読者の方は覚えておいでであろうか?
そう、二度だけしか出ていない馬鹿な悪役の女科学者を!!
「誰が馬鹿な悪役よ!!」
そして、一応魔法少女の敵であると言うことを!
「なぜ≪一応≫がつくのよ!!」
これは、その一応魔法少女の敵である馬鹿な悪役の女科学者のお話。
「訂正しなさああああああああああああい!!」
魔法少女マジカル☆哀 黒の組織の罠!? 前編
「はあ……」
灰原哀は、住宅地の見知らぬ家の屋根の上で座りながら、何度目かわからぬため息をついた。
「待てえーーーーー!!」
空を飛ぶ小さな黒いネコのような生物が、これまた屋根の上を逃げ回るネコのようなモノを追いかける。
それは、どこにでもいる普通のネコのように見える。
しかし、当然のことながらそれはマジカルモンスターなのである。
リュンクス。遥か遠くの光景を見ることの出来る遠視や人の心を読むことの出来る読心の能力を持つ山猫である。
そのリュンクスを捕まえようと飛び回るヒョウちゃんの叫ぶ声を聞きながら、哀はただただ呆れるしかなかった。
(マジカルモンスターが現れたっていうから来てみたけど)
以前、ヒョウちゃんは逃がしたマジカルモンスターに関して、「迷惑をかけるやつしか逃がしてない!」と言っていたが、例外もあったらしい。
今回のマジカルモンスターは巨大化もせず、また人に迷惑をかけることもなくごく普通のネコのような形でこの世界に溶け込んでいたところをヒョウちゃんが発見し、哀に伝えたのだった。
哀がわざわざ変身してここまで来たというのに、来てみればごく普通のネコのようなモノが一匹居ただけ。
なので、バカらしくなった哀は、変身を解除してヒョウちゃんがリュンクスを追いかけているのを眺めているのだった。
(それにいつまでも変身してはいられないものね)
いくら哀がマジカルモンスターを捕まえることを積極的に考えるようになったとはいえ、あまり変身自体を望んでいるわけではなかった。
哀がマジカル哀に変身した姿は、18歳のシェリーのもの。その姿は、黒ずくめの組織から標的にされている。だから、少しでも少なく、少しでも短い変身時間にしようとするのは当然だった。
「待て待てーーーー!!」
ヒョウちゃんが叫びながらリュンクスを追い掛け回している。それを横目にしながら哀はつぶやいた。
「平和……なのかしらね」
どうにも緊張感のない光景に哀は、また何度目かわからぬため息をついたのだった。
哀がそんなため息をついていたその数日前。
「うふふふ」
黒い服を着てメガネをかけた女が椅子に座り、嬉しそうに笑っていた。
ここは、黒の組織に存在する魔法学研究所。
その一室で、黒の組織における魔法学を統括する女科学者、コードネーム『キルシュ』は、机に置かれた御札(おふだ)のついた玉を見て、笑い声を上げていた。
「ぐふぐふふ。ぐふふふふ」
次第に、笑い声が不気味なモノに変わる。それにともないキルシュの顔も、子供が見れば一目で泣きそうなほど怖いモノに変貌していった。
そのまま不気味すぎる含み笑いを続けるキルシュ。
ガチャという音を立てて、そんな部屋に人が入ってきたのは、そんな時だった。
「キ、キルシュ様?」
あまりに不気味な顔で嬉しそうに含み笑いをするキルシュを見て、部下の黒服の一人がぎょっとした顔をする。
キルシュは、ハッとした顔をすると、入ってきた黒服に向かって怒鳴りつけた。
「何の用!? 入ってくる時は、ノックくらいしなさい!!」
「す、すみません!!」
「まったく!! だいたいそんなことも出来ないから、あなたたちは役立たずなのよ!! あの時だって、ブレスレットの確保が出来たのはまあよしとするけど、結局あの女を逃がし……」
「あ、あの。定期報告の方をよろしいでしょうか?」
怒涛のように行われようとしていた罵声を遮って、黒服が冷や汗をかきながら告げる。
「ふう。そうね。で、どうなの?」
若干、冷静さを取り戻したキルシュが先を促す。
「はい。『シェリー』の居場所は、依然として特定できませんでした」
「またそれ!? いい加減聞き飽きたわ!!あなたたち無能すぎる!!無能すぎるわよ!」
罵声を浴びせるキルシュに対し、黒服が頭を下げる。
やがて、黒服がおずおずとキルシュにたずねた。
「あの、キルシュ様。我々がシェリーを捜索していることを組織の上の方には報告しなくて本当によろしいのですか?」
キルシュは黒服たちにシェリーの捜索を命じたものの、それを組織には秘密にしていた。
魔法少女姿のシェリーのことも全く報告していない。
「ああ。そのこと。前にも言ったでしょ。報告する必要はないわ。……そんなことより! あなたたちはシェリーの居場所をつきとめることを考えていればいいのよ!」
(まったく!!)
心の中でキルシュは苛立った。それは、黒の組織の『シェリー』に関する処遇に関してのことだった。
キルシュとシェリーはその方法こそ違えど、黒の組織の目的のために研究してきた研究者である。
シェリーは、科学的側面から。対して、キルシュは魔法学的側面から。
そのシェリーが逃亡したことにより、本来ならキルシュの方の研究に重点を置いてもいいくらいである。
しかし、そうはならなかった。
どうやら『あのお方』はシェリーに戻って欲しい節がある。
シェリーが抜けたことにより、研究が進んでないらしいのでそれを完成させるつもりのようなのだ。
薬が完成したら、当然シェリーは永遠の眠りを与えられる。
裏切り者には死……
それはうれしくてたまらない。
しかし、薬が完成すると言うことは、自分がお払い箱になると言うことでもあるのだ。
自分の立場はかなり微妙なのだ。
なんらかの成果をどうしても納めねばならない!シェリーが組織の手で見つかるより早く!
「ですが、もう一つの方の捜索は、成功しました」
「は? なんですって!!」
黒服が述べた言葉に、考え込んでいたキルシュが詰め寄った。
「どういうこと!! さっさと報告なさい!!」
「く、苦しいです。キルシュ様……!!」
思わず黒服のネクタイを締め上げるキルシュ。そのせいで、苦しげな声が黒服から漏れる。
「いいからさっさと報告しなさい!!」
ネクタイを締め上げたまま、キルシュが報告を促す。それに黒服は、なんとかぽつりぽつりと今上がってきた情報をキルシュに伝えた。
その報告を聞いて、キルシュの瞳が輝いていく。
「そう!やった!!やったわ!!」
キルシュはネクタイから手を離し、歓喜の声を上げながら机に置いてある御札(おふだ)がついた玉を見る。
脳裏に浮かぶのは、あの人をバカにしたような赤みがかった茶髪の少女の顔。
そのシェリーに向かって、キルシュは語りかける。
「シェリー。確かにあなたは逃げるのが上手なようね? わたしの黒服たちがこれだけ執拗に捜索しても、尻尾さえ捕まえさせないんだもの。でも……」
キルシュの脳裏のシェリーの顔に以前写真で見たヒラヒラした格好の姿が重なった。
「おびき出してしまえば、一緒よね?」
キルシュは、愉しげに口元を歪ませた。
数日前にキルシュがそんな笑いをしていたことも知らず、哀とヒョウちゃんは、博士の家へと帰ってきた。
「ふう。やっと捕まえられたぞ」
「ごくろうさま……」
ヒョウちゃんの疲れたような言葉に、哀がおざなりに言葉をかける。
あれから30分ほどの追いかけっこがあった後、「ふっ、やるな」「お前もな」というようなヒョウちゃんとリュンクスの間に友情が芽生えるようなやりとりもあったりなかったりした結果、なんとかヒョウちゃんはリュンクスを捕まえることに成功した。
「というか、手伝ってくれたってよかったじゃないか」
「めんどくさいわ」
「むー」
ヒョウちゃんが何もしていなかった哀に文句を言うが、さらりと流される。
「それより、いいかげんマジカルモンスターを全部捕獲して、さっさとこんなこと終わらせたいのだけど?」
哀がヒョウちゃんに淡々としていながらも、若干苛立ちを含んだ口調で問いかける。
ヒョウちゃんが逃がしたマジカルモンスターを全て捕獲する。それを決意はしたが、なかなか進まない捕獲の状況に少し哀は苛立っていた。
捕獲が遅れれば遅れるほど、プリティ♪歩美と黒の組織が接触する機会を与えてしまうことになる。
それを考えると、少しでも早くマジカルモンスターを捕獲したいと哀が思うのは当然だった。
そんなことを考える哀にヒョウちゃんは、不満そうな声で言った。
「えー。でも、マジカル☆哀の活躍の出番は、できるだけ長い時間あった方が……」
哀がスッと目を細める。その人を突き刺すような殺意じみた視線にヒョウちゃんが、ビクッと震えた。
「で、でも。前にも説明したじゃないか。マジカルモンスターは、こっちの世界に現れるまでどうしようもないって」
ヒョウちゃんが魔法世界レインダムでたくさんのマジカルモンスターをこちらの世界へと逃がしたことによりこの騒動は始まったわけだが、こちらの世界と魔法世界レインダムは密接に関係しているとはいえ、別世界である。
当然、マジカルモンスターがこちらの世界に現れるまでにはタイムラグが生じるのである。
「なんとか現れる場所までは、米花町近辺にすることに成功したんだけどさ。で、今、現れてないマジカルモンスターは世界の狭間に存在しているような状況なんだよね。さすがにレインダムでもその状態のマジカルモンスターには、干渉できないからなあ」
その結果、こちらの世界に現れてから対処するということになり、ヒョウちゃんが派遣されてきたわけだ。
哀がヒョウちゃんに聞いた。
「マジカルモンスターが現れるタイミングを予測できたりはできないの?」
「それはちょっと無理だな。さすがに世界の狭間までは調べられないし……。一応、米花町上空にマジカルモンスター用の魔力探知ネットワーク、『レインダムネットワーク』を張り巡らしてあるんだけど、あれはあくまでマジカルモンスターが現れないと意味ないからなあ」
その『レインダムネットワーク』によって、こちらの世界にマジカルモンスターが出現した場合に魔力情報を元に位置を特定できるようになっているのだ。
「もっともその魔力探知にもたまに失敗していたりするからなあ。『どうもこの町は異様に魔力濃度が高いところも多いからな』ってあのフェンバルもぼやいてたし」
「で? 最後のマジカルモンスターが現れるのは、いつなの?」
ライバルであるオオカミの言葉をしみじみとつぶやいたヒョウちゃんに哀が淡々とたずねた。
「さあ? 前にも説明したかもしれないけど、この世界に現れる時のタイムラグがあるからなあ。あと一週間くらいで全部現れるかもしれないし、何ヶ月も後になるかもしれないし。
そこらへんは不明だな」
つまり、今までどおり、現れたマジカルモンスターをその都度処理していくしかないらしい。
そんな結論に達したのを受けて、哀はひとつため息をついた。
「ま、のんびりやってくしかないって」
ヒョウちゃんのそんな気の抜けたような言葉で、この場はお開きとなった。
「準備は完了した?」
黒ずくめの格好をした女が、そばにいる黒服に問いかける。黒服は無言でうなずいた。
米花町の十字路上。そこで、キルシュは部下の黒服の一人と一緒に居た。
人々が行き交う中、全ての準備が終わったことを知り、キルシュは満足そうな顔になる。
「うふふふ」
キルシュがにやりと笑うと、黒いカバンから御札(おふだ)のついた玉を取り出した。
「思う存分暴れなさい。そして、おびきよせるのよ。シェリーを!」
キルシュは、玉についていた御札(おふだ)を引きちぎると呪文を唱える。
玉の中に封じられていた化け物が、姿を現した。
ふよふよ、ふよふよ
博士の家での哀との会話の後、哀と別れたヒョウちゃんは、パトロールを兼ねた空の空中散歩をしていた。
「ヒョ、ヒョ、ヒョウちゃん♪ ヒョウちゃんの庭はあ♪」
なにやらわけのわからない陽気な歌を歌いながら、小さな黒ヒョウは米花町上空を飛ぶ。
と、そこでなにやら下の方で騒ぎが起こっているのに気がついた。
「おお!!なにやら面白そうな雰囲気!!」
ヒョウちゃんは目を輝かせると現場に向かって飛んで行った。
カタカタカタカタ
阿笠博士の家の地下室で、哀はパソコンのキーボードを叩いていた。
作業に集中していた哀だったが、ふと思いつくことがあってキーボードを叩く手を止める。
(それにしても、何とかならないのかしら?)
思い浮かんだのは、魔法少女のこと。マジカルモンスター捕獲に関することだった。
(このままただ現れるのを待つだけ……だなんて)
歯がゆい。それが、哀の心境だった。
(たしかに魔法に関することは私にはわからないのよね)
正直言って魔法に関しての知識は哀にはない。それだけに、ヒョウちゃんの言うことを信用するしかないのが、現状だった。
「だけど、あの生き物が信用できるかというと少し別問題ね」
なにせ魔法少女にお約束やこだわりや定番を持ち込むぐらいである。どうもこの騒動のことを楽しんでいる節があるので、哀としてはいまいち信用できないのだ。
哀がため息をついた時、そのヒョウちゃんが姿を現した。
「哀!!マジカルモンスターが現れた!!」
突如現れたヒョウちゃんのいつものようなセリフに、哀は肩をすくめた。
「やれやれね」
「哀!マジカル☆哀に変身だ!!」
ヒョウちゃんの言葉で哀が魔法の試験管を取り出す。
「レイ……マジカル…トランス…ミューテーション…」
説明しよう!!
哀は、魔法の試験管を持って呪文(棒読み)を唱えることでわずか0.35秒(推測)でマジカル☆哀へと変身するのだ!!
マジカル☆哀になった哀は天下無敵!!ナイフと爆弾を使いこなしヒョウちゃんにツッコミを入れる存在にとなるのである(笑)!!
「よーし!!マジカル哀の出番だああああ!!」
ヒョウちゃんの絶叫が地下室に響き渡った。
あとがき
はっはっは!探偵k、参上!!(ちゅどーん)
ということで、今回は黒の組織編をお送りします。
キルシュが何やらたくらんでいる様子。はたして、マジカル☆哀は大丈夫なのか!?
といったところで、後編に続きます。
探偵K様!
黒の組織編がすごいことになってます!!そうだったのか・・・と納得とともに天下無敵のマジカル☆哀のツッコミも楽しみのひとつに(爆)
米花町の魔力濃度が高いのはまさか哀ちゃんや歩美以外にも魔法少女が・・・・・なんて色々想像してると楽しいかも!!
後編も楽しみ〜!!!by akkiy