グラップラー蘭〜RAN THE GRAPPLER〜10
ザ・ドクター様



 晶のパンチが繰り出される。
 蘭はそれをかわし 晶の腹の急所――……【水月】。つまり ミゾオチに蹴りを入れる。
 蘭はそれを踏み台にして 晶の肩に駆け上って顔にヒザ蹴りを放つ。
 その勢いで 晶は仰け反った。
 次の瞬間 蘭の渾身のヒジが晶の顔にまともに叩き込まれた。
 「ダンッ」
 「ゴボ…………」
 晶の顔から血が流れていた。口から血泡が流れ出る。

 「ワァァァァッ」
 その声と同時に観客達が沸いた。奇跡の大逆転だ。

 控室のモニターを通してその様子を見た綾香は思った。
 (……水月を踏み台に肩へ駆け上ってのヒザ蹴り……ですか……へぇ………あれをやれる者がいたとはね……)

 蹴り込んだ粋月を踏み台にして肩へ駆け上っての蹴り!
 この実にSFチックな離れ業を使用する ある高名な空手家を作者は知る。
 本人の希望により名は伏せるが自己を発狂寸前にまで追い込む荒行を条件にこの技は――――……。
 実在する!!!!

 蘭は ダウンしている晶を見下ろしながら思っていた。
 (貴方の見せたプロレス美学……………心より感謝する…………)
 (そして 貴方の持つプロレスに賭ける心根………)
 (見損なっていたことを今 ハッキリと認めるわ…………!)
 (しかし……………)
 (勝ったのはアタシよッッッ)
 そう思いながら 蘭は倒れている晶めがけて正拳突きでトドメを刺そうとした。

 その時 晶が強靱な腹筋でそのまま立ち上がってきた。
 「ザッ」
 「………………ッッ」
 そして 晶の左ストレート。蘭は それをかわしつつも蹴りを晶の顔めがけて放つ。
 晶の振り下ろすようなパンチ。それもかわしつつ ヒザを腹に入れる。
 しかし 晶の攻撃は終わらない。
 (バケモノ!!!)
 蘭がそう思った。と 同時に晶の左フックが蘭の額をかすった。
 かわしつつ 晶の腹に正拳突きを入れる。間を置かずヒジが晶のコメカミを捕らえた。
 「グシィッ」
 が 晶のアッパーが蘭の左頬を直撃。
 蘭は血にまみれたと同時に 連続で晶の足に蹴りを入れる。
 「ドッ ドドドッドッ」
 それが遂に効果を現したのか 晶がグラついた。
 と 同時に蘭は跳んだ。トドメを刺すために。
 蘭の晶に対するトドメの正拳突きが放たれた………………!!


 後に―――――――……。
 後に『彼』はこう語る。
 山田 康一郎 19歳

 「えぇ………蘭……とか言いましたか?あの女性の左正拳突き………?」
 「エェ 決まりましたよ モノの見事に………」
 「普通の人ならば あれで確実に勝負ありでしょう」

 「しかし 相手はあの北斗 晶です……そう簡単に終わるハズが無いでしょう ハハ………」
 「あの後 晶が何をしたと思います?」

 「顔が血にまみれながらも掴んで来たんですよ」
 「えぇ トドメを刺すのに精一杯でスキだらけとなった蘭の右脚をね」
 「まさしく あれこそがプロレスラーだと思いましたね」

 「……エ? 何をやったかって?ご存じ無いんですか 貴方?プロレスというモノを?」
 「プロレスラーが相手の四肢を掴んだら する事といえば決まっているでしょう?」

 「そう 関節技ですよ」
 「見た目は地味ですが 極まれば これほど的確に相手の身体を破壊できる技らしい技もありませんよ」
 「しかし 関節技にもいろいろありますね………えぇ…………」

 「その中で『彼女』……北斗 晶が選択したのは………………」

 「アキレス腱固めです エェ それは もうガッチり極まってましたよ もう抜けれない程にね……」
 「事実 『彼女』はそれから脱出出来なかった」
 「そのままの体勢で時の過ぎ去ること 1分………2分…………」
 「5分も過ぎた頃ですか………観客達も汗をかいていましたね クーラーがガンガンかかっていたのに………」
 「皆 緊張していたんでしょう この勝負の行方がどうなるか…………」

 「その時でした」
 「『彼女』……晶が 関節技の種類を変えたのは」
 「アキレス腱固めから 腕ひしぎ十字固めに移行しましたよ えぇ 破壊する気でしたね 蘭の左腕を」

 「効いてはいないと言ってもあの左腕には相当 悩まされていたんでしょうね 蘭の力の源ですから」
 「ハァ…………それになって彼女が手を出しやすくなったって?ハハ それはそうですよ」

 「よくよく考えれば 簡単なことです そっちの方が相手が目の前に来るんですからね」
 「エェ 極まってましたよ ガッチリとね もうこれは抜けれないと思いましたね」

 「ここで 私は蘭の負けを確信しましたよ お恥ずかしながらね ハハ……」

 「しかし 勝負は そこで終わりませんでした」
 「持ち上げたんですよ 蘭が 60kg以上はあろうかと言う晶の身体を左腕一本でね」
 「一番驚いたのは晶本人でしょうね 目を白黒させてましたよ」

 「晶が蘭の左腕を関節技から解いた時でした」
 「グチッ と蘭の右拳が晶の顔に強烈にヒットしました そこからは もはや 蘭の独壇場でした」

 「突く。突く。突く。突く。突く。突く。」
 「まさしく拳の雨あられでした。しかし 倒れないんですよ 晶が」
 「フラフラして…………そう………まるでダンスを踊っているみたいでしたね」
 「こんな状況でダンスを踊っていられるとは随分 大した余裕だなと思いましたよ」

 「後から知ったんですが 本当は そうじゃ無かった」
 「エェ 限界に来てたんですよ 晶の耐久力は限界近くまで来ていたんです」

 「しかし 彼女はダウンしなかった」
 「…………と言うより ダウン出来なかったんです……打たれ続けていたから……」
 「蘭のラッシュが始まって5分も経った頃………?そう その頃でした」

 「晶の眼が光ったんですよ えぇ 獲物を狙うかのような眼でした 今 思い出してもゾクッと震えます」
 「今から思えば あの瞬間から晶は限界と言うモノを忘れてしまったかのように思えます」
 「次の瞬間。そう。それで 勝負は完璧に逆転しました」

 「何をやったと思います?エェ 爪ですよ……正確には握力ですか……えぇ………」

 そして 山田は自分の左手を首に持っていってそのまま首を握った。
 「そう………丁度こんな風でしたね」
 「アイアンクロー……と言うんでしたっけ?実はプロレスの事よく知らないんですよ ハハ………」
 「でも 掴まれてたんですよ かなりの力で………」

 「時の過ぎ去ること 1分……2分……3分…………」
 「え?そんなに長く絞められて蘭は大丈夫だったのかって?」
 「そんなワケ無いでしょ そんなに耐えられる人間がいたらこっちが見てみたいですよ」
 「反応が無くなってたんですよ エェ あるべき反応がね」


 「反応って?生きていれば 首を絞められることを苦痛に思い手足をバタつかせますよね?」

 「しかし 蘭には それが一切無かった……エェ あるべき反応が無いんです」

 「これが何を意味するか分かりますか?」



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ザ・ドクター様の格闘小説10話
解説者が・・・(笑)プロレスはよくわかりませんが関節技はかなり痛い・・・・
遊びでかけられて死にそうになったことも・・・
蘭のあるべき反応がなかったって・・・・まさか・・・いったい・・・・・・Σ(=□=;)by あっきー

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