グラップラー蘭〜RAN THE GRAPPLER〜21
ザ・ドクター様



  フェンスを突き破り観客席に飛び込んだ人間がいた。
  その人間の名を 来栖川 綾香と言った。

  「な………なんや あの技はァァァッ」
  平次がそう叫んだ。

  「ガフッッッ」
  綾香は血を吐きながら思っていた。
  (な………なんなの……今の攻撃は………?)
  (身体に触れて止まった状態からあんな技を繰り出せるとは………!!?)
  (あの技は一体………ッッ!!)

  葵は左拳を突き出しながらそのまま構えていた。
 
  『寸剄だァァ〜〜〜〜〜〜〜ッッ』
  『相手に触れた状態での直突きッッ』
  『別名 ワンインチ(約3cm)パンチと呼ばれるッッ』
  『古代中国が生み出した超ベリーショートパンチだァァッ』
  『中国拳法までも会得していたのか 松原 葵ィィィッ』

  葵は思った。
  (いや………アタシが知っているのは入り口だけ……出口は知る由もない……)
  (しかし――――――……中国にはその出口を知る者が1人いると聞く………ッッ)
  (試合続行不可能のダメージを負わせた……ハズ……ッッ このまま立ち上がってくるなど――――――……)
  その時であった。綾香がユラリと立ち上がって来たのは。
  「………効いたわァ…………さすがに今のは………」
  「死ぬかと思ったわ……この激痛………」
  (立ち上がってくること……ッッ 不可能なハズ……ッッ!)
  そう思いながら葵は一歩 また一歩と後ずさる。

  京極は汗をかきながら思っていた。
  (な………何をやっている………葵ッッ……)
  (もはや 今の綾香は死に体………さらに追撃すれば勝利は可能となる…………!!)
  (なのに………なのに なぜ攻撃せぬのだ!!?葵!!?)

  そして葵は近づいてくる綾香の目を見て言った。笑いながら。
  「………綾香さん………アタシの負けです………」
  「こんな勝負への執念を捨てていない人には敵わない……勉強になりましたよ」
  それを聞いた綾香は呟いた。
  「い………今……なんて………?」
  「聞こえなかったんですか……………?」
  「ギブアップですよ 綾香さん」
  と 同時に 綾香の平手打ちが葵の顔を叩いた。
  「バァン」
  「な………!!? 何で叩くんですか!!?綾香さん!!?」
  「葵……貴方はそれで満足なの?目の前に見えている勝利を……自分の意志で捨ててしまうなんて……」
  「それに………こんな風に勝ちを譲られても勝ったという実感は湧かない………」
  「やはり 闘って決着をつけるコトに意味がある…………!!」
  そう言いながら綾香は構えた。それを見た葵も構える。
  綾香がダッシュ。と同時に葵もダッシュ。
  (………やはり……正常の状態ではない………!!)
  葵はそう思った。しかし数瞬後 その間違いに気づかされることになる………!!!

  葵の左正拳突き。それを綾香はかわす。と 同時に右廻し蹴り………!!
  「ブッ」
  葵は屈んでかわし 懐に飛び込み……!いや。綾香の跳びヒザ蹴りが来た。
  「ボリュッ」
  仰け反ってかわす葵………!!
  綾香の足が跳ね上がる。それは最高点に達した後 勢いよく落下………!
  「ボゥリュッ」
  「ギャドッ」
  「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ」
  (これが………これが!!? これが天才と呼ばれている綾香さん!!?)
  と 同時に 綾香が葵の首を掴む。と 同時に裸絞めにいく。両腕で。
  「ギゥゥゥゥ〜〜〜〜………」
  (バ………バカなッ………!!)

  「決まったな 完璧に決まった裸絞めからは絶対に逃れられない……逃れられる技がない……」
  「でも よくやった方じゃ無い?あの子?」
  「あぁ しかし最後が甘過ぎたんだ……」
  「あそこでギブアップ宣言をしていなければ綾香の闘争心に更に火が点く事は無かった……」
  「あれが葵の弱点だよ 闘っている相手に無用な優しさをかける………格闘家としては愚図だ……」
  「本当に甘っちょろく 格闘の何たるかを分かっていないガキだよ」
  「しかし……その感情こそが 人間にとって最も必要なモノじゃなくて?相手の事を思いやる………」
  「確かにそうだろうな それは人間として必要な心だろう……しかしッ」
  「闘いの場にそんなモノはいらないんだッ 対峙したら後は決着を着けるだけッ……本当に―――……バカなヤツだぜ」
  京極は葵をそう吐き捨てた。
  「……しかしまァ……よくやったか………あの女王相手によぅ……………」
  「あの女王様の勝利への執念はいかに何物でも敵わない………!!」
  「勝つ事があの女のプライドを支えているんだからなァ」

  その時 葵がオチた。気絶したのだ。
  「勝負ありッッッ」

  その声を聞いた綾香はゆっくりと立ち上がった。
  「ふぅ……本当にギリギリだったわ………あと少しで負けていた……」
  そう言いながら綾香は笑っていた。
  (本当に……強かった………)
  「………ドォ……ッ」
  葵は目覚める意識の中で 倒れゆく綾香の姿を見た………。

  医務室で綾香は目覚めた。その横には葵がいた。
  「……葵……?大丈夫………?」
  「……私のことより綾香さん 自分の事でしょう?」
  「……そうだったかな?まぁ……私は大丈夫だから………」
  「………それにしても葵よ 本当に強くなったわね……あれ程苦戦したのは貴女が始めてよ」
  「それは光栄ですね 綾香さん」
  「……フフ……いい顔をしているわね……一人前の武道家の顔だわ………」
  「葵………アタシの2回戦でちょっとセコンドについてくれない?」
  「……………それはいいけど……どうして……?綾香さん……?」
  「フフ……自分と同じくらいの力の人が後にいると何か安心するじゃない?」
  「……そう言うモノですか?」
  「そう言うモノなのよ………」

  『只今から2回戦第1試合を始めます………!!』


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