ラン〜RAN〜

ザ・ドクター様

第28話 地の利

 (………つ………強い…………!!)
 そう思いながら 葵は階段の下にいるシルヴィアを見ていた。
 シルヴィアがコツコツと階段を上ってくる。
 「カツ……カツ……」
 徐々に。徐々にシルヴィアが葵に迫る。
 一段を上るごとに葵の破滅の時が近づいていく。
 その時だった。上から何者かが降りて来たのは。それはシルヴィアの背中に乗っかった。
 そしてシルヴィアの首に何かを巻き付けた。

 その者は怪盗キッド――――――………。
 「オィオィ こんな建物の中で暴れたらダメじゃ無いか」
 「キ……キッド……」
 葵がそう呟いた。
 「確かに建物の中の方が地の利を生かせるが 闘いってのは それだけじゃないだろう?」
 次の瞬間 キッドがシルヴィアの首に巻き付けたモノを引っ張った。
 (ピアノ線ッッッ!!?)
 シルヴィアはそう思った。しかし 本当は違った。ただのワイヤーであった。目に見えぬワイヤー。
 「シルヴィア 貴方も知っているでしょう?」
 「細く丈夫な繊維に関する最新情報を科学者の次に入手するのはマジシャンと言うのが常識になっている事を」
 シルヴィアの首に触れた感触。それでシルヴィアは全てを悟った。
 これが 普通の繊維である事に………!自分の力で切断も出来る程弱々しい繊維である事に………!
 次の瞬間 シルヴィアはキッドが巻き付けた繊維を引きちぎった。
 それを見たキッドはシルヴィアの後方にジャンプして移動する。
 普通のジャンプではない。山なりのジャンプだ。
 「ト……ッ」
 軽やかに着地した。
 その時 葵の頭の中には1つの言葉が渦巻いていた。
 (確かに建物の中の方が地の利を生かせるが………)
 (建物の中の方が地の利を……)
 (地の利……地の利……地の利………)
 地の利。その言葉が葵の頭の中に高速で渦巻いていた。
 (そうかッッッ)
 次の瞬間 そう思った葵。その時 シルヴィアはキッドを見下ろしていた。
 (この男…………邪魔な存在だな 今 潰すかどうか…………)
 長考――――――……長考の末 シルヴィアは決を下した。
 「潰すべきだわ」
 口から言葉が漏れた。それを聞いたキッドは笑みを浮かべながら口を開いた。
 「オイオイ オレを潰すのはいいけどなァ アンタの当面の相手はアッチだぜ」
 そう言いながらシルヴィアの背後を指差した。と 同時にシルヴィアが振り返る。
 その時だった。葵のヒザがシルヴィアの顔面に炸裂したのは。
 「グシィッ」
 シルヴィアの鼻が更に折れシルヴィアが階段を踏み外した。そして そのまま落下。
 「ズダダダダダダダッ」
 葵はシルヴィアの頭を階段に押しつけていた。階段の角でガン ガンと頭を続けざまに打つシルヴィア。
 その時だった。キッドが叫んだのは。
 「葵ッ こっちに来るなァッ」
 葵にとって思いがけない言葉だった。
 しかし「その言葉に従わなければ」と言う意識が葵の中にあった。
 葵の本能が何かを感じていた。危険な何かを。次の瞬間 葵はシルヴィアから離れる。
 その瞬間だった。シルヴィアの身体に次々と切り傷が出来たのは。
 「ピ……ピピ……ピピピ………」
 「ブシャ――――――ッッ」
 全身に切り傷が出来 そこから大量の血が一気に流れ出す。
 「繊維を使わせてもらった」
 キッドがシルヴィアを見下ろしながらそう言った。
 「先程のカンタンに切れた繊維は囮だったのさ………」
 「……一方の手に客の目を集中させ もう一方の手でタネを仕込む……それが魔術の基本だ」
 そう言ったキッドは火の点いたライターを宙に投げた。
 それは宙で止まり 炎が何かに燃え移っていった。
 「ボォォォォ………………」
 「この通り オレは宙に超極細の繊維を仕掛けていた……バラしてしまえば簡単だが そう言う仕掛けこそが最も効果的ではある……」
 「現にアンタはダメージを受けてるし」
 キッドのその言葉を聞いたシルヴィアは声にならぬ叫び声をあげた。
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ」
 その繊維はガソリンらしき液体に浸けられていたようだ。燃え移るのが速い。そして あっという間に燃え尽きた。
 「そらよ お迎えが来たぜ」
 そう言いながら キッドは葵を指差した。
 次の瞬間 葵がシルヴィアに飛びかかった。
 「この技で決める――――――………!」
 「“虎王”…………!!」
 瞬間 葵はシルヴィアの首を両脚で挟み込み 左腕を両腕で極めた。
 柔道で言う 腕ひしぎ十字固めに近い技だった。しかし 違うのは…………!
 キッドは思った。
 (両脚で首を絞めてる!!?……確かに脚で首を絞めればカンタンだが それを腕ひしぎと融合させるとはッッ)
 シルヴィアは思った。
 (空手屋が寝技!!?バカなッッ)
 葵は呟いた。
 「これが京極流――――――……京極 真が築いた格闘技の神髄よ」
 「……き………京極流!!!!?」
 シルヴィアがそう言った。葵は言葉を続ける。
 「京極さん……あの人の考え方に空手や柔道等の敷居は無いわ……使えると思ったらとことん 自分の格技に取り入れる……」
 「そうやって京極流は日々進化し これからも成長を続ける………」
 そして 葵の“虎王”が極まった。決着である。
 ………普通の『試合』ならでは………だが。しかし これは『試合』では無い。『死合』なのだ。
 シルヴィアは空いている右腕で葵の脚を掴み 強引に引き剥がす。
 「!!!」
 そして 葵をそのままの体勢で持ち上げ 階段の手すりの角に叩きつける。
 とっさに葵は 額からぶつかりにいった。
 「ガキィィン」
 額が一番固いとは言え かなりのダメージを受けている事は間違いない。しかし 葵は耐えていた。
 「くッッ」
 額を血にまみれさせながらも葵は立ち上がって来た。そう叫びながら。
 次の瞬間 シルヴィアに飛びつく葵。そしてある技に極めていく。
 “虎王”――――――………?いや。これは“虎王”の形じゃない……。だとすれば………?
 (な……なに……この技…………!!?)

 シルヴィアですら見た事も無い技であり 初めてかけられる技であった。
 そして 葵も初めてかける技であった。
 この技に名前を付けるとするなら………“裏・虎王”と言ったところか………。
 右腕でシルヴィアの左腕と首を同時に極め 左腕で右腕を極め 脚で両脚を極める……。
 身動きが取れない型であった。
 間もなく シルヴィアが気絶した。葵VSシルヴィアに遂に決着したのである。

 ◆遂にひとつのカードに決着!!葵の激勝だッ!!

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ザ・ドクター様の格闘小説28話
葵VSシルヴィアの勝負は思いがけない方向でついたって感じかな(笑)
というかキッドがここで参戦してくるとは・・・・・・このあとシルヴィアは拘束されるんかな?
そして新たなたたかい場が・・・・・・なんちゅうかスクリーンで見てみたいなあ・・・これ。by あっきー

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