グラップラー蘭〜RAN THE GRAPPLER〜8
ザ・ドクター様


 
 「…………嗤ってる…………」
 観客達がそう呟いた。晶の顔を見て。

 「ガコォッ」
 蘭の打撃は未だに続いている。しかし 晶は手を出そうとしない。それどころか ガードすらしようともしない。
 これがディフェンス『2』の理由か。ディフェンスが下手………。
 しかし それでは女子プロレスのエース足り得ない……。エースとして君臨できる何かがあるハズ……!!
 果たして その何かとは…………?
 「トドメよッッ」
 その叫び声と同時に 蘭の左上段正拳突きが晶の顔にヒットしようとしていた。
 「ボリュッ」
 その瞬間 晶が初めて動きを見せた。蘭の 左上段正拳突きをかわし 顔めがけてパンチを叩き込んだのだ。
 「ッシャァッ」
 そう叫びながら。
 「ドカァッ」
 晶は口の中にたまった血をペッと吐き捨てて言った。
 「気楽なモノだぜ 格闘家なんてモノはよォ」
 「大体なぁ 技を受けなくてもいいんだからなァ オマエ等は」

 控室のモニターを通してそれを聞いた綾香はクスリと笑いながら言った。
 「そこまで言うのですか 晶……」

 「相手の技を自由に防御していいなんてなァ プロレスラーに言わせりゃ夢のような話だぜ」
 「アタシ達ゃ そんな甘ったれた事は許されないんだよ」
 「例え 180kgを越えるレスラーが フライングボディプレスを仕掛けてきても アタシ達プロレスラーは決して避けないッ」
 「相手の技は全て受け切るッ」
 「オマエ等 格闘家にゃ無理な芸当だろう」
 「…………そして………プロレスの醍醐味とは!!!」
 そう叫びながら 晶はダッシュし 蘭の後ろに回り込んだ。そして 両手を蘭の腹の前でクラッチ(結手)する。
 「ガチィッ」
 「ッシャァッ」
 そう叫びながら バックドロップを放つ。垂直に落とすバックドロップ…………!!
 垂直………本当に垂直ではないが 急角度で落ちると言うことは間違いない…………。
 「ドカァッ」
 蘭は受け身が取れず 頭から落下………!!
 眼に火花が。頭に電流が走った。『痛み』という名の電流が。
 直ぐさま 蘭は立ち上がるが 先程の衝撃で視界が定まらない。
 ぐにゃり と視界が歪んでいる。頭に強い衝撃を喰らったためだ。
 次の瞬間 晶が蘭の腹に蹴りを放つ。
 「ドブォッ」
 「ゲフォォォッ」
 蘭が血を吐きつつ ヒザからダウンした。
 「ドシャァッ」
 しかし 晶は手を出さない。ダウンした相手に攻撃を加えてもいい――――――……。
 エクストリームにはそう言う暗黙のルールがある。しかし 晶は手を出さない。
 そのまま ダウンしている蘭を見下ろしている。

 『見下ろしているッ』
 『勝ち誇るかのように見下ろしているッ』
 『トドメを刺そうとしません 北斗ッッ』
 『起き上がるのを待つかのようにトドメを刺しませんッッ』
 『プロレスの美学!!!』

 蘭は大地に手を突き 起きあがってくる。ゆっくり。ゆっくりと。
 蘭が立った瞬間 蘭の脚にローキックを放つ晶。
 「ドゴォッ」
 それを喰らった蘭は思った。
 (お………重い……ッッ)
 (ただ………ただの一発だけなのに………とても重いッッ)
 (全体重を乗せてローキックを放って来ている)
 (一気に決着をつける気だわッッ)
 蘭のその思いを感じ取ったかのように晶は思っていた。
 (そうッ その通りッ)
 (………しかし アタシはプロレスラーだ………それなりに面白い試合にしなきゃなァ)
 そう思いながら晶は不敵な笑みを浮かべていた。

 次の瞬間 蘭のダッシュしざまの正拳突きが晶の顔面に炸裂。
 「ドガァッ」
 晶の鼻骨が折れ 晶が吹っ飛んだ。しかし 宙で回転し そのまま着地。
 「トッ」
 そして晶が構えた。指先を開いて。いつでも掴みに行ける。そういう構えだ。
 (フン………素で受ければ これほどの威力を持つのか………)
 (オモシロイ)
 そう思いながら晶は不気味な笑みを浮かべていた。

 「ズドォッ」
 蘭の右中段正拳突きが晶の鳩尾を貫いた。
 しかし 晶は微動だにしなかった。効いていないのか。
 「………蘭………何故 こうもプロレスラーと格闘家の耐久力に差があるか ワカる?」
 「覚悟の量が違うのよ」
 「相手がどんな殺人技を仕掛けてきてもアタシ達ゃ 瞬時に覚悟を決める!!」
 「そのダメージに負けないだけの量の覚悟をね……少しでも量を見誤れば天国行きだわ………」
 その言葉を聞いた蘭は思っていた。
 (つ………強い………!! この言葉 単なる虚仮威しじゃない………!!)
 (その言葉に見合う実力をこの人は備えている………!!)
 「………そして プロレスの醍醐味とは!!!」
 そう叫びながら 晶がダッシュ。次の瞬間 ノーガード。
 何を考えているのか。いや。絶対的な耐久力に裏付けされた自信。それが 晶にこのような行動を取らせる。
 ノーガードの晶を見た蘭は次の瞬間 猛攻を開始。
 「シュドドドドドドッ」
 連続で突く。突く。突く。突く。叩く。叩く。
 叩く。突く。叩く。蹴る。突く。蹴る。叩く。叩く。蹴る。
 叩く――――――……。
 「ドゴォッ」
 蘭の正拳突きがまともに入り 晶が吹っ飛んだ。この試合初めて蘭が晶からダウンを………!!
 「ズザッ」
 ………奪えなかった。簡単にダウンをこらえた。

 これも演技だったのか。蘭を相手に演技をするとはこの女。正真正銘の強敵だ。

 (ど………どうやったら この人を倒せるの!!?)
 蘭は冷や汗をかきながらそう思っていた。構えつつも。

 北斗 晶――――――――――――………タフネス(耐久力):10






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ザ・ドクター様の格闘小説8話
女の闘いの怖さはこれから!!!(爆)
どっちもゆずらないこの勝負。晶と蘭の対決・・・・・この試合を見てる新一の心境が聞きたい・・・(笑)by あっきー

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