「んなこと言ってる場合じゃねー。とにかく行くぞ!!」

コナンが直通階段を昇り始める。哀もそれに続いた。

「しゃーないな!!」

平次も気合を入れるかのように、自分の頬を叩くと哀とコナンの後を昇っていった。


魔法少女 マジカル☆哀 東都タワーの激闘!! 平次と和葉来たる!! 後編


約600段あった階段を15分ほどかけて昇りきり、コナンたち3人は大展望台の下の1階フロアにたどりついた。

そこでは、下り口階段で下へと逃げようとする人々や、エレベーターの前でそれが来るのを待っている人々がいた。

人々はしきりに上の階の方を気にしている。上から何かが来ないかと恐れているようだった。

コナンはぐるりと周りを見渡した。

死角はあるものの、展望台の窓ガラスが割れているということもなく、コカトリスの気配もしない。

哀が群集の一人に聞いた。

「ねえ。怪物はどこにいるの?」

「怪物は上だ。それより何でキミたちはこんなところに?」

どうやらコカトリスは、大展望台の上の2階フロアにいるようだった。

その言葉を聞き、哀は2階フロアへ上がろうとする。

「ま、待つんだ! 上は危ないぞ! 行っちゃダメだ!!」

群集の一人が哀を呼び止めようとする。しかし、哀は構わずに2階フロアへと上がっていった。

「おい。工藤」

「ああ。オレたちも上に行くぞ!」

平次とコナンも哀の後を追って上へと上がっていった。

 

 

コナンたち3人は、大展望台の上の2階フロアにたどりついた。

「くっ。寒いな」

見れば大展望台の窓ガラスが破れている。おそらくコカトリスが突き破ったのだろう。そのせいで、2階フロアの気温はとても肌寒いものだった。

2階フロアの床は、おそらく逃げ惑う人々が落としたのであろう携帯やジュースの缶といった物が散乱していた。

「あいつはドコや?」

「あそこね」

平次の問いかけに哀が指で示す。見れば、コカトリスは、東都タワー内にある神社、タワー大神宮の近くにいた。

「で、どうやってやっつけるんや? こっちは、ほとんど手ぶらやぞ?」

「工藤くんがサポート、ワタシがとどめを刺すわ」

「そうだな。それしかないか」

哀とコナンがすばやく会話をかわす。

とどめを刺すのが哀だと聞いて、平次は戸惑いを見せた。

「嬢ちゃんが何をできるんや!?!? まだ工藤の方は、妙ちきりんなアイテム持っとるからええとしても、嬢ちゃんの方は−」

「やっほー。ヒョウちゃん。戻ってきたぞー!!」

「おわっ!」

平次の言葉を遮って、空飛ぶ小さな黒ヒョウが3人のそばに現れる。平次は驚いた。

「な、なんやこのけったいな生きもんは?」

「けったいって何だ。オレには立派なヒョウちゃんって名前が!」

ヒョウちゃんと平次が言い合いをしそうになる。それを無視して哀がヒョウちゃんに言った。

「そんなことはどうでもいいわ。それよりワタシは変身するわよ。ここには人がいないみたいだものね」

「えー。でもなー」

ヒョウちゃんはちらちらと平次を見る。どうやら平次に変身を見られていいものか、と思っているようだ。

「しかたないわ。まあ知り合いだし。問題はないでしょ」

「うーん。ま、しょうがないか。あの手もあるし。それじゃ、哀! マジカル☆哀に変身だ!!」

「わかったわ」

「いや、変身って何や? そもそも、この妙ちきりんな生き物は、いったい−」

「……レイ………マジカル……トランス…ミューテーション」

平次の言葉を無視して、哀が魔法の試験管を持って棒読みの呪文を唱える。

七色の光が哀の身体を包み込んだ!!

 

 

「それじゃ、コカトリスを退治するわよ」

高校生くらいの姿になった哀が、いつものヒラヒラの格好で告げる。

哀が高校生くらいの姿に成長したのを見て、平次は目を丸くして驚いた表情になる。

「じゃ、行くわ」

そう言うと、哀はコカトリスの方に飛び出していく。

「おい、待て。灰原!!」

慌てて哀を追いかけるコナン。平次も後を追いかけた。

「なあ、工藤。あの嬢ちゃんのあの格好は何や?あと傍におるあの黒ネコのような生きもんは……」

平次が哀の後を追いかけながらコナンに聞く。

コナンはややげんなりした顔をしながら答えた。

「ああ。あいつ、魔法少女になったんだってよ」

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

平次は今までで一番大きいすっとんきょうな声を上げる。

「ああ。オレも今のオマエの気持ちは痛いほどわかるぜ」

驚愕のあまり口を大きく開けた平次に対して、コナンはあきらめたようにつぶやいた。

 

 

マジカル☆哀がコカトリスに向かって突っ込んでいく。その後を、コナンと平次が追いかける。

「行くぞ! 哀! マジカルフラッシュだ!!」

「ええ」

マジカル☆哀はたくさんのナイフを掲げると、そのまま走りながらコカトリスに向かって投げ放った!!

シュッ!

カカカッカカッカカカッ!!

たくさんのナイフがコカトリスに向かって飛んでいく。

そのナイフ群を、コカトリスはすばやく飛んでかわす。

東都タワーの大展望台の中ということもあり、若干飛びにくそうにしているものの、その巨大な身体をコカトリスのドラゴンの翼は大きく浮かせていた。

「行っけえええええええええーー!!」

コナンが途中で拾った空き缶をキック力増強シューズで増幅して蹴り飛ばす!

空き缶がコカトリスに向かって一直線に飛んでいく。

カッ!!

コカトリスが目を見開く。ぶつかる軌道を取っていた空き缶は石と化し、その重さのせいで急激に降下して床にぶつかって砕けた。

「あの石化能力の有効範囲はどれくらい!?」

哀がヒョウちゃんにコカトリスの能力について聞く。

「そこまで大きくはないぞ。せいぜい1.5メートルから2メートルってところだなあ」

「でも、あの石化能力のせいで、それ以上は近づくのは危険ね」

マジカル☆哀がコカトリスから距離を保つ。コカトリスの石化能力は、あまり遠くまでは有効ではないようだが、石化させられればアウトなのだ。慎重にならざるを得ない。

「工藤くん!! 遠距離から狙うわよ!!」

「わかった!!」

哀がコナンに指示を出す。それに応え、コナンも間合いを測りながら蹴り飛ばす物を探し始めた。

 

 

「くそっ。オレはどないしたらええんや?」

コナンとマジカル☆哀が戦う中、平次は手をこまねいていた。

コナンは博士からもらったアイテムで戦える。マジカル☆哀もナイフを駆使して戦っていたが、平次は一介の高校生である。

当然怪物と戦う手段など持ち合わせておらず、平次は困り果てていた。

「行っけえええええーーーーーー!!」

コナンが空き缶を蹴り飛ばす。

それをコカトリスが素早く横に飛んでかわす。

「そこよ!!」

シュッ

カカッカカカッカカッカッ!!

マジカル☆哀が多数のナイフを、かわして動きを硬直させたコカトリスに向け投げつける。

カッ!カッ!カッ!

宙を飛んでいるコカトリスが目を何度も見開き、ナイフを石と化して迎撃する。

しかし、あまり連続では能力が使えないのか、石となりそこねた残りのナイフがコカトリスに向かう!!

グササッ!!

「ヒッギャーーーーーーーーー!!」

身体に2、3本のナイフが突き刺さり、コカトリスは悲鳴を上げた。

「よし、この調子で行けば!!」

コナンが快哉の言葉を上げた時、コカトリスが動きを見せた。

バサッ!

ドラゴンの翼を羽ばたかせ、そのままコナンとマジカル☆哀の頭上を飛び越え大展望台の窓ガラスの方へと向かう!!

「まずいわ! 逃げる気よ!!」

哀が叫ぶ。コカトリスはどうやら自分が危険だと察知して退散することにしたらしい。

このまま逃がしてしまえば、和葉はもちろん助けられない。

「そうはさせへんぞ!!」

「服部!?」

「うおおおおおおおおおおおっ!!」

コナンが驚く中、平次が走る。そのまま、コカトリスを追いかけていく。

「とりゃあああ!!」

がしっ!

なんとか平次は、コカトリスのヘビの尾を掴むことに成功した。そのまま、力を込めて足を踏ん張る。

「い、今や。今のうちになんとかするんや!」

「服部!?」

「そのまま押さえてて。ワタシが何とかするわ」

コナンが驚く中、哀がクールな表情で告げる。

「よーし!! 哀!! マジカル・ハート・アタックだああああああああああ!!」

「ええ」

ヒョウちゃんが叫び、マジカル☆哀が爆弾を取り出す。

哀が取り出した物を見て、平次はぎょっとした。

「ちょ、待てや!! それ、爆弾やないか!!」

「そうね」

「いや、そんなもん使われたらオレもこっぱみじんやないかい!!」

平次が動揺する中、ヒョウちゃんがあっけらかんと言った。

「大丈夫!! 魔法の爆弾だから!!」

「アホ! そんなもんがあってたまるかい!!」

そんなやりとりをしていると、コカトリスが平次の方へ首を振り返り、目を大きく見開いた。

カッ!!

「し、しまっ」

コカトリスの石化能力を受けて、平次の手足から体に向かって徐々に灰色の衣が覆っていく。

「行くわ。しっかり押さえているのよ」

「行っけー! マジカル・ハート・アタックだあああああ!!」

ヒョウちゃんの掛け声で、哀が爆弾を傍にいる平次ごとコカトリスに向かって投げつける。

石になりつつある平次が最後に見たのは、飛んでくる爆弾の姿。

「う、うそやろーーーーーーーーーーーーーー!!」

どっかーん!

東都タワー大展望台二階フロア、平次の目前で緋色の閃光がひらめいたのだった。

 

 

一方、地上では……

「和葉ちゃん……」

蘭が不安げに石の彫刻と化した和葉を見つめていた。

周りでは、おそるおそる石像の和葉を眺める者、警察や消防車をあわてて呼ぶ者、何もせずただ怯えている者など恐怖の空気に彩られていた。

蘭は、自分の右手に左手で触れる。それは、いつもの肌と違った、石の感触だった。

「なんなの? これ……」

蘭が思わず泣きそうになった時、東都タワーの大展望台のあたりで爆発音がした。

辺りにいた人々が驚いて一斉に上を見上げる。

人々が騒ぎ立てる中、蘭も不安そうに爆発音がした辺りを見つめた。

「コナンくん。哀ちゃん。服部くん」

心配そうに蘭が3人の名前をつぶやく。

いったい3人はどうして東都タワーに入っていったのだろう?

あの怪物は東都タワーの上の方へと昇っていった。だから、追いかけたのだろうか?

「でも、服部くんはまだしもコナンくんと哀ちゃんは小学生よ? なんでそんなことを」

追いかけるべきだったのだろうか? だが、石になった和葉は放っておけなかったのだ。

蘭がもう一度右手に左手で触れた時、さっきと感触が違うことに気がついた。

「え?」

さっきまで硬質の石の感触だったのに、今はごく普通の肌の感触だった。

蘭が、右手を見る。その手は、いつもと同じだった。

「うーん。アレ? ウチ、どないしてたんやろ?」

「和葉ちゃん!?」

和葉がまるで寝ぼけているかのような言葉を発した。蘭は目に涙を浮かべそうにしながら和葉を見つめる。

「どないしたん? 蘭ちゃん。そない泣きそうな顔して」

「和葉ちゃん!!」

蘭が元に戻った和葉を力強く抱きしめる。

「なんや。ちょっと苦しいって。蘭ちゃん」

「よかった!! よかったよ〜」

蘭は思わず泣きながら不思議そうな顔の和葉を抱きしめ続けたのだった。

 

 

「う、うそやろーーーーーーーーーーー!! って、ん?」

思わず叫んだ平次だったが、いつまで経っても衝撃が来ないことに気がついた。

いや、爆発の衝撃波はあった。だが、まるで平次を避けるかのように平次の周りの空気やコカトリスだけを狙って衝撃波は荒れ狂ったのだった。

その結果、コカトリスは東都タワーの2階フロアの床に倒れていた。

それをあ然とした気持ちで見つめていた平次だったが、

「とーーりゃーーーーーーー!!」

こんな間の抜けた声と共に何者かが自分の頭に何かを振り下ろしてくるのを感じ、すばやく振り返ってそれを止める。

「こらーーーー。放せーーーーー。何するんだーーー!!」

掴んだものは金色のハンマーのような物だった。それを振り下ろそうとした小さな黒ネコのような生き物は抗議の声を出す。

「それは、こっちのセリフや。自分、なにしようとしとったんや?」

それに対し、ヒョウちゃんは何を当たり前なことを、と言いたげに胸を張った。

「ふ、そんなものは決まってるだろう! 魔法少女はヒミツでなければならないのだ!! だから、記憶を失ってもらうまでのこと!!」

「は? 何やて?」

言ってることが理解できなかった平次は、間の抜けた声を出す。

「このゴールデンハンマーなら記憶操作が可能なのだあ。さ、痛くしないからさっさと殴られてくれーーーーー」

と言いながら、「くっ!」だの、「このっ!」だの、金色のハンマーを持つ手に力を入れるヒョウちゃんだったが、平次に力勝負でかなうはずもない。

ゴールデンハンマーはぴくりとも動かなかった。

平次はこの状況に困惑していたが、魔法少女姿の哀が取り成す様にヒョウちゃんに言った。

「しょうがないわ。この服部くんには、魔法少女のヒミツをばらすしかないわよ」

「えー。でもー」

ヒョウちゃんが不満そうにつぶやく。

「しかたないでしょ。とりあえず簡単に説明するわ」

と、言うと哀は平次に簡潔にいきさつを説明した。

「ほー。要は、この妙ちきりんがあんな怪物を逃がしたんで、アンタが魔法少女になって捕まえてるっちゅうこっちゃな?」

平次は哀から説明を聞き、簡単にいきさつをまとめてみせた。

「妙ちきりんとは何だあああ。俺には立派なヒョウちゃんという名前が−」

「ええ。そうよ」

ヒョウちゃんが平次に突っかかる言葉を遮り、哀がうなずく。

「で、この米花町で起きとる連続爆破事件は、あんな怪物を捕まえようとした結果、っちゅうわけやな」

「そうね」

マジカル☆哀が淡々とつぶやく。

平次は心の奥底から大きくため息をついた。認めがたいことなのに、認めざるを得ないそんな懊悩のため息だった。

「なあ。ええんか。工藤。こんなん許して?」

「ああ。オレだっていいとは思ってねーよ。……けど、しかたねーだろ?」

平次とコナンは疲れたような顔でお互いの顔を見たのだった。

 

 

魔法の試験管でコカトリスを吸収すると、哀はつぶやいた。

「それじゃ、万事解決ね。おそらく和葉さんも元に戻ってるでしょうしね」

「そうだな」

コナンが哀に同意した時、

「いーや。まだだあああああああ!!」

空飛ぶ小さな黒ヒョウが抗議するように大声を上げた。

「何よ?」

哀が淡々とした口調でヒョウちゃんに聞く。ヒョウちゃんが答えた。

「この際、魔法少女のヒミツがばれてしまったことは仕方ない。だが、このままでいいわけではないのだああああああ!!」

そう叫ぶと、くるりと向き直って平次に聞いた。

「あんたの名前は?」

「は?」

急に聞かれて戸惑う平次にヒョウちゃんが詰め寄る。

「いいから答える!!あんたの名前は?」

「平次や。服部平次」

気を取り直して名前を答えた平次に対して、ヒョウちゃんはこんな宣言をしてのけた。

「よし!!今から、あんたは魔法少女候補生、マジカル☆平次だ!!」

「は? 何や……と?」

平次が言われたことにまったく理解できない顔でいると、ヒョウちゃんが自分一人で勝手にまくしたてる。

「ヒミツを知られた以上、魔法少女の関係者になってもらうしかない!! しかし、もう魔法少女は、マジカル☆哀やプリティ♪
歩美、臨時魔法少女マジカル☆コナンで十分!! なら、予備員としての魔法少女候補生になってもらうしかないのだあああああ!!」

「ちょ、待てや! 何勝手なことほざいとんねん!」

「そして、マジカル☆哀や、マジカル☆コナンに何かあったら、颯爽と駆けつける色黒魔法少女としてがんばってもらうのでよろしく!!」

「色黒魔法少女って、何やあああああああああ!!」

平次が大声を上げる。

その後も、口論を続ける平次とヒョウちゃん。

それを横目に、哀がコナンに提案する。

「まあ、あの妙な生き物の言うことは放っておいて、さっさとこの場から離れましょう」

「ああ。そうだな。」

同意したコナンは、ヒョウちゃんと口論をしている平次にこの場から離れるように促すべく、近づいていったのだった。



NEXT


あとがき

はっはっは!探偵k、参上!!(ちゅどーん)

ということで、平次と和葉登場編をお送りしました。

和葉が石化され、東都タワーでのコカトリスとの攻防!!

なんとかコカトリスを倒し、和葉を救った3人でした。

いやー、それにしても平次と和葉を出すことは決めていたのですが、それ以外がノープランだったにも関わらず、よく書けたものです。(作者もびっくり)

それでは、次回もがんばって書き上げます!!

探偵k様!!!
遅くなりましたが後編アップしました!ほんとに平次達がでるのがノープランだったのか!?というくらい平次がはまりすぎててイメージしすぎて笑いが止まりませんでした(待て)
平次の色黒魔法少女がこの先に出てくるのか!はたまたどう哀ちゃにからんでくるのか楽しみです(また出てくるのを期待)
さすが予想の斜め上を行く探偵k様(爆)いつもありがとう!
そして次回14話も皆様楽しみにしていてください。私も楽しみにしています(笑)文字が白くて見づらい部分がありますが許してください;この壁紙をどうしても使いたくて・・
by akkiy