そんな時、この部屋へとつながる通路の向こうから、こんな声が聞こえてきた。

「キルシュ様! 大丈夫ですか!?」

「や、やばっ!」

聞こえてきた声を聞いて、ヒョウちゃんが青ざめる。

そう。ここは敵の本拠地なのだ。当然、敵はキルシュ一人ではない。

これまではなぜかあまり妨害を受けずにここまで来られたが、おそらくここで戦闘していることが監視カメラなどで気づかれたのだろう。敵の黒服たちが応援にこちらに向かっているのだ。

こちらに聞こえてきた声にキルシュが笑う。

「ふふ。どうするの?こちらにワタシの黒服たちが来ているわよ。そうなれば、有利になるのはこちらね」

そう言ってキルシュは余裕を取り戻した笑みを見せた。


魔法少女 マジカル☆哀 魔法少女よ 永遠に!? 後編その2


「キルシュ様!」

黒服たちがこちらに到着し、部屋の前まで来た。すぐさまこちらになだれこもうとする。

「くっ!」

それよりすぐ前にヒョウちゃんが動いた。

呪文を唱え部屋の入り口に浮き、黒服たちをふさぐように構える。

なだれこもうとした黒服たちは見えない透明な壁にさえぎられこちらに来れなかった。

黒服の一人が通路から部屋の哀めがけて銃弾を撃ち放つ。しかし、その弾丸も見えない壁に止められて床に落ちた。

「結界を張った! なんとかこちらにこの黒い服の連中が来れないようにしてる! だけど、あまり持たない! 早くなんとかするんだ!」

ヒョウちゃんがせっぱつまった表情で叫ぶ。

キルシュが余裕の笑みを見せて哀に問いかける。

「ふふふ。これで追い詰められたわね。どうするの?」

「アナタを倒して、あの黒服連中も倒して、マジカルモンスターを回収する。それだけよ」

「ホント生意気ね」

キルシュがイラッとした顔になる。

今度は、哀の方から動いた。

哀は持っていたナイフをキルシュに向かって投げ放った。

キルシュは驚きの表情で硬直し、そのまま身構える。

グササササッ!!

いくつかのナイフが魔法服姿のキルシュに突き刺さった。

しかし。

「あはははははは!! 痛くない! 痛くないわ!!」

ナイフが突き刺さった姿でキルシュが哄笑する。そして、刺さったナイフは一人でに身体から飛び出し身体には傷一つない。

「すばらしい。すばらしいわ。魔法の力!! なんてすばらしいの!!」

キルシュが高笑いし続ける。そして、再びナイフを構えた哀を嘲笑した。

「ふ。そんなのを使ったってムダよ。わたしには効かないわ」

哀はそれには答えずにナイフによる攻撃の構えを見せた。

 

 

戦闘が再開された。

キルシュが赤い魔法光線を繰り出すまでは同じものの、今度は哀もナイフを使って反撃する。

「あははははは。どうしたの? 魔法は使わないの!?」

そんなナイフという原始的な武器を使う哀をあざ笑いながらキルシュは魔法光線を哀に向かって放つ。

対する哀もナイフによる攻撃を繰りだす。だが……

「ムダよ!」

哀の攻撃をよけようともせず、キルシュは哀のナイフを受けるが、効いた様子をみせない。そのまま構わずキルシュは魔法攻撃を哀に繰り出す。

そして、刺さったナイフは勝手にキルシュの身体から飛び出し、キルシュの肌には傷一つなかった。

哀は何も言わずナイフによる攻撃を続ける。

「あはははははは!!」

対してキルシュは高笑いを続けながら魔法攻撃を哀に向かって繰り出し続けていた。

戦闘の中、押し黙っていた哀がキルシュに告げる。

「キルシュ。ムダよ。その赤い魔法光線を当てるのはワタシにはもう無理ね」

「ふ。アナタのそのナイフによる攻撃もワタシには効いていないけど?」

「……」

「呪文を唱えなければならないから、相手に攻撃のタイミングがばれてしまう、だったわよね。」

「そうよ」

「でも……これならどう!! ウィルフ・バーン・レイディック!!」

呪文を唱え右手を振り払い、キルシュが哀に赤い魔法攻撃をぶつけようとする。

その攻撃を今までと同じように哀はかわす。

かわしきった。そのはずだった。

「!?」

哀が驚きの表情になる。哀がかわしたその体勢。そこに、一条の電撃が哀に向かってきていた。

いつのまにかキルシュの左手には銃が握られている。キルシュは不敵な笑みをみせた。

「呪文を唱えない攻撃くらいワタシにもできるわよ」

キルシュの持っていた銃口から放たれた電撃。その電撃が哀に直撃する。

「!!」

哀の声にならない悲鳴。電撃の直撃を食らって、哀の意識が薄れていく。

そして、哀はばたりと崩れ落ちた。

 

 

崩れ落ちた哀の意識は朦朧としていた。

そして、その朦朧とした意識の中で哀は思った。

(ああ。勝てなかったわね)

敗北感が哀を支配する。その中で、哀はこう思う。

(もういいわよね)

当初の目的だった歩美を救うことは出来た。歩美はもうこの研究所から脱出して無事にいるだろう。

(目的は達成したわけだし。後は、ワタシがどうなろうと構わないわ)

そう。そして、例の作戦通りに行けば、この研究所を壊滅できる。黒の組織に打撃を与えられるだろうし。黒の組織を壊滅できるきっかけになるかもしれない。

(自分の身がどうなろうと構わないわ。もう目的は果たしたのだから)

そうして、朦朧としていた意識を手放し、哀が気を失おうとした時、

脳裏に響いた心の声があった。

(オレ、そんなオメーのことけっこう好きになってきたんだぜ)

あの夜、コナンに言われた言葉。そして、別の声が哀の心に浮かんでくる。

(灰原さん!! 大好き!!)

いつかどこかで無邪気に言われた歩美の言葉。

その二つの声が心の中で響いた時、何かが哀の心を突き動かした。

 

 

「ああ!! 哀!! 哀!!」

電撃を食らって崩れ落ちた哀に向かってヒョウちゃんが叫ぶ!

「ふふふ。やったわ!! シェリーをとうとう倒したのよ!!」

キルシュは歓喜の叫びを上げる。その表情は、激しい喜びのあまり醜(みにく)く歪んでいた。

「ああ……哀……」

あの陽気なヒョウちゃんが落ち込んだ表情をする。その落ち込みようを見ながらキルシュは言った。

「ふ。安心しなさい。アナタも捕らえて研究材料にしてあげるから。そうすれば、ワタシは魔法のテクノロジーを手に入れることが出来る。そうしたら、シェリーは殺し、アナタは永遠にワタシのオモチャ」

ヒョウちゃんが落ち込む中、つかつかとそのヒョウちゃんに向かって近づいていく魔法服姿のキルシュ。

キルシュが崩れ落ちた哀のそばまで近づいた。

その瞬間。

がしっ!

キルシュのそばで起き上がり、しがみついた者が居た。

驚愕の表情で、キルシュはそのしがみついてきた人物を見る。

「哀!!」「シェリー!!」

ヒョウちゃんとキルシュが同時に叫ぶ。

名前を呼ばれた哀は、息を切らしながらも黙ってキルシュにしがみついている。

「な、なぜよ!! 確かに直撃したのよ!! あれだけボロボロの魔法服ならもう気を失って立ち上がれなくてもおかしくないのよ!!」

キルシュが愕然としがみついてきた哀を見つめる。

そんなキルシュに構わず、哀はヒョウちゃんに話しかけた。

「ねえ。アナタ。願いごとが見つかったわ」

「願いごと?」

ヒョウちゃんがきょとんとした顔で聞き返す。

そんなヒョウちゃんに哀は自分の願い事を告げた。

「絆(キズナ)」

「きずな?」

「そう。ワタシたちの絆でも強くしてもらおうかしら」

そう言って、哀は苦しそうにしながらも確かに微笑んだ。

 

 

キルシュはこのやりとりにやや呆然としていたが、やがて激しく笑いはじめた。

「あはははは!! 願い事が絆? シェリー!! アナタ、おかしいわ!! おかしすぎる!!」

しがみつかれながらも黒の組織の女魔法学研究者は笑い続ける。滑稽だと言わんばかりに。

そうして、ひときしり笑い終わった後、キルシュはにやりと笑った。

「で、どうするの? シェリー? あなたが起き上がってきたことには驚いたけど、しがみついたくらいでわたしを倒せると思うの?」

「ええ」

「ふふ。どうやって?」

「こうするわ」

そうして、哀はあるものを取り出した。その取り出したものを見て、キルシュがぎょっとした表情を見せる。

「そ、それ。爆弾じゃない!?」

「ええ。」

動揺した様子を見せるキルシュに対して、哀は全く動揺の色を見せない。

「な、何をするの!! まさか自爆する気!!」

やけになって自分と自爆しようとしている。そんな思考にたどり着いたのか、キルシュがおののいていると哀が冷静な表情で言った。

「大丈夫よ。魔法の爆弾だから」

「何をバカなことを言っているの!!」

「ふふ。この爆弾には魔法が仕掛けられていて、ターゲットにはダメージを与えられて、それ以外のものは一切傷つけない。そんな感じらしいわ」

そして、その効果は哀はすでに目撃している。東京タワーのコカトリスの事件ですぐそばで爆弾が爆発したにも関わらず、無事だった服部平次の姿をもって。

キルシュは哀がこの爆弾を使って自分を倒そうとしていると理解したようだったが、不敵な表情でにやりと笑った。

「ふ。ムダよ。シェリー。この魔法服がそのダメージを防いでくれるわ。あなたも見たでしょ。あなたが使ったナイフを食らってもわたしにはダメージすらなかったのを。わたしは無敵よ」

動揺から立ち直ったのかキルシュが強気に微笑んでいると、哀が言った。

「ねえ。キルシュ。魔法はそれほど万能じゃないのよ」

「なんですって?」

「いくらなんでも、食らっていながらそのダメージを完全に無効化する。そんなことできるわけないじゃない。あれだけナイフを食らった以上、あなたにもダメージは通っているはずだわ」

哀の説明にキルシュはきょとんとした顔をする。

「でも、わたしには痛みすらないわよ? 何を言っているの?」

「あのナイフにも魔法がかけられていて、物理的な衝撃を精神的なモノに変換するらしいわ。つまり、あれだけナイフを食らった以上、精神的なダメージが蓄積されているはず。
なら、そのダメージはどうして効いていないのか?」

哀はそこで淡々とした表情で告げた。

「単にあなたのその魔法服が肩代わりしているだけのことよ。でも、おそらくあれだけのナイフを食らった以上、ダメージは蓄積されて限界に近づいているはず。
その上でこの魔法の爆弾を食らったら、もう持たないわね」

「な、なんですって」

キルシュが呆然と哀の語る説明を聞く。このまま魔法の爆弾が爆発してしまえば、倒されるのはキルシュであった。

やがて、呆然としながらキルシュが哀に告げる。

「ところで、ひとつ聞きたいのだけど」

「ええ。どうぞ」

そうして、おもむろにキルシュは哀に聞いた。

「何で魔法の爆弾なの?」

この間の抜けた質問に哀は淡々と答えた。

「さてね。何でも予算を全てギャンブルにつぎこんだかららしいわ」

「………」

哀の答えにキルシュは沈黙をする。沈黙があたりを支配した。

そんなマヌケなやりとりがあったその後に。

「くっ!! 放して!! 放すのよ!!」

なんとか再び動き始めたキルシュが哀を引き剥がそうとする。

その剥がそうとする力に力をこめて哀は抗った。

哀が不敵にキルシュに笑いかけた。

「それじゃ、キルシュ。プレゼントしてあげるわ。魔法少女マジカル☆哀の必殺技、マジカル・ハート・アタックをね」

「そ、そんな」

やがて、哀の持っていたハート型爆弾が爆発する。

どっかーん!!

「爆弾を使う魔法少女なんて、聞いたことないわよおおおおおおおおおおおお!!」

そんな悲鳴をあげて、キルシュは哀とともにマジカル・ハート・アタックの衝撃に包まれていった。

 

 

「う、く……」

キルシュはボロボロの魔法服姿で倒れこんでいた。

気絶しそうになりながらもなんとか意識だけは保っている。そんな状態でキルシュは床に崩れ落ちていた。

対する哀は、こちらも苦しそうにしながらも2本の足で立ち、キルシュを見下ろしている。

哀が告げた。

「これで、決着はついたわね」

「ふ……何を……言う……の? まだ……ワタシの……黒服たちが」

そう。まだこちらに応援に来た黒服たちがいる。

助けを求めようと、キルシュは通路で立ち往生している黒服たちを見た。

黒服たちを防いでいるヒョウちゃんが険しい顔になる。

「なあ」

その通路にいる黒服の一人が言った。別の黒服が答える。

「なんだよ」

「キルシュ様を助けなくても良くないか?」

「何を言うんだ」

「今まで散々こき使われてきたんだぜ。それにいくらキルシュ様、じゃない、キルシュの部下になっているとは言え、俺たちはあくまで組織の一員だぞ」

「そうだな」

「キルシュは組織の上の方に隠れてこそこそやってたし、俺たちが助ける理由もないだろ」

「ああ」

「それにそのキルシュのとばっちりで俺たちも危ない目になるかもしれないんだぜ」

「全くだな」

黒服たちが沈黙する。あたりを沈黙が支配した。

「逃げるぞ!」

「ああ!!」

黒服の一人が逃げ出す。その動きはやがて他の黒服たちにも伝わり、通路上にいた黒服たちが一目散に逃げていった。

そんな黒服たちをあっけに取られた目で見ていたキルシュに、哀が言った。

「ちゃんと部下の心を掌握していないからこういうことになるのよ」

「……く」

「それじゃ、アナタ。早く最後のマジカルモンスターを回収してちょうだい」

「おっけー!!」

哀が命令し、ヒョウちゃんが最後のマジカルモンスターを回収すべく部屋の中を探し出す。

それをキルシュは朦朧とした意識のまま見つめていた。

「うーん。魔法のアイテムが多くてよくわからないなあ。ま、いっか。全部回収してしまえば」

そう言って、ヒョウちゃんは部屋の中の魔法のアイテムを取り出しては虚空に浮かせる。そして、その魔法のアイテムに次々と呪文を唱えて消していった。

「こら…泥棒よ! ドロボー!」

自分が集めた魔法のアイテムを次々と持っていかれて思わずキルシュが残りの力を振り絞って叫ぶ。

やがて、回収し終えたヒョウちゃんがキルシュの近くに来る。

「それじゃコレも回収させてもらうからなあ」

そう言って、ヒョウちゃんが呪文を唱える。

右手から魔法のブレスレットが消えて、キルシュは魔法服姿からいつもの黒服の姿に戻る。

それをキルシュはいまいましい目で見ていた。

「それじゃ、ヒョウちゃーんアイテム!!」

ヒョウちゃんが哀に近づき、ポンっと音を立てて取り出したビンを渡した。中にはピンク色の液体が入っている。

「じゃ、哀。これを飲んで」

「何よ。これ」

「マジカルポーションだ。ちょっとだけど体力とか精神力が回復するぞ」

「はあ。便利でいいことね」

哀はため息をつきつつもそれを飲み干す。

どうやらなんらかの回復作用があったらしい。哀はさきほどより元気になったのか、動作が機敏になっていた。

「それじゃ、キルシュ。さよなら」

「じゃあなー」

哀が淡々とヒョウちゃんが元気よくキルシュに別れの言葉を告げる。

その哀の淡々とした表情を悔しく見つめながら、キルシュは気を失った。

 

 

「キルシュ様!! キルシュ様!!」

自分を呼ぶ声にキルシュは覚醒した。

「大丈夫ですか! キルシュ様!!」

キルシュが閉じていた目を開ける。そばには一人の黒服がいた。

「う、く」

なんとかキルシュが起き上がる。頭に手を当てながらフラフラしながらも立ち上がった。

キルシュは黒服に聞く。

「シェリーは、シェリーはどこ?」

「逃げられました」

そう言って、黒服が部屋の一部を指指す。そこには外へと通ずる大穴が開いていた。

「後、あの捕まえた黒髪の少女にも逃げられました。いつのまにかいなくなっていて」

「く、今すぐに残った黒服たちを集めなさい!! シェリーを追いかけるのよ!」

奇特にも残ったそばにいる黒服に命令を下したキルシュだったが、その黒服はその命令を受け入れなかった。

「それどころではありません。それより大変なことが起きているんです!」

「大変? シェリーにこの研究所に侵入されて、魔法のアイテムを奪われた。あの黒髪の魔法少女を逃がした。これ以上、大変なことがあるわけないでしょう!?」

思わず叫んだキルシュに対し、黒服は切羽詰った表情で答えた。

「警察のパトカーがこの研究所に向かってきているんです!!」

「な、なんですって!!」

 

 

「急げ! 急ぐんや!!」

「こ、こら服部くん。あまり乗り出すと危ないぞ」

パトカーから身を乗り出して叫ぶ平次を目暮警部がたしなめる。

今、このパトカーは新エネルギー開発研究所、黒の組織の研究所に向かっていた。後ろには、もう一台、高木刑事と佐藤刑事のパトカーがついてきている。

(それにしても……ほんとムチャ言ってくれるで。工藤のやつは)

平次はパトカーから身を乗り出しながら思った。

(あとなんなんや。あの魔法っちゅうんは。あんなんあったら完全犯罪やりたい放題や)

昨日の夜中のことを平次は思い返していた。

 

 

あの夜、パソコン画面が光り出した後。

そのパソコン画面からコナン、哀、ヒョウちゃん、そして、新顔のオオカミの妖精だと名乗るフェンバル、この二人と二匹が現れた。

驚く平次に、コナンと哀が事情を説明した。

歩美という女の子が、魔法少女として黒の組織にさらわれたこと。そして、明日に救出作戦を行うことを告げた。

平次はそのことに驚きながらも自分もその救出作戦を手伝おうと提案したのだが、コナンに断られた。

「気持ちはありがたいが、平次には別のことをやってもらいたいんだ」

「なんでや? 人手は多い方がええやろ?」

平次が疑問の顔つきになっているとコナンが答えた。

「歩美ちゃんはオメーと面識がないからな。いきなり知らない高校生が現れて助けにきた、といっても信用されねーかもしれねーしな」

「ならオレは何をすればいいんや?」

この平次の質問に、コナンは一通の封筒を差出した。

「なんや、これは?」

「……予告状だ」

コナンは若干イヤそうな顔で告げる。

「予告状?」

平次に封筒を慎重に手渡しながらコナンが説明する。

明日、警視庁にもマジカル☆哀の予告状を出すこと。その封筒の中身も同じような内容であること。そして、平次を名指しで相手に指名するような文言を入れてあること。

「なんで予告状なんてことをするんや? そんなことをしたら自分のクビを絞めることにならへんか?」

「理由は、警察に動いてもらうためだ。このままじゃ警察は動いてくれないからな」

「ほな、なんでオレにもその予告状を渡すんや?」

ここで、哀が平次に頼みたいことを言った。

「アナタには警察の動きをコントロールしてほしいのよ」

「は? なんやと?」

哀の言葉をコナンが補足する。

「オレたちが歩美ちゃんを救出した後に、警視庁が黒の組織の研究所に乗り込む。そんな感じに警察の動きをコントロールしてほしいんだ。その理由づけがその渡した予告状だよ」

「ちょ、待てや。工藤。そんなんムチャやぞ」

コナンの頼みごとに平次はたじろいだ。

平次は西の高校生探偵として活躍しているが、あくまで一介の高校生、一般人である。

一応、大阪府警の本部長の息子ということから、大阪府警にはつながりがあるものの、警視庁とはあまりつながりはない。

そんな中、警視庁の動きをコントロールするなどムチャにもほどがあると言えた。

「だが、しょーがねー。できれば、オレがコントロールしたいところだが、オレは救出作戦に向かわなきゃならねーしな。それに、せっかく黒の組織の研究所っていう獲物があるんだ。
この機会にヤツラの尻尾くらいはつかんでふんじばりたいところだからな」

平次が複雑な顔でいると、コナンが頭を下げてきた。

「頼む!! この機会にヤツラを潰してーんだ。だから、この通りだ」

コナンがもう一度大きく頭を下げた。

 

 

(まったく。その頼みごとを受けるオレも相当なお人よしやぞ)

そして、朝一の新幹線で東京の方に来た平次は、警視庁に向かいなんとか助言者としての地位を得て警察の動きをコントロールすることに成功した。

それで、今、警察のパトカーで目暮警部とともに黒の組織の研究所に向かっているのだ。

そんなことを思い返しながら、平次はパトカーから身を乗り出し近づいてくる黒の組織の研究所を見つめていた。

 

 

「これでなんとかなったわね」

遠くから警察のパトカーが黒の組織の研究所に向かうのを見つめながら、哀はつぶやいた。

どうやらあの西の高校生探偵は、上手く警察の動きをコントロールしてくれたらしい。

これで、黒の組織の影をつかめる。少なくとも、その一端にはなるだろう。

そんなことを思っていると、哀に声をかけてきた人物がいた。

「灰原!! 無事だったか!!」

哀が振り返ってみると、そこにはコナンがいた。

そして……

「灰原さん!!」

「歩美!!」

高校生くらいの姿の歩美が哀の方に駆け寄ってくる。哀が驚く時間もなく哀に向かってすがりついてきた。

「灰原さん! 怖かった。 怖かったよ〜!!」

「よくがんばったわね。歩美」

母親のような表情で哀は歩美を抱きしめる。歩美は、その高校生の大きい姿で小さい子供のように哀にすがりついていた。

やがて、歩美は不意に気づいてきょとんとした顔で言った。

「あれ? 今、灰原さん。歩美のことを『吉田さん』じゃなくて、『歩美』って」

「……ええ。……ダメかしら?」

今度は、哀の方が親の様子をうかがう子供のような表情で歩美にたずねる。

歩美は満面の笑みで哀に笑いかけた。

「いいよ!! じゃあ、歩美も灰原さんのこと、哀ちゃんって呼ぶね!」

「ええ。いいわよ」

哀が淡々としながらも嬉しそうな表情で微笑む。

そんな様子を見ていたコナンたちだったが、コナンが哀と歩美に提案した。

「まあこれから研究所で警察がどう動くのか、ちょっと見ていたいところだけど、オレたちはあの惨状の犯人だしな。灰原。歩美ちゃん。とりあえずこの場から離れよう」

「そうね」

哀は研究所でいまだに残る黒煙や破壊の後を遠目に見ながら言った。

「おうちに帰れるの!?」

歩美が嬉しそうに言う。

「ああ。大丈夫だよ。歩美ちゃん」

「よかったあ!!」

コナンの言葉に感激する歩美。

「それじゃあ行くぞ」

「ええ」

「うん!!」

コナンの言葉に二人がうなずく。

そうして、哀たち3人と2匹はこの場から立ち去った。

 

 

「ですから、何も問題はありません」

研究所の門前。このキルシュの言葉に目暮警部はいぶかしげな表情をした。

「そんなはずはないだろう。あの黒煙はいったい何だね? あとあの破壊されたような痕は?」

研究所に入れさせまいとするキルシュと何かあったに違いないと確信している目暮警部は押し問答をしていたが、やがて、キルシュがそれまでのていねいな言葉使いをかなぐり捨てて言った。

「だから何も問題はないわ!! 調べたかったら捜査令状でもなんでも持ってくることね!!」

「わかりました。行くぞ」

目暮警部がそばにいた佐藤刑事に告げて、この場を去ろうとする。

それを近くにいた平次が止めようとした。

「目暮の警部はん! 何かあったのは間違いないんやで!!」

「平次くん。行くぞ」

しぶしぶ平次は目暮警部の後をついてこの場を去った。

目暮警部が平次にちいさくつぶやく。

「ワシだって何かあったことはわかっとる。だが、あくまであそこは私有地だ。向こうの許可なく入ることはできん。」

「そやけど!!」

「今日は引き下がるしかあるまい。それにだ。捜査令状を持ってこい、と言われたのだ。望みどおり持ってこようじゃないか」

目暮警部は帽子の下にある目を鋭くして平次に告げた。

 

 

「まったく散々だったわ」

なんとか警察を追い返し、キルシュは研究所の一室でイスに座り頭に手を当てていた。

シェリーに研究所への侵入を許し、魔法のアイテムを奪われ、確保した黒髪の魔法少女にも逃げられた。

そして、あげくは警察の介入である。おそらく誰かが通報したのだろう。

なんとか追い返すことには成功したものの、あきらかに疑われる要因になったかもしれない。

まったく散々な事態であった。

そんなことを考えながらイスに座ってキルシュが頭に手を当てていると、無遠慮に部屋に入ってきた人物がいた。

キルシュはそのカミソリのような容貌の男を見て驚いた。

「ジン!?」

ジンの後ろにはがたいのいい大男、ウォッカが控えている。

「なによ。今、あなたに構う余裕はワタシは−」

チャキ

キルシュへのジンの返答は、一つの銃口だった。

「な、何をするの!?」

「組織の決定だ。オマエは警察にマークされた」

「あ、あれは、不測の事態だったのよ!! しかたないじゃない!!」

「研究所に不法侵入者を入れているだろう」

「そ、それは……」

キルシュが言葉に詰まる。しかし、一転してジンに対してまくしたてる。

「そうよ!! シェリーの方の研究は進んでいないんでしょ!! それに、ワタシはあのシェリーに対する重要な情報を知って−」

「悪いな。組織にとってもうオマエは用済みだ」

「そ、そんな……」

「そして、これは今しがたもらったあのお方の命令だ」

ドン!

乾いた銃声の音が室内に響きわたった。

 

 

「すべて燃やせ。一つ残らずな」

キルシュの死体を見下ろしながら、ジンはウォッカにそう告げた。

「わかりやした。ジンの兄貴」

ジンがこの部屋から去ろうとした時、ウォッカが言った。

「それにしても何だったんですかね? あのシェリーに対する重要な情報って」

キルシュが言いかけた言葉について問いかけたウォッカにジンは答えた。

「くだらん。どうせたいした情報じゃないだろうさ。それに……」

ジンの脳裏に赤みがかった茶髪の白衣を着た女の姿がよぎった。

「それに……なんですかい? 兄貴」

「オレは行くぞ。後始末は任せる」

ジンはそれに答えずそう言い残すと部屋から立ち去った。

 

炎が全てを消し去るべく燃え上がった。


NEXT


あとがき

はっはっは!! 探偵k、参上!!(ちゅどーん!!)

というわけで、マジカル☆哀最終話後編その2をお送りしました。

黒服たちがキルシュの応援に駆けつけました。それを、ヒョウちゃんが結界を張ってなんとか防ぎます。

その間に哀はキルシュを倒すべく、ナイフを投げつけ攻撃。キルシュも魔法攻撃で反撃します。

その戦闘の中、哀はキルシュの銃から放たれた電撃の魔法の直撃を受けてしまいます。哀が崩れ落ち、キルシュは勝利を確信します。

しかし、哀は二つの心の声になんとか立ち上がり、キルシュにマジカル・ハート・アタックをぶつけることに成功。キルシュを倒します。
そして、最後のマジカルモンスターを回収すると、その場を立ち去りました。

回復して追いかけようとするキルシュでしたが、そこに警察が駆けつけます。押し問答の末、なんとかキルシュは警察を追い払うものの、その後にジンとウォッカが現れます。

ジンは銃口を突きつけると、その銃でキルシュを殺します。そして、研究所を焼き払うようウォッカに命令。

そして、炎が全てを消しつくすべく燃え上がったのでした。

といったところでエピローグに続きます。

本当にこれで最後です。読者のみなさんには後少しおつきあい願いたいと思います。




探偵k様
いよいよクライマックスです!あああ個人的にキルシュの性格好きだったかも・・・・ある意味純粋で(笑)
もうエピローグなの?!ちょっと寂しすぎだよ〜k先生!
でもやっぱり気になるのはこの魔法との関わりがどうなっていくので次週も楽しみです。そして次週感動の最終回です。
待っててください〜(><)/ by akkiy