とあるカラオケボックスの一室で、子供がマイクを持って歌っていた。

「み〜つめ〜あ〜った〜そ〜のと〜き〜があ〜♪」

その歌はお世辞にも上手いとは言えず、音程は外れまくりである。

「ホントうまくなんないわね〜」

「そうだね」

コナンの音程がはずれた歌を園子と蘭は、やや呆れたような顔で聞いていたのだった。


魔法少女 マジカル☆哀 セイレーンの歌声!?海の最強○○決定歌合戦!! 前編


カラオケボックスでひとしきり歌い終わった蘭、園子、コナンの3人は、それぞれの家に帰るべく一緒に歩いていた。

「それにしても、この子はなんでこんなに音痴なのかしら? ほんと新一くんレベルよ」

(ほっとけ!)

目の前に本人がいるとは、露にも思わず、園子はコナンの歌をそう批評してみせる。

「せっかく音痴を治してあげようと連れてってあげてるってのに……」

「あ、だから園子よく新一をカラオケに誘ってたんだ」

園子の言葉に蘭は納得したような顔をする。

しかし、園子はチッチッチと指を振る。

「甘いわよ。蘭。あの新一くんをからかえるネタを使わない手はないでしょう?」

(そういうヤツだよ。オメーは……)

コナンは新一の体だった時に強引にカラオケに連れていかれ散々からかわれたことを思い出した。

「それで、ガキンチョ。あのボウズどもに海に行こうってことは伝えたのよね?」

「う、うん。伝えたよ」」

園子がコナンに偉そうな態度で聞く。コナンはおとなしい感じを装って答えた。

実は、一緒に海に遊びにいこうと言う提案が園子から出されていたのだった。それも少年探偵団と一緒に。

(というかなんで園子のヤツあいつら誘ったんだ?)

コナンは疑問に思った。園子だったら、めんどくさい子供連れで遊ぶなどまっさきに断ろうとするだろう。

園子がうっとりした顔でつぶやく。

「うふふ。これであの真さまと仲が進展するのね」

「は?」

コナンの口から間の抜けた声がもれる。

蘭が一人納得したような感じで園子に確認する。

「ああ。あの雑誌の占いのこと?」

「そうよ! なんでも子供に優しくすると、彼氏との仲が進展するんだって!」

(ああー。なるほどな)

コナンは呆れたような顔になった。どうやら園子が少年探偵団を海に誘ったのは、その雑誌の恋占いが原因らしい。

ちなみに真さまとは、蹴撃の貴公子と呼ばれる空手家の京極真のことで園子の彼氏である。

「だから、ガキンチョ。ちゃんとあのボウズどもを連れて来るのよ! わたしと真さまの仲のためにもね」

園子がコナンに念を押す。コナンはやや不満に思った。

(っていうか、オレのことをガキンチョ呼ばわりでいいのかよ?)

子供に優しくするんだったら、オレにも優しくするのが当然じゃないか?とも思ったが、まあ園子だしなと納得する。

(ま、海に遊びに行くってのも悪くないしな。それに……)

コナンの脳裏に赤みがかった茶髪の少女の姿が思い浮かぶ。

(あいつにとっても気分転換になるだろうしな)

コナンはいつも重いものを抱えこみがちな少女のことを思いやったのだった。

 

 

「海だあ!!」

海に到着するやいなや、阿笠博士の運転するビートルの中で元太、光彦、歩美の3人ははしゃぎはじめた。

週末の土日を利用して伊豆の海に日帰りで遊びに来たコナンたち一行。前には、小五郎の運転するレンタカーのミニバンの姿がある。乗っているのは、蘭と園子だ。

「それにしても、早起きしたかいがありましたね。道もあまり混んでいなかったし!!」

「おう!! そうだよな!!」

「うん!! そうだね!!」

元太たち3人がはしゃぎ続ける中、コナンが哀に話しかける。

「どうやら着いたみてーだな」

「そうね。見ればわかるわ」

コナンのかけた言葉に対して、後部座席の窓の外を見ながらそっけない返事を返す哀。

そんな哀に対してややひるみながらも、コナンは気を取り直して声をかける。

「そういえば、博士の家での生活は大丈夫なのか? もう博士の家の修理は終わったんだろ?」

前回の事件で、毛利探偵事務所にコナンと同居していた哀だったが、博士の家の修理が終わったのでつい先日そっちの方に戻ったのだった。

「ええ。特に問題ないわ」

しかし、哀の態度はそっけないままだった。ややコナンが戸惑う中、哀はこんなことを言ってのける。

「それより、せっかくスペースが空いていたんだし、あなたは蘭さんのいる前の車の席に座った方がよかったんじゃない? こんな狭い車じゃなく」

「は?」

哀の言葉を聞いた阿笠博士が言った。

「これこれ。狭いは余計じゃよ。哀くん。」

博士が哀をたしなめる。だが、哀は何も言わずそのまま窓の外を眺め続けた。

(何だ? この灰原の態度は?)

コナンはますます困惑した。

たしかに子供とは言え5人も乗っているのだ、(ちなみに内訳は、助手席に元太、後部座席に歩美、光彦、コナン、哀である)狭いと言うのもわからないではない。

だが、ここでなぜ蘭が出てくるのかわからない。

気分を害しているわけではなさそうだった。しいて言えば、思い当たる態度としては……

(すねている? だが、何にだ?)

コナンが疑問に思う中、やがて目的の海水浴場が近づいてきた。

 

 

博士のビートルと小五郎のレンタカーが海水浴場の駐車場に止まる。駐車場のすぐ前が海だった。

「おっしゃー!!」

「ひゃっほー!!」

元太たち3人が車の中にいた高いテンションのまま、はしゃいで外に出る。

「元気じゃのう」

阿笠博士がそんな元太たち3人をまぶしそうに見つめる。

「け。子供は無邪気でいいよな。オレらは車の運転で疲れたってのに」

対して、小五郎はぶつくさ文句を言っていた。

そんな中、小五郎の車から降りた蘭と園子が何やら騒いでいた。

「ねえ! どういうことよ!! 蘭!! 何で真さまがここに来れないのよ!!」

「しょうがないじゃない! 急な用件が入ったんじゃ」

怒る園子を蘭がなだめる。

どうやら雑誌の恋占いは見事に外れたようであった。ちなみに京極真の急な用件とは、空手がらみである。

「ええい! こうなったらとことん遊んでやるんだから!!」

園子が叫ぶと、小五郎に向かって大声を上げた。

「毛利のおじさま! 海に入るための場所作りしといて! あたしたちは水着に着替えてくるから!!」

「そうね。じゃ、歩美ちゃん。哀ちゃん。行こ」

蘭が園子に同意すると、歩美と哀に声をかける。

「うん! わかった!!」

「……」

歩美は元気よく返事したが、哀は無言で蘭の呼びかけに答えなかった。

「哀ちゃん?」

蘭が疑問の顔つきでたずねる。それに対して、哀はぽつりと答えた。

「ええ。行くわ」

「それじゃ、行こ。ほら、歩美ちゃんも哀ちゃんもはぐれないように手をつないで?」

「うん!!」

「……」

歩美が元気よく手を蘭とつなぐ。哀も少しとまどったしぐさを見せたが、大人しく蘭と手をつないだ。

そのまま、女性陣は水着に着替えに海水浴場の更衣室に向かって行った。

「人使いの荒いこって」

そんな女性陣に、小五郎がぶつくさとグチをこぼしたのだった。

 

 

ビーチパラソルといった道具をレンタルし、レジャーシートを敷いたり、車から荷物を移したりといった作業をして場所を作った男性陣。
(といっても主に準備したのは、力のある大人の小五郎と博士だったが)

その後、車の中で水着に着替えた男性陣は、設置したビーチパラソルの下で女性陣が来るのを待った。

「なあ。あのねーちゃん達、どんな水着だと思う? コナン?」

「さ、さあ?」

元太がコナンにそんなこと聞いてくる。コナンはあいまいな返事を返した。

「何だよ。コナン!!おめーは気にならねーっていうのかよ!」

(いや、気にならねーわけねーだろ!!)

蘭がどんな水着を着てくるのか非常に気になるコナン。それを素直に表現するのが、気恥ずかしいのであいまいな返事を返したのだったが、それが元太は気に入らないといった感じだった。

「フ。無粋ですよ。元太くん」

光彦がクールな口調で元太に言ってのける。

「こういうのは、気にしないのがマナーです」

そんな光彦に対して、元太が怒ったように叫んだ。

「何だよ! 光彦! オメーだって、歩美とか、灰原がどんな水着着てくるのか気になってんだろ!?」

「そそそ、そんなことないですよ!!」

慌てたように声を上ずらせる光彦。そんな光彦に、元太がさらに畳み掛ける。

「やっぱ気になってんじゃねーか! そういうオマエのことをムッツリって言うんだぞ!!」

「ち、違いますよ!!」

そのまま言い合う元太と光彦。その光景を眺めながらコナンは思った。

(なんなんだよ。ていうか、オメーらホントに小学1年生か?)

どこぞの中学生や高校生といった会話をかわす元太と光彦に呆れた表情になるコナン。

元太と光彦が騒ぐ中、そこに水着に着替えた女性陣が現れた。

「うるさいわよ! ガキンチョども! 何騒いでんのよ!!」

そんなことをいいながら、まず近づいてきたのは園子だった。

園子の水着は、金色のビキニ。派手派手しい色が太陽の光で反射した。

「ねえ。やっぱり派手すぎじゃない? 園子の水着」

蘭がそんなことを言いながら、園子のやや後ろを歩いて近づいてくる。蘭の水着は、シンプルな白のビキニだった。

「いいのよ!! もう真さまなんて知らないわ! この水着でそのへんの男どもを悩殺してやるんだから!!」

蘭の問いかけにも耳を傾けず、園子がやけになって叫ぶ。

(いやいや。そんなに派手だと男どもも引くって……)

コナンは思わず心の中で突っ込んだ。

「わたしも蘭さんみたいな水着がよかったなあ。でも、まだ早いってお母さんが」

そんなことを無邪気に言いながら、次に現れたのは、歩美だった。歩美の水着は、可愛いフリル付きのピンクのワンピース水着である。

(どう考えても蘭みたいなビキニは無理だろ。歩美ちゃん)

またまた心の中でコナンはつい突っ込んでしまう。

ちなみに男性陣の水着は、非常にどうでもいいので省略する。

(それにしても、蘭の水着は白か)

ついつい蘭の水着姿を眺めるコナン。白というシンプルながら着こなすのが難しいと言われる色の水着が、蘭にはよく似合っていた。

「よかったわね。蘭さんの水着姿が見れて」

いつのまに近づいてきたのか、淡々とした声でそんなことを言いながらコナンのそばに現れた人物がいた。

「灰原」

見れば、哀だった。哀の水着は、紺色の素っ気無いシンプルなワンピース水着である。

「なんだよ? 灰原。何でオメー」

(ことさらに蘭のことを話題にするんだ?)

と、コナンは思った。どうも来る時の車の中でのことといい、今といい何やら哀の態度がいつもと違う気がする。

「どうかしたの? 何かマヌケな顔になってるわよ」

コナンの表情がいぶかしげな物になったのを見てか、哀がそんなことを言ってくる。

コナンはとりあえず今の疑問を封印して、哀に改めて声をかけた。

「いや。オメーの水着姿もまあいいんじゃねーか?」

「そう」

そっけない返事。それだけを返すと、赤みがかった茶髪の少女は、コナンのそばから離れていく。

「なんだ? あいつ……」

コナンは困惑した顔でそれを見送った。

 

 

海に入る前の準備運動をした後、元太たち3人は海に真っ先に飛び込んでいった。

「ひゃっほー!!」

そのまま、海とたわむれる子供3人。

一方、小五郎はというと、

「お、ぐふふふ。あのネーちゃん、きわどい水着着てるな」

と、水着を着た若い女にうつつを抜かしていた。

「もう。お父さん。何してるのよ!!」

蘭がそんな小五郎をたしなめるが、小五郎の耳には全く届いていなかった。

「うーん。なかなかいい男は居ないわねえ」

園子は、海に来た若い男の中からいい男を物色中。

そんな中、哀はビーチパラソルの日陰でファッション雑誌を読んでいた。

そんな姿を見たコナンが哀に話しかけてきた。

「オメーは海に入らねーのか?」

「パス。そんな気分じゃないもの……」

ファッション雑誌に目を落としたまま、コナンの方を見ずに哀は答える。

「そういえば、あのヒョウちゃんとやらは、どうしたんだ? ついてきてるのか?」

コナンがあの魔法少女マジカル哀のマスコット(?)ヒョウちゃんのことについて聞いた。

「ええ。たぶんついてきてるでしょうね」

「たぶん?」

哀の言葉に疑問の顔になるコナン。

「来ないようには言ったけど、あの妙な生き物のことだから、おそらくワタシの荷物に潜り込んできてるでしょうね」

コナンの疑問に哀が説明する。

ちなみに魔法少女プリティ♪歩美のマスコット、オオカミのフェンバルは、米花町にマジカルモンスターが現れる危険性を考えて留守番中である。

「まあ今日は、あのマジカルモンスターのことなんか忘れて遊ぼうぜ。あのマジカルモンスターは米花町近辺にしか現れないんだろ? こんな伊豆には現れはしねーだろうしな」

「それなら、あの蘭さんと遊んできたらいいんじゃない?」

哀の口からついついそんな言葉がもれた。

(ワタシなんかよりもね……)

心の中で哀は付け加える。

前回のマジカルモンスター『プエル』の事件でコナンの蘭に対する思いを見せられて、若干の負い目のようなものが心にある哀はついそんなことを思ってしまうのだ。

今までの態度もその心の影響である。一種の投げやりな気分と言ってもいい。

そんな気分でファッション雑誌を読んでいると、不意に哀の手がつかまれた。

「な、何よ!?」

哀の手をつかんだのは、コナンだった。そのまま何も言わず、強引にビーチパラソルの日陰から哀を連れ出す。

拍子に読んでいたファッション雑誌が落ち、砂まみれになった。

「ちょっと!」

哀が抗議するが、コナンは無言のまま哀を連れて歩き続ける。

なぜか振りほどけないまま、哀はそのまま引き回される。

やがて、二人は海の中に入った。海の深さが子供の腰くらいの高さまで来た時、ようやくコナンが止まる。

「手を離しなさい!」

力を入れて哀はコナンの手を振りほどこうとした。すると、先ほどまでの強引さがウソのように、するりとコナンの手が離れる。

バシャッ!!

そんな哀に海水がこんな音を立てて顔にかかった。

驚く哀がコナンの方を見る。海水をかけてきたのはコナンだった。コナンがからかうような笑みを見せる。

「せっかく海に来たんだぜ。やっぱ海に入らないとな。雑誌なんていつでも読めるだろ?」

そのまま、ふてぶてしい顔でコナンが笑い続ける。

そんなコナンに哀はしばらく黙ったままでいたが、不意に手をひらめかせた。

バシャッ!という音を立てて、コナンの身体に海水がかかる。

「この! やったな!」

コナンがムキになった顔で哀に海水をかけようとしてくる。

「そっちこそ!」

哀も感情のこもった声で答えると、そのままコナンに海水をかけようとする。

そうやってお互いに海水をかけあう哀とコナン。

「おー! 楽しそうなことしてるじゃねーか!オレたちも混ぜろよなー!!」

「そうですね。ボクたちも混ぜてください!」

「わたしもお願い!!」

すると、そんな哀とコナンを見た元太、光彦、歩美の3人が笑顔で近づいてきた。

「おら!食らえー!」

元太が力いっぱいコナンに海水をかける。

「くそっ。やったな。元太!」

「はははははは!うぷっ!」

豪快に笑っている元太の顔に海水がかかった。見れば光彦が勝ち誇った顔で手を元太の方に向けている。

「ふふふ。甘いですよ。元太くん!」

「ほらっ。灰原さんにも行くよー!!」

歩美が哀に海水をかけようとするがあまり届かない。

そんなことをやりあうコナンたち4人。その中、誰かの海水が哀にかかる。

「この!」

哀がこの遊びに参加したのはそのすぐ後だった。

無邪気に海水をかけあう5人。

その中の哀は、いつもの淡々とした表情に見えながら、確かに笑顔だった。

 

 

それは、沖合いの岩の陰に居た。

長年海の上を飛びながらここまで流れ着いたそれは、2本足で歩く生き物がたくさんいる浜辺の方を見つめる。

騒ぎに興味を引かれたように、それはゆっくりと浜辺に近づいていった。


NEXT


あとがき

はっはっは!!探偵k、参上!!(ちゅどーん)

ということで、今回は海の水着回をお送りします。

夏と言えば海! 海と言えば水着! ということで、女性陣には水着を披露してもらいました。

いいですね。海。まあ作者は最近全然海になんか行ってないんですけどね。

それは、さておき。

伊豆の海に遊びに来た哀たち一行。なんだかんだで海を楽しむ哀。

しかし、そこには何やら海に怪物が近づいてきます。はたしてその怪物の正体は!?

と、いうかタイトルでばらしてるんですけどね。

それでは後編に続きます。



探偵k様ぁ
小説いつもありがとー!!海いいっやっぱりワクワクするし行きたいっす(現実にはやっぱり無理だけども)
哀ちゃんもやっぱり海にきたんだからモンスターのことは忘れて(え?もっと違うことが気にかかってるって?)遊ぶのが一番♪
それにしてもドキドキします・・・・・・・・何がって・・・・
ヒョウちゃんがどっから出てくるのか!(待てや) by akkiy