「ほら!! 起きなさい!!」
その女の子の母親は部屋のカーテンを開けて、眠っている女の子に声をかけた。
女の子の年の頃は、小学校低学年ぐらい。かわいらしい顔を眠り顔にしてすやすやと眠っている。
「まったく! 起きないと遅刻するわよ!!」
大声を上げて母親は女の子に起きるよう促す。
(ほんと珍しいわね。昨日夜更かしでもしてたのかしら?)
母親は女の子がこの時間になっても起きようとしないことを不思議がった。女の子は普段は早起きの方であったからだ。
女の子は、母親からの声にも全く目覚めなかった。
母親が何をしても女の子が目覚めようとしないと気づいたのは、その2時間後だった。
「コナンくん。灰原さん。眠り姫事件って知ってる?」
「眠り姫事件?」
歩美が放った言葉にコナンは疑問の顔つきになった。
小学校の勉強の時間も終わった放課後。コナンが帰り支度をしていると、歩美はこんな話を切り出したのだった。
「何でも眠ったまま目覚めない女の子が何人もこの小学校から出ているんだって」
「眠ったまま目覚めない、だって?」
コナンが困惑したように聞き返す。近くの哀もややとまどったような顔のまま歩美の話を聞こうとする。
「そうなの。眠ったまま目を覚まそうとしないんだって。それも女の子ばっかり。だから、眠り姫事件」
歩美の話を聞いて光彦と元太も声を上げた。
「その話ならボクも聞いてます」
「オレも聞いたぞ!」
どうやらこの中で知らないのは、コナンと哀だけのようだった。
「眠ったまま目覚めない、か」
コナンはゆっくりと自問するようにつぶやいた。
普通、眠ったまま目覚めないことなどありえない。たとえ、強力な睡眠薬を使ったとしても、薬が切れれば目が覚める。
目が覚めないまま眠りの状態を保ち続ける薬などこの世にはないのだから。
コナンは歩美に聞いた。
「強く頭を打ったとか、そういうことはないのか?」
「うーん。わたしもあまり詳しくは知らないけど、ちがうと思うよ」
「そうか」
考えられるとするなら頭を強く打ったりしたせいで脳に障害がある可能性だが、それもどうやらなさそうらしい。
「それでね。この眠り姫事件、わたしたち少年探偵団で解決してみない?」
「は?」
歩美の提案にコナンが戸惑う中、元太と光彦が賛成する。
「おお!! いいな!! それ!!」
「そうですね! ボクたちでこの眠り姫事件を解決すれば、少年探偵団の株も上がりますね!」
「うん!! やっぱりそうだよね!!」
歩美たち3人が盛り上がる。慌ててコナンが3人を止めようとした。
「い、いや、こういうのは専門家に任せた方が……」
「よーし! 少年探偵団、レッツゴー!」
『おー!!』
3人が興奮したように教室を飛び出していく。コナンはそれを黙って見送った。
「はあ……」
思わずため息をつくコナンに、哀が話しかける。
「しょうがないわ。彼らにつきあうしかないわよ」
「でもな。灰原。眠ったまま目覚めないなんていうわけのわからない症状なんだぞ。そんなもの医療の専門家に任せるしかないだろ?」
「そうね。確かにそのとおりよ。でも……」
と、ここで哀は考え込むようなしぐさを見せた。
「わたしも気になるところがあるから行くわ」
「灰原?」
コナンが疑問の顔で哀を見る。哀は、クールな顔つきながら、やや真剣な表情をしていた。
「あなたはどうするの?」
哀がコナンにどうするかを問いかけてくる。
「しゃーねーなあ」
コナンはそう言うと、教室を飛び出していった3人を追いかけるべく後を追いかけた。
元太たち3人と合流したコナンと哀。5人は米花小学校の中を駆け回り、眠り姫事件の被害者となった女の子の住所を聞き込みした。
そして、5人はその被害者となった女の子の一人の住所に向かっていた。
「ねえねえ。この眠り姫事件の原因って何だと思う?」
歩美が他の4人に問いかける。元太が答えた。
「美味いモノの食いすぎじゃねーか? だって、美味いモノ食いすぎると眠くなるしよ」
「そんなわけないでしょう!」
元太の答えに光彦は思わず否定すると、自分の意見を述べる。
「そうですね。きっと悪い組織が薬を女の子に飲ませたんですよ。たぶん人体実験か何かですね」
「二人ともちがうよ」
元太の意見も光彦の意見も否定すると、歩美が言った。
「きっとね。女の子たちは悪い魔女に魔法をかけられたんだよ! で、好きな人のキスで目覚めるの!」
コナンはこの元太たち3人の意見の言い合いをやや苦笑しながら黙って聞いていたが、そこで歩美が爆弾発言をしたのだった。
「ねえ。コナンくん。もしわたしが眠り姫事件の被害者になったら、キスして起こしてくれる?」
コナンは思わずぎょっとしたような顔をする。
この発言を聞くやいなや、元太と光彦は鼻息を荒くして歩美に詰め寄った。
「オレ、オレ!! それはオレがやるぞ!」
「いいえ! その役目はボクです! ボクがやります!!」
詰め寄った二人を気にかけず、歩美がやや怒ったように告げる。
「わたしはコナンくんに聞いてるの! ねえ、キスしてくれる?」
コナンは返答に詰まった。
(オレが歩美ちゃんにキス? いやいや、そんなことできるわけねーだろ)
そもそも歩美は小学生だし、自分が好きなのは幼馴染の蘭である。キスなんかできるわけもない。
それなら、キスなんかできないと答えればいいだけの話なのだが、瞳をキラキラさせて尋ねてくる歩美の様子を見ていると、それも答えづらかった。
結局。
「そ、そうだね。その時になったら考えてみるよ」
コナンは玉虫色の「する」とも「しない」とも言っていない返事をした。
しかし。
「よかった〜! キスしてくれるんだ!」
「へ?」
コナンの返事を歩美はキスしてくれると解釈したようだった。
「絶対だよ! その時になったらキスしてね!」
歩美は嬉しそうに笑顔になって駆け出した。それをコナンは黙って見送る。
「おい、コナン!」
「コナンくん!!」
呼ばれて見て見れば、元太と光彦がこちらをジト目で見つめていた。
「い、いや。オレは「する」とも「しない」とも言ってねーし」
元太と光彦はそんなコナンの言い訳も気に留めず、
「ふん!!」
「やはりボクのライバルはコナンくん! キミですね!」
と言うと、すたすたと歩美を早足で二人は追いかける。
「ふー。なんだったんだ。この騒動は。なあ、灰ば……」
一息ついたコナンが、哀の方を見てコナンは言葉に詰まった。
哀はいつもの無表情に見える。見えるのだが。
「あなたが幼女趣味だったとは知らなかったわ。よかったわね。かわいい女の子とキスできるわよ」
なぜか全身から怒りのオーラを振りまいているように見えた。
「は、灰原?」
「何?」
(何でオメーそんなに怒ってるんだ?)
と、問いかけたかったコナンだったが、哀の怒りのオーラを前にして気後れしてできなかった。
哀はコナンを一瞥すると、黙ったまま前の3人を追いかける。
コナンは一人の味方もいない気分を味わい、頭を抱えたのだった。
「何なんだよ。ホント」
思わずコナンはこうつぶやくしかなかったのだった。
とまあそんな騒動はあったものの、5人は眠り姫事件の被害者である女の子の一人の家にたどりついた。
5人を出迎えたのは、その女の子の母親だった。気疲れした様子でげっそりしている。
「そう。見舞いに来てくれたのね。ありがたいわ」
コナンが女の子の家に来た理由を告げると、(表向きに見舞いということにした)母親は、疲れた顔の中から笑みを浮かべた。
家の中に5人を招きいれた母親は、女の子の場所へと案内する。
「こっちよ。今は2階のあの子の部屋で寝ているわ」
案内する間に母親が哀たちに女の子の容態について説明した。
「お医者さんにも診てもらったんだけどねえ。原因不明らしくてわからないの。2、3日様子を見て、それでも目覚めなかったら、病院に入院することになるわね」
そうしたことを話しながら、母親は階段を上がり被害者の女の子の部屋に案内する。
部屋の前に着くと、母親はトビラを開けて哀たち5人を招き入れた。
まず哀の目についたのは、ベッドで寝かされている女の子だった。長い黒髪できれいな感じの女の子だ。
見た限りにおいてはただ眠っているようにしか見えない。
「それじゃあ、ちょっと待ってて。今、お菓子でも持ってくるから」
そう言うと、母親は女の子の部屋から出て行った。
「よし、それじゃ今のうちに」
コナンが母親がいなくなったスキに女の子のことを調べようとする。
ベッドに近づくと、コナンは寝ている女の子の口元に顔を近づけ、
「ちょ、ちょっとコナンくん! 何しようとしてるの!?」
ようとしたところで、歩美に止められた。
「何って、呼吸が正常かどうかの確認を……」
コナンがきょとんとした顔で歩美に返事をする。
「はあ」
哀は思わずため息をついた。呆れた声でコナンに告げる。
「あなたってホントデリカシーがないのね」
「は?」
まだ止められた理由がわからないコナンに、哀は言った。
「まがりなりにも女の子なのよ。その子」
「イ、イヤ。オレにはそんなやましい意図は……」
「まあいいわ。ワタシがその子の呼吸を調べるから、あなたはその子の手首で脈拍が正常かどうかを確認して。それくらいならいいでしょうしね」
「……ああ。わかった」
コナンがまだ納得できないような顔でしぶしぶうなずくと、哀はベッドで寝ている女の子の口元に耳を近づける。コナンは女の子の手首を取り出して、脈拍を調べだした。
哀の耳に寝ている女の子の呼吸の音が聞こえてくる。
(呼吸は浅すぎず深すぎず特に問題はないわね)
哀は女の子の呼吸を分析した。コナンも脈拍を調べ終えたのか哀に告げる。
「脈拍は正常だ。別に異常はねーな」
「こっちも正常よ。呼吸にもおかしいところはないわ」
哀もコナンの答えを受けて、女の子の呼吸に異常がないことを告げた。
そんな二人が女の子を調べている様子を見ていた元太と光彦だったが、急に元太が手を上げた。
「オレ、トイレ行ってくる!」
「あ、ボクも行きます」
元太がトイレに行くことを言い、光彦がそれに応じる。
「そう。行ってらっしゃい」
「おう!」
「行ってきますね」
哀の言葉に元太と光彦は返事すると、女の子の部屋を出た。二人が階段を下りる音がしてくる。
「ちょうどよかったわ。ねえ。あなた。現れなさい」
二人が部屋から遠ざかったのを見計らい、哀が虚空に呼びかけた。
「ん。どした? 哀」
その呼びかけに応じてか小さな黒ネコのような生き物が哀の目の前に現れる。魔法少女マジカル☆哀のマスコット(?)ヒョウちゃんであった。
「おい。灰原。まさか」
「ええ。そのまさかよ」
コナンが思い浮かんだらしい事態に哀も同意する。
「ねえ。この子の状態を見てもらえる? 特に魔法関係で異常がないか、念入りにね」
哀はヒョウちゃんにベッドで眠っている女の子の状態を調べるよう頼んだ。
「どうかしたのか? この子」
「眠ったまま目が覚めないのよ」
「なるほどなあ。わかったぞ。調べてみる」
ヒョウちゃんが女の子の上に留まり、じっと女の子を見つめる。
そのまま数秒が経った後、ヒョウちゃんが言った。
「確かにこの女の子からは魔法で眠らされた反応があるぞ」
「ってことは、この事件はマジカルモンスターの仕業ってことか?」
コナンが疑問の顔つきでヒョウちゃんに問いかける。ヒョウちゃんが答えた。
「それはわからないぞ」
「わからない? 何でだ?」
「この女の子が魔法で眠らされているのは確かだけど、その原因がマジカルモンスターとは限らないぞ。魔法なら人間にもかけられるし」
「そうか……」
考え込んだコナンに代わって、哀がヒョウちゃんに尋ねる。
「犯人が人間の場合はひとまず置いておくとして、もし原因がマジカルモンスターがらみだとしたらどういう存在が考えられるの?」
この質問にヒョウちゃんが考え込むようにして唸ると答えた。
「うーん。そうだなあ。『サキュバス』、いや、女の子なら『インキュバス』かなあ。後は『獏(バク)』も考えられるけど。他には、いたかなあ?」
「サキュバス? インキュバス? 獏(バク)?」
オウム返しに出てきた単語を返す哀に、ヒョウちゃんが説明した。
「ああ。サキュバス、インキュバスってのは夢魔の妖精のこと。サキュバスが女、インキュバスが男の妖精で、それぞれが異性の夢にとりつくんだ。後、獏(バク)っていうのは悪い夢を吸い取ってくれるっていう夢を司るマジカルモンスターなんだけど、たまに悪いヤツがいて夢から魔力を吸い取り続けて、自分の糧にするっていうのもいるからなあ」
「で、どれが原因なの?」
「さっきも言ったけどわからないぞ。俺にわかるのはこの女の子が眠らされているのが魔法がらみってことだけだ」
ヒョウちゃんの言葉を聞いて、哀は思った。
(つまり、魔法がらみであることは確かだけど、原因は不明ということね)
そして、その原因が、人間のモノか、妖精のモノか、マジカルモンスターのモノかは全くわからないということだ。
「わかったわ。あなた。わたしたちの後を隠れてついてきなさい」
「え。何で?」
哀の提案にヒョウちゃんは不思議そうな顔をした。
「この女の子の他にも被害者になった女の子たちがいるの。その子たちの家を回るから、あなたはわたしたちについてきてその女の子たちも魔法によるもので眠らされているかどうか調べるのよ」
「えー。めんどくさ……」
ヒョウちゃんが不満を言おうとした時、哀がナイフのように鋭く目を細める。ヒョウちゃんはビクっとした。
「わ、わかった。じゃあ、また後で」
そう言うと、ヒョウちゃんはこの場から跡形もなく消えたのだった。
「おい。灰原」
「ええ。あの妙な生き物が言いかけたセリフじゃないけど、何とかするしかなさそうよ」
哀がそう言った時、女の子の母親と元太と光彦のモノとおぼしき声が階段を上がってくるのが聞こえてきた。
その後、哀とコナンたちは被害者の女の子たちの家を一軒一軒回っていった。
哀とコナンが女の子の容態を確かめ、ヒョウちゃんが後から確認する。
それを繰り返して最後の女の子の家を訪れた後、哀とコナンたち5人は帰宅の途についていた。
陽が沈み暗くなった道を5人は歩く。
「結局、何もわからないままでしたね」
光彦がつぶやく。
哀たちは被害者の女の子たちの家を回って容態を確かめてみたものの、全く原因はわからないままであった。
「うん。でも、女の子たちが魔法で眠らされているんなら、それをなんとかすればいいんだよ!」
「は? 魔法?」
歩美のしゃべった言葉を聞いて、光彦がいぶかしげな声を出す。
「まあ魔法にでもかかってるのかとか思いたくなるわよね」
哀はとりなすように言った後、歩美に近づき小声でたしなめる。
「吉田さん。魔法のことはヒミツでしょ?」
「あ、そうだったね」
歩美はハッと気づいたような顔をした。
「それじゃ、オレ帰るな。また明日会おうぜ」
「ボクも帰ります。それじゃ」
そう言うと元太と光彦はこの場から去っていった。
元太と光彦がいなくなった後、哀は虚空に向かって声をかける。
「現れなさい」
すぐさまヒョウちゃんが宙に現れた。
「何だ? 哀」
「で、どうだったの? あの女の子の容態は?」
あの女の子とは、哀たちが最後に訪れた眠り姫事件の被害者の女の子のことだ。
「ああ。やっぱりあの女の子も魔法で眠らされている感じだな」
「そう」
そんなやりとりを見ていたコナンが哀に聞いた。
「で、どうするんだよ。これから。女の子たちが魔法で眠らされているっていうんじゃ、オレは何の役にも立たねーしよ」
「そうね。ねえ、眠らされている女の子たちを起こすにはどうすればいいの?」
コナンの言葉を受けて、哀がヒョウちゃんにたずねる。
「うーん。そうだなあ。女の子たちを眠らさせている元凶をつきとめられば何とかなるぞ。人間がかけているんなら、その人間をなんとかすればいいし、妖精やマジカルモンスターならそれをなんとかすればいい」
「で、その元凶をつきとめる方法は?」
「わかんないぞ」
哀が黙ったまま目を細めた。そのままヒョウちゃんをおどすように視線を鋭くする。
ビクリとすると、ヒョウちゃんは言い訳するように叫んだ。
「いや、ほんとにわかんないんだって! その元凶をつきとめる方法があれば、女の子たちが眠らされた原因だってとっくにわかってるからなあ」
「魔法でなんとかならないの?」
「ムリだなあ。魔法も万能じゃないし。そっちの科学だってそうだろ? 例えば、被害者が薬で眠らされたことはわかっても、眠らさせた犯人まではわからないだろ? そういうこと」
そんな哀とヒョウちゃんのやりとりを聞いていたコナンだったが、ここで口を挟んできた。
「そうだな。そういう場合は現場に残された痕跡で犯人を追っていくしかねーな」
コナンの言葉を聞いて、哀が思いついたようにヒョウちゃんにたずねる。
「そうね。魔法の痕跡みたいなものはないの?」
「うーん。ちょっと日数が経っているせいなのか、全くっていいほど痕跡がないんだよね」
哀はヒョウちゃんの話した痕跡がないという言葉を聞いてため息をついた。
「しょうがないわね。もう遅いしこれからどうするかは明日考えましょう。元太くんと光彦くんを除いた魔法少女関係のメンバーで集まって元凶を見つけ出す方法を考えるわ」
そんな話を聞いて、ヒョウちゃんが大声を上げた。
「えー! それってあいつも呼ぶってことだろ!?」
ヒョウちゃんのいうあいつとは、魔法少女プリティ♪歩美のマスコット、フェンバルのことである。
「あたりまえよ。あなたじゃ不まじめすぎるもの」
「なあ。それってオレも集まらなきゃダメか? オレは魔法に関しては全くわからねーぞ」
コナンの困ったような言葉に哀は肩をすくめた。
「わたしだってそうよ。でも、あなたのその洞察力と推理力は役に立つはずよ」
今まで哀やコナン、ヒョウちゃんたちのやりとりを黙って聞いていた歩美がしゃべった。
「うん。わかった。ならフェンちゃんにも話しておくね」
「ええ。それじゃ、また明日。放課後いったん家に帰ってから、再び魔法少女関係のメンバーで集まりましょう」
この哀の言葉を合図にして、哀たち3人と一匹はこの場から解散したのだった。
陽が沈み暗くなった米花町。
そこで、別れた哀たち3人と一匹をじっと見ている影があった。
(………)
沈黙したままその影は、ただ一人のことをじっと見続けている。
その影は、やがて、別れた一人の後をゆっくりとついていったのだった。
「歩美ー。もう寝る時間よー」
「はーい」
歩美は母親に素直に返事すると、パジャマに着替えて寝る支度をした。
「それじゃちょっと私はレインダムに行って来るからな」
宙を飛ぶ小さなイヌのような生き物が着替えた歩美に声をかける。
「何しにいくの?」
歩美の問いかけに魔法少女プリティ♪歩美のマスコットでありオオカミの妖精であるフェンバルは答えた。
「女王陛下に報告だ。この間、女王陛下がこちらに来た件で少し報告することがある。ああ。後、その眠り姫事件の解決のために明日集まる件だが、わかったとヒョウレンの主(あるじ)に伝えておいてくれ」
「ヒョウレンの主(あるじ)って哀ちゃんのこと?」
「ああ。そうだ」
「うん。わかったよ!」
歩美は元気よく返事する。
「じゃあ、行って来る。明日には戻る」
と、言うとフェンバルはその場から消えた。
フェンバルが消えたのを見送ると、歩美は部屋の電灯を消しベッドに入った。
「おやすみなさーい」
誰に言うでもなく歩美はつぶやくと、ベッドに横になり目をつぶる。
そうしてうとうととしていたその時だった。
歩美は部屋に何かがいる気配がして目を開けた。
「フェンちゃん?」
その何かに声をかける。歩美はこの頃いつも一緒に部屋にいるオオカミの妖精だと思い自然にその名前を口にしていた。
その何かを目をこらして見ようとするが暗いせいでよくわからない。
歩美はベッドから起き上がり、手探りで電灯のひもを引っ張り電気をつけた。
「え?」
その何かを見て歩美は目を見張った。
歩美の視線の先にいたのは実に奇妙な生き物だった。
まず目に付いたのは、ゾウのように長い鼻だった。その体はクマ、脚はトラ、尾はウシに似ていて、大きさは大き目のブタくらい。
そして、歩美は気づかなかったがその生き物の目はサイに似ていた。
そんな奇妙な生き物が部屋の真ん中で歩美の方をじっと見ていた。
「きゃ−」
歩美が悲鳴をあげようと一瞬息を吸い込んだその時、その奇妙な生き物はゾウのような鼻を歩美の方に向けた。
その途端、歩美はひどい睡魔に襲われた。まぶたが重くなり、頭がぼうっとして意識が遠くなる。
そのまま歩美の意識は急速に眠りの海へと落ちていったのだった。
あとがき
はっはっは!!探偵k、参上!!(ちゅどーん!!)
ということでマジカル☆哀の新作をお送りします。
帝丹小学校の女子小学生の間で眠り続けたまま目覚めない「眠り姫事件」が発生します。その事件を解決しようと被害者の女の子たちの家を回って調べていく少年探偵団。
その結果この眠り姫事件が魔法によるものであることが判明します。しかし、その元凶が人間か、妖精か、マジカルモンスターであるかは謎のまま。
仕方ないので明日魔法少女関係のメンバーで集まることにしてその場を解散することにした哀たち。ですが、なにやらその現場を見ている怪しい影が。
その晩、歩美が寝ようとしたちょうどその時、謎の生き物が現れます。そして、歩美の意識は深い眠りの海へと落ちていったのでした。
歩美を眠りの世界に落とした謎の生き物は何なのか? 哀たちはこの事件を解決できるのか!?
と、いったところで次回に続きます。
探偵kさまぁぁ!!
ご無沙汰です〜
この眠り姫事件はいよいよクライマックスへの突入なのかなとハラハラしています(笑)
魔法がらみだけど謎のまま・・・・気になる!
そして歩美ちゃんを眠らせた謎の生き物・・・・やっぱ漠?漠なの?!
謎を残して次回につづく〜♪ by akkiy