ラン〜RAN〜

ザ・ドクター様

第30話 怒濤


 北斗の顔にシルヴィアの左ヒザが入った。それをマトモに喰らった北斗は仰け反る。
 北斗がグラついた。グラつきはしたがダウンには至っていない。
 「ドリュッ」
 北斗のパンチがシルヴィアの顔を襲う。シルヴィアはそれをかわし 北斗の顔にチョップを浴びせる。
 「ビチィッ」
 と 同時に北斗が シルヴィアの手を掴んだ。正確には手首だ。
 手首を掴んでシルヴィアを懐に引き寄せ パンチの嵐。
 「ドガッドガッドガッ」
 殴られ続けながらシルヴィアは思っていた。
 (これが………これがプロレス………遠慮のないプロレス………これが………ッッ)
 (これがアタシの望んでいたプロレスだわッッッ)
 シルヴィアは殴られながらも徐々に前進していく。

 葵は思った。
 (エ………?何……?徐々に間合いを詰めている………?)

 その瞬間 シルヴィアは北斗に掴まれていない方の腕……左腕を北斗の腰に巻き付けた。
 そこから片腕でバックドロップ。見事なバックドロップだ。怪力の者にしか出来ぬバックドロップ………!
 「ドシャァァッ」
 北斗を頭からリングのキャンバス目掛けて叩きつけた。その衝撃で北斗が掴んでいたシルヴィアの手が外れる。
 シルヴィアは それを機と見る………!
 「シュザザァッ」
 瞬時に北斗の脚を固める……。アキレス腱固め。北斗の腱を破壊に行く気だ。
 「ミシミシミシ」
 北斗の腱が悲鳴を上げている。
 「どう?北斗?ギブアップするなら今のウチよ?」
 「フン そんなみっともないマネが出来るかよ」
 シルヴィアの問いに北斗はそう答えた。
 しかしながら ギブアップは恥ずかしい事では無い。
 身体が動かなくなるまでやるのは間違っているという現代スポーツに於ける認められた『試合放棄』。
 北斗はそれをも脆弱(ぜいじゃく)と言い放つ。
 北斗にとって闘いとは余力を残すようにやるモノではない。余力を残さないように。
 余力を水に例えるなら最後の一滴までも絞り出す。そう言うのを闘いというのだ。
 北斗は 過去にこう言い放ったコトがある。
 「ギブアップが認められている格闘技は真の格闘技では無い」と。
 自らのやっているプロレスを否定するかのような言葉。そこが北斗らしいといえば北斗らしいが。
 そのためか 北斗は今までにギブアップをした事が無い。ただ一度たりとも………!!
 全てを出し切れば勝っても負けてもどちらでも良い。勝敗より燃え尽きることに重点を置く。
 それが 北斗 晶というプロレスラーなのだ。

 山梨の一軒家。それは山の中にあった。人がまったく通る事のない山の中に。
 「本庁の剣持です」
 「まさか こんな山の中にいたとはね…………探しましたよ」
 剣持がそう呟いた。剣持の目の前には1人の男性がいる。
 「赤木 しげるさん」
 赤木と呼ばれた男が言った。
 「こんな山の中に遠路はるばる来てもらってご苦労だが……話す事は何も無い……失礼する」
 そう言いながら 赤木は立ち上がった。
 「待って下さい 赤木さん……いえ………KING………」
 KING。その剣持の一言に赤木の眉がピクリと動いた。
 「どこで知ったんだい?そんな事を……?」
 反応を示したかのように赤木はどっかとあぐらをかいて座る。
 その時 ふすまが開き 女中が入って来た。
 「お茶をお持ちしました」
 「ご苦労 栞」
 その女中は紅 栞だった。
 剣持は言葉を続ける。
 「随分と調べ上げたんですよ……赤木さん」
 「貴方の部下がこの日本で暴れ回っています 是非止めて下さい……貴方ならあのバケモノ達を止める事も可能なハズだ……」
 「鬼神と呼ばれた貴方ならッッッ」
 赤木は呟いた。
 「鬼神と そう簡単に言うがね……キミはオレの強さを見た事があるのかい?無いだろう?それでは話にならない」
 「出直して来たまえ」
 「いや オレは日本の運命を背負ってここに来ている だから そう簡単に引き下がるワケにはいかない」
 「ほう……言うね」
 赤木は剣持の言葉にニヤリと笑みを浮かべた。
 「しかし オレの強さを見た事が無いのではやはり話にならぬ……出直して来たまえ」
 それを聞いた剣持は不敵な笑みを浮かべながら言った。
 「その手には引っかかりませんよ 赤木さん」
 「オレの強さを見た事が無い……と言うが……貴方の強さは異例中の異例……文字にも映像にも残って居ない」
 「それでいて 現場を目撃した者の脳内には永遠に残っている………」
 「貴方の闘う姿を見た人達は 決まって こう言う」

 「あの男の強さはまるで『鬼神』のようだと………!」
 
 それを聞いた赤木は眼をパチクリさせながら言った。
 「クックックック 随分と持ち上げてくれるな………」
 「………映像にも文字にも残って無いというのなら オレの強さは確実に目撃できない……それが分かってて何故粘る?」
 「1つ方法がありますよ」
 そう言いながら 剣持はニヤリと笑みを浮かべた。
 そして 剣持は栞の持って来た湯飲みに手を伸ばす。中にはお茶が入っている。
 剣持はそれを少し飲んだ。
 「ゴク……」
 それと同時だった。剣持が湯飲みの中を赤木目掛けてブチまけたのは。
 その瞬間 赤木が立ち上がり 液体をかわした。服には水滴が一滴さえも付着していない。
 剣持は思った。
 (液体をかわしやがったッッッッ)
 「確かに こうすれば 強さを見る事は 出来るわな……」
 「ええ……その結果 赤木さん 貴方はやはり凄い……液体をかわせるなんて……」
 「ああ……オレは 誰にも協力しない…誰にも 何が有ろうとも協力しない」
 「赤木さん」
 「真の狼は群れることを嫌う 狼は自分一人で……一匹で生きていけるからだ……それと同様にオレは仲間を作りたくない……」
 「作りたくないからこそ 常に1人でいる………」
 それを聞いた 剣持は呟いた。
 「なんてこった……この男は既に孤高の渦に身を投げ出してる……この男をどうやったら動かせるのか……」
 「剣持さん……オレは協力できないが ソイツを連れてって下さい 役に立ちますよ」
 赤木はそう言いながら栞を指差した。
 「いいんですか?」
 「ええ……ソイツもオレ程では無いにしろ そこそこの腕ですから」
 「有り難うございます」
 そう言いながら剣持は栞を連れて立ち去ろうとした。
 その時 赤木が呟いた。
 「剣持さん 貴方のさっきの話は見事だが一カ所間違っている」
 「エ?間違ってる事?」
 「そう オレは既にKINGでは無い」
 「エ?KINGでは…………無い?」
 「そう 数年前にその座を譲り渡しましたよ……今のKINGはアイツですよ」

 ◆遂に探し当てた赤木しげる………!しかし 彼は既にKINGでは無かった。KINGの正体は!!?

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ザ・ドクター様の格闘小説30話
赤木しげる・・・・どっかで聞いたような・・・・・(悩)
それにしても液体を避ける事が出来るのかぁぁ?!何者?・・・・・
しかもその赤木がKINGの座を譲った相手とは・・・・いったい・・・・(☆☆)キラリン by あっきー

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