2人のプレイボール(7)
修羅聖斗(ザ・ドクター)




 6回表。

 ワンナウトで快斗の打席を迎えた。

 対する氷室は無気味に笑っていた。
 「フフフ………これが3度目の打席か………これまでの2打席……オレが完璧に打たれている……」
 「……しかし この3打席目……元プロのメンツにかけて絶対に打たせない………」
 (プロとアマの確固たる違いを教えてやるよ………)
 そう思いながら氷室がユラリと動いた。

 そこから 高々と足を上げ 大きく踏み出して投げてきた。勢いよく左腕をムチのようにしならせて―――!!

 「ビシュッ」

 次の瞬間 快斗めがけて飛んでくるモノがあった。それは氷室の投じたボール。ビーンボールだ。

※ビーンボール・・・バッターを故意に狙ったボール。この場合 頭めがけて来たボールを指す。

 快斗はそれを持ち前の反射神経で前に倒れ込んでかわした。
 そのボールは真壁のミットに突き刺さった。

 「ズバァァン」
 「ボ………ボール!!!」
 主審がそう叫んだ。

 「な………主審!あれ ビーンボールじゃないのかぁぁ!退場だろ?普通!!」
 しかし 主審はピクリとも眉を動かさず 平然としている。まるでこの行為が当たり前だとでも言うかのように。

 「どういうことだ 審判よぉぉっ!」
 珍しい快斗のブチ切れだ。

 その時 平次が出て来て言った。

 「落ち着きぃや 快斗……『草』に限っては退場はあらへん……
 『草』のルールは全員が野球の素人ちゅうことを前提に決められてはる………
 せやからプロと表面的なルールは同じでも深い部分までは一緒やあらへんのや……」

 「つまり それは故意にビーンボールを投げても退場にゃならないと言うことか………?」
 その快斗の問いに平次は首を縦に振った。

 「そうかい」
 そう言いながら快斗は バットのグリップを強く握った。

 「ワカッたかい ボウヤ……これがプロとアマの違いなんだよ……ビーンボールを投じても退場にはならん……即ち……
 思い通りの投球が組み立てられると言うことだ!!」
 そして 氷室が2球目を投じた。
 「ズバ――――ン」
 外角低めから大きく外れ ワンバウンドした。
 「ボール!!」

 「な……なんや………?荒れて来た………?……いや……意識的にか………?」
 平次がそう呟いた。

 3球目。外角低めに突き刺さった。ギリギリだ。ボール半分でもズレていればボールだ。
 「ストライク!!」

 「フン………」
 そう言いながら氷室は真壁からのボールをグローブで受け取った。

 「パシィッ」

 「フ………これで……『追い込んだ』ぞ……」
 追い込んだ。氷室は確かにそう言った。しかし 今のカウントは1−2(ワンストライクツーボール)。

 追い込まれているのは氷室の方………!!なのに。なのにだ。この発言は一体どういうことなのだ!!?

 なるほど。今の快斗の様子を見れば一目瞭然。先刻のビーンボールで腰が引けている。
 いわゆるへっぴり腰というヤツだ。
 この状態で外角を攻めれば 打ち損じる。

後に平次は語る。
「え………?打ち損じると思ったかって………?快斗が………?」
そして 平次は鼻の頭をポリポリと掻きながら言った。

「ン〜〜〜……やっぱり自分らは快斗のことを分かってへん………」
「確かに普通のバッターなら打ち損じるわ……普通ならね………」
「でも これは黒羽 快斗のハナシやろ?」


4球目。

セオリー通りに氷室が外角に投げて来た。外角低めに威力のあるストレートが突き刺さろうとしていた。

次の瞬間 快斗のバットがそれを捕らえた。振り回し 捕らえた。

「カキ――――――――ン」

高い金属音が響き渡った。しかし 氷室は後ろを振り返ろうともしない。
わずかにファウルだった。ボールが僅かにきれたのだ。

(フ……今のボールは 打ってもファウルになるボールだ……これでカウントが2−2になった……)
氷室はそう思いながら笑みを浮かべていた。不気味な笑みを。

「打つ……快斗なら絶対に打ってくれる………」
平次はそう呟いた。


5球目。

氷室からサインが出た。先程と同じサイン。悪魔のサインを。ここでまたもや投じるつもりか。

先程は真壁が妨害した。しかし 今回ばかりは期待できないだろう。それもそのハズ 氷室が宣言した。

「真壁!今回は動くな!動いたらその時点でオマエの頭を狙う!」
物騒な発言。しかし天才と呼ばれている氷室だからこそ出来る行動だ。

言い換えれば 氷室なら本当にやりかねない…………!!!

「行くぞ 快斗!!」
そういいながら氷室は大きく振りかぶりプレートの上に足を乗せた。
「ザッ」
そして高々と足を上げ 大きく踏み出す。そして胸を張り その左腕をムチのようにしならせる。

「ビシュゥッ」

氷室が放ったボールは またもやビーンボールだった。
それを 快斗は分かっていたかのように 一歩後ずさって寸前で避けた。

 次の瞬間 快斗は驚愕した。

 氷室の放ったビーンボールが急激な変化を起こし そのままミットに収まった。
 カーブ。物凄い変化のカーブだ。
 大きく弧を描いたカーブは真壁のミットに収まった。ストライクゾーンを通って。

 「ズパァァァァァンン」
 「ストッ ライ―――――ク!!!バッター アウトォォ―――ッ!!」
 こんな。こんな球をまだ隠し持っていたのか。氷室は。
 寸前になってまでこんな球を隠していた。氷室。恐るべし。

 「な………なんだ……今の球は………?」
 そう快斗が呟いた瞬間 真壁は口を開いた。

 「これが本当の氷室だ……プロでは一切合切見せなかった このピッチング………
 適度な荒れ球………そして『怖い』と思わせることの出来る球威とスピード…………どれも氷室の持ち味だ……
 そして あのカーブ……あの危険球すれすれの………あのブラッシングカーブが氷室の全能力をベストに引き出すんだ!

 …オマエ等……氷室を怒らせちまったぞ……しかし こんな氷室はプロでも見たことがなかった……光栄に思うことだな」

 ※ブラッシングカーブ…ブラッシュボール(危険球)から そのまま曲がりミットに収まるカーブのこと。

 「ストライクッ バッターアウッ! チェン―――ジ!!」
 真壁は思った。

 (乗せた!あの氷室を完璧にあの2人が乗せた!)

 そして 6回裏の氷室達の攻撃を迎える。その時 1人の男が氷室達に語りかけて来た。

 「久しぶりですねぇ……氷室さん………真壁さん………」
 「な………!!オ………オマエは………オ……オリックスブルーウェーブの天才打者……イチロー!!」

 「お二方とあろうお方がどうしたんです?」
 「草相手に2点しか取れず 2点も取られている……かなりの強敵と闘っているみたいですね……いいでしょう
 このボクが現役プロの強みを見せてあげましょう」

 そう言いながらイチローは にこやかに笑った。


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ザ・ドクター様の小説第7弾!!
へ??イチローて・・あのイチローなん???
草野球にイチローまでも・・・・(爆)もはやただの草野球とちゃう不思議な空間に・・・・
このままられとる平次と快斗やないとは思うけど・・・・どうなるんろ・・・おろおろ by あっきー

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