「哀!起きろ!哀!!」

「なによ…」

哀は、ヒョウちゃんの叫び声でベッドから起き上がる。

「マジカルモンスターが現れた!!」

この出来事が魔法少女と黒の組織を接触させるひとつの契機となる。


魔法少女マジカル☆哀 ラブ・メモリーズ・アンティーク!! 後編
作:探偵K様


闇の中を飛ぶ二つの影。

魔法少女マジカル☆哀とヒョウちゃんだ。

真夜中の深夜と言えども、マジカル☆哀は飛んでいく。

「そう!魔法少女マジカル☆哀に休みの時間はないのだあ!!」

「うるさいわよ…」

哀は、ハイテンションのヒョウちゃんにツッコミを入れる。

「で、場所は?」

ヒョウちゃんが場所を告げる。それを聞いて、哀は動揺した。

その場所のことはよく知っている。この一週間いつも行っていた場所だからだ。

「アンティークショップ九月堂…」

哀の口から言葉が漏れた。

  

安次郎が必死に足を動かす。時折後ろを振り返りながら、懸命に走っていた。

真夜中、玄関からの甲高い衝撃音に安次郎は眠りを妨げられた。

駆けつけた彼と眼が合ったのは、店のガラスを突き破って現れた怪物。

慌てて大切な腕輪の箱を取り、杖を持つと安次郎は店の裏口から逃げ出したのだった。

そして、安次郎は、今怪物に追われている。

翡翠色の翼を持った大きな蛇。体長20メートルはある。その太さは巨大な丸太なみ。人間など簡単に一飲みにすることが出来るだろう。

鋭い牙を剥き出しにして身をくねらせながら安次郎を追う怪物。

自分はただ逃げるだけ。追いかけてくるのは、自分を殺すことが出来る怪物。

転びそうになりながら走る。だが、いかんせん老人の足だ。杖を使っているとは言え、その速度は遅い。

そして、怪物の飛ぶ速度の方が、安次郎の逃げる速度より明らかに速かった。

怪物の、割れたガラスのように鋭い牙が、安次郎に襲い掛かっていく。

シュッ!

カッ!カッ!!

複数の空気を切り裂く音と、鋭い銀色の閃光。

怪物の牙がへし折られる。その閃光は、冷徹な意思を持って、安次郎の身体に噛み付こうとする牙から彼を護った。

「早く逃げなさい」

「うーむ。ケツァルコアトルか」

空から声がかかってきたのに驚き、安次郎が上を見上げる。

そこには、赤味がかかった茶色の髪の少女。ナイフを持った魔法少女マジカル☆哀の姿があった。

「行くぞ!哀」

「ええ…」

魔法少女マジカル☆哀は怪物、ケツァルコアトルと戦闘状態に入った。

 

「早く逃げなさい!」

「あ、ああ」

もう一度、哀が言葉をくりかえす。安次郎は我に返り、その場から走り出した。

哀はそれを見て怪物にナイフを投げつける。ケツァルコアトルは、長い胴体をくねらせてナイフを弾いた!

「ケツァルコアトル。見てのとおり、空を飛ぶ大蛇で、炎を吐くとかいう能力は一切ない。ま、簡単だなあ」

気楽に説明するヒョウちゃん。

「ようし!がんばれ!哀!」

ヒョウちゃんが両手に日の丸扇子を持って応援する。哀は呆れた顔をした。

「楽でいいわね。あなた…」

シュッ!カッ!シュッ!バシッ!ヒュン!ヒュッ!

投げる。かわす。投げる。弾く。逃げる。追う。

二、三度のマジカル☆哀とケツァルコアトルの戦いのやりとり。

哀はケツァルコアトルの奇妙な動きに気づいた。執拗に安次郎の方を追いかけようとする素振りを見せている。

まるでマジカル☆哀のことは眼中にないようだった。

「ん?おかしいな」

ヒョウちゃんが、不思議そうに首を傾げた。

なぜケツァルコアトルは目の前の魔法少女を無視してまで他人を襲おうとするのだろうか?

それにケツァルコアトルは大人しい性格でむやみに人を襲うことはないはずだった。

安次郎を追いかけようとするケツァルコアトルの動きをナイフで食い止めていくマジカル☆哀。

ケツァルコアトルは、その妨害に苛立ったように鋭い奇声を上げた。

 

安次郎は、走っていた足を止めて大きく息をついた。

「ふう…」

もう、怪物からはかなり遠ざかっていて安次郎からその姿は見えない。

適当に安次郎は腰を落ち着ける。今まで走った疲れがどっと押し寄せてきた。

「やれやれ。年寄りは無茶するもんじゃない、ということかの」

安次郎は、ひとりごちる。

若々しい肉体は無くなり、知識と経験が増えていき、行動力が消えていく。

これだけ必死に走ったのも、久しぶりだった。若いころは、色々と無茶なコトもしたというのに…

安次郎は自分が歳を取ったことを実感した。

懐に持っていた小箱を取り出して見つめた。20センチ四方の小さな箱。形見の腕輪の入った箱。

ふと脳裏にうかぶ優しい面影の美しい少女。

(なあ。ゆき。もうわしもこんなジジイになってしまったよ)

思い出の少女に安次郎は話しかける。

(お前さんは、いつまでも歳を取らぬままか…ずるいのお。お前さんは…)

すねるような安次郎の言い方に、少女は穏やかに笑う。

思い出の少女との、二人だけの邂逅。

しかし、そのささやかな邂逅に無粋な邪魔が入る。

「池田安次郎だな?」

「なんじゃ?」

安次郎に問い掛けてきたのは、カラスのような真っ黒いスーツを着た黒い男。

「腕輪を渡してもらおう」

黒服の男たちに、安次郎は取り囲まれた。

 

数分前…

黒い服の女が黒服の男たちを伴って、その場に姿を現した。

女は、メガネをかけた知的な容貌で、手には黒のトランクを掲げている。

黒の組織の魔法学研究者『キルシュ』だった。

彼女は、ほどなく遠くで闘っている魔法少女の姿を発見する。

「ブレスレットの確保。最優先よ。急ぎなさい」

黒服たちに命令する。動き出す黒服たち。

指示を出した後、キルシュは手持ちのトランクの中身を探る。

彼女が取り出したのは拳銃だった。メタリックなボディが、月の光で怪しく光る。

「覚悟するのね。シェリー」

キルシュは遠くの魔法少女にその銃口を向ける。

彼女は、引き金を引いた。

 

ナイフが何本か突き刺さった。ケツァルコアトルが奇声を上げる。

(大丈夫そうね…)

以前、哀は空を飛ぶグリフォンというマジカルモンスターと戦ったが、明らかにこのケツァルコアトルの方がスピードが遅い。

あまり強いマジカルモンスターではなさそうだった。

ケツァルコアトルがひるんでいる一瞬の隙をつき、哀はとどめをさそうと近づいた。

瞬間。

「っ!」

声にならない叫び。横からの不意の衝撃に哀はひるんだ。電気特有のビリッという刺激が肌に伝わってくる。

「魔法!?」

ヒョウちゃんが驚いた声を出す。

雷だ。雷が飛んできて、哀の身を攻撃する。一度。二度。三度。

その度に、哀の動きが阻害される。

「どこから!?」

哀が動揺して辺りを見回す。

キァアアアア!!

ケツァルコアトルはその隙を見逃しはしなかった。奇声を上げて哀に突っ込んでいく。

その激しい逆襲にあい、哀は逃げるのが精一杯であった。

 

一方、キルシュは、驚愕していた。

「魔法が効いていない!?」

彼女はもう一度、銃の引き金を引く。銃口から雷がほとばしる。

雷は哀を直撃した。が、効いている様子も見せず飛び回っている。

「あの法衣は、魔法が効かないというの?」

キルシュは魔法少女の服の能力を的確に分析する。

「ああ!もう!いまいましいわね!」

イライラしたキルシュは辺りにわめき散らす。護衛の黒服たちは、ため息をついた。

魔法ではなく、銃弾を使ってもいいが、こんな街中で撃てば、夜中とはいえさすがに住人が気づく可能性が有る上、この遠距離では当たらない可能性が大きい。

だいたいこの騒ぎだけでも、住人が起きる危険性があるのである。早急に決着をつけないとまずい。

「もっと接近して、仕留めるしかなさそうね。行くわよ!」

「駄目です。危険すぎます!」

黒服の男たちが、無謀なキルシュを強引に止める。

護衛の黒服たちは二人。マジカルモンスターに近づくには少ない人数だ。

彼らは、この変人の上司に付き合って命を落としたくはないのか、必死だ。

「行くから行くって言ってるのよ!」

「危険すぎます!止めてください!」

自分の行動を止められて、怒鳴り散らすキルシュの言葉を聞き流しながら、(なんで、俺はこの人の部下になったんだろう・・・)と嘆く黒服たちであった。

 

ケツァルコアトルと闘いながら、哀はさっきの邪魔のことについて考えていた。

魔法で邪魔する。哀が思いついたのはキルシュだった。

(あの腕輪を手に入れようとして、部下に店の見張りをさせておいた…そこにマジカルモンスターが現れたって構図ね)

そこで、部下がキルシュにマジカルモンスターの事を報告した。

なにせキルシュは魔法学の研究者である。あのマジカルモンスターについては、多少は報道されてはいるから、興味を持てばきっと調査に来るだろう。

だから、キルシュは、現場に駆けつけてきたのだ。

で、魔法少女を見つけて妨害してきた。なぜ、魔法少女を邪魔するのかの理由はさっぱりわからないが…

(おそらく、わたしのことはばれなかったと思うのだけど…)

哀の表情が沈む。

そこで、哀はとんでもないことに気が付いてしまった。

キルシュの目的は、昼間で見たように、安次郎の腕輪だろう。もし、それをこのドサクサで手に入れようとしているならば…

(あのおじいさんが危ない!?)

しかし、戦いの最中に、余計な考え事をしている。それがどれほど危険なことか、哀は思い知らされることになる。

「危ない!哀!!」

「!」

目前に迫っているケツァルコアトル。気づかなかった哀の反応が遅れた。

哀の体は、ケツァルコアトルの、その長い胴体に締め付けられた。


黒服の男が素手で安次郎へと襲い掛かる。

「はあっ!」

安次郎は、その男を持っていた杖で叩きのめした。黒服がその一撃で倒れこむ。

取り囲む黒服たち。安次郎の懐には、小さな箱。あの腕輪の入った箱だ。

「は!たわけ!!貴様らごときに負けるほど、耄碌(もうろく)してないわ!!」

黒服たちを威圧するように、安次郎は啖呵(たんか)を切る。

(これだけは、渡すわけにはいかんのじゃ。愛してくれたゆきのためにもな)

安次郎の心の中に、愛した少女の面影がよみがえる。

実は、ゆきと駆け落ちしようとしていたのは安次郎の方だった。

子供たちに話したのと、実際は、安次郎と友人の関係は逆だったのだ。

安次郎は、ゆきと言う少女と恋仲になった。ゆきという少女に夢中になった。

しかし、身分違いの恋。現実はそんなに甘くはなかったのだ。

友人は、そんな安次郎のために必死に手伝ってくれた。

しかし、友人は安次郎の身代わりに死んでしまった。友人は、ゆきのことを好きだったと最期に語った。

安次郎は、彼女を愛し、ゆきも安次郎を愛した。だが、そこで不幸だったのは、彼女が家と愛情の板ばさみになってしまったこと。
彼女には家を捨てることが出来なかったのだ。

(いつもわしの駆け落ちしようと言う言葉に優しくうなずいていたなあ)

だが、彼女の心の中には、家との葛藤(かっとう)があったのだろう。

結局、ゆきは自殺してしまった。安次郎に彼女が大事にしていた腕輪を送って。

安次郎はゆきを失ってしまったのだ。彼女の気持ちに気づいてやれなかったのだ。

そのことを思い出すたび、ひどく安次郎の心は痛む。

そう。だからこそ…

「ふん!この腕輪は死んでも渡さん!かかってこんかい!」

黒服たちはこの元気すぎる老人に、少々戸惑ったようだった。

男が目で合図する。黒服の一人が、老人の背後で拳銃を取り出した。

発砲。その銃弾は、安次郎の背中へと突き刺さっていった。

 

彼女の身体は、ケツァルコアトルの長い胴体にぐるぐる巻きにされていた。

ケツァルコアトルが、怪力で哀を締め付ける。彼女はまるで身動きがとれない。

「くぁっ!」

哀が痛みに耐えかねて、苦しげな声を出す。

体中の骨がひとつ残らず粉々に砕けてしまいそうな痛みだった。意識すら遠のいていく。

そんな獲物に向かって、ケツァルコアトルは獰猛(どうもう)に大きく口を開けた。

蛇は、顎(あご)の骨を外して、自分より大きいものを飲み込むことができると言う。

口から唾液が流れ落ちる。獲物に食いつけることが嬉しいかのように滴り落ちる。

ケツァルコアトルの頭が、獲物を身体ごと飲み込むべく哀の頭へと迫っていった。

「ヒョウちゃんアターック!!」

ドスッ!

ヒョウちゃんの抱えたナイフが、ケツァルコアトルの翡翠色の翼に、深々と突き刺さる。

ケツァルコアトルが甲高い耳障りな悲鳴を上げて、胴体を振るわせた。

翡翠色のその翼は、ケツァルコアトルの弱点だった。

ケツァルコアトルの締め付けが外れる。哀はその束縛から脱出した。

「マジカル・ハート・アタックだあ!」

ヒョウちゃんの掛け声。マジカル☆哀がその掛け声に応じて爆弾を投げつける!

爆発。その爆発は、周囲の物を全て壊す衝撃となって、ケツァルコアトルを飲み込んでいった。

 

「それだけは…」

安次郎は路上に倒れていた。背中から血を流しながらうめく。

「それだけは…渡すわけに…は…」

すでに顔色からは血の気がなくなり、眼はうつろだ。息も絶え絶えに、安次郎は腕輪を求めて手を伸ばす。

黒服が安次郎を一瞥(いちべつ)する。

半死半生の安次郎に一人の黒服が銃を向けた。そして、発砲。

消音機付きの拳銃は、6発の銃弾を発射し、安次郎の身体は、コントロールを失ったかのように動きを止めた。

「後始末は終了した。連絡を…」

黒服の一人が言った。

 

キルシュは、まだ黒服と押し問答を繰り返していた。

「危険です!!」

「うるさいって言ってるでしょ!?」

向かおうとするキルシュと止める黒服たち。

最中、軽快な音楽が鳴り響いた。携帯の着メロだ。黒服はためらいがちに言う。

「あの鳴ってますが?」

「わかってるわよ!」

彼女は、苛立ちながらも携帯を取った。

「何の用!」

開口一番怒鳴りつけたキルシュだが、相手の報告を聞くにつれ、眼の色が輝いていく。

「オーケー。ブレスレットは確保出来たのね」

キルシュは嬉しそうに言った。

そこに爆発音。彼女が驚いて、音が聞こえてきた方を見る。

怪物がゆっくりと落ちていくのが見えた。魔法少女の戦闘も終わったようだった。

「戻るわ」

キルシュが言った。

一番重要だったブレスレットの確保は出来た。そして、どうやら魔法少女と対決するには、準備が足りないようだ。一度、出直すべきだろう。もうここには用はない。

彼女は、魔法少女の方向を向くと薄く笑って言った。

「また会いましょう? シェリー」

そして、彼女はその場から立ち去っていった。

 

今、哀の足元には、安次郎の死体がある。

もう何も言わないただのしかばねだ。

その事実は単純だった。

黒の組織の犠牲者がまた一人増えた。それだけの話だ。

しかし、哀は、悲しみに胸を痛めていた。後悔に顔を沈めていた。

哀は安次郎を守ることが出来なかったのだ。予想できないことでは、なかったにもかかわらず。

安次郎からもらった魔法の玉を哀は取り出してみた。

(これは、願いがかなう魔法の球じゃ)

笑って渡してくれた小さな球。

安次郎が生き返るように願ってみようか…ふとそんな思いが哀に浮かぶ。

しかし、哀はそれを止めた。そんなことは起こりえないことだったから。

哀は、安次郎の冥福を祈った。もし、天国があるとするならば、そこに行けるように…

パキッ!

柔らかく澄んだ音をたてて魔法の球が割れる。粉々に壊れていく。

そして、突如、吹いた風に乗って、その破片が宙へと舞う。

魔法の球の粉は、月の光にきらめきながら空中へと散っていった。


あとがき

今回は、シリアスです。

黒の組織による犠牲者が一人。

彼らは今もその悲劇を拡大させているのでしょうか?

 

というところで、シリアスはここまで!これからが、本当のあとがきです!

長編は難しい!作者は、この小説を長編にしたことを深く後悔。元はギャグのような思い付きから始まったんだけどなあ。

最終回の感じまでは頭にあるので、最後まできちんと仕上げます。この小説の読者の方は安心してください。

ってなとこで。さらば!


探偵k様お久しぶり〜!!
小説後編ありがとう(*^▽^*)/
ほんとにシリアス一色(いや所々笑いが・・・・・・ゴッ)でした!
マジカル哀として黒の組織とこれから戦うんでしょうか??
元はギャグ・・・・ぶっ(笑)確かにかなり笑いました(え
私は長編大好きなのでまたこういうのも書いてください〜(ねだってみたり←何ぉ?!)
シリアスも哀ちゃんかっこよくて好き byあっきー

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