グラップラー蘭〜RAN THE GRAPPLER〜19
ザ・ドクター様



  葵が綾香の腕をつかんだ次の瞬間 葵は飛びかかった。綾香に。
  (バ……………バカな………!!? これは“虎王”じゃない!!?)
  葵は そのまま綾香の首に左足を巻き付ける。と 同時に右ヒザで綾香の顎を叩いた。
  「グッチィッ」
  そして そのまま綾香の肩を地面に落とす。肩に全体重をかけて………!
  「グッシャァ」
  「ゴキッ」
  “虎王”が決まり 綾香の肩から音が響いた。この音からすると 外れただけか。
  「グゥゥゥゥッ」
  綾香がそう呻く。

  『な………なんだ この技は〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ』
  『葵が放ったこの技ッッ 見たことが無いッッ いや……“かかり”は見たことがありますが………』
  『その他が違うッッ』

  綾香は大地に仰向けになって息を吐きながら言った。
  「“虎王”……じゃないわよね?それとも これが“虎王”なのかしら?」
  「えぇ…………これが“虎王”よ………」
  「アタシの喰らった“虎王”とは別物だったけど………?」
  (あの時は簡単に防げたわ)
  綾香はその思いと同時に工事現場の闘いのことを思い出していた。

  綾香は京極の顔にヒジを浴びせた。
 「ドキュゥッ」
 それをまともに喰らった京極はグラついたと 同時に綾香に飛びついた。
  両足を首に巻き付けようとしたその時だった。
 「グチィッ」
  綾香の正拳が京極の右足を叩いた。そして京極が転倒した。

  「そう……あれも“虎王”………そして今アタシが放った技も……“虎王”………」
  「京極さんは言った……“虎王”にはいろいろなバリエーションがあると………」
  「技のかけ方は何でもいい………ただ 両足で首 もしくは顔を挟むように攻撃さえすればそれが“虎王”として成り立つのだと」
  「そして その両足の軌跡が虎の口に見立てられるから“虎王”と呼ぶのだと………」
  「………つまり………」
  「“虎王”とは一つの技の名称じゃない」
  「………これで勝負は決まったわ 綾香さん」
  葵は綾香を見下ろしながらそう言った。
  「………勝負が……決まった………?」
  「えぇ……左肩が外れた状態では 何も出来ない……潔く巻けと認めた方がいいわ………」
  その言葉を聞いた綾香はユラリと立ち上がって言った。
  「……ギブアップ……?アタシを誰だと思っているの?」
  「アタシは格闘の女王・来栖川 綾香………その名に賭けて負けられない……」
  そう言う綾香の表情を見た葵は思った。
  (な………なんと言う勝利への執念ッッッ)
  (しかし………ッッ その身体で何が出来るの!!?)
  その時 綾香はフ……と微笑みを浮かべた。何かを確信……いや………覚悟………?
  それらが入り混ざったような笑み………。
  そして 綾香は葵に背を向け 歩き出した。
  「エ………?」
  葵は呆気に取られて動けない………。

  観客達は次々に呟いた。
  「オ………オィ………?何だ………?」
  「試合放棄か……?」

  「どうした……?綾香…………?」
  審判が綾香にそう尋ねる。しかし綾香は無言で歩き出し フェンスまで辿り着いた。
  「待て 綾香ァァァッ そこを出たら試合放棄と見なすぞッッ」
  審判がそう叫んだ。
  「………誰が試合放棄をするって言ったよ?アタシが ここまで来たのは………」
  そう言いながら綾香は外れた左肩をフェンスに押しつけた。
  「ふぅ……ふぅ……ふぅ…………」
  「はぁっ!!」
  「ガコンッ」
  フェンスを外れた左肩で強烈に叩き 外れた左肩を無理矢理入れた。
  「な………ッッ!!」
  それを見た葵はそう呟いた。と 同時に綾香を尊敬もし 畏怖した。
  (こ………これが 綾香さんが天才といわれている理由………そ………そして……何という女(ひと)なんだ………!!)
  (そ……その勝利に対する執念は追随を許さない………!!)
  「さァ………再開しようか………」
  綾香が笑みを浮かべながらそう言った。
  「ドクンッ」
  その時 葵の中に眠る獣が徐々に目を覚まし始めた。
  「ドクンッ ドクンッ ドクンッ」
  「ドクンッ」
  その獣が発する鼓動が徐々に力強く 活発になっていく。
  覚醒―――――………。

  「ハァァッ」
  そう叫びながら 葵がダッシュした。凄まじいスピードで………!!
  「速い………!!」
  綾香はそう呟きながらカウンターで高速拳を放つ。
  「ボッ」
  しかし かわされ 懐に飛び込まれた。
  (な!!? かわされた!!?)
  そこから葵の正拳突きが綾香の腹を叩く。
  「グワシャァッ」
  綾香は真上に跳び フェンスを蹴って葵との間合いを取った。
  「ふぅ…………」
  息を整える間もなく 葵がダッシュしてくる。と 同時に蹴りを放つ。
  「ボォッ」
  葵はそれを屈んでかわし さらに懐に飛び込もうとする。その時 綾香の放った蹴りが戻る……!
  葵の後頭部を叩こうという腹ッ………!!
  (当たる……………!!)
  綾香が笑みを浮かべながらそう思った瞬間 葵がそのまま前転した。
  「ボリュッ」
  前転で綾香の戻る蹴りをかわし さらにその踵で綾香を襲う。防御と攻撃が一体になっている。
  「ザンッ」
  紙一重でかわした綾香のためにそれは空振りした。と 同時に両者は構えた。
  「ズチャ………」
  「なかなか………やるわね………」
  「えぇ………貴方も………」
  2人は笑みを浮かべお互いをそう称えた。

  松原 葵  潜在能力:10

  来栖川 綾香  天賦の才能:10



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