そりゃ私もそうだけど。」

 とっぴぃの件で、落ち込んできていないのかもしれない。
 しかし、とっぴぃの話題は禁句だと思う。
 加奈も私も、口に出したら落ち込んでしまう。
 …おどけて言った私の言葉は加奈の耳を通り抜けてしまっているようだ。

「加奈?」
「キャッ!」

 私が肩に触れた瞬間、加奈が素っ頓狂な声を上げたので、私は驚いて手を引っ込めた。
 真っ青な顔をして、私を怯えたような視線で見続ける加奈。
 どうも様子がおかしい。

「ご…ごめんのんちゃん…。」
「私は大丈夫だよ。でも、加奈真っ青じゃん…」

 保健室行ったら?と私が続ける前に、音を立てて加奈が立ち上がった。

「のんちゃん…これからあたしに何があっても、私の傍に来ちゃだめだよ…?」

 悲しそうなその横顔に、私は聞き返すことも出来ずただ頷いていた。
 そして空を見つめた加奈のその唇が、何かを呟いた。
 何と言ったのかは聞こえなかったが、あまりにも短く鋭い単語だった。
 そして、走り出す。
 教室から飛び出したところで柴内先生とぶつかったようだが、加奈はそのまま走るのをやめず、どこかへ走り去って行った。
 柴内先生も眉間に皺を寄せて困っている様子だったが、教室の状況を見て唖然とした。
 空席が目立つどころの騒ぎではない。
 柴内先生がここまで驚くというのなら、この空席は皆休みなのだ。
 クラスの半数以上が、教室にいなかったのである。
 加奈も…心配だったが様子がおかしかった。
 とにかくしばらく様子を見てみよう。

 放課後になっても、加奈は帰ってこなかった。
 ただ、居場所だけははっきりしている。
 トイレの一番奥に立てこもっているのだ。
 先生が数名そのドアの前に立っては、説得しようと話しかけ続けている。
 でも加奈は出ないと言い張っているのだ。

「かめん持ってます……みんなきづいて…かぁ…。」

 無意識に、そう呟いていた。
 そして…私が呼び出された。
 私は教室でミィからのメールと加奈が戻ってくるのを待っていた。
 ミィは、学校を休むときは私かとっぴぃか加奈に「ノートうつさせて!」とメールしてきていたし…
 やっぱりとっぴぃがいなくなったことにショックを受けたのだろうか。
 私は、誰もいなくなった教室をぐるりと見渡しているときに、松田先生に呼び出された。
 結局クラス全体の様子がおかしいということで、学級閉鎖になったのだ。

「加奈ぁ?もう皆帰っちゃったよ。私達も帰ろうよ。夜になっちゃうよ?」
「……そうだよね…こんなところで夜になるほうが危ないかも…。」
「え?」

 私が簡単に声をかけただけで出てくるとは思わなかった。
 ゆっくりとドアを開けると、まだ青ざめたままの加奈が顔を出した。
 先生達も驚いていたが、とにかく挨拶だけして、私達は家路についた。


 校門から出てしばらく歩くと、加奈の歩くペースが下がった。
 それまで一切口を開かなかったので、私は加奈が具合でも悪いのかと思った。

「加奈、本当にどうしたの?」
「やっぱり、時間がなかったのかもしれない…。」
「加奈?」
「ねえ、昨日の夜十一時頃、ミィからメール来なかった?」
「?えーと…来なかったよ?」

 私達はいつも通りの坂道を、重たい鞄を背負って降りていった。
 ぼそぼそと喋る加奈の声は、いつもより自信なさげで、聞き取りづらかった。
 私の返答の後、しばらくの空白があり、そして彼女はようやく続けた。

「もしあたしが急に走り出しても、ついて来ちゃだめだよ?」
「…うん、わかった…。で、ミィのメールって?」
「…十一時頃、メールが来て…それが『かめんにころされる』って…。」
「仮面に…殺される!?」
「全部平仮名で…時間が無くて打ったって感じだったの!それまで普通に会話してて、彼女、塾の仕事が終わってようやく帰れる、って…。」
「それで…今朝から心配してたんだ…。ミィといいとっぴぃといい…どこ行っちゃったんだろう…。」

 加奈は静かに首を横に振り、続けた。

「わかんない…だけど、すごく怖いよ…。ねえのんちゃん、次はあたしが消えるのかな!?」
「しっかりしてよ、加奈!!加奈までいなくなったら、私どうすればいいのッ!?」

 急に感情が高ぶったように、私にすがりつくような視線を向けてきた加奈に、私はそれぐらいしか言うことが出来なかった。

 それから加奈とは、とっぴぃやミィがどこに消えたのかを、クラスの皆はどこに消えたのかを、語り合って彼女を改札まで送って、別れた。
 彼女もやはり、無理矢理笑顔を浮かべていた。


 そして、深夜一時…。
 三人目の少女が消えるところまで小説で書いたところで、手元の携帯が震えた。
 それは、加奈からだった。
 電話が嫌いなあの子にしては珍しい電話だった。
 急いで部屋に戻って電話に出た。
 酷い雑音だ。

「もしもーし、加奈?」
『キャアアァァァッ!!!』
「か、加奈!?加奈ッ!!」

 強い風の音が加奈の悲鳴をかき消してる。
 私は、深夜だということも忘れて部屋の中で大声で呼んでしまった。

「加奈ァッ!?」
『のんちゃんッ、黒板の…言葉…ァッ!声に出して読んじゃ…ダ、ダメェェェ―――!!!』

 彼女の叫び声が唐突にぐしゃっという生のトマトを潰したような妙な音と何かが引きずられる音で遮られたかと思うと、電話は切れた。
 加奈…!
 加奈に、一体何があったの!?

 …その後朝まで、記憶は無かった。
 母の言うところだと、電話を握り締めた私が、床に倒れこんでいたらしい。
 母が起こしに来て、怒っていった。
 「メールなんてしながら、電気もつけっぱなしで寝るんじゃありません!」と。
 でも、私は多分気を失っていたんだと思う。
 あの、リアルな音を…聞き覚えのある音を聞いて…。

 学校に行っても、やっぱり同じだった。
 クラスはさらに閑散とし、そして相変わらずとっぴぃとミィの姿も、思ったとおり加奈の姿も無かった。
 また学級閉鎖だ。
 私も諦めたように家に帰り、小説の続きを練った。
 今日もバイトは休みを取った。
 あの三人がいなくなって、何もやる気が起きない。
 加奈の言っていたあの言葉…「黒板の言葉、声に出して読んじゃダメ」って…私は、読んだっけ?
 もう、ぼんやりとしか思い出せない。
 自分の記憶なのに…。
 半分諦めている自分がいた。

 夕食後、私はまたパソコンを打った。
 無心に、何かに導かれるように打った。
 あの小説…早く完成させてしまわなければならない、そんな気がしてしょうがなかった。
 両親はあまり良い顔をしなかったが、最近クラスで起こっている事件を今日ようやく聞いて、私を哀れに思ったらしい。
 今更聞いても、もう遅いんだよ…。
 優しくて可愛かったとっぴぃも、強くて私達のリーダーだったミィも、大らかで影にいてミィをしっかり支えていた加奈も、
 もう遠いところにいるような喪失感が、私を支配していた。

 そして、早く小説を仕上げなければいけないような使命感。


 時間はかかったが、ようやく打ち上げた。
 もう深夜…というより朝だ。
 朝の三時。
 そういえば、とっぴぃの消えた時間って夜の九時で、ミィのメールが十一時、加奈の電話が一時。
 すべてが二時間おきだ。
 そして今も。
 今も二時間おきにあたる、三時だ。

 小説を印刷し終えた私の背後に、小さな黒い影が現れていた。
 ごめんね、加奈。
 やっぱり私も、あの言葉を口に出して言ってたみたい。
 使命感は、皆の傍に行きたかったからだね。
 仮面は、皆を、すべてを、奪っていくつもりなのかな。
 その真っ赤に染まった大きな口が、私の意識を噛み砕く音が聞こえる。
 だんだん…だんだん遠くに。
 本当に勢いがついてると、トマトの潰れる音みたいなのがするんだね。
 

終演


速水 碧のお送りしました、初のホラー小説、いかがでしたでしょうか。
相変わらずの三文小説で恥ずかしく思いますが、読んでくださった方ありがとうございます!
以後も精進していきますので、皆様末永くお付き合いくださいませ。
ではまたお会いしましょう。
2003 8 28

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・バタっ(倒)
怖いって;;;夜中に黒い影って・・・怖いってぇ(涙)
そしてさりげなく謎も残して終演・・・・フフッ(遠い目)
素敵な小説ありがとうございましたっ
怖い話全然平気です!(嘘つけっ/笑)byあっきー

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