またいつものように校門の傍にあの人が居る・・・。もう完全に噂になっているのに・・・来ないでって言ってるのに来るし・・・全く・・・。

「あっ、哀ちゃん。また居るね。新一お兄さん」

窓から外を見下ろした歩美ちゃんがそう言う。

「えぇ・・・。全く・・・困ったものだわ」

呆れて言った私に隣の歩美ちゃんが苦笑する。

「しょうがないよ。新一お兄さん、哀ちゃんにベタ惚れだから♪それより早く行ってあげたら?」

「・・・そうね・・・。じゃ、悪いけど・・・」

「うん。またね、哀ちゃん」

「ええ、またね歩美ちゃん・・・今度何か奢るから・・・」

申し訳なさそうにそう言って私は教室を出ようとすると、

「それならチョコパフェね!」

と、聞こえたので私はそれに対して笑顔を向けてウインクをした。歩美ちゃんの笑顔を確認してから教室を出て、急いで校門に向かった。

校門の前では彼が私を今や遅しと待っている様子でいて、私の姿を確認すると思わずそのまま入りそうな感じだったので、私がそれを手で制して中へ入れないようにした。そして、ゆっくりと校門の傍に居る彼に近づいてジト目を向けた。

「来ないでって言ったでしょ?そのうち不審者と間違えられて警察に電話されるわよ?」

「なんでそうなるんだよ・・・。それにもう噂になってるんだろ?俺とお前の関係」

既に校門から離れて家の方に向かう私の開いてる片腕に、すかさず自分の腕を絡んできて放さない彼を見て私は呆れたような顔になった。しかし、それはあくまで表面上・・・内面上は・・・。

「とりあえず近くの喫茶店に行かないか?」

「あら、奢りよ?」

「当然だろ?」

いつの間にか私はいつもの彼と二人で居る時の笑顔になっていた。幸いなことに周りには人は居なかった。少なくても私はそう思っていたが、しっかりとクラスの女子に見られていたみたい・・・後日談だけど・・・。

「それにしても・・・」

「ん?」

彼の視線の先を追ってみると、私のスカートの方に辿り着いた。

「どこ見てんのよ・・・」

「あ、いや・・・そのセーラー服・・・似合うぜ?」

「あら、ありがとう。あなたがセーラー服が好きだなんて思わなかったわ」

クスクスと笑う私に、彼はボソリとこう口にした。

「バーロ・・・お前が着るから似合うんだよ・・・志保・・・」

一瞬にして私は顔が赤くなってしまい、ふと周りを確認した。

「心配すんなって。誰も居ないからよ」

周りを気にした私の心中を察して、優しくそう言うといきなり唇を重ねられた。

「んっ?!」

時間にしてわずか5秒たらずの間だったが、その間だけ私は時間が長く感じていたようだった。初めて、外で素直になった時だった。

「もぅ・・・外でその名前を出すのはやめてよ・・・」

「ん?外じゃなかったらいいのか?」

ニコッとする彼に、私は切り返すことができず、あっさりと負けを認めた。

「はいはい・・・私の負けよ。とりあえず・・・本名は言わないでよ・・・恥ずかしいんだから・・・」

「わかったよ・・・でも、時々は呼んでいいだろ?俺・・・忘れたくないし、お前にも忘れてほしくないと思ってるんだから・・・」

その言葉を聞いて、ふいに昔を思い出す。灰原哀として生きることを選び、宮野志保を捨てた日のことを・・・。あの時は彼に猛反対されたわよね・・・。確か、平手打ちを浴びたわよね・・・。あの時から、私は少しずつ普通へと歩きはじめていて、最近になってもう自分でも普通になっていると感じている。それも全て・・・彼のおかげ・・・。

「な、なんだよ・・・」

彼が戸惑っているのも無理はない・・・今、私は微笑んで彼の腕にくっついてるんだから。もちろん・・・家ではよくやっていることだけど・・・外でやるのは今日がはじめて。戸惑っている彼を見て、私はクスッと笑みを向ける。

「ええ、忘れないわよ。忘れるわけないでしょ?あなたも江戸川コナンを忘れる?」

「・・・忘れるわけないだろ?コナンが居なかったらお前との出会いもなかったんだから・・・」

一瞬・・・ほんとにほんの一瞬だけ彼は悲しい顔をしたのを私は見逃さなかった。しかし、追求はしない。何故ならわかっているから・・・その理由を・・・。だから追求なんてしない。

「とりあえず、喫茶店に着いたから中に入りましょう」

気がつくと既に喫茶店の前だった。そのことに気づいて彼の腕にまわしていた自分の腕もほどいて放れる。

「あ、あぁ、そうだな」

私の言葉にいつもの笑みを見せ、彼と一緒に喫茶店の中に入った。

「なんか・・・すごいな・・・」

周りを見ると、ほとんどが私の通っている女子高の生徒達だった。まぁ、見に覚えあるけどね。

「まぁ、いいからいいから」

彼の背中を押して、そのまま奥へと入っていき、席に座った。彼は私の向かいに座ると、そのテーブルにあったメニューを見た。

「何がいい?」

私にメニューを渡してそう尋ねる彼に、私は・・・

「ホットコーヒーと、マスター特製パフェ」

そう即答してメニューを返して見せると、彼は驚いた顔をしていた。

「お前・・・ここに来たことあったのか?」

「ええ。歩美ちゃん達と一緒にね」

「達か・・・。お前にも歩美ちゃん以外の同性の友達が出来たんだな」

うんうんと嬉しそうに呟いてる彼に、私はこう言った。

「違うわよ・・・。直接じゃないわよ?歩美ちゃんの友達とよ。だから、直接じゃないってことよ」

「そうなのか・・・。じゃあ、お前は未だに歩美ちゃん以外は友達出来ないのか?」

心配そうに私を見つめている彼に、私は苦笑をする。

「そんなこと心配しないでよ。別に、学校で全く話してないわけじゃないのよ?ちゃんと話しかけられたら答えてるし、一緒に遊ぶことだってあるんだから。まぁ、歩美ちゃんと一緒にだけどね・・・。それより、早く何を頼むか決めてよ」

私に言われ、彼は慌てたようにメニューを見た。そんな彼を見て、私はおかしそうにクスッとした。

 

 

 

 

それからしばらくしてメニューが届いて、話しの方も自然とあの頃の話しになっていた。

「そういえば・・・時が経つのは早いよなぁ・・・」

「ええ・・・そうね」

「そういえば、もう一月になるか?光彦が海外に行って・・・」

そう・・・円谷君は、さらなる知識をつけようと中学卒業後にアメリカに留学をした。

「えぇ。たまに手紙とか送られてくるけどね・・・」

「あ?そうなのか?なら今度俺にも見せてくれよ」

「えぇ、いいわよ」

ただし・・・ある手紙だけは見せられないけどね・・・。円谷君が、アメリカに留学する日、空港で私に渡したあの手紙だけはね・・・。

「元太は元太で、親の店を継ぐとかで今は立派に酒屋さんやってるみたいだしな」

「えぇ、店の前を通りかかると、必ず声をかけてきて、いろいろと買わされるわ」

「あの鰻重元太がな」

お互いおかしそうに笑うと、ふいに人の視線に気づき周りを見ると、なんだか先ほどよりうちの生徒が増えた感じがした。

「ねぇ?なんだか・・・人・・・増えてない?」

「言われてみれば・・・確かに・・・」

さらによく見ると、何やら内緒話しをしているような感じもした。

「これ以上ここに居るのはまずいわ・・・。早く・・・って・・・ちょっと・・・」

彼の方を振り向くと、既に彼は居なくて、その内緒話しをしている女子の方に向かっている彼の姿を発見した。

「ねぇ?なんの話ししてるの?もしかして、俺とあの子のこと?」

「え?・・・あ・・・はい・・・。あの・・・工藤新一さんですよね?」

「えぇ、そうですよ」

「感激です〜!大ファンなんですっ!サインしてくださいっ!」

どこから持ってきたのかは知らないけど、既にその女子生徒の両手には色紙とボールペンが握られていて、それを彼に差し出した。

「いいですよ」

当然彼は断るわけもなく、素直にサインに応じた。それを合図に他の女子生徒達も彼にサインを詰め寄った。一瞬にして、喫茶店が騒がしくなった。

およそ30分後、彼はようやく私のところに戻ってきた。

「相変わらずお人好しね・・・」

少し呆れたように言って、既に冷めているホットコーヒーを口にする。

「フッ、ありがとう」

「誉めてないわよ・・・」

「ハハハ・・・。それより、ちゃんと言ってやったぜ?」

「ん?何が?」

「俺とお前の関係について聞いてきたからよ・・・」

「で?」

「はっきり言ったよ。俺はあいつの恋人で、今はデートをしている最中だってな」

彼の言葉を聞いてから再び周りを見ると、何やらまた内緒話しをしているようだった。

「だからさっきからあんな感じなわけね・・・」

「そういうこと」

彼は平気で、注文したチョコパフェを食べながら満足げな表情になっている。

「はぁ・・・また噂になるわね・・・」

溜め息をついてホットコーヒーを飲み干すと同時に彼も注文したアイスコーヒーを飲み干す。

「人の噂も七十五日って言うだろ?」

「何よそれ・・・」

「世間の噂も長く続かないってことだよ」

そう言うと彼は立ち上がり、私の手を引いた。

「ちょっと・・・まだ・・・」

「デートだろ?これから映画見に行こうぜ」

私の言葉を遮り、私の手を引いて、カウンターでお勘定をして、そのまま喫茶店を出た。

「別に噂になってもいいだろ?俺は気にしないぜ。哀は?」

「・・・・・・まぁ・・・私もあまり気にしてないんだけどね・・・新一」

「よし、決まりだな。じゃあ、行こうぜ。博士にはこれから連絡するからよ」

「うん・・・」

私達はそのまま映画を見る為に映画館へと向かった。もちろん、私と彼の腕は組んだままで・・・。

噂を恐れず、いつもと同じように素直になって・・・

 

ーENDー

 

後書き

サイト復活記念小説ということで、プレゼント致しました。セーラー服があまり強調されてないような気がしますが、セーラー服です。それにしても、喫茶店の中でサイン責めにされて、30分後にやっと戻ってくるなんて、その喫茶店の中に一体何人居たんだと思わず自分でも突っ込んでしまいました(^^;)。それと、ようやく最後の方になって哀ちゃんと新一が普段どおりに呼びましたね。工藤君にするか迷いましたけど、さすがに新一君はやめました(爆)。後、新一が一瞬だけ悲しい顔をした理由・・・わかりますか?何を思い出して悲しい顔になったのか・・・それは、哀ちゃんがこの世で最も想っている人物に関係しています。もうわかりましたよね?ちなみに私のサイトでは、復活記念小説ではなく、別な意味合いになっていますので・・・。

宮原志乃