グラップラー蘭〜RAN THE GRAPPLER〜24
ザ・ドクター様


  控室。綾香がウォーミングアップしていた。
  葵を従えて股割り。ストレッチを。
  「ギ……ッ……ギ……ッ」
  「ねェ……葵……」
  「何?綾香さん?」
  「空手の本質って何かワカる?」
  「空手の本質………?……えっと……闘うことですか?」
  「………それも確かに含まれるわ……しかしッ………空手の本質とは………」
  「アタシのような 女 子供でも大の男に喧嘩で勝ち得る……これが空手の本質……」

  『青コーナー 来栖川 綾香!!!』

  「お呼びがかかったか……さ……行こうか……」
  そう言いながら ゆっくりと綾香は立ち上がり 闘技場に向かう。葵もその後に続く。
  綾香の後ろ姿を見ながら葵は思っていた。
  (不思議ね――――――……)
  (スピード 運動神経 そして試し割り………)
  (アタシが劣る要素はどこにも見つからぬハズが………………)
  (勝てる気がしない――――――………)
  (この人の前を歩けない………………)
  (例えば アタシがこの場で不意打ちを仕掛けたとしたら…………)
  葵がそう思った瞬間 綾香の顔が葵の眼前にあった。
  「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ」
  「ねェ 葵……」
  「どうして 空手が地上最強か分かる?だっておかしいじゃない?世の中には………」
  「ムエタイ テコンドー キックボクシング……グレイシー……ボクシング……」
  「こんなにいろいろな格闘技があると言うのに………」
  「いつの時代も空手最強説が根強く残っている…………」
  それを聞いた葵は声が出なかった。
  「………………ッッ」
  「………それが分からないために 今夜 こうして苦戦を強いられています」
  「アタシは負け 貴女はアタシにギリギリで勝ちましたから………」
  「さっきよ……」
  「その理由が分かったのが さっきなのよねェ……ハハ……」
  そう言いながら綾香は笑みを浮かべていた。
  「15年間 土日なしで人間を叩き続けて……蹴り続けて…………およそ 強くなるためのコトは何でもやって……」
  「おまけに1回 負けかけてねェ……」
  「どこから見ても 誰と闘っても………」
  「負ける要素が一切 見つからないわ……………」
  「完成したのよ 綾香流が………」
  葵に背中を見せながらそう語る綾香。その背中は眩しい程に輝いていた。

  赤コーナー控室通路。そこに栞と茜がいた。
  「……いいの?来栖川 綾香はもう十分ウォーム・アップが出来てますよ?」
  それを聞いた 栞は思っていた。
  (ウォームアップ……?何 それ?)
  (試合前にウォーミングアップ………それは それはご苦労なコトで………)
  (………所詮はスポーツ・マンね………!!)

  『赤コーナー 達人!! 紅 栞の登場だァ――――――ッ!!』

  闘技場に2人の女性が立っていた。
  来栖川 綾香と紅 栞。今からこの2人が激突するのである。
  『まるで 姿三四郎の世界ですッ』
  『綾香流空手VS紅流柔術』
  『格闘の女王VS達人ッ』
  『剛対柔ッ』
  『ロマンをかき立てずには置かない一戦がここに実現しましたッッ』
  『静かに笑みを称えた両者の表情からは血生臭さは読み取れません』
  『しかしッ 今からこの両雄が真剣勝負で立ち合うコトは紛れもない事実ですッ』

  葵が呟いた。
  「武道家じゃない?綾香さんが!!?」
  茜が呟いた。
  「栞は試合前の準備運動は一切やっちゃいない……武道家は日常臨戦態勢にあるべきとの信念から……」
  「あの紅 栞がそう言っちまったんだ………誰も言い返すことは出来ないわ……」

  綾香は栞を見ながら言った。
  「紅さん 貴女に勝つコトは全空手家の夢だわ………」
  「今 私は そのチャンスに恵まれた幸運を嬉しく思ってるわ」
  それを聞いた栞はペコリと頭を下げた。そのまま動かない。
  「どうも……よろしくお願いします……」
  『オオォォッ 栞が深々と頭を垂れているゥッ』
  『しかし これを鵜呑みにしていいのか?真意が読み取れませんッ』
  それを見た 綾香は振り返り 自分の位置に戻る。
  『オォォォッ 格闘の女王が頭を下げさせたまま自らの位置に歩を進めたァッ』
  『百戦錬磨だ 来栖川 綾香ァッ』
  栞は頭を上げて 自分の位置まで戻る。そして 試合開始………!

  「始めぃ!」
  試合開始の号令がかかった。

  歩いて間合いを詰めていく両雄。
  しかし その歩みはまるで散歩に出かけるがごとくさり気ない。
  そして 両者構えた。綾香は拳。栞は開手(手を開いている)。
  拳と開手。剛と柔。奇しくも両者の取った構えは同じ構えだ。
  しかし 両者とも仕掛けない。あと半歩の間合いで動きを止めたままだ。
  「じり」とも動かない。
  いや。綾香がわずかに動いた。余裕の表情から呟いた。
  「……では……」
  と 同時に栞が動いた。尋常ならぬスピードで綾香の懐に飛び込んだ。
  そのスピードを見た綾香は思った。
  (う……ッッ 上手いッッ)
  次の瞬間 綾香は栞の顔に 正拳突きを放つ。
  「ボリュッ」
  「ベチィッ」
  両者が激突した。
  その瞬間であった。恐るべき事が起こったのは。
  攻撃をしたハズの綾香が宙を舞い 後方のフェンスに叩きつけられたのだ。
  「ドキャッ」

  それを見た茜は思っていた。
  (合気!!!)



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ザ・ドクター様の格闘小説24話
え・・・・・・?いきなり何がっ?
あの綾香が・・・・・・・・・!!!栞の実力とはいったい!!!! by あっきー

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