2人のプレイボール(8)
修羅聖斗(ザ・ドクター)




平次達の試合は6回裏を迎えようとしていた。

しかし 平次のチームは驚愕に震えていた。それもそのハズ。
現役選手であり高打率のバッター……イチローが敵陣営に現れたのだから。

野球を知る者の中でイチローと言う名を知らぬものは居ない。

そう。誰一人として。

「な……なんであの男がここに………」
平次はそう呟きながらバットを軽く握り 素振りをしているイチローを見ていた。そして快斗も。

平次は快斗に言った。
「快斗……あの男は要注意やぞ……プロ野球界でも上のほうの実力を持つイチロー……天才バッターや……」
アイツの凄いところは打ち損じをせんところや…ランナーになれなかったのは ほとんど野手の正面をついた打球や……
簡単に言えば あの男は三振をしないバッターなんや……覚悟を決めてかかりィや 快斗……」

「分かった………おそらくオレでも三振取れないと思うから守れよ……」
そしてイチローが左打席に入った。

「………行くぞ……プロ野球界の天才バッターさんよォ!!」
そう言いながら快斗はワインドアップから身体を思いっきり縮める。
そして その反動を利用して投げる。
リリースポイントは速い位置だ。

「ボッ」

次の瞬間 イチローの足が動いた。
「ふ……振り子打法ォォォ!!?」

「カキ――――――――――――ン」
金属音が響き渡り ボールが飛ぶ。ファウルグラウンドに。


「フフ……どうしましたか?これがプロの力ですよ……現役のね………」

 (……しかし 聞くと見るとではこうも違うものか……あらゆるリリースポイントから投げることが出来る……
 しかし 見極めれば怖くは無い………怖くは無いんだ)

 そうイチローは思っていた。

 そして その時の快斗の心情………!焦りが見えていた。どんな焦りか?

 2球目。快斗は遅いリリースポイントで投げようとした。
 しかし 次の瞬間 得も言われぬ恐怖を感じ 本能的に外した。

 「バシィッ」

 それを見た平次から 声が飛ぶ。
 「ヘイヘイ どうしたピッチャー!ノーコンだよ ノーコン!」
 間を置かず どこからかバットが飛んできて それは平次の頭に激突した。

 「ドカ――――――ン」
 そのバットを飛ばした主は和葉だった。

 「味方をヤジってどうするねん」
 平次の頭からはドクドクと血が流れている。

 が 快斗の耳にその声は入らなかった。
 (い……今……今 外さなかったら……どこでリリ−スしても打たれてた……)

 イチローは快斗を見ながら思っていた。

 (ほぅ……………感づいたか……オレ相手にはどこでリリースしても通じないことに……
 時間差で投げられても守備の間を抜くことなら可能だ………
 早いリリースポイントの時にはサード(三塁手)とショート(遊撃手)の間に……
 普通の時には二塁手(セカンド)と遊撃手(ショート)の間に………
 遅い時は一塁手(ファースト)と二塁手(セカンド)の間に打つ………これで時間差対策は完璧だ……)


 3球目。

 この球もボールだ。
 快斗は冷や汗をかきながら思っていた。
 (う……打たれそうで投げられない!!)
 イチローは快斗に向かって言い放った。

 「………敬遠か……そんな野球をしてて楽しいか?」
 快斗はロージンバッグ(松ヤニがついているスベリ止め)を右手で弄びながらがら言った。
 「そうだな」

 「タイム」
 源さんからタイムがかかった。そして源さんは平次の元に歩み寄って快斗には聞こえないような小声で呟いた。

 「平次………おそらく 快斗は打たれる……肩を作っておけ」
 タイムが終わり 快斗が深呼吸を始めた。

 「すぅ〜はぁ〜すぅ〜はぁ〜……」
 快斗の深呼吸が終わり 快斗がプレートを踏んだ。

 「ザシャァッ」
 そして 快斗がワインドアップから大きく踏み込む。

 (早いリリ−スポイントじゃ無い! 二塁手と遊撃手の間へ!)
 快斗が右腕を振り始めた。普通のところでボールを離さない。
 と 言うことは遅いリリースポイントから投げる気だ。

 (普通でもない!遅いポイントの球だ! 一塁手・二塁手の間に………)
 そして快斗の右手からボールが離れた。

 (流し打つ!!!)
 そう思いながらイチローがスィングを開始した。
 しかし ボールは遅かった。イチローのスィングが終わったと同時にボールはミットの中に収まった。

 「パスッ」

 それを見たイチローは呟いた。
 「チェ……チェンジアップ………」

 快斗は笑みを浮かべながら言った。
 「結構やるだろう?」
 「時間差+チェンジアップの『ダブルチェンジアップ』だ」

 それを見た平次は源さんに言った。
 「源さん やっぱ準備せんでえぇみたいや………才能のあるヤツっているんだよな………」
 「試合中に敵の球を覚えちまったよ…………」


 2−2(ツーストライクツーボール)で迎えた5球目。

 イチローがバントの構えをしてきた。
 プロ野球界でも随一の高打率バッターであるイチローがバントの構えを見せる。
 それは非常に稀なことであった。

 (バントしたければしろ……どんなに足があったってサードが取らずにオレが捌けば……同じ!!)
 「ボッ」
 早いリリースポイントからのピッチング。イチローはそのままバントする気だ。
 それを快斗は読んでいた。そして 三塁側に既に移動していた。

 しかし イチローの意識は別のところにあった………!
 それに いち早く気づいた平次は叫んでいた。
 「違う!快斗!三塁側(プッシュバント)やない!一塁側(ドラッグバント)やぁ!!!」

 「キン」
 イチローのバントは一塁側に転がった。と 同時にイチローは一塁めがけて全力で走り始めた。

 「ガシュガシュガシュガシュ」
 「逆っっ!」
 そう叫びながら快斗は足を伸ばし 足でボールを止め ボールを掴んだ。
 「ボッ」
 早いリリースポイントからの投球。イチローが一塁に迫っている。
 イチローが一塁を踏む寸前に一塁手がボールをキャッチした。

 「バシィッ」
 一塁手のミットの革が 小気味よい音を立てた。

 「アウト!!!」
 イチローは呟いた。
 「………ちくしょう……」

 平次は呟いた。
 「快斗やなかったら……リリースポイントの速い快斗やなかったら……ランナーを許してはった……」

 その時 河川敷に2人組の男が現れた。
 「まさか あの2人がバッテリーを組んでいるとはな………どう思う……?キヨ……?」
 「えぇ 対戦してみたいですわ ホンマに……しかしオレが興味あるのは対戦チームやな……」
 「氷室と真壁………あの2人が居ながらにして2点しか取れず また2点も取られてやがる……」

 「どんなヤツが投げているのか興味があるんですわ」
 「ほう……キヨ……オマエも気づいたか……なら オレ達も対戦してみるか……」
 そう言いながら1人の男が歩き出し 「キヨ」と呼ばれる男が後に続いた。


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ザ・ドクター様の小説第8弾!!
あのイチローを・・・快斗怖い(笑)にしてもプロからみたら初心者に負けた感じで悔しいやろなあ(爆)
そして新たなキャラ登場???もしや・・プロ?? by あっきー

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