『奇跡って、あると思う?』


昔私は、母さんにそう聞いたことがある。

母さんは答えた。



『奇跡なんて あるわけない』



でも、本当にそうだろうか?

あの人なら・・・あの白い衣を纏った魔術師なら

奇跡を起こせるような気がする


そして、その時がやってきた




聖なる夜の小さな それでいて大きな奇跡が ここにある―――――・・・


聞こえる 〜奇跡のマジックショー〜<3>
byみさき様



「・・・ここでいいんだよね・・・」
クリスマス・イヴ、中学一年生―――戸村千春は、東都タワーの見える廃ビルの屋上に居た。

千春がキッドから宝石と、マジックショーの招待状を貰ってから、早三日が過ぎた。
今日がその日。北風が寒く、空は雲一つ無い。

「・・・っていうか本当に来るんでしょうね、キッドの奴・・・」
こんな寒い中、長い間待たせて最後に『ジョークジョーク(笑)』なんて言われたらぶん殴ってやろうと千春が心に決めた時。

ガチャンという音とともに屋上の扉が開き、中から聞きなれた声が聞こえてきた。


「・・・もしかして・・・千春か!?」
「・・・・裕紀ッ!?」

「「何でここに!?」」

千春と裕紀が同時に叫び、裕紀が千春のところへ走って行った時、さらに裕紀の後ろから声がした。


「・・・ッ!?千春に裕紀!?」
「「奈緒ッ!?」」

そこには、千春を苛めていた張本人・奈緒が居た。

「嘘っ!っていうか何で裕紀と奈緒がここにっ!?」
「いや、俺はあの例の怪盗キッドに呼ばれてだな・・・」
「ええっ!!!じゃあひょっとして奈緒も・・・」
「もしかして千春も!?」

三人がパニックになりかけている時、再び扉が開いて人が入ってきた。

「ああっ!!!千春!裕紀!おまけに奈緒までっ!!!何でここに居るの!?」

「藍子ッ!?もしかして藍子もキッドに・・・」


「「「「どーなってんの!?」」」」


四人が最もなことを同時に叫んだその時、ポンという大きな音がして、四人の前に五人目―――キッドが現れた。


「ようこそ。奇跡のマジックショーへ」

キッドの不敵な笑みに、その場の空気が静まりかえった。











「・・・怪盗キッド・・・」

最初に沈黙を破ったのは、千春だった。
「どうして?どうなってるの?何で、裕紀たちまで?」
「私がこのショーに招待したからですよ。今日は奇跡が起きる日。友人関係にも、奇跡が起きてもいいとは思いませんか?」

キッドはそう言うと手を出して、ポンという音と共に赤いバラを出した。
それを千春に差し出すと、千春は少し戸惑いながらもそれを受けとる。

しかし、少し視線をずらすとその隣で裕紀が『気に食わない』と言いたげに顔をしかめている。
どうやら嫉妬しているらしい。
キッドがニッとイタズラっぽく笑うと、裕紀は少し頬を赤らめて目をそらした。

キッドは苦笑しながら少し四人から離れると、両手を大きく広げて叫んだ。


「レディース・アンド・ジャントルメーン!!!」


千春達は、少し驚いたような顔をしながら顔を見合わせた後、微笑んだ。

「さあ・・・そろそろ奇跡のショーを、始めるとしましょうか」





それから数分間、キッドはさまざまなマジックを見せた。

キッドはマジックを見せ、

千春と藍子は・・・共に歓声を上げ、

裕紀は・・・トリックを見破ろうとやっきになり、

奈緒は・・・想定外のトリックに驚き、


皆――――笑っていた。







そして時刻11時59分。

キッドのマジックも・・・大詰めを迎えていた。



「さて、最後のマジックは、皆さんに協力していただきたいと思います。皆さん、お渡しした宝石を出してください」



四人は、それぞれポケットから宝石を取り出す。

思わず、裕紀は口を挟んだ。
「なあキッド、これがマジックとどう関係あんの?」
「それはいずれわかりますよ」

そう言って二ッと笑うキッド。それだけで裕紀は黙る。


「皆さんは、宝石を持ってここに集まってください」

キッドに言われた通り、四人は円をつくるように並ぶ。


「いいですか?もうすぐ・・・あと20秒ほどで日にちが変わります。
私のカウントダウンが終わった時、皆さんはその宝石を一つに合わせてください」

なるほど、
と四人は思った。

四つに分けられたような宝石の形。それは、その四つが元々は一つの宝石だったから
なのだ。
四人はそれぞれ宝石を手にしっかり持つ。

キッドが、カウントダウンを始めた。


「10・・・9・・・8・・・・・・」


千春と裕紀の目が合う。


「7・・・6・・・5・・・・・・」


千春に奈緒が頷きかける。


「4・・・3・・・2・・・・・・」


藍子が千春に笑顔を向ける。



「1・・・・・・!」


「「「「ゼロ!!!」」」」



四つの宝石が・・・・一つになった。













次の瞬間、宝石は光を放ち、空へと舞いあがった。

「・・・宝石が・・・!!」
千春がそう叫んだ。
「逃がすかよ」
キッドは一言そう言うと、トランプ銃を構える。


「ワン・・・・ツー・・・・スリー!!!」

キッドが、トランプを宝石めがけて撃った。
放たれたトランプは―――宝石を真っ二つに割った。





そしてその時、割られた宝石からさらに強い光が、空へと伸び始めた。

「宝石が・・・光ってる・・・?」
「ど、どうなってんの・・・?」
呆然とする裕紀と奈緒。藍子と千春も唖然としている。



そして光が空の闇へと消えた時・・・



「・・・雪・・・?」
雲一つ無い星空から、ひらひらと雪が降ってきた。
「何で雲がねえのに・・・雪が降ってんだ?」
驚いている裕紀・奈緒・藍子の近くで、千春が言った。

「あのね、小さい頃、母さんに聞いたことがあったの。『奇跡ってあるとおもう?』って。
そしたら、『奇跡なんてあるわけない』って言われたんだ」
「・・・千春?」
奈緒の問いかけを聞かず、千春は続ける。

「でも・・・あったね、奇跡。ちゃんと、ここにあったね・・・!」
「奇跡・・・って、この雪?」

裕紀の質問に、千春は言った。



「だって、バラバラになってた私達が、今一つになってるんだよ。これって、すごい奇跡だとおもわない?」




千春は・・・笑った。











「・・・パンドラ・・・・・・意味は希望・・・・・・か。まさか本当の奇跡が起こるとは思わなかったな」


キッド・・・いや、黒羽快斗はそう言うと、フッと笑った。
そして、空から舞い落ちる天使の羽を眺める四人をちらっと見ると、怪盗キッドはマントを翻し、夜の闇に姿を消した。

















やがて、私達は三学期を迎えました―――


私―――千春へのイジメはなくなり、今はイジメの始まる前と同じ、楽しい学校生活を送っています。
現在、私と藍子がちょっとした口論になっている。

「千春ーっ!早く来なさいよ遅刻するでしょーっ!」
「ああもう分かったってばっ!藍子いちいちうるさいッ!!!」
「何ですってぇ!?」
「ハイハイハイ。千春も藍子もガキじゃないんだから喧嘩やめなさい」

割りこんできた奈緒の何気ない一言で私達は軽くショックを受けた。
「「ガキ!?奈緒酷ッ!!!」」
「あのねぇ・・・;」

「っつーかお前等ホントに喧嘩してる場合じゃないぞ!ホームルームまであと20分しかねーんだから」
裕紀の言葉に私達は同時に叫んだ。

「「「マジで!?」」」
「ってお前等時計確認しろよ・・・」

ギャアギャア騒ぎながら我先にと玄関を飛び出して行く奈緒と藍子。そして玄関先でそれを苦笑してみている裕紀。
私が笑いながら玄関から出た時。





バサッ





屋根の上から、無数の白い鳩が飛び立った。

「・・・・え?」

振り返って思わず屋根の上を見たけれど、もうそこには誰も居ない。


「千春ーっ!何やってんの?置いてくよ〜!」
「あ、ちょ、ちょっと待ってよー!!!」

私は「気のせいだよね」と思いながら、藍子達のもとへ走りだした。












今 学校への道を歩きながらも思う


あの頃は この道を通ることさえ


何だか だんだんと地獄へと向かっているような気がして 怖かった


でも今は違う


今私は 藍子や 奈緒や 裕紀の居る


天国に向かっている


そして そこで皆と過ごせるのが幸せで



それが―――私にとっての奇跡だ





奇跡を起こしてくれた奇術師の話も 最近は聞かなくなってしまったけれど


でも・・・これだけは覚えていたい


奇跡は 起きるのを待つものじゃない


奇跡が起こる場所へと 自分で向かうのが大切なんだ



パンドラっていうと・・・・禁断の箱を思い出すけど


ある話で聞いたことがある


全知全能の神・ゼウスに創造された人間の娘・パンドラには


「すべてを与えられた者」―――希望の意味があるって



どんな絶望の中でも  どんな悲劇の中にも


必ず小さな希望があるから





だから 私は言います


この物語を読んでくれた 全ての人へ






―――あなたは 『小さな希望』を 忘れていませんか―――





















あとがき

・・・えっと・・・何を書いたらいいんでしょうか;;;
とりあえず、これで『聞こえる』の物語が終了しました。

今思えば1話目から大分時間が経ってしまいました(あっきーさん、本当に申し訳ないです;)。
本当は大雑把なストーリーは最初から決めていたのですが、1話目はともかく2話目からのストーリーの細かい部分が浮かばず・・・;
また途中で前のパソコン(4000円で譲ってもらったモノ)がお陀仏となり、もう一度書きなおしたりしてるうちにこんなに遅く
なってしまいました(それでも遅すぎるんですが・・・;)

次回からの小説の予定は未定です。ただ、新一達の子供世代の小説なんか書きたいなーなんていうことを考えてます
(もう完全にオリジナルに突っ走ってますね・・・;)。
ただ、私に事件とかのトリックを考えることができたら・・・なんですけど;
それではここら辺で失礼します!
みさき様
最終章の小説ありがとうございます!お疲れ様でした!そしてありがとうございますっ
最後の問いかけがとても意味深で奇跡の存在の意味を考えさせられました☆
ほんのちょっとのきっかけがこの4人には必要だったのかなとも思います・・・さすがキッド!益々惚れるぅ←こらこら
色々PC等で大変だったみたいでお疲れ様です(^^;
是非是非これからも色んな小説を書いてください!byあっきー

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