−聖なる夜にマジックを−



白き罪人。



平成のルパン。



大胆不敵、神出鬼没。



冷静沈着、ポーカーフェイス。



剛胆ながら繊細なその立ち振る舞い。



産まれながらの紳士にして確保不能の大怪盗。



月下の奇術師の異名を取る彼の名は、怪盗キッド。

















神に背く存在でありながら、その四肢が繰り出す現象はまさに神業というがふさわしい。
彼は、今しがた仕事を終えたところだ。


その表情は暗い。


それは決して、今回の宝石がパンドラではなかったことだけが理由ではない。


















 アドバルーンに捕まって宙に浮き、ちらりと地上を見る。
先ほど彼が飛び立ったばかりの豪華船の看板で、中森警部が叫んでいた。



「貴様わしの娘をどうする気だ、キッド! この誘拐犯!!」

「誘拐犯とは人聞きの悪い。私はただの泥棒ですよ」



 不敵に笑ってみる。が。



「・・・この状況でどうしろってんだよ・・・」



 低い声で呟いた。そして、自分の腕の中を見る。


「この、アホ子が」


 そう、仕事を終えたはずの彼の両腕には、中森警部の一人娘にして
快斗の幼馴染である中森青子が、気持ちよさそうに寝息を立てていた。

ぐっすり眠っているのである。

世界の大怪盗に抱えられて、その怪盗を嫌いだと公言して憚らない少女が。














 溺愛する愛娘が怪盗に抱えられて宙に浮いているのだから、
中森が誘拐犯だと騒ぎ立てるのも無理はない。

確かに、結果的に娘はキッドに助けられたのだが、それがどうした。

今現在、誘拐されかけているのはたがえようのない事実。



「青子を返せ、キッド!!」



 今にも船から飛び降りそうな勢いで叫び散らす。
いつも以上に顔を真っ赤にして、いつも以上に大きな声で。
キッドは、あくまでも調子を崩さずに朗々と返事をした。



「もちろん、お返ししますよ。お嬢様には指一本触れないことを誓いましょう」

「触れとるだろうが、今!!」

「あ、やべ」

「聞こえんぞ、キッド! 青子を返せと言っとるんだ! 娘を放せ!」

「今この状態で、私にお嬢様から手を離せと?」

「ぐ・・・」


 言葉に詰まる。


確かに、今この場でキッドが青子から手を離せば、青子は今度こそまっさかさまだ。
海に叩きつけられるだろう。下手をすれば凶暴な魚の餌だ。
さすがにおとなしくなった中森に、キッドは口角を上げる。




「・・・離すわけねぇだろ」




 否。放せるわけがない。


 自分にだけ聞こえていればいい声で。中森に聞かせるのはいつものキッドの声で。




「ご心配なく。女性を危険にさらすのは私の趣味ではありませんし―――」



 見下ろしていた中森にくるりと背を向ける。


「せっかくですから、美しいお嬢様と月下の散歩を楽しませていただきます。
ああ、必ず無事にお返しいたしますので、どうぞご安心を。怪盗は嘘をつきません」


「信じられるか! あ、おい待て!」



 アドバルーンが煙とともに消え去ったかと思うと、キッドの背中にハンググライダーが現れた。
「では」と軽く会釈して、風に乗って飛んで行く。



中森がどんなに叫ぼうとも、所詮は海の上。
追跡のボートが即座に何席も下ろされるが、空を飛ぶキッドに追いつけるはずも無く。



あっという間に姿が見えなくなった。















 キッドが青子を下ろしたのは、とある埠頭にある公園。

街灯がいくつかあるだけの小さな公園の小さなベンチに、静かに彼女を横たわらせた。

いまだ眠っているものの、さすがに寒いらしく小さく丸まっている。

キッドは、自分のマントを外して青子にかけた。その上から快斗のコートもかけた。

いつでも快斗に戻れるよう、私服は常備している。


「・・・やれやれ」


 呟く。しかし、その声には安堵感があった。

 警察は撒いた。人影もない。

青子は眠ったまま。

ここまで来れば、彼がすることは決まっている。

さっさとキッドの扮装を解いて快斗に戻り、
何食わぬ顔をして青子を発見したことにすればいい。

きっと、だれも彼を疑わない。

 中森にはしばらく誘拐犯だのなんだの言われるだろうが、
あの状況で青子を離すことは出来なかった。



「ったく、なんでこうなったんだか・・・」



 なぜこうなったのか。

それはひとえに、警察の対キッド対策のためだと思われる。

それも本を正せば犯行を繰り返すキッドが悪いのだが、
そんな事実は棚の上の一番奥に放り投げて、
キッドは「あのヘボ警部め」と毒ついた。



 今夜の犯行現場は、久しぶりに船の上だった。

とある財閥の会長が所有する、一年に一度、
クリスマスまでの一週間しか公開されないビッグジュエル。


それが今回の獲物だ。


宝石は毎年、豪華客船のクルージング中に公開され、
公開期間は、一般人が博物館に入る要領で閲覧できる。


そこを狙って、予告状を出した。


 いくらキッドに狙われていても、一年間のうち、宝石はたった一週間しかお目にかかれないのだ。
しかもキッドが指定した予告日は最終日であるクリスマスイブ。


会長は頑としてクルージングの中止を許さず、警察も中止を押し切ることが出来なかった。
そして、とある作戦を決行した。


その作戦とは、キッドが予告した時間に船内の操舵室を除いた全ての部屋に、催眠ガスを流すこと。
宝石の展示室はもちろん、展望レストラン、客室、トイレにいたるまで。


盗聴を徹底的に警戒し、警察内の全てのやり取りはメモ帳に暗号を書いて行なわれた。
無論、一般客にそんな作戦が知れればどんな批判を受けるかわからない。

そもそも、キッドが船に乗り込むには一般客に成りすますのが一番手っ取り早い。




従ってその作戦は極力極秘裏に行なわれ、
警察と関係者にのみコンパクトに収容したマスクが配られた。

さらに、一般客には適当な理由をつけて予告時間には看板に出るようにと指示を出した。
そうすれば、催眠ガスを吸うのはその時間に看板に出てこないキッドだけということになる。

中森は、助言を受けたとはいえ自分が立てた計画に笑みを抑えることが出来なかった。


そして、予告時間。


時計の鐘がなると同時にまずは展示室にガスが噴射された。
だがキッドは、慌てずにガスマスクを取り出した。
盗聴など出来なくても、中森の計画を見抜く手ならいくらでもある。

だが、マスクをつけようとしたキッドはその手を止めた。

 噴射されるガスの中に、微小の粉が混じっていることに気が付いたからだ。



「なるほど・・・」



 苦笑いで呟いてから、息を止めた。

 ガスだけならこのマスクでどうにでもなる。
しかし、混じっている粉はおそらく睡眠剤を細かく粉砕したものだ。

この細かさなら、易々とマスクの隙間を通り抜けてくるだろう。
マスクを用意することは読まれていたわけだ。


息を止めたまま宝石は掴んで外に出ようとしたが、鍵が開かない。
いや、鍵ではなく、ドアが。
鍵はすでに盗んでおいたスペアキーがある。
それを以ってしても開かないということは、向こう側で警察が扉を押さえているのだろう。

展示室に出入り口は一つ。

窓はない。

通風孔も、この分では先回りされているだろう。

いやそれより、通風孔自体にガス装置があると見たほうがいい。


「ちっ、あの野郎・・・」


 あの警部にしては段取りがよすぎる。

ガスだけならともかく微粒までは思いつくまい。

クラスメイトの名探偵はロンドンに帰っているし、
小さな名探偵は他の捜査で現場には来ない。

だが予告状を出したのは知っているはずだ。

ということは、他の事件の捜査をしながら中森に助言でもしたのだろう。

まったく、身体が小さかろうが遠くにいようが、厄介なことこの上ない。








―――さて、どうする。








 いくら超人的な体力とボディバランスを持っていても、キッドはただの人間だ。
息を止めていられるのはせいぜい二分が限度。

警察は、それを見計らって突入してくるに違いない。


 息が苦しくなってきた。こうしている間にも、微粒子はキッドを襲っている。
息を止めているとはいえ、モノクルで覆われていないほうの目は開けているのがつらい。



「くっそ・・・」



 口の中で呟いて、周りを見渡す。


中にあるのは、宝石が展示されていたガラスケースと、備え付けの消火器くらいのもの。

部屋の構造はいたってシンプルで、一つの出入り口に一つの通風孔。


あとは―――。


「!」



 がしゃんとドアの向こうで音がして、警官たち、とりわけ中森はにやりと笑った。
今度こそ、キッドを捉えることが出来るのだ。
きっと、中でヤツは眠りこけているに違いない。
指で突入と合図し、一気にドアを蹴り開けた。


「キッド! 逮捕だ・・・?」


 警部の勢いは、途中で萎えた。


「なんだこれは!?」


 それもそのはず。

ドアを開けてみると、煌々と明るかった室内は薄暗く、眠っているはずのキッドの姿はない。
さらに部屋の中は水浸しだったのだ。


「スプリンクラーか!」


 頭上を仰いだ中森は、即座にキッドが何をしたかを理解した。

彼は、スプリンクラーを発動させて催眠効果を緩めたのだ。
空気より重いガスは、天井近くでは気化している。

出航したときからずっと点けっぱなしで
熱くなっている照明を割ってやれば、火がつくのは自明の理。

しかも、照明を割ったときの音で、警察はキッドが倒れたものと思いこんで突入してくる。
扉さえ開いてしまえばこっちのものだ。


 警察の混乱に乗じて、キッドは廊下に出る。
すぐさま、振り向いた警官がキッドだと叫ぶ。

そんな警官に一瞥くれてから、キッドはきびすを返して看板へと急いだ。
必死の形相で追ってくる警察を尻目に看板に出て、マストの上に飛び乗った。
キッドに気づいた観客から黄色い声が上がる。



少し笑って見せてから、済ました仕草で奪った宝石を月にかざした。



―――残念でしたってか。




 誰にも聞こえないようにため息をついた瞬間、観客の様子がおかしいことに気がついた。

キッドを応援していた声がパニックによる叫喚に変わったからだ。

原因はすぐに解った。

開いていたレストランのドアから催眠ガスが漏れ、客が倒れ始めたのである。

青子とて、例外ではなかった。



キッドは今日の作戦を知っていた。
万が一に備え、青子には船内に通じる扉から一番遠いところにいるように
さりげなく指示しておいたのだが、船上に吹く風は強い。

しかも図ったように青子は風下にいる。


やばい、思った瞬間には幼馴染の身体が傾いていく。


手すりの向こうに落ちて行く。 


 警察が、己の威信にかけて作成した微粒子入りの催眠ガス。


その威力はいかほどのものか、考えるまでもない。





 キッドは速かった。




叫び声を上げながら手すりに駆け寄る中森よりも、

それを見ていた、

難を逃れた客が目を覆って叫ぶよりも。



 一瞬もためらわず、自らもマストから飛び降りたのである。

そして、海に叩きつけられる寸前の青子をぎりぎりでキャッチして宙に浮いた。

ダミーの人形を括り付けて飛ばすはずだったアドバルーンに捕まって。




 それが、冒頭のシーンである。





















「さてと・・・」

 青子はたぶん、そう簡単には目覚めないだろう。
強力な催眠ガス、それでなくてもこの幼馴染は昔から、
一度寝たらそう簡単には起きない。


 さっさと快斗に戻って、迎えに来たフリをして帰ろう。
今夜は疲れたし、身体も冷える。

もはや無用になった宝石は青子の荷物の中に入れておけばいい。
何せ彼女は、怪盗キッドに攫われたのだから。


そう、怪盗キッドに―――。


「誘拐犯、か・・・。このオレサマが・・・」


泥棒としての誇りがある。ゆえに、非常に面白くない。

しかし理由はどうあれ青子を攫ったのは事実である。
あるのだが、あの状況で他にどうしろというのか。


青子を下ろしに船へ降りれば、自分もガスを吸う可能性があった。
だからと言ってロープに吊るして青子だけを下ろすのは気が引けた。

逃亡用にくすねていた救命ボートに寝かしておくというのも一瞬だけ考えたが、
万が一ボートが揺れたらと考えると、とてもそんなことは出来なかった。

そもそも、この寒空に眠っている青子を放り出して自分が逃げるなど、
どうやっても出来そうになかったのだ。


結果として、連れ去るしかなかった。


ベンチの前に座り込んで、眠る彼女を見た。
ふと、起きたら彼女はなんと言うだろうなと思う。

怪盗キッドは彼女にとても嫌われている。

まるで親の敵とでも言わんばかりに。
「いやまあ、実際に敵なんだけどさ」


その彼女が、怪盗に助けられたと知ったらなんと言うだろう。

どんな顔をするだろう。

彼女は素直だから、きっと顔を真っ赤にするだろうけれど、それでもお礼を言うだろうか。

それとも怒りくるって殴られるだろうか。

もしくは、ショックのあまりに泣き出すだろうか?


「それは困るな・・・」


 泣かれるのは困る。
とても困る。

女の子を誘拐した上に泣かせたとあっては怪盗キッドの名折れもいいところだ。

中森やお茶の間の皆さんだけならともかく、
青子にまで誘拐魔と罵られるのには堪えられそうも無い。


「しゃあねーなぁ」


言葉とは裏腹に楽しそうに呟いて、キッドは青子の目覚めを待った。

キッドのままで。 









「・・・んー?」


 背中に、やけに硬い感触がある。
ゆっくりとまぶたを上げて上半身を起こせば、そこは見知らぬ公園。


「ほえ・・・?」


 普通ならパニックになってもいい場面だろうが、青子はまだ半分夢の中だ。
状況が把握できない。そこへ、笑みを含んだ声がかけられた。


「お目覚めですか? ―――眠り姫」


 ぼんやりと青子が顔を上げる。

そこには。


「っ!?」


白いスーツに身を包んだ怪盗が、優雅に佇んでいた。

日付が変わる直前になっても闇に侵食されないその衣装は、
“犯罪者”には似合わないはずなのに。


「怪盗、キッド・・・」


 溶け入りそうな闇の手前で己を誇示しようとするその白色は、
いっそ青子が見惚れるほどの輝きを発しているように見えた。

 街灯の程近くに立っているせいで、青子にキッドの顔は良く見えない。
それは、誰にとっての幸か、不幸か。

 寒い。

ぶるっと身体を震わせて、身体にかけてあった布を引っ張る。

引っ張ってから、真白いそれがキッドのマントだと気が付いた。

慌てて身体から引き離す。



「失礼。かけるものがなかったもので。風邪でも引いたら大変です。
警部も心配しますから。お気に召さないでしょうが、無いよりはマシでしょう」
 確かに。時節は年の暮れ。

そんな時期にこんな屋外で、いくら厚着をしていても寒いものは寒いのだ。

快斗のコートは、青子が目覚める直前に隠しておいた。




「・・・・・・・ありがとう・・・」




 かなり時間が経ってから、青子が呟く。
父親の名前を出したのが効いたのか、素直に借りておく気になったらしい。
キッドは、気付かれないように安堵した。


呟いたまま言葉を発しない青子に、怪盗は静かに歩み寄る。
青子が身を引いたのを見て、僅かに苦笑した。
それ以上は一ミリたりとも近寄らず、その場で足を折る。


「月の魔力に抗えず、貴女を攫ってきてしまいました。どうか、お赦し願いたい」


 ベンチの前に片膝をついてそう言うと、右手に小さな赤いバラを取り出した。


「ささやかなお詫びです」

「お詫びって・・・」


 一瞬手を出しかけた青子だが、すぐにはっとしたようにその手を引っ込める。


「ご、ごまかされないんだから! どうして青子がこんなトコにいるの!?」

「この色ではお気に召しませんか?」

「ちょっと、質問に・・・」


 青子の目の前で、キッドがバラをくるりと回転させた。


「あ・・・」

 一瞬にして、花びらの色が変わる。赤から、真っ白へと。
呆気に取られる青子に、キッドは笑ってみせる。


「どうぞ」

「い・・・いらないっ! そ、それに・・・」

「赤いほうがお好みでしたか?」

「違うもん!」
―――どう違うんだか。


 苦笑を深くして、バラをまた回転させる。
また、色が変わった。
最初に出した赤と、今まで持っていた白とを混ぜたような、鮮やかなピンクに。


 静かにそれを差し出せば、まるで呆けたように青子は素直に受け取った。

受け取ってから、はっとしたように「いらないのに!」と叫ぶ。

それでもバラを話さない彼女に、キッドは―――快斗は、どこか安心していた。


「それから、こちらを」

「へ?」


 言って、取り出したのは大きな宝石。
月の光を受けたそれは、キッドの手の中できらきらと輝いていた。


「貴女から中森警部にお返しいただきたい。ご迷惑をおかけしましたと」

「そんなこと、自分でやってよ」

「貴女と宝石が一度に帰ってきたほうが、お父上が喜ぶのではないかと」

「キッドが捕まったほうが喜ぶもん」

「残念ながら、それは出来ませんね」

「もういい、青子帰る!」

「女性が一人で出歩く時間ではありませんよ」

「キッドと二人よりマシよ! せっかく、今日は快斗と・・・」
キッドの動きが止まる。


「快斗が見たいって言うから、チケット取って一緒に船に乗れたのに・・・」


 久しぶりに一緒に出かけた。


海を見ながら夕飯を食べて、展示室で宝石を見た。

大きな目を輝かせて宝石に見入った青子を、快斗はいつものようにからかって、
展示室で派手な喧嘩をしてしまったけれど。

それでも楽しかった。

しかも今夜はイブだ。

街中はもちろん、豪華客船はものの見事に飾り立てられ、思わず感嘆の声が漏れた。

華やかなイルミネーションは、それだけで青子の心を弾ませた。
そして隣には、幼馴染がいた。


いるはずだった。今も。

なのに、目の前にいるのは快斗じゃない。


「キッドなんて大嫌い!」

「そんなん・・・。オレだっておんなじだっつーの」


 今日、一番小さい呟き。

それは闇とともに風に溶け、涙を浮かべる青子には届くはずも無く、また届かせるつもりも無い。


だからキッドは別のことを言った。


「マジックショーをしましょうか」

「え・・・きゃっ?」


 軽快な音がして、ベンチにソファとぬいぐるみが現れた。

ぬいぐるみはサンタとトナカイ。

そしてツリー。

ぬいぐるみはオルゴールが内蔵されていて、クリスマスソングを奏で出す。


「プレゼントですよ」

「いらないの! 青子はキッドのマジックなんて見ないもん! マジックなら快斗が見せてくれるから!」


 ポーカーフェイスが崩れるのを、キッドは自覚していた。
そりゃ見せるけどね。青子が見たいというのなら。

 照明が暗くて助かったなと思いながら、キッドはシルクハットのつばを下げる。
立ち上がって、優雅に会釈をしてみせた。


「彼は必ず貴女を迎えに来ますよ。それまで、お付き合い願えませんか? 少しだけ」 




 戸惑う青子に、微笑みかけて。


「怪盗は嘘をつきません。・・・ワン・トゥ・・・」

「えっ?」

「スリー!」


 キッドが指を鳴らす。色とりどりの花と、紙ふぶき。
それから、白い鳩が数羽。声には出さないものの、青子が目を見開いたのがわかった。


「私のことはともかく、マジック自体はお嫌いではないでしょう?」


 青子は正直で素直な少女だ。
拗ねたように口をとんがらせて、肯定しない代わりに否定もしない。


「ご気分を害してしまったお詫びです。彼が来るまで」


 そう。快斗が来るまで。青子の涙が消えるまで。


「―――今宵、私のマジックは貴女のために」











迎えに行くから。




快斗として、迎えに行ってやるから。




だから青子。少しだけ付き合ってくれな。











 気障な泥棒の、自己満足な罪滅ぼしに。

















hyu様小説ありがとうございましたっ!!
無理言ってクリスマス仕様にしてもらって申し訳無く思いつつ・・顔にやけてます(待て)
キッドが誘拐犯になるなんて(いや誤解だけど/笑)
くぅぅっ青子が羨ましいー←落ちつけ(笑)
何より誘拐犯になったとはいえロマンチック(?)に青子と過ごせて
良かったよ快斗♪←ものごっつハラハラやん(笑)
素敵な小説でした・・・うっとり・・・
そしてキッドのマントって(スーツもそだけど)夏用・冬用とかあって
冬は厚手なんだろうか・・・と気になってしまった・・・(何)
月下のキッドのイラがちょっとおかしな感じになったけどさらっと流してください;;;
hyuちゃんに愛を込めて♪by akkiy

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