「ふわあ〜〜〜」

毛利探偵事務所の寝室でコナンは大きなあくびをすると布団から起き上がった。

まだ眠たい目をこすりながら洗面台へと向かう。

「さすがに眠いな」

「それはそうよね。推理小説読んで夜更かししてたんだから……」

「オメー、なんでいるんだ?」

当然のようにそばにいる灰原哀に向かってコナンはつぶやいた。


魔法少女 マジカル☆哀 同棲!?哀とコナンの同居騒動!!前編


「博士のせいよ……」

哀は、コナンの疑問に説明した。

またまた怪しげな物を発明した阿笠博士だったのだが、失敗した挙句に大爆発(?)を起こしてしまったのだ。

阿笠博士いわく「いやー。わしのような天才でも、失敗って言うのはあるもんじゃのー」ということらしい。

「またか?……博士……」

どうやら前にもあったようだ……

「おかげで家の中はぼろぼろ。だからここに来たのよ。来たときに話したじゃない」

博士は、家の修理が済む間知り合いの家に泊まることになっていた。

「そういや〜そうだったなーーー」

「頭の老化は年齢には関係ないそうね」

「おい……」

コナンは哀を半眼でにらみ付けた。

「待てよ……」

コナンは一つのことに思いやった。ここに哀がいるということは……?

「まさか……あいつも……?」

「おっはよ〜」

宙を飛ぶ小さな黒ヒョウが突如現れ元気よくあいさつする。

「げ!!」

「ん?どした?」

いやなモノでも見たかのようなコナンの態度に、ヒョウちゃんが不思議そうな顔をする。

「なんでオメーがここにいるんだよ!!」

「何を言ってるんだ? 魔法少女のいるところにマスコットあり。哀がいるところに、このヒョウちゃんがいるのは当然じゃないか」

食ってかかるコナンをヒョウちゃんは平然とした顔であしらう。

「んなことを聞いてるわけじゃなくてだな!!」

「あ、もしかしてマジカル☆コナンの自分にマスコットがいないのを心配しているのか? 安心してくれ。マジカル☆コナンのマスコットも責任を持ってこのヒョウちゃんがつとめるぞ」

「んなことは言ってねーよ!!」

コナンとヒョウちゃんが言い争う。そんな様子を哀はやや呆れた表情のまま眺めていた。

 

 

「くそ、らちがあかねえ。とりあえずこいつと話すのは、いったんおあずけだ」

言い争うのに疲れたコナンは、ヒョウちゃんとの話をいったん打ち切った。

「こいつとは聞き捨てならないぞ!! 俺にはヒョウちゃんっていう立派な名前が!」

「(無視)それで、いつまでこの事務所にいるんだ?」

ヒョウちゃんを無視して問いかけてきたコナンに、哀は軽く肩をすくめた。

「さあ? とりあえず家の修理が終わるまではここにいることになるでしょうね」

「ってことは、それまでこいつと一緒ってことか?」

「だから!! こいつじゃなくて、俺の名前はヒョウちゃ−」

トットトト…

そのとき、不意にコナンたちに近づいてくる足音が聞こえてきた。

「あ、おはよう。コナンくん」

「お…おはよう。蘭ねーちゃん」

洗面台へと入り話しかけてきたのは、つややかな黒髪を長く伸ばし明るい笑みを浮かべた少女、毛利蘭であった。

どういうわけかすでに、ヒョウちゃんの姿はどこにもいなかった。

「哀ちゃんもおはよう。昨日はよく眠れた?」

愛想よく蘭が哀にも朝のあいさつをかける。

「………」

それに答えることなく、哀はふいっと顔をそむけると淡々とした表情のまま洗面所から出ていった。

そんな哀が出ていくのを見送った蘭は、不思議な顔になるとコナンに聞く。

「どうしたのかな? 哀ちゃん」

「さあ?」

コナンも不思議な顔をする。そこで、コナンの頭の中に不意にこの事務所に来てからの哀の様子が思い浮かんできた。

昨日の夕方、哀がこの事務所に来たとき、いつものように淡々と世話になることを言い、蘭たちと暮らし始めた。

そして、その態度もいつものクールな表情を変えないまま、ここで淡々と生活している。

だが、コナンの感覚に微妙な違和感がある。

なにとは言わないが、よそよそしさのようなモノを感じる。それは、毛利小五郎にもコナンにも見せないが、ただ一人…ある人物に対してだけ…

(蘭か? なんかあいつ蘭に対する態度だけ違わねーか?)

哀が出ていった方を見ながら、コナンは心の中でつぶやいた。

 

 

洗面所で顔を洗った後、コナンと哀たちは朝食を食べた。

新たな一人を加えたいつもの探偵事務所とは違う朝食風景。しかし、哀のしぐさはいつもと同じようにクールな平然としたもの。

そんな哀に蘭は明るく声をかける。哀は淡々とした言葉で声を返す。

このように哀は別に蘭に対して返事をしないわけではないのだが……

コナンは、それでもそんな哀に対して違和感を感じていた。

その違和感を疑問としてぶつけたのは、小学校へ向かう通学路を二人で登校していた時だった。

「オメーさ。なんか蘭に対して思うところでもあるのか?」

この質問に哀はただ一言を返しただけだった。

「そう?」

「そうだろ? なんか蘭にだけ態度が違うじゃねーか?」

「別にそんなことはないわ……」

「そんなわけねーだろ? オメーの態度が明らかに……」

そこでコナンは口をぴたりと止めた。

そう。蘭に対する態度に違和感がある。しかし、明らかな違いというほどはっきり態度に示しているわけではない。

コナンの思考に小さい戸惑いがある。この違和感がただの勘違いという可能性も十分に考えられた。

「明らかに……何?」

「いや、何でもねーよ」

自分の感覚に確信が持てなかったコナンは哀に対する追及を止めざるを得なかった。

「コナンくん。灰原さん。おはよう〜!!」

コナンが追及を取りやめた時、道路の先から歩美の明るいあいさつの声が聞こえてきた。他に元太や光彦の姿もある。

二人は道路の先で待っている歩美たち3人のところへと歩いて行った。

 

 

五人が教室の前まで来たとき、廊下の壁を見上げて小学生の人だかりが集まって騒いでいた。

「なんだ? あれ?」

コナンが疑問の顔つきになる。何やら廊下の壁に紙らしきものが貼られており、みんなそれを見上げているようなのだが……

「オレ見てくる!!」

「ボクも!!」

「わたしも!!」

元太、光彦、歩美の3人が人だかりに向かって走っていく。それをコナンは黙って見守った。

「ま、いいか」

たいして興味をひかれなかったコナンは、自分の教室の中へと入っていこうとする。哀も興味のない表情でそれに続こうとする。

と、そこで哀は教室の扉の前で不意に立ち止まった。

「どうした? 灰原?」

コナンの疑問に答えずに、哀は体の向きを変えると廊下の方へと戻っていく。

「おい! どこ行くんだよ! 灰原?」

「トイレよ。トイレ……」

淡々とした表情のまま、哀は告げるとトイレの方へと歩いていった。

それを見送ったコナンだったが、気を取り直すと教室の中に入り、自分の机の横のフックにランドセルをかけると席についた。

「ねえねえコナンくん!」

すると、慌てた様子で教室に入ってきた歩美がコナンの席に向かって走ってくるとこんな発言をしたのだった。

「灰原さんと同棲してるってホント?」

がっこーん!!

コナンは自分の机に大きく頭をぶつける。

(ガキがなんつう言葉を知ってるんだ!?)

「同居だ。同居!!」

痛みが残る頭を抱えながらコナンは、大声で歩美の言葉を言い直した。

「どういうことだよ!? コナン!!」

「そうです!! いったいどういうことですか!?」

元太や光彦も教室に入ってくるやいなやコナンに大きく詰め寄った。

その剣幕にコナンもたじたじになる。

「いや、それはな……つうか、だいたいなんで知ってるんだよ?」

「え? だって廊下の紙に書いてあるよ?」

「はあ!?」

コナンは廊下に飛び出すと人だかりをかきわけ、貼られている紙を見上げる。そこには……

『一年B組の江戸川コナンと灰原哀!!なんと同棲中!?』

と、スポーツ新聞並みの見出しが書かれた壁新聞が一面に貼ってあったのである。

おそるべし!! 帝丹小学校!!

 

 

「で? 言い訳を聞こうかしら?」

朝の騒動が過ぎた一時間目の授業の後の休み時間。哀はヒョウちゃんを呼び出すと、氷のような冷たい視線で見ながら問い詰めた。

「な、なにを……?」

「あの壁新聞のことよ」

「な、なんのことかなあ」

ヒョウちゃんがあさっての方向を見ながら口笛を吹く。哀はそんなごまかそうとする黒ヒョウに冷静に指摘してのける。

「あの同居のことを知っているのは私と江戸川君とあなたぐらいしかいないでしょう?」

もともと家の方向は、一緒である。別に哀とコナンが一緒に登校したからばれるわけはない。

蘭や小五郎、博士も知ってはいるが当然除外。となると、こんなことをしそうなのは必然的にヒョウちゃんとなる。

「で、なんであんなことしたのよ?」

「いやあ。だって嬉しくてさあ」

「は?」

軽い口調で明るく言うヒョウちゃんに意表をつかれ、哀の口が大きく開かれる。

「だって哀ってあのコナンって男の子が好きなんだろ?」

「それは……」

ヒョウちゃんのあからさまな言葉に哀が言いよどむ。

「うんうん。そうだよなあ。そんな好きな相手との同棲生活が出来たんだもんな。それは嬉しいに決まってるよなあ」

自分一人で首を上下に振り勝手に納得している様子のヒョウちゃんは、大きく胸を張ると堂々と主張したのだった。

「これはもう周りに触れまわるしかないだろう!!」

自信満々に言ってのけたヒョウちゃんを、哀は素っ気ない視線で見つめると大きくため息をつく。

そして、ぽつりとつぶやいた。

「……そんな単純なモノじゃないわよ……」

「ん? なんか言った? 哀?」

「……」

ヒョウちゃんの問いかけに赤みがかった茶髪の少女は、何も答えを返そうとはしなかった。

 

 

「ただいまー」

時は過ぎ、放課後。帝丹高校から毛利探偵事務所に帰ってきた蘭は父親の小五郎にあいさつをした。

「コナンくんと哀ちゃんは?」

いつものように事務所のデスクでタバコをふかす父親に、二人のことについて聞く。小五郎が答えた。

「ああ。あいつらなら遊びに行ったぞ」

「そう」

蘭は小五郎の答えに納得すると、学校のカバンを適当な場所に置く。

蘭がぽつりとつぶやいた。

「それにしても、哀ちゃん。全然打ち解けてくれないよね」

「ふん。前から思ってたが、無愛想なガキだぜ」

「もー。お父さん。そんなこと言わないの!」

哀への不満を言った小五郎を蘭がたしなめる。蘭は、哀を弁護するように言った。

「たぶん緊張してるんだよ。いくら何度も一緒に旅行に行ったりしていて顔なじみの仲でも、一緒に住むとなると話は別だもの」

「かー。緊張するようなタマには見えねえけどなあ」

「それにお父さんやコナンくんは、まだいい方よ。なんかわたしだけには壁を作っている気がするのよね」

蘭は、コナンが感じたのと同じ様に、哀が自分に対してだけよそよそしいのを感じていた。

「そうかあ?」

「うん。だから、今日は久しぶりに外食しようよ。昨日は、突然哀ちゃんが来ちゃって何の準備も出来てなかったから、歓迎できなかったしね」

蘭の提案に小五郎は大きく歓声を上げた。

「おお!なら酒を飲んでもいいんだよな!?」

小五郎の嬉しそうな顔に、蘭が釘をさす。

「はいはい。でも、飲みすぎないでね。お父さん!」

「くー!わかってるって!」

小五郎が今から待ちきれないといった感じで笑みを浮かべる。それを、しょうがないわねという目で見ながら、蘭は思った。

(うん。おいしいものでも一緒に食べればきっと打ち解けてくれるわよね。哀ちゃん)

何度も蘭が心の中でうなずく。そう、いくらクールでも子供なのだから、きっとおいしい食べ物には弱いはずである。

(これをきっかけにもっと仲良くなろう。哀ちゃんと)

蘭がそう心の中で決意した。

その時。

バリバリバリ!!

「な、なんだあ!!」

部屋の真ん中でプラズマのような音が響き渡る。

二人が驚く中、やがて、空間が裂け、球に大きく羽が生えたような姿をした奇妙な生物が姿を現した。

「な、なんだ。こいつ……」

「何? これ!?」

小五郎と蘭が、呆然と突如現れた不思議な生物を見つめる。

現れた生物は、そのつぶらな瞳を二回まばたきさせた。

「な、急に力が……」

「え? なん……で……?」

その途端、小五郎と蘭の体から力が急速に失われていく。

「く……そ……」

小五郎が気を失い、机に向かって倒れこむ。

そんな父親の様子を見ながら、なんとか必死に意識を保っていた蘭だったが、やがて、こらえきれなくなったのかへたりこむ。

「し……新一……」

そして、蘭は新一の名前をつぶやいて、意識を失った。



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あとがき

はっはっは!!探偵k、参上!!(ちゅどーん)

ということで、マジカル哀の新作をお送りします。

阿笠博士の自宅がぼろぼろになったことにより、毛利探偵事務所で同居することになった哀とコナン。しかし、哀は蘭に対して何か思うところがある様子。

そんな中、毛利探偵事務所にマジカルモンスターが現れます。蘭と小五郎がちょうどその場に遭遇!!

といったところで後編に続きます。


探偵kどのぉぉぉぉ(ずしゃぁっ/滑り込み正座)
新作待ってました〜ありがとう〜♪
博士のせいで(爆)同居することになったコナンと哀ちゃん。はい。まさに同棲ですね〜タイトル噴いた私ですがヒョウちゃんの行動にも噴きました(爆)
やっぱ哀ちゃんの心配してるんだなあ〜としみじみ♪そしてなんと次回はいよいよ!!!!次号乞うご期待!!
と煽ったわりに更新が遅くてすみません;by akkiy