奇術師の死闘 13
作:Gahal様


1月2日午後9時

トミノ高原リゾートホテルの連絡橋が爆破されてからすでに12時間以上が経過した。
青子は相変わらずホテル新館非常口前で捜索活動を見守っていた。
夜になって再び雪が降り出し、気温も一気に氷点下にまで下がった。

「何やってるのよ。」
ある人物が背後から青子に声をかけた。
そこにいるはずのない人物に声をかけられたので、青子は心臓が止まるかと思うほどびっくりした。
青子はおそるおそる後ろを振り返った。

青子「紅子ちゃん?」
紅子「何よ?幽霊でも見たような顔して。」
青子「だって…どうしてここに?」
紅子「ニュースを見て飛んで来たのよ。」
青子「でも、東京からこんなに早く来れるなんて…」

その発言に紅子はクスッと笑いながら答えた。

紅子「ニュースに出てからもう12時間もたってるのよ。それだけあれば沖縄からだって飛んで来れるわ。」
青子「12時間って…」

青子は事件が発生してから初めて時計を見た。

青子「もう9時!?青子全然気づかなかった。」
 ちょうどそのとき、今まで捜索活動を続けていたレスキュー隊全員がホテルに入ってきた。
ところがどう見ても快斗が見つかったようではない。青子はその中の一人を捕まえて尋ねてみた。

青子「あの…どうかしたんですか?快斗が見つかったんですか?」
その隊員は申し訳なさそうに答えた。
隊員「いえ…あの実は…本日の捜索活動は中止になったんです。」
青子「中止!?じゃあ快斗は、快斗はどうなるんですか!?」
隊員「申し訳ありません。この吹雪ではどうしようもないんです。明日の朝6時には再開の予定ですので…」
そして彼は深々と頭を下げてからホテルの奥へと行ってしまった。

青子「そんな…」
青子はその場にへなへなと崩れた。そして…
青子「快斗…」
誰にも聞こえないような小さな声でボソッとつぶやいた。



キッド「ん?今、青子によばれたような…」
キッドはキョロキョロ辺りを見回し、首をかしげた。
しかし周りには誰もいない。

キッドは今B5階の廊下を歩き回っていた。B6階へ降りる道がないか探していたのだ。
キッド「ま、気のせいだな。」
しかしこのことが、今の今まで忘れていた青子のことをキッドに思い出させることになった。キッドは青子に対して猛烈にすまなく思った。

キッド「もう12時間以上にもなるんだ。青子のやつ心配してんだろうな…。」
そしてキッドは、出来るだけ、一秒でも早く青子の元に帰ると心に決めた。




 一方の青子はホテルの床にうずくまったままピクリとも動かなかった。
紅子が横から何度も名前を呼んでいることにも全く気づかない。
そのとき青子には別のものが見え、別のものが聞こえていた。

 闇の中に木の一本すらない広い雪原が広がっていた。
その雪の中に快斗が半分埋もれていた。青子は何度も快斗をよんだり体を揺すぶったりしたがピクリとも動かない。
快斗の体はすでに冷たくなっていた。

 青子はパッと立ち上がった。
そこは闇の雪原ではなく快斗の姿もない。ホテルの床の上で青子は現実に戻った。
そして"最悪の想像"を頭から振り払い彼女は吹雪の雪原へと飛び出していった。

再び快斗に会うために…。


紅子「ちょっと待ちなさいよ!!中森さん!!」
紅子はあわてて青子の後を追った。
紅子は怪盗キッドの正体が黒羽快斗であることを知っているので"怪盗キッドは飛び立った"とニュースで報じられた時点で
快斗が無事であると気づいていた。
しかしそのことを青子に言うわけにはいかない。紅子はただ黙って青子の後を追うことしか出来なかった。

 雪の上を走る速さは青子より紅子のほうが少しだけ速かった。
その上、青子がつまずいて転倒したため紅子は完全に青子に追いついた。

紅子「何考えてるの!あなたまで遭難したらどうするの!!」
青子は自分の上に馬乗りになって羽交い絞めにしている紅子を振りほどこうともがきながら答えた。

青子「だって…だって…明日の朝までなんて、そんなに待ってたら快斗が死んじゃう!!」
紅子「黒羽君なら大丈夫よ。だって黒羽君は…黒羽君は…」

"怪盗キッドなんだから"という言葉が喉まで出てきていたが紅子はそれを口に出すのをためらっていた。
その瞬間、いままでもがき続けていた青子が急におとなしくなった。

青子「ねえ、あれ何かな?」
2人の目と鼻の先の地面(雪面?)に大きな穴が開いていた。
直径約20メートルの円形の穴で、深さも底が見えないほどだった。

青子「これは…」
穴の周りを歩き回っていた青子が、その淵で雪に半分埋もれていた"それ"を見つけた。

青子「これ、快斗の手袋だよ。」
紅子「間違いないの?」
青子「うん。だって黒羽快斗って書いてあるもん。ほら」
確かに黒い手袋に白い文字で"黒羽快斗"と刺繍されていた。

紅子「でもどうしてこんな所に?」
青子「ひょっとして快斗、この穴に落ちたんじゃ…」
そういって青子は再び穴の中を見渡し、穴の中へと続く階段を見つけた。
2人はその会談から穴の中へと降りていった。階段を降りると、穴の途中にあるスロープのようなところについた。
今度は紅子がエレベーターを見つけ、2人はさらに穴の底へと降りていった。


 エレベーターの下降が終わり扉が開いた。そこは地下深くにあるプラットホームで、ちょうど列車が一両停まっていた。

紅子「こんな地面の底にこんなものがあるなんて…」
紅子はあっけにとられながらプラットホームをぐるっと見渡した。その間に青子は列車に乗り込んでいた。

紅子「なにやってるのよ中森さん!!」
青子「紅子ちゃんはホテルに戻っててくれていいよ。」
紅子「黒羽君がその電車に乗ったとは限らないじゃない。」
すると青子は頭をゆっくり左右に振って答えた。

青子「快斗だったら…もしこんな所に電車が止まっているのを見つけたら乗らないわけないもん。」
紅子「…しかたない、私も行くわ」
そう言って紅子もその列車に乗り込んだ。

青子「紅子ちゃん、ありがとう!!」
青子はぱっと顔を明るくして言った。紅子は笑顔でそれに応えたあと真顔に戻って運転席についた。

紅子「さ、行くわよ」
青子「うん。」
そして2人を乗せた列車はどんどんスピードを上げ、地の底を貫く暗いトンネルの中へと入っていった。 

<遺書>
とうとう生き残っているのは私一人になってしまった。
今度所長が来る時が私の最期になるだろう。
もう時間の問題だ。実験動物として利用されるくらいなら私は自ら死を選ぶ。


キッドがB6階について始めて入った部屋で見つけたのがこの遺書だった。

B6階は大きな研究室がズラリと並ぶ廊下が続いていた。
どの研究室にも人の気配や機械が動いている気配がなかった。
そんな中でただ一部屋だけ部屋に明かりが灯り、機械音が聞こえてきたのだ。

キッドがその部屋に入ったとき、白衣を着た人が一人機械に寄りかかっているのが見えた。
近づいてみるとその人物はすでに死んでいた。おそらく毒を飲んだのだろう。
右手に何かの空き瓶を持っていた。そして左手に今の遺書が握られていたのだ。


 キッドはさらに先を急いだ。研究室が立ち並ぶ一角を過ぎると一転して何もない静かな廊下に出た。
その廊下をさらに進むとドアが一つだけ出てきた。中に入るとそこはとても小さな部屋だった。
ただでさえ小さい上、ベッドと机が入り、さらにその上や床一面に書類のようなものが散乱していたので足の踏み場さえなかった。
その書類に埋もれるように机に一枚のカードが置いてあった。
これはこの研究所のIDカードのようで、裏面には顔写真も入っていた。その顔はあのグリーンのものだった。
しかしそのカードに書かれている名前は"グリーン"ではなく"緑尾雄一"となっていた。

キッド「"青川千枝"が"ブルー"、"緑尾雄一"が"グリーン"か。そういやレッドの名前ってまだ聞いてなかったよな。」
その瞬間、キッドの頭に"守の父の手記"のある一文がうかんだ。

『私は・・・・・・妻たちを探すために探偵を雇った。探偵の名前は赤島。』

キッド「レッドの正体って…まさか…!?」



 B6階の、キッドがいる所とは別の廊下のマンホールのふたが突如ボコッと持ち上がった。
さらにそのふたは横にスライドし、マンホールから一人の男がはい上がってきた。
それはレッドだった。レッドは立ち上がり、目の前にドアがあることを確認してからつぶやいた。

レッド「…着いた。」
そしてレッドはそのドアのノブに手をかけ、回した。ノブは何の抵抗もなく回った。

そしてドアは開き、レッドはその部屋の中に体をすべり込ませた。
その部屋のルームプレートには"所長室"と書かれていた。

 所長室はとても狭く、椅子が1脚とその正面に100インチ程の大きなモニターがあるだけの部屋だった。
(つまり、キッドとレッドが5階のコンピューターを起動するのを8982が見ていた部屋である。)



 突然正面のモニターにある人物の顔が映し出され、モニター両サイドのスピーカーからその人物のものと思われる声が聞こえてきた。


「やあ、よく来たね」

レッド「8982!!」

8982「ちょうどいい時に来てくれた。いや実は君を探していたところなんだよ。私の研究室(ラボ)に招待しようと思ってね。」
するとレッドのすぐ右側の壁の一部が横にスライドし、隠しドアが出現した。

8982「さあ入りたまえ…赤島君。」




14章へ続く 

Gahal様の小説奇術師の死闘13!!
いよいよクライマックスに突入???
あの紅子ちゃんまで参戦(違)してくれて非常にうれしい(笑)
そしてレッドの正体が明らかに・・・・・・・・?!
赤島さんが探偵?!いよいよ対決?!byあっきー

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