グラップラー蘭〜RAN THE GRAPPLER〜6
ザ・ドクター様


 
 神奈川・蒼城高校(そうじょうこうこう)。
 柔道部で1人の少女が練習していた。藤堂 茜。それがその少女の名前だった。
 柔道。柔道とは簡単に言うなら体重移動が大部分を占める格闘技。
 相手を掴み 崩し 投げる。柔道で確実に使う この3つの動作のうち 2つが体重移動を要する。
 …………普通なら。
 しかし 茜は天才だった。10年に1人では無い。100年に1人の天才だった。
 相手を掴むと同時に投げの体勢に移行出来る。
 つまり 掴む 崩す 投げるの3動作が2動作に短縮されるのである。
 その時 1人の男がやってきた。その男はたくましい身体をしていた。
 筋肉の上に筋肉が乗っかっている身体だ。幾層にも重ねられた筋肉…………!
 「……よくきてくれたわね……館岡さん」
 「何の用だ 藤堂……こんなところに このオレを呼び出すとは………しかも 誰もいないじゃないか……」
 「……館岡さん……貴方にとってはその方がいいでしょう?人前で赤っ恥をかくことも無いのですから………」
 「………赤っ恥?それは このオレがオマエに負けると言う意味かよ?アァァ?」
 「………そう聞こえなかったかしら?」
 茜は髪をパサッとやりながらそう呟いた。
 「………いいだろう」
 館岡は そう言いながら背広をバサッと脱ぎ捨てた。
 その様子を見ながら茜は思っていた。

 館岡 直也―――――……。
 身長193cm 体重130kg。
 89年〜93年まで柔道全日本選手権5連覇。
 87、89、91年 世界選手権無差別級優勝。
 89年 世界選手権95kg超級優勝。
 バルセロナオリンピック95kg超級銀メダル。
 華々しい経歴を持ってプロレスに97年転向―――――……。

 そして館岡はネクタイを外し Yシャツの第一ボタン第二ボタンを緩め ベルトをも緩めた。
 闘う体勢になった。構える両者。お互いに相手のスキを伺っている。
 じり。じり。お互いに柔道家。手の内は知り尽くしているため動けない。
 相手に知られていない技があれば それが勝負を決する。
 先に動いたのは館岡―――――…………。館岡が右手で茜の右襟首を掴みに行くが 茜は腕で捌いた。
 それは館岡のおとりだった。本命は左手による左襟首の奪取。
 「パシィッ」
 捕まった。そこから館岡は 一本背負いを放つ。
 「バシュッ」
 「グンッ」
 館岡は茜を投げようとした。しかし 茜を持ち上げられなかった。いや。持ち上がらなかった。
 「!!!」
 (な………ッッ も………持ち上がらな………ッッ!!!)
 体重移動。体重移動が持ち上げることを不可能にさせる。そして杖腰の位置――――…………。
 腰を低くし そこに体重を集中させる。そうすれば容易に持ち上がらなくなる。
 怪力である館岡でも持ち上げられない………!!
 (く……ッッ)
 「ザザッ」
 館岡が体勢を入れ替え 再び投げに行く。逆の一本背負いだ。
 次の瞬間 茜の全身から力が抜け 容易く投げられた。そして そのまま足から着地した。
 そう。水鳥の羽のようにフワリと。
 「ストッ」
 「な………ッッ こ……今度はいとも簡単に………!!?」
 「いとも簡単に投げられた………いや………自ら跳んだのか………」
 「………なるほど……これが藤堂 茜か………噂には聞いたことがある………」
 「ある時は軽く ある時は重く………究極の体重移動を可能にする天才少女………」
 「それが この藤堂 茜だったのか…………」
 「シャッ」
 その時 光が迅(はし)った。光が館岡の懐に潜り込んだ。――――光が館岡の身体に絡みついた。
 (な………ッッ)
 と 同時に 館岡の身体が勢いよく宙に浮いた。
 「ゴッ」
 (受け身ッッッ)
 館岡は反射的にそう思った。そして受け身を取ろうとした。しかし………受け身には至らなかった。
 受け身を取る間もなく 壁に叩きつけられた――――………。
 「ドガァッ」
 「がふ………」
 館岡は口から血を吐き そのまま 崩れ落ちた。
 「ズズ………ズ………ドッシャァッ」

 頑丈に出来ている館岡が血を吐いてもムリらしかぬ事………。畳やプロレスのマットなら衝撃は少ない。
 しかし 叩きつけられたのはマットや畳の上ではない。かなりの衝撃がくる鉄骨の壁なのだ。

 「………勝負あったわね………」
 茜は襟を正しながらそう呟いた。

 舞台は変わって京極と葵へ。
 「ダメだ 葵ッ そんなことではあの来栖川を倒せんぞッッ」
 「ハイ 京極さんッッ」
 葵は京極の腹に拳を突き入れ――――たが 捌かれた。そして 葵の頭にヒジが叩き下ろされる。
 「ゴォッ」
 「ヒュフッ」
 葵はそれをかわし京極の左脇腹に蹴り―――……。
 「ドグォッ」
 腕でブロックされた。が さらに葵は追い打ちをかける。身体を捻り 後ろ廻し蹴り――――……。
 「ガコォッ」
 左踵が京極の顔を捕らえた。京極のその顔は不気味な笑みを浮かべていた。
 (………これなら…………これなら出来る…………!!)
 「さァ 伝授の時が来たッ 葵ッ この技を自分で掴み取れッッ」
 「!!!」
 (こ………この技は…………ッッ!!)
 京極が葵に飛びついた。
 「ガカァッ」
 次の瞬間 葵が大地に伏していた。
 京極は大きく息を吐きながら呟いた。
 「京極流空手絶技・虎王(こおう)…………これこそが京極流唯一の絶技よ」
 「この技を手にしたならば………オマエに負けはないッッ!!」
 「ありがとうございます 京極さんッッ」
 大きな声でお礼を言う葵を見て京極は思っていた。
 (……とは言ったが……あの来栖川を相手にして勝機は……五分五分……と言ったところか……)
 決戦の日…………迫る!!!




続きへ

ザ・ドクター様の格闘小説6話
うーん・・・ぞくっとする茜の強さ・・・・・・・・
そして京極さんの空手絶技を取得した葵・・・・・・・蘭ちゃんの敵はかなり手ごわい・・・by あっきー

戻る

TOPへ