大切な夏が始まる

それはたった一度しかこない夏



あなたの好きな季節だから



大学の公舎内から出ると、暑い暑いその世の中。
先ほど、冷房が強くて羽織っていたカーディガンはもう不要なものになる瞬間。

私は眩しくて思わず手を顔の前にやる。
気休め程度にしかならない。

大学の中庭にはこの大学が自慢する、緑の庭園がある。
夏は、涼みに来る生徒もそう少なくはない。が、今日は世間に認定されている夏休み。

しかし私は、卒業論文についての資料を探す為にやってきた。
図書館の鍵を借り、朝から今まで資料を探していた。



図書館で私は思う。
高校…帝丹高校に、私は残りの一年間工藤くん…いえ、新一と共に通った。
その時はともに過ごすスクールライフも悪くは無いと思った。

でも今、大学では違う。
研究している学科が違うならまだしも、通っている大学自体違うのだから。


別々の道を選んだ時、当人の私たちより周りのが驚いていた。
服部くんなんて、『別れたんか!?』と慌てていたり…。でもそんな事は全然ない。
寧ろ…絆が深まったかもしれない。
そして、私たちは恋人…いえ、恋人以上の関係にあるのかもしれないけれど同居はしていない。
といっても忙しい彼に不規則になりがちな食事を作りにいったりしているのだけれど。

私たちが別の大学を歩む事を切り出したのは他ならぬ私自身であった。
彼は探偵として、もう一度道を歩む事を決めた。
私は…その時何をするべきか深く悩んだ。
そして彼の一言…『おめぇのしたいことをすればいい。俺は其れを支えるから…。』


それによって、私はあえてもう一度、研究という仕事を選んだ。
勿論、前のような辛い事ではなく…組織にいたころ、人を殺す研究に知らずに加わってきたとはいえ、私はそれに力を注いでいた。
だから、今度は人を救う研究をしたい…そう心から願った。そして今、私は医大にいる。
そして彼は、心理科と法廷科など探偵として知っておくべき勉学が充実している大学へ向った。



「暑い…わね…。」



庭園の、木陰で研究資料を読んでいた。
が、やはり屋外の為蝉の声と暑い日差しを避けることは出来ず。

そして時計を見ると彼との待ち合わせの時間までごくわずかと迫っていた。
急いで研究資料をファイルにまとめ立った。



私は夏が嫌い…というか好きになれない。
彼に前を其れを話した時苦笑していた。



『へぇー…まぁ志保はそんな感じだよな。夏!サマー!って感じだったら変だしな』

『ちょっと…それ如何いう意味?』

『い、いや…だけどさ…。俺は、夏が好きなんだろうなきっと。』

『え?』

『園子のことお祭り女ーとか言ってたくせにさ、結局イベント好きなのかもしんねぇなぁ…快斗の影響もあるんだろうけど。』

『そうね…でも私はやっぱり…好きじゃないかも…』

『どうしてだ?』

『暑いっていうのもあるけど…敷いていうなら冬の方が好きね。冬って寒いじゃない?
だから…其れを理由にしてかもしれないけど…人を温かく感じれると思うのよね……昔の私なら考えなかったんだろうけど……』

『…なるほど……。』

『だから夏を嫌いっていう理由にはならないんだけど…嫌いというか…どちらかといえば冬の方が好きかもしれないと答える程度かもね。』

急にそんな事を思い出しているうちに目の前に彼の車が止まっていることに気付いた。



「よ、志保!待ったか?」



のんびり手を振っている彼に呆れた。
汗をかいているのは目に見えているのに。



「…エンジン切ってるみたいだけど…何時からいたの?」

「ん?7分ぐらい前かな?」

「どうして声かけなかったの…?暑かったでしょ?」

「いや…志保の考え事してる横顔に見惚れてた♪」



にかっと笑う其れに惹かれたのは私なんだけど…。



「バカ………事件、解決してきたんでしょ?」

「ん?なんでわかるんだ、事件だって。」



顔に?マークを浮かべて聞いてきた。
私、何年探偵の恋人やってると思うのかしら。



「今日貴方…大学行くなんていってないもの…それなのにワイシャツ朝着てたでしょ?
だから警察に用があることぐらい分かってたもの…でも私との約束があるからあえて言わなかったんでしょ?」

「……バレバレだったわけね……」

「当たり前よ…(クスッ)さぁ、乗ったら?買い物付き合ってくれるんでしょ?」

「お、おぅ。」



彼の車に乗るのはなんだか久しぶりような気がする。

車内の中は、冷房で冷えていた。でも、私がカーディガンを羽織らないですむ、涼しさ。
とても、丁度良いくらいで…でも彼のそんな心遣いも嬉しい。



「なぁ、志保ってやっぱまだ夏嫌いか?」



さっきも私が考えていた事な為、返答に多少時間がかかった。



「だから…嫌いというか…冬のが好きってことよね…。」



バックミラーを調整し、私の顔が映る位置になった。



「俺さぁ、志保が前言った冬の理由、夏にも言えることだなぁって。」



「え?」



「ま、これは俺にだけにしかいることなんだけどさぁ・・・」



「夏のが志保、俺の車に乗る機会多いだろ?冬は車もあるけど歩いたりとかもあるじゃん?夏のが暑さに弱い俺ら車使うだろ?」



「ええ…それがどうかした?」



「車に乗っている間は、志保は俺の女なんだなぁって。」



「は?」



「前服部が言ってたんだけどさぁ、バイクに和葉ちゃんを乗せてる時思うんだって。
ふだん和葉ちゃんを独占したくてもさ、正面きって街中で抱きしめたりとかさ、これ見よがしにそんな出来ないだろ?」



「当たり前ね。」



「でも、バイクに乗せている時はその空間の中で二人だけだから、独占できる気がするって。
家には飯つくりにきてくれるとはいえ…な?だから俺もこの車に乗ってる間は志保を独占できるってわけだろ?夏の方が其れは多いわけだし♪」



「呆れた…」



「いいだろ?此れでお前も夏好きに…」



「なれないわよ、暑くて嫌い。」



「そうかぁ?しゃーねぇなぁ…」





ううん、本当は違うの。

とても嬉しかったの。




貴方の好きな季節だから、私も好きになれそうな気がする。

今年の夏は何時もと違うかもしれない。



―END―



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暑中見舞いの、新一×志保vr'です。といっても志保ちゃん語り多いですが…。
なんとなく、あの海の話でもそうですが志保(哀)ちゃん、夏あまり好きじゃなさそうですよね。
緋色といい、冬のが好きそう…。

といった先入観で書き始めました(笑)
新一くんの言った理由は…志保ちゃんに遠まわしに独占欲があることを伝えているのですが;;
志保ちゃんには別の意味でも伝わっていた...ということで。

あえて私のその他の駄文とは違って、大学も違うし同居もしていないということにしました。
何か新鮮なのを書きたくなりまして・・・。

こんな駄文を受け取っていただいてありがとうございます。
残暑お見舞いのようになってしまいましたが…皆さん暑い中お疲れ様です。

此処まで読んでくださった方ありがとうございます。


毛利桜依

あうーーありがとーーっすごく素敵な小説です。
大学生な新一と志保って大人っぽいカップリングだから結構好きかも♪
残暑・・・暑いよぉ・・・(TT)でも小説戴けて浮上しました♪ありがとう〜
これからもたくさんの作品がんばって書いてください〜♪
もっとたくさんの毛利桜依さんの作品を読みたい方はこちらへ→HP
byあっきー
 

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