2人のプレイボール(5)
修羅聖斗(ザ・ドクター)




 「これが本気の氷室京介だぜ!!」
 その叫び声と同時に氷室の左腕から球が放たれた。

 「ビシュゥッ」
 「ゴォォォォォォォ…………」

 氷室の放った球が 唸り声を上げてストライクゾーンに飛び込む。
 ボールを見ながら平次は思っていた。
 (140………いや 143kmぐらいか………これなら打てる………)

 「ヒュア」
 平次がそのボールを打ちに行った瞬間 ボールが消えた。
 (な…………!!?)
 そのまま平次は空振りした。茫然自失の表情で平次は呟いた。
 「……お……落ちた………?………スプーン……か………?」
 「それを言うならフォークだ………残念だったな」
 真壁がそう呟いた。

 「ストライク バッターアウッ!!」
 平次が空振り三振。後続も打ち取られチェンジ。
 3回裏まで両軍とも0点に抑える。

 そして4回表。快斗の打順だ。
 この快斗の打席を迎えて氷室・真壁バッテリーが取った行動。それは当然のように前進守備。
 快斗の足を封じる作戦に出た…………!!
 しかし普通の前進守備ではない。極端な前進守備。
 氷室は思っていた。

 (この極端な前進守備……これを破れる者はプロには1人も居ない………)
 (さぁ 快斗よ この前進守備をどう破る!!?)
 その前進守備を見た快斗は笑みを浮かべていた。しかし笑みにもいろいろある。
 余裕の笑み。不気味な笑み。ギリギリの笑み。苦しい笑み。
 さて この快斗の笑みの意味は…………?

 快斗が打席に立った。そして最初からバントの構えだ。

 それを見た真壁は呟いた。
 「オ……オイ……オマエ……こういうときはだな………」
 「それがどうした?どうせバントすると思って居るんだろ?だったら 最初から構えていた方が確率は上がる……」
 「アホか!三塁手があんなに前に出て来ているのにバント出来るワケないだろ!」
 (………と言いつつも本当にこのバントを成功させたらこの男……バケモンだな………)
 そして氷室が投げた。内角高めの伸びるストレート。一番バントしにくい球だ。

 しかし これを見た快斗は迷わずバットを振り抜いた。
 「ブ――――――ンッ」
 豪快な空振り。バントから一転強打に変えた。バスターだ。

 それを見た真壁は冷や汗をかきながら思っていた。
 (あ………あぶねぇ……こういうワケだったのか………あの笑みの意味はそう言うことだったのか)
 「三塁!前に出すぎだ!それじゃ サードゴロでもレフト前になるぞ!」
 真壁のその叫び声を聞いた三塁手(サード)は定位置にまで下がった。

 それを見た快斗はバットのグリップを握りしめて思った。
 (………これで……バントしやすくなった……)

 作者は語る。
 野球と言うスポーツは突き詰まるところ 裏のかき合い。
 バッテリーがバッターの裏をかいて抑え…………。
 バッターがバッテリーの読みを察してそれを叩く………。
 野球とはそういうスポーツ。

 つまり このスポーツ。この読み合いに勝利した者が勝つ。
 この読み合いに勝利するのは 怪盗キッドか!!?百戦錬磨の氷室・真壁バッテリーか!!?

 (さぁ 氷室………次はここだ……)
 (………また内角高めか……?しかし それには賛成できない……そこから落とす……)
 (……フォークか………いいだろう……来い 氷室!)
 そして氷室が第2球を投じた。内角高めから落ちるフォーク。

 しかし それに快斗は気づかず当てに行く。その瞬間 快斗は気づいた。
 ボールの回転が少ないと言うことにッ…………!!
 (回転が少ない!!?これはなんだ!!?ストレートじゃない………ならば!!?)
 「スト――――――ン」
 フォークが決まりストライクツー。追いつめられた快斗。
 (………なるほど……フォークだったか……これでフォークの回転は覚えた………)
 「さァ 来い 氷室」
 またもや笑みを浮かべて快斗はそう言った。

 今こそ分かった。この笑みは余裕の笑みだ。つまり快斗には氷室を打ち崩せる自信がある。
 その笑みに氷室は悪寒を覚えた。
 ぞくり。そう言う得も言われぬ悪寒。
 (な……なんだよ……?この感覚………?プロ生活を通して こんな感覚を味わったことは無かった……)
 (………それほど……あの男は類い希な才能を持っているというのか?)
 (……なる程………面白い……初めての強敵と出会えたようだ………)
 (このボールを使うに相応しい強敵と…………………)
 ニヤリと笑みを浮かべながら氷室は思っていた。
 その時 氷室からサインを出した。悪魔のサインを。それを見た真壁は無意識のうちに叫んでいた。
 「や……やめろ 氷室ォォォ!!!」
 そして 氷室の黄金の左腕から ボールが放たれた。と 同時であった。真壁が快斗を突き飛ばしたのは。

 「ドンッ」
 「ズダ――――――ン」
 「な……何をするんだっっ!」
 ボールはワンバンして大きく跳ね上がっていた。

 主審は叫んでいた。
 「打撃妨害!ランナー1塁へ!」
 快斗はバットを捨て 1塁に向かった。その途中で思っていた。
 (あの氷室とか言う男………何を投げようとしたんだ?)
 そして 氷室は後続を打ち取り ツーアウト1塁で平次の打席を迎えた。
 「フン 出てきたか……打ち取ってやるよ?」
 「ズバ―――ン」
 1球目。外角低めに剛速球が決まった。
 それを見た平次は呟いた。
 「ほぅ……まだこんな威力の球を投げられるとは思わへんかった……それでこそ叩きのめしがいがあるで…」
 そして大きく構えた。大物狙いの構えだ。それを見た快斗は徐々にリードを取る。
 氷室の左腕から第2球目が放たれた。それを平次は思いっきり振り抜く。

 「ブァ――――――――ン」
 しかし 氷室の球はまだベースに来ていなかった。速球を想定してバットを振った平次は驚いていた。
 「な……なんやて?」
 「…………チェンジアップだ」
 真壁はそう呟いた。
 そして3球目。氷室は この球で決めようとしていた。そして それを平次は読んでいた。
 問題はそれが何かだ。ストレートか?フォークか?チェンジアップか?
 平次は思っていた。
 (……どうする?………ストレートにヤマを張る……か?それでそのヤマが外れたら空振りや……)
 平次はバットのグリップを握りしめる。

 「ギッ………ギッ……ギッ………」
 そして氷室が3球目を投じた。その左腕から勢いよく。
 チェンジアップでは無い。
 氷室が現在持っていると思われている球種はストレート。チェンジアップ。フォークの3種類。
 その中のチェンジアップが消えた。
 残るは2種類。フォークか!!?ストレートか!!?
 (どっちや!!?)
 平次はスィングを開始していた。次の瞬間 平次は気づいた。
 勝負を狙っている球にしては 軌道が高いことを…………!!
 「決め球にしては 少し高いわぁ 氷室! 間違いのぅ この球はフォークや!」
 フォークと決めて平次は振り抜いた。と 同時に球が落ちてきた。
 「カキ――――――――ン」
 センターフェンス直撃の3塁打。通常ならだ。通常なら ここで止まる。
 しかし 平次はそうしなかった。3塁も回ってしまったのだ。
 氷室は2塁上で ボールを受け取り そのまま真壁に勢いよく投げた。
 「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
 そう叫びながら。
 これは確実にクロスプレーになる。あとはそれぞれの技術で決まる。

 得点か!!? チェンジか!!?
 「バシィッ」
 真壁がボールをキャッチした。しかしその一瞬前に 平次はホームベースを駆け抜けていた。
 2VS2。同点に追いついた。

 何故スライディングしなかったのか?それはスライディングはムダのある行動だからである。
 普通に走っている状態からスライディングをする時はその体勢を作らなければならない。
 よって一瞬遅くなる。その一瞬が明暗を分けた。

 スライディングをせずにホームを走り抜けた平次。スライディングをすると決めてかかった真壁。
 この差が明暗を分けた。
 同点に追いついた平次達だが この回の裏 あの化け物達の打席を迎えることになる。
 そう。氷室と真壁の打席を。


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ザ・ドクター様の小説第5弾!!
平次ー!!とうとう同点に!!(いや、あっさり負ける予想だっただけに驚いた(爆))
次は強敵氷室と真壁の打席??このまま得点を守りきれるのか・・・・ by あっきー

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