グラップラー蘭〜RAN THE GRAPPLER〜4
ザ・ドクター様


 

  「カツ………カツ………」

 人気のない夜道にその音が響く。静かだから余計にその音だけが響いている。
 深夜。人通りはない。線路に近い道だ。小さい公園や広場が所々にある。
 「カツ…………カツ………」
 その足音の主は女性のようだった。その女性は人気のない道を選んで歩いているかのようだった。
 ゆっくりとした歩調だ。さらに しばらく歩いてから 女性は工事現場に入った。
 そこで 女性は自分が入って来た入り口を見ながら待った。1分……2分……3分……。

 その時だった。1人の大きい男性が入って来たのは。
 「ぬぅ………っ」
 入り口に明かりがあり その明かりで女性と男の姿が闇に浮かび上がっている。
 彼女よりも男の方が大きい。
 「……やっと その気になったの?」
 「……しょうがないさ………ここまでお膳立てされちまってはな………」
 男は舌打ちしてそう呟いた。

 女性が わざわざ暗い道や人通りのない道を選んで歩いていたことを言っているらしい。
 「昨日から 貴方が私の後を尾行していた事は知っていたわ……」
 「だろうね」
 男は笑みを浮かべてそう言った。
 「………そして 今日 倒す決心がついたわ………」
 「……ほぅ……」
 男の口からその言葉が漏れたと同時に 彼の肉の中にある『刃』がギランと抜き放たれた。
 「………手加減は出来ないわよ………京極さん」

 ――京極。今 確かに女性は京極と言った。

 「……ほぅ……知っているようだな………オレの名前を……」
 「……当たり前でしょう……男子空手界では常に聞く有名な名だわ……」
 「…格闘技をやる者にとって『京極』と言う名前は絶対のブランドだわ…………」
 その言葉を聞いた京極は 薄い笑みを浮かべた。不気味な薄い笑みを。
 ………と 同時に両者が構えた。その時であった。2人を包む空気が徐々に歪み始めたのは。
 「じゃっ」
 そう叫びながら 京極がダッシュし 左廻し蹴りを放った。スピーディーな廻し蹴りだ。
 それを 女性は両腕で受けつつも 蹴りに行く。左の下段蹴り――……ローキックだ。
 京極の軸足めがけて放った。今 京極は左廻し蹴りを放ったままの体勢。つまり 軸足一本で立っている。
 しかし これを刈られたらどうなるのか――――………。
 「ビシィッ」
 「う………ぉっ」
 軸足を刈られた京極。そのまま背中から転倒し…………!!
 いや。受け身を取った。そして そのまま後ろに一回転して着地して構えた。
 「………ほぅ……」
 京極の口から感心の声が漏れる。ここまでやるとは思わなかった とでも言いたげな声だ。
 次の瞬間 女性が 持ち前の素早さで京極の懐に飛び込んだ。
 そこから連続で腹に拳を突き入れる。
 「ズドドッ」
 そして 女性は京極の顔に ヒジを浴びせた。
 「ドキュゥッ」
 それをまともに喰らった京極はグラついたと 同時に女性に飛びついた。
 「グチィッ」
 ぶつかった。そして 1つの影が転倒した。
 転倒したのは京極だった。
 ………折れていた。京極の右足の骨が折れていた。
 「くゥゥゥッ」
 京極が呻いた。
 「…………震えが止まらないわ………」
 女性はそう言った。その通り 女性は震えていた。いや。正確に言えば無意識のうちに身体を震わせていた。
 「ブルブルブル………」
 その左首にはアザがあった。強烈な打撃を受けて出来たアザが。本人は気づいていない。

 京極は右足を引きずりながら その場を去った。それを見た女性は誰かに電話をかけた。
 「………あぁ セバスチャン?今 工事現場にいるから迎えに来て」
 「分かりました お嬢様」
 電話の向こうからその声が聞こえた。
 十数分後 工事現場の入り口にBMWが止まった。そこから執事らしき初老の男性が降りてきて一言言った。
 「綾香お嬢様 お迎えに上がりました」
 「……ありがとう」
 そう言って綾香は車に乗り込む。今まで京極と激闘を繰り広げていたのは綾香だった。
 しかし 執事は気がついていた。綾香の首筋に妙なアザがあることに。
 (な……なんだ あのアザはッッッ)
 そう思った。そしてその疑問を解くべく 尋ねた。
 「お嬢様……あそこで誰かと闘っていたのですか?」
 「……闘ったわよ………京極とね……」
 綾香は落ち着き払った表情でそう呟いた。

 格闘技をやる者にとって『京極』と言う名前は絶対のブランド と言わしめる男。
 その京極と互角………。いや。それ以上の闘いを演じたのだ。
 綾香という女――――――――………想像以上に強い。

 夜道をセーラー服を着た1人の少女が歩いていた。その少女の名を松原 葵と言った。
 葵は歩きながら思っていた。
 (………空手があったからだ…………)
 (空手があったから―――――ここまで道を踏み外さずにやってきた………)
 (英語もダメ………数学もダメ……人望も無い……)
 (この肉体だけが財産だった………)
 (この肉体にすがって生きて来た………)
 (空手にすがって生きて来た………)
 (来栖川 綾香!!!!)
 葵は 一回戦の対戦相手である綾香のことを思い浮かべていた。

 その時だった。

 空気が一瞬 歪んだのは。一瞬歪み 通常の空気に戻る。
 それを感じることの出来る者は もはや通常の人間ではない。格闘の獣。
  そう言う人達が感じることの出来る領域。
 通常の人間には立ち入ることの出来ぬ領域ッ…………!!

 そこで葵の足が止まった。街灯の明かりの下にのっそり立っている人影を見たからである。
 ただの人影ではない。大きな人影だ。
  普通の人間ではなく 自分と同じような 鍛えられた肉体がそこに立っている。

 その男は 両腕を身体の脇にだらりと下げたまま動かなかった。
  爛々とした光る眼を持つ男であった。
 葵は そのまま歩き出し 男の手前で足を止め 男の前に立った。
 わずかに間合いを外した距離だ。

 男が何かを仕掛けてくるなら逃げることも出来るし こちらから何かをするつもりなら 半歩踏み込めば出来る。
 そう言う距離だった。
 葵はその男を見た。と 同時に呟いた。

 「京極さん」
 「………やはり 葵か………」
 京極はそう呟いた。
 「………遅かったじゃないか……ここでずっと待っていたんだぜ………」
 「何の用なの?京極さん?」
 「単刀直入に言う………」
 「来栖川 綾香に勝つ方法を教えたい――――――――……………」
 綾香に勝つ方法。それは葵が最も知りたかったことであった。この話を無碍に断る輩は居まい。
 葵は呟いた。

 「是非 教えて下さい 京極さんッッ」


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ザ・ドクター様の格闘小説4話
どわぁぁぁっ京極さんが登場してるー!!!!!(是非園子ちゃんも出してー)(笑)
京極さんはブラントだったのか・・・φ(.. )(爆)
さていよいよ戦いが始まる・・・・・・・最後まで生き残れるのはいったい誰か!!(笑)byあっきー

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