ラン〜RAN〜

ザ・ドクター様

第44話 総勢58万人

  
  都内某所をタクシーが走っていた。
  その中には女性の運転手とシェラザードがいた。
  「運転手さん…キミも明智ファン………?」
  運転手は顔色を変えずにそのまま冷静に運転をしていた。
  「シェラザードさん…………」
  「私も…………私の周りも…」
  その言葉を聞いたシェラザードが呟いた。
  「マワ………リ…………?」
  シェラザードは後ろを向いて確認しようとする。そして、その目に写ったモノは…。
  「全てが…………明智ファンです」
  そこには自動車のランプが大量に光っていた。そのタクシーを取り囲むように。
  「ご覧になれますか?ミス シェラザード?」
  「乗用車・トラック・大型・小型………果てはパトカーや……消防車……救急車までも………」
  「そのどれもが明智ファンです」
  「ある者は勤務中に………」
  「ある者は休暇を利用し………」
  「ある者は門限を破り…」
  「ある者は夜遊び中に……」
  「ある者は家出をし……………」
  「それぞれが同一の目的でここに集まっています……」
  「貴女への復讐のためです」
  「出来るならば大人しくして戴きたい………小細工を弄して何とか出来るレベルではないのですから」
  「明智ファン58万人全員が貴女へ一矢を報いたがっている」
  「もちろん私も…………」
  それを聞いたシェラザードは呟いた。
  「目的地…新宿へは辿り着けそうもないわね…」
  「申し訳ありませんが今は我々に従って戴きます………」
  「どこに向かっているのかな………?」
  「今しばらくの辛抱です………」
  そして、タクシーが止まった。
  「………お代は結構です…」
  そしてシェラザードがタクシーから降りる。
  そこには大量の女性がいた。
  「………ここは…遊園地!!?」
  「……今から入場して欲しい……この遊園地は明智ファンクラブの関係者が経営する遊園地…」
  「何があるというの…?この園内に………?」
  「さぁてね…私達が命ぜられたのはここまで……」
  「貴女をここまで連行しろ………と………」
  「貴女達は…知っているハズよ…」
  「この園内に誰がいるのか……そしてその目的も…」
  「そしてその誰かとは私が一番会いたがってる人…………」
  「即ち……ここが私の来たかった場所…」
  「貴方達がわざわざ連れて来てくれた………ある者は勤務中……ある者は家出中だというのに………」
  「……礼を言いたい………」
  そう言ってシェラザードは構えた。
  「どう?私とやりたかったんでしょ?」
  「じゃ…アタシがやってあげるわ…」
  その声と同時に人混みの中から1人の女性が拳を鳴らしながら出てきた。
  どこからか声が聞こえてきた。
  「麗華………」
  「………敗北を知りたいんだって……?」
  「………ならアタシがこの拳で教えてやろうじゃない…?」
  「………教えてくれるの…?」
  そう言いながらシェラザードが不敵な笑みを浮かべた。
  次の瞬間、麗華が動いた。
  一瞬で踏み込み正拳突きを放った。
  「ボォッ」
  それをかわすシェザラード。そこに麗華の蹴りが放たれた。
  「ドゴォッ」
  まともにクリーンヒット………。いや。シェラザードのガードの上だった。
  追い打ちをかける麗華。
  「ベチィッ」
  蹴りがシェラザードの脚に強烈にヒットした。
  「ィよっしゃァ」
  「勝てるわッッッ」
  周りの人達がそう叫んでいた。
  それを聞いた麗華は思っていた。
  (まだ…………まだ分からない………)
  (この怪物相手にアタシの技が通じているのかどうか…………ッッ!)
  (その答えがここで分かるッッッ)
  そう思いながら麗華がシェラザードの背後に回り込んだ。
  そして、シェラザードの首に両腕をかける。
  「裸絞め(チョ〜〜〜〜〜ク)だァッッ」
  「完璧に決まったッッ」
  「完璧に決まった裸絞めは簡単には外れないッッ」
  (ィよしッ 勝ったわッッ このまま絞め落とすッッ)
  麗華は徐々に力を込めている。それとは対照的に全く動かないシェラザード。
  それが不気味であった。何も覚悟を決めたワケでもあるまい。
 (何を考えているのッッ 下手するとこのまま絞め落とされるわよッッ)
  その時だった。シェラザードの左腕がユラリと動いたのは。
  そして麗華の右手を掴む。シェラザードの左手の中で乾いた音がした。
  何かが折れた音。そう。例えて言うなら枯れ木が折れたような音。
  「ぴきり」
  シェラザードが折った。麗華の左小指を。
  その瞬間、麗華の左手から力が漏れていく。
  (ち……力が……抜けてく………)
  「どうだい 力が抜けていくだろう?」
  「拳を握る時……一番大切なのは親指や人差し指のように見えるが実は違う………」
  「一番大切なのは小指なのさ」
  「………ウソだと思うなら試してみるといい………強く拳を握れないだろう…?」
  「分かってるよ……でも それならこっちも知っているわ………」
  そう呟きながら麗華はシェラザードの片足を踏み、軽く胸を突いた。
  「トン………」
  「こうすると………足を踏まれているために動けない……動くのは上半身だけ……」
  「つまり無防備の状態になる………」
  「――――と思う?」
  その瞬間、麗華の顔が何かに叩かれた。
  蹴り。シェラザードの蹴りが麗華の顔を捉えた。
  (な………ッッ……人間か………?この女………?)
  (人間と言うよりはむしろ――――………“獣”ッッッ)
  (“獣”並みの運動能力ッッ 反射神経ッッ)
  (この女に勝つとしたら……………“獣”並みか それ以上の能力を持つ者しか…………ッッ)
  シェラザードは呟いた。
  「さて………入らせてもらおうか…………」
 そして 彼女は遊園地に入った…………。
 
 ◆遊園地!ここで最大の復讐戦が始まる!!

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