奇術師の死闘 9
作:Gahal様


電子ロックされた扉の向こうにあったのは長い長い階段だった。

天井、壁、階段…そのすべてが今の日本には似つかわしくないレンガ造りだった。
レンガの表面にこけがこびりついて緑色になっているところから見ると相当古いものだろう。
それは所々欠けたりはがれ落ちたりしているレンガからもうかがうことができた。

 そんな階段を下る2人の足音があたりに響いていた。



その2人よりずっと地下深いところに一人の少年が監禁されていた。
「だれかきたのかなあ・・・おじちゃんがきていらいだ。なんにちぶりだろう・・・あのひとたちに、これをわたさなきゃ」
少年はひとりつぶやいた。"おじちゃん"からあずかった大切なものをぎゅっと胸に抱きかかえて。

キッドとレッドは長い階段を下りきった。その先には、まっすぐ続く廊下と、その右側の壁にドアが一つあった。


キッド「どうする?」
レッド「…二手に分かれよう。俺はこの廊下を行く。お前はその扉の方を調べてくれ。」
キッド「わかった。」
レッドはそのまま走っていってしまった。

レッドを見送った後、キッドも扉の奥へと進んでいった。そこは5メートル四方の小さな部屋で、一番奥の壁には鉄格子の入った窓がついていた。
キッドがその窓をのぞき込んでみると、中には一人の少年がいた。

キッド「君は、もしかして守君か?」
少年は小さくうなずいた。
守「そうだよ。おにいちゃんだれ?」
キッド「ん?オレのこと知らねえのか?」
守「しらない…」
キッド「結構有名なんだけどな。オレ」
守「ぼく…ここからでたことがなくて、そとのことぜんぜんしらないんだ。…」
キッド「そっか…ま、いいや。とにかくすぐそこから出してやるからな。」
守「…ぼくをたすけにきてくれたの?」
キッド「ああ」

すると守は一冊のノートのようなものを鉄格子の柵の間からキッドに差し出した。
守「…これ」


キッド「なんだこれ?」
守「おじちゃんが、ここにきたひとにわたしてくれって。」
キッド「おじちゃん?」
守「となりのろうやにいれられていたおじちゃんだよ。おにいちゃんみたいにぼくをたすけにきてくれたっていってたけど、みつかってつかまったんだ。」
キッド「そのおじちゃん、まだ隣の牢屋にいるのか?」
守「ううん、それをもらったつぎのひにいなくなっちゃった。」
キッド「・・・」

それからキッドは黙ってパラパラとページをめくりながら一通り目を通した。
それは、便せんに書かれた手記の一部だった。よく見るとあちこちでページが破りとられていた。





<守が"おじちゃん"から預かった手記>
 
私の名は神崎俊継、私はごく普通のサラリーマンで、妻の佐智子と娘の千枝と3人でごく普通の生活を送っていた。
あのときまでは・・・

 妻の佐智子が再び妊娠した。私たちの二人目の子供だ。千枝に兄弟ができたのである。
 そのころ私は高校時代の悪友と15年ぶりに再会した。彼の名前は青川哲彦といった。

 その日以来、私と青川はちょくちょく会うようになった。
最初のうちは、行きつけの飲み屋で飲む程度だったのが、いつの間にか家に青川がやって来るまでになった。
このとき私はまだ、青川の眼に映る邪悪な光に気づいていなかったのである。

 この頃から、私の周りでおかしなことが起こるようになった。
私や妻のクレジットカード会社から身に覚えのない請求がきたり、銀行や郵便局の口座からいつのまにか大金が引き出されていたり、
1日何十回にも及ぶ無言電話やいたずら電話がつづいたり、さらには会社に私の悪口が書かれたFAXが大量に送信されたり、
私が預かっていた会社の機密書類の情報がいつのまにかライバル会社に漏れていたり、ということが続いたのだ。

 私は会社を解雇された。そして妻は娘を連れてついに家を出ていってしまった。

 それからしばらくの間、何もかも失ってしまった私は酒におぼれるようになってしまった。

 数ヶ月後、実家から私の両親がきた。
それまで妻たちは実家へいっていると思っていたのだが、違っていたのだ。(妻の両親はすでに亡くなっている。)
両親は、新しく生まれてくる孫の顔を見に来たのだが、(そのときもう佐智子の腹の中にいた子が生まれてくる頃になっていたのである。)
佐智子が不在なので、捜索願を出せなど、一通りいった後両親はそのまま帰っていった。

 次の日私は警察に捜索願を出し、妻たちを探すために探偵を雇った。
探偵の名前は赤島。はじめの1年間はまったく何の手掛かりも得られなかったが、それからしばらくして思いがけないことが起こったのである。
いままでまったく連絡のなかった妻から手紙が届いたのだ。
その手紙には、2人目の子供も無事に生まれ守と名前を付けたこと、佐智子たちは青川のところにいることが書かれていた。
肝心の青川の家の住所は書かれていなかったが・・・
 私は早速、赤島探偵に青川の家の所在地を調べてくれるよう頼んだ。

 それから青川の自宅が判明するまで半年もかかった。しかし、そこはすでに青川の家ではなくなっていた。
青川たちは引っ越した後だったのだ。その後また情報もないまま2年が過ぎた。

相変わらず何の情報もはいってこない日が続いていたある日、再び私の元にとんでもない知らせが入ってきた。
 佐智子が死亡したというのである。前日の雨で地盤がゆるみ、もろくなった峠道を路線バスが通ったために崩れてしまったという。
バスはそのまま崖下まで転落し、乗員・乗客は全員死亡だった。
その犠牲者の中に佐智子が入っていたのである。警察から連絡を受けた私は目の前が真っ暗になった。

 佐智子の遺品の中に一通の手紙があった―それは彼女が私に当てた最後の手紙だった。
それには、青川の態度が豹変し、佐智子たちに暴力をふるうようになっていったこと。
毎晩酒を飲んで帰るようになり、酔った青川はさらに暴力をふるったこと。そしてしまいには新しい女をつくり、家につれてくるようになったこと。
それを境に青川の態度はさらに急激に悪化し、守は屋根裏に閉じこめられ、千枝は青川とその女に奴隷のようにこき使われ、
佐智子は青川の家から追い出されてしまったということ。青川の新しい家の住所を書いた上、子供たちを助け出してほしいということが書かれていた。

 だが、不幸はこれで終わったわけではなかった。
佐智子の死を知った私の父親が、その数日後、心臓発作で入院し、その晩に息を引き取ったのだ。
 私は、佐智子の手紙にあった住所から青川の家を突き止め訪ねていったが、青川たちは再び引っ越ししてしまっていた。
 私は再び赤島探偵に依頼し、青川の新しい家を探してもらうことにした。
 そしてそれから数年がたち、やっと赤島探偵が青川の新しい家を見つけてくれたのである。そう、この雑居ビルを。

 翌日、私は早速札幌へと飛び、ビルへと潜入した。
(それから私がB2階への電子ロックを解除し、さらにらせん階段からB4階までたどり着くまで1ヶ月以上かかった。
この時、万一に備えてコンピューターにパスワードを保存しておいた。)
 B4階についた私は千枝と再会することができた。

 千枝は私のことを憶えてはいなかったが、私を見るなり、青川に見つかると危険だからと私を自分の部屋にかくまってくれた。
 千枝の部屋は5メートル四方で、一番奥の壁に鉄格子の入った窓があるだけの部屋だった。

 私たちが部屋に入ってすぐ窓の向こうに小さな顔が覗いた。それは守だった。あれから8年、やっと息子の顔を見ることができた。

 守はB6階の地下牢に閉じこめられていたが、その天井に穴があいていてそれがB4階の千枝の部屋につながっていたのだ。
以前はその窓から千枝の部屋に出入りしていたらしいが、青川に見つかって鉄格子を入れられたらしい。

 その夜、私は千枝の部屋に泊まり、いろいろな話をした。
その中で、現在の千枝と守の状況は佐智子の遺書に書かれていたものよりさらにひどいものになっていた。
守は地下牢に閉じこめられ、千枝に至っては犯罪行為までさせられるようになっていたのだ。

 一晩泊まった後、私はさらに下へせめて守の地下牢への入り口があるB6階まで降りるために先へと進んだ。
 ところが、B4階の廊下のどこを探しても下へ降りる道は見つからず、その数日後に私は千枝の部屋にいるところを捕まってしまった。
 千枝に聞いた話では、B4階の廊下をしばらく行くと"天国と地獄の廊下"という廊下にでるらしい。
その廊下は中枢部へと続く唯一の通路だが、どういう訳かいつもふさがっているという。
"天国の門"から入り、"地獄の門"から出るのだがそのすぐ先が行き止まりだというのである。

 わたしは、目隠しをされたままB6階の地下牢へと監禁された。
天井部分の空間ですべての地下牢がつながっており、千枝の部屋の窓ともつながっているので、よく守が私の監獄へやってきた。
そのたびに私は食事のほとんどを守に食べさせた。

 それからすでに数ヶ月が過ぎているが、私はまだ2人に父親であることを明かせずにいた。
10日に1食の食事のせいか、体の具合が悪くなってきた。私はもう長くは生きられないだろう。
 もし誰かこのビルに潜入できたなら、私の子供たちを助けてやってほしい。

キッド「これ、読んだのか?」
守「ううん。ぼく、じがよめないから。」
キッド「ところで牢屋の入り口はどの辺にあるんだ?」
守「もっとずっとしたのほうだよ。」
キッド「下って・・・」
守「ここのろうや、みんなてんじょうのところでつながってるんだ。ほんとうはそのへやともつながっていたんだけど、みつかってしめられちゃった。」
キッド「・・・」
守「そこ、ぼくのおねえちゃんのへやなんだ。おねえちゃん、はやくかえってこないかな・・・」
キッド「その・・・お姉ちゃんのことなんだけどな・・・」
守「なに?」
キッド「いや・・・なんでもない。」
お姉ちゃんはもう帰ってこない・・・言おうとしたが、やはり言えなかった。

キッド「わりぃ、オレもう行くわ。」
キッドはドアを開けながら一度振り返り、言った。

キッド「・・・また、下で会おうぜ。」
守「うん、待ってる。」
そしてキッドは千枝の部屋を後にした。



 一方、エレベーターからなんとかはい出た白馬達は、下へ下りる道が他にないか3人で手分けして探していた。
北浦「中森警部、ちょっと来てください」
建物内を探し回って途方に暮れていた白馬達の所に、外を調べていた北浦の声が聞こえてきた。
2人がすぐに声のした方に向かうと、北浦が建物の裏側の方を向いてかがみこんでいた。そこには、地下へと続く階段がぱっくりと口を開けていた。

白馬「よく見つけられましたね。」
北浦「いえ、偶然開いていたんですよ。それより早く行きましょう。」
白馬「そうですね。」

3人は、その階段を下りていった。

第10章へ続く

Gahal様の新作マジック快斗小説!!
うわ〜・・・・おじちゃんの手記はなんとも・・青川の酷いところがバリバリ!!!(爆)
姉さんは守るの為に命はってたのに・・・。あああ・・・どうなるのだー(TT)←じたばた(笑)
そして待望の白馬(え?私だけ?!)の活躍お待ちしてます(爆)byあっきー

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