2人のプレイボール(14)
修羅聖斗(ザ・ドクター)




 平次は思っていた。  (………最後になってとんでも無い男を迎えやがった………それも そのハズ………)  (プロ球界ナンバーワンのアベレージバッター………イチロー………!!)  イチローは打席の中で屈伸運動をしている。  「グッ………グッ………」  そして 右腕をピッチャーに向け その袖をまくり、バットを両手で握った。  イチローが構えた。その風貌は異様に落ち着いている。    (フ……先程のボールを見るとかなりの威力はあるようだな……真壁のバットを弾き飛ばすとは………)  (どれ……………)  そう思ったイチローは誰もが驚く行動に出る………!!  ただ。ただ。バットをホームベース上に差し出したのだ。バットは右手で持っているだけ。  バントではない。ましてや強打でもない。ただ 当てて その威力の程を実感する腹だろう。  平次の1球目。  ワインドアップのモーションから大きく胸を張り 投げた。  「ゴォォォォ」  ボールが唸り声をあげる。  (フム……152kmといったところか……伊良部よりは劣るな………しかし………)  「ガキィ」  イチローのバットが弾かれた。  「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ」  「ビリビリビリ……」  イチローの手が痺れている。  (………しかし 重い……球質が酷く重い……)  2球目。  平次が振りかぶり 大きく足を上げ そのまま踏み出して投げた。  「ドゥオオオオオ」  大きな投げ方………。ザトペック投法だ。  そこからイチローがバットを大きく振り回す。  「ブォォォォォ」  (剛よく剛を制す………!!)  「カッ」  バットとボールが衝突する。イチローは思いっきり振り抜こうとしているが 振り抜けない。  「ぐ………ぐぐぐぐぐっ…………」  そのまま イチローのバットは弾き飛ばされ ボールはミットに収まった。  「ド――――――――――――ン」  主審は叫んだ。  「ストライクツ――――!!」  イチローはバットを拾いながら思った。  (フフ……力に力で挑んでもムリだってことか…………ならば…………)  そして イチローはバットを持って構えた。その眼光は平次を睨め付けていた。  「ギラッ………」  その瞬間 平次の背中に ぞくり という感覚が走った。背中から頭に突き抜けるような感覚。  蟻が背中の皮膚を破って産まれ 分裂し それが頭までざわ ざわ と上ってくるような感覚。  3球目。  平次は先程の感覚から抜け出せない。  ざわ。ざわ。ざわ。ざわ。その感覚がまだ 背中で蠢いている。  どんどん。どんどん その感覚が広がっていく。  (く………ッッ 何や………?この感覚………?まるで 何かに押し潰されるような…………!!)  押し潰される。平次はそう思った。その表現こそが最も適切。  今の平次にとってその表現が最も適切なのだ。  ……つまり………………!!  この男をランナーに出してはいけない。  ランナーに出した場合 それが点を取られるきっかけとなってしまう。それだけは避けねばならない。  その思いが 平次の感覚を 狂わせていた。まともな 感覚 では ない。  (な なんだ この 感 覚 一 体 な ん   だ   ?)  (この かんか ク ハ?)  平次の感覚が徐々に壊れていく。人間としての 感覚が徐々に薄れていき 思考力も低下しつつある。  「スパ―――――ン」  平次の頭から乾いた音が聞こえた。和葉が どこからか持ってきたハリセンで叩いたのだ。  「……………あ?平次………?」  平次がそう言った。  「はぁ?平次?平次は 自分やん?」  「すまん 工藤」  平次がそう言った瞬間に 和葉のハリセンが平次の脳天を叩いた。  「スパコ―――――ン」  「誰が 工藤や!この可愛い和葉ちゃんの顔を忘れたちぅんか?」  「すまん 間違えた 小五郎のオッサン」  まだ 頭が正常でないらしい。  「誰が小五郎のオッサンや―――――!!!」  「スパパパパン」  和葉の往復ビンタが平次の両頬に炸裂した。  「どや?落ち着いたか?平次?」  「ん…………」  その声と同時に平次は自分を取り戻した。  「あ?あれ?和葉?ここは?」  「やっと気ィつきはったか………今まで どこを彷徨っていたんや?」  「フ 地獄や」  こんな時にまでカッコをつける平次であった。そんな平次をみた和葉は自分のポジションに戻りながら思っていた。  (やっぱ 打ち所 悪かったんやろか…………)  「待たせたな イチローはん……勝負や」  平次は 大きく振りかぶって 大きいモーションから勢いのある球を投げようとする。ザトペック投法だ。  「ビシュゥッ」  (速い………そして重い………つまり 剛………!!)  そう思いながらイチローは右足を振り子のように振った。  (剛に対しては柔―――――――………柔よく―――――――………)  (剛を制すッッ)  「カキィ――――ン………」  金属音が響く。高い 高い 金属音が。  引っ張ったのではなく 流した。これがイチローの天才たる所以だ。  平次の剛速球を流せるバッターは今のプロ野球界には数える程しか居ない。  ボールはセンターとレフトの間にライナーで飛んでいる。どちらかといえば レフト寄りだろうか。  それを快斗が追いかけている。その足の速さ。迅速なり。ボールに追いつこうとしていた。  普通なら完璧に左中間を割るはずのボールにだ。  「シュザザザザザ」  勢いよく 芝を踏み ボールに追いつこうとしている。  それを見た落合は叫んでいた。  「な………なにィィィ〜〜〜ッッ!!?」  清原も叫んでいた。  「あ………あれが捕られるのかぁ〜!!?」  しかし 快斗が ここだ と思ってボールを捕ろうとした時 既に行き過ぎていた。  「あっ!!?」  平次は叫んだ。  「抜かれた〜〜〜〜!!!」  イチローは1塁に既に到達していた。  落合は叫んでいた。  「違う 抜かれたんじゃなくて行き過ぎたんだ!………待て?左中間ど真ん中の打球だぞ?どうして行き過ぎるんだ?」  快斗は叫んでいた。  「ちくしょ〜〜!目測を誤るなんて情けねぇ!平次 悪い!!」  それを聞いた落合は思っていた。  (わ……悪くはない 普通だったら追いつかない……)  (慣れてきたら あの快斗の足と守備範囲はプロにも居ないとんでも無い選手になる………)  (と 言うことは この快斗がいるチームからは左中間 右中間を真っ二つに破る打球は打てないと言うことだ……)  (お……恐ろしい男よ………黒羽 快斗………)

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ザ・ドクター様の小説第14弾!!
やっぱり快斗はただもんやない!!!(b^ー゜)
しかし・・和葉との夫婦漫才(笑)平次はこの試合に勝つ以前に無事でいられるんだろうか・・・←ひえっ
えっと今回初めて<pre>を使用・・・・こんな便利なもんがあったとは・・・
(入力した文字をそのまま表示)あっはっはっ・・・これからはこれでいこう(爆) by あっきー

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