「きゃ−」

歩美が悲鳴をあげようと一瞬息を吸い込んだその時、その奇妙な生き物はゾウのような鼻を歩美の方に向けた。

その途端、歩美はひどい睡魔に襲われた。まぶたが重くなり、頭がぼうっとして意識が遠くなる。

そのまま歩美の意識は急速に眠りの海へと落ちていったのだった。


魔法少女 マジカル☆哀 昏睡!眠り姫事件の謎を追え!! 中編


翌朝、帝丹小学校の教室で……

「ヘンね」

哀は隣の空っぽの席を見ながらつぶやいた。

その哀の隣の席は歩美のものである。その空白の席を横目に眺めながら哀は考え込んだ。

(何かあったのかしら? 学校を休むなんて)

朝に通学路の途中で哀とコナンは元太と光彦と合流した。
しかし、いつもいるはずの歩美の姿はその場になく、携帯電話で連絡を取ろうとするもつながらなかったため仕方なく先に学校に来たのだった。

そして、歩美は学校に来ていない。

もう朝のホームルームの時間が始まるにも関わらず、歩美は学校に姿を現わさなかったのだった。

哀がそんなことを考えこんでいると、哀たちの担任の先生である小林先生が教室に入ってきた。

小林先生は2、3連絡事項を児童たちに伝えると学校に来ていない歩美のことを話題にした。

「それから吉田さんは今日は急な病気で学校を休むそうです」

(急病?)

小林先生の言葉に哀は動揺する。小さい病気、例えばカゼならカゼだと伝えるはずである。

コナンの方を見ると、こちらもやや戸惑った様子で目を合わせてきた。

「それじゃあお勉強の時間を始めますよ。はじめは算数です」

小林先生はそう言うと算数の時間を始めたのだった。

 

 

すぐにでも歩美のことを確かめたかった哀だったが、目立つ行動を取るのは得策ではない。

仕方ないので一時間目の勉強の時間が終わるのをただひたすら待った。

そうして、一時間目の算数の時間が終わるやいなや、哀は担任の小林先生に話しかけた。

「小林先生。ちょっと聞きたいのだけど?」

「はい。何ですか? 灰原さん」

小林先生は子供好きのする笑顔で、哀に笑いかけてくる。

「吉田さんの病気について聞きたいのだけど、どんな病気なの?」

「あ。そ、それはね」

しかし、哀が歩美の病気について質問するやいなや、その笑顔を曇らせてしまう。

そんな小林先生の態度に哀はイヤな予感を感じた。

「もしかして歩美のヤツ大きなケガでもしたのか?」

「ボクも気になりますね」

見れば元太と光彦も近寄ってきて心配そうな顔をする。さらには、コナンも寄ってきた。

「い、いえ。ケガとかじゃないの。ただ……」

「ただ?」

言いづらそうな表情の小林先生に哀は先を促す。

やがて、小林先生は複雑そうな声で哀たちに言った。

「眠ったまま目を覚まさないらしいの」

その言葉を聞いた途端、哀は思わず教室の入り口へと走り出した。

そのまま教室を飛び出す。

「ちょ、ちょっと灰原さん! ドコ行くの!?」

「早退するわ」

あわてて追いかけて教室の入り口で声をかける小林先生に、振り返ってクールな声で言ってのけると、哀はそのまま学校の入り口へと向かって行った。

 

 

「そ、早退って」

哀が走り去るのを見送った小林先生は、教室の入り口で戸惑った表情を見せる。

それを見ていたコナンだったが、慌てて元太と光彦に叫んだ。

「オレたちも行くぞ! 元太! 光彦!」

「お、おう!」

「え、ええ!」

戸惑いながらも返事する元太と光彦。コナンは帰り支度をするとランドセルを背負って哀を追いかけようとする。それに元太と光彦も続いた。

「ちょ、あなたたちもドコ行くのよ!」

「早退しまーす」

そう告げるとコナンは教室の入り口の近くにいる小林先生をすり抜けて哀を追いかける。元太と光彦も後を追った。

後には、ただ呆然とする小林先生の姿が残された。

 

 

哀が学校の入り口で靴を履き替えていると、コナンたち3人が追いついてきた。

そのまま合流した哀たち4人は、そのまま学校を抜け出し歩美の家へと向かった。

そうして、今哀の目の前にはベッドに寝かされている歩美の姿がある。

歩美の母親は哀たち4人が学校を早退して見舞いに来たことにやや叱りはしたものの後は笑って許して家に招き入れていた。

「歩美ー」

「歩美ちゃん……」

元太と光彦が心配そうにベッドで寝ている歩美の姿を見つめる。

今までは眠り姫事件の被害者は赤の他人だった。しかし、今回の被害者は歩美である。

当然今までと同じ心境でいられるはずもなく、二人は不安そうな目で歩美を見守っていた。

そして、それは哀も例外ではなくただ歩美を見つめるしかなかった。

「灰原」

そんな哀にコナンが声をかけてくる。

「歩美ちゃんを調べるぞ。昨日と同じようにオレが脈を調べるから、灰原の方は呼吸を頼む」

「……そうね」

哀は少し落ち着きを取り戻した。コナンの冷静な口調が心強かった。

元太と光彦が見守る中、哀とコナンが歩美の呼吸と脈拍を調べる。

そうして哀とコナンが歩美を調べた結果は昨日と同じだった。

脈拍は正常。呼吸にもおかしなところはない。歩美はただ寝ているのとまるで変わらなかった。

「どうですか? 歩美ちゃんの容態は?」

光彦が哀とコナンに聞いてくる。コナンが答えた。

「そうだな。別に異常はねえ。だが、異常はないのに目覚めないのがおかしいんだ」

「そうですか……」

光彦が落ち込み深いため息をつく。

そんなコナンと光彦の会話を聞きながら哀は自分を叱りつけていた。

(しっかりしないといけないわ)

そう。歩美の身体にまるで異常がない以上、おそらくこれは魔法によるものだろう。

ならば、まがりなりにも魔法少女の関係者である哀がなんとかしないといけない。そうしないと歩美を救えない。

(それなら)

決心した哀は、コナンと光彦が話し合い元太が歩美を見守っている部屋の外へといったん出たのだった。

 

 

「ん?」

光彦と話していたコナンは、哀が歩美の部屋を出て行ったことに気がついた。

元太がベッドで寝ている歩美を見守る中、哀の姿だけがこの場にいなくなっていた。

(まあな。そりゃあ落ち込みもするだろうな)

コナンは哀のことを思いやった。

何せ歩美が眠り姫事件の被害者になったことを知ったらまっさきに駆けつけたぐらいである。

それだけ歩美を大切に思っている証拠だろうし、歩美がこんな目に遭ったら落ち込んでも無理はない。

そんなことを思った矢先だった。

「やっほー!! ヒョウちゃん登場〜〜!!」

そんなことを叫ぶ小さな黒ネコのような生き物といっしょに哀が歩美の部屋へと入ってきた。

「!?」

コナンたち3人が驚く中、その宙を飛ぶ黒ネコのような生き物が何やら呪文を唱える。

すると、目の前で話していた光彦の身体がぐらりと崩れた。

「光彦!?」

慌ててコナンが光彦の身体を支える。光彦は目をつぶり寝息を立てていた。

「むにゃら〜」

見れば元太もその太った身体を歩美のベッドに突っ伏させて眠っていた。

「よーし邪魔者は眠らせた! これで心置きなく調べられるぞ!」

そう叫んだのは、妙な黒ネコ(?)、魔法少女マジカル☆哀のマスコットことヒョウちゃんである。

「ええ。頼むわね」

そのヒョウちゃんにクールな口調で頼む哀。

「おい。灰原!」

思わずコナンが哀に叫ぶが、哀は大きく肩をすくめた。

「しかたないわ。魔法少女関係のことが秘密である以上、光彦くんや元太くんにばらすわけにはいかないもの。光彦くんや元太くんには悪いとは思うけどね」

「だがな!」

「それに調べるのは早くした方がいいわ。痕跡がなくなってしまうかもしれないもの」

その言葉にコナンは押しだまった。確かにそうである。

歩美は昨日までは元気だった。ということは、コナンたちと別れた後の昨夜に何かがあったことになる。あまり時間が経っているわけではないのだ。

しかし、時間が経てば経つほど、痕跡、(この場合は魔法の痕跡だが)がなくなる可能性が高くなるだろう。それを考えれば早めに捜査に動いた方がいい。

とはいえ。

あれほど動揺していたはずの哀が、今は冷静にコトを進めようとしている。そのことを考えると、

(ホント、タフな女だよ。オメーは)

思わずコナンは心の中でそうつぶやいたのだった。

 

 

光彦と元太を眠らせた後、ヒョウちゃんは歩美の容態を魔法で調べた。

その結果。

「うーん。やっぱりこの歩美って子も魔法で眠らされているぞ」

ヒョウちゃんが魔法で調べた結果を哀とコナンに告げた。

「やっぱりね」

哀がため息をつく。やはり歩美も同じ眠り姫事件の被害者らしい。

「で、これからどうするんだ? 魔法の痕跡とやらは見つかったか?」

コナンがヒョウちゃんにてがかりについて聞く。

「うーん。かすかな魔力のラインがつながっているのはわかったんだけどなあ」

「魔力のライン?」

「ああ。つまりこういうこと」

いくら魔法とはいえ永久に眠らせる魔法などというのは存在しない。これは、永久に眠らせる睡眠薬がないのと同じである。

魔法で眠らせたところでその魔法の効果が切れれば目が覚める。
睡眠薬で永久に眠らせ続けるためには睡眠薬を効果が切れる前に飲ませ続けなければならないように、永久に眠らせ続けるためには魔法をかけ続けて効果を延長させつづけなければならないのだ。

「そして、その魔法をかけ続けるためには被害者の女の子との魔力のつながりがなければならない。それが魔力のラインってわけ。
昨日は、被害者の女の子を調べる時間が少なかった上に時間が経っていたせいかちょっとわかんなかったけど、今回はなんとかその魔力のラインがつながってるのはわかったぞ」

「じゃあ、その魔力のラインをたどっていけばいいんじゃないか? そうすれば犯人につながるだろ?」

「別にいつも魔力でつながっているわけじゃないからなあ。なんていうか魔法をかける時だけそのラインを使って魔力を送るって感じだから」

「つながりがある相手に携帯電話で電波を使って電話をかけるみたいなものか」

「そういう感じかな」

ヒョウちゃんとコナンの会話を黙って聞いていた哀だったがここで口を挟んだ。

「ならその魔力が送られる時を狙って逆探知はできないの? 警察の電話の逆探知と同じような感じで」

「うーん。そういうのもできるけど、大掛かりな魔法の準備が必要だし。そういう魔法俺は得意じゃないんだよね。あいつは得意なんだけど」

「あいつ?」

「フェンバルのやつ」

ヒョウちゃんは嫌々そうな声で哀に答えた。

「そのフェンバルは今はどこ? ここにはいないみたいだけど」

「ああ。あいつは今レインダムに帰ってるぞ」

それを聞いて哀はヒョウちゃんに命令した。

「ならさっさと連絡してこっちに呼び戻しなさい。そして、その魔力の逆探知をして犯人を見つけ出すのよ」

「えー。あいつの力なんか借りたく……」

その瞬間哀は鋭く目を細めた。ヒョウちゃんがビクっと震える。

「わ、わかったぞ」

なんとか答えたヒョウちゃんが目をつぶる。どうやらフェンバルと連絡を取っているようである。

「今、事情を説明したぞ。後2時間で戻ってくるってさ」

「2時間? もっと早く帰って来れないの?」

「色々と用事があるらしい上にこっちの世界とレインダムは別世界だからなあ。たぶんムリじゃないか?」

「そう。なら仕方ないわね」

哀は納得すると床に座りこんだ。コナンも座り込み、顔を突き合わせる。

そのまま哀はコナンとヒョウちゃんに提案した。

「そのフェンバルが帰ってくる前にこの事件の犯人について考えて見ましょう」

「そうだな。時間を無駄にするわけにもいかねーしな」

「おっけー」

コナンとヒョウちゃんが哀の提案に同意する。

「じゃあ、この事件の犯人だけど、人間の可能性はあると思う?」

「そうだな。ちょっと考えにくいよな」

哀の質問にコナンが答える。

「理由は?」

「人間ならこんな事件を起こす動機があるはずだ。だが、この事件の被害者はどれも小学生の女の子だ。
ちょっとその動機がいまいち上手く考えられねーんだよな。恨みはねーだろーし」

「そうね」

コナンの意見に哀も同意する。

人間なら考えれる動機の一つとしては恨みがあるが、小学生の女の子が恨まれるというのはあまり考えづらい。

コナンが自分の意見をゆっくりと話し続ける。

「愉快犯というのも考えられなくはねーが、小学生の女の子を眠らせて何が愉しいのかわからねーしな」

「そうよね」

「それに被害者の女の子たちに共通点がない。帝丹小学校の女の子という以外にはまったくつながりがねーしな」

「なるほどね。とりあえずこの事件の主犯は人間というのは除外して考えた方がよさそうね」

哀はそう結論付ける。もちろん人間の可能性を否定するわけではないが、その可能性は著しく低いと考えた方が無難だろう。

「となると、考えられるのは主犯が人間以外という可能性だけどたしか妖精かマジカルモンスターかもと言っていたわよね。あなた」

哀はヒョウちゃんに話を振る。

「ああ。『インキュバス』か『獏(バク)』かもって言ったぞ」

「その『インキュバス』と『獏(バク)』とやらの特徴を説明しなさい」

「ああ。わかったぞ。まず妖精の『インキュバス』だけど、人間の男の姿をした夢魔の妖精で異性、つまり、女の夢に取り付いて糧を得るっていう妖精だ」

「なるほど。たしかにこの事件の被害者との特徴とも合致するわね」

今までの被害者は、小学生の女の子である。それならば、インキュバスがこの事件の主犯である可能性はあるだろう。

「ただなあ」

しかし、ヒョウちゃんがぼやいた。

「ただ?」

「妖精ってのは基本的に魔法世界の生き物だし、こっちの世界に妖精が来るのは今は禁止されてる。ちょっと考えにくいんだよね。
まあはぐれ者がこっちに居るって可能性もあるけど」

「なるほどね」

ヒョウちゃんが今度は獏(バク)について説明する。

「で、『獏(バク)』の方は、ゾウのように長い鼻を持っていて、体はクマ、脚はトラ、尾はウシに似ていて、目はサイに似ているっていうマジカルモンスターだ。前にも言ったけど夢を司る能力を持ってる」

「その獏(バク)もこういうことができるのね?」

「そうだな。だいたいの獏(バク)はいいヤツなんだけど、悪いヤツは眠らせた人間の夢から糧を吸い取り続けるヤツもいるから。けどなあ」

「けど?」

「獏(バク)が吸い取ることができるのは、誰でもできるんだ。別に小学生の女の子である必要はないんだよね。そこがちょっとひっかかっているんだよなあ」

「ふーむ」

インキュバスの場合だと被害者の特徴が合致する。しかし、妖精はこっちの世界には来れないらしい。獏(バク)の場合だとなぜ小学生の女の子だけを狙っているのかがわからない。

そのまま哀たち2人と一匹はこの事件の主犯について話しこんだ。

 

 

そうして、しばらく経って。

「そういえば、ワタシ荷物を学校に置き忘れたままだわ」

哀が帝丹小学校にランドセルなどの荷物を置いてきたことに気がついた。

携帯電話も学校に置き忘れてきている。

「そういやそうだな。オレたちも自分の荷物を持っていくのに精一杯ですっかり忘れてたぜ」

「しかたないわね。ちょっと学校に戻ってランドセルとかを取ってくるわ。まだ時間はあるはずだしね」

そう言うと哀は立ち上がった。そのまま、歩美の部屋から出て行こうとする。

哀がヒョウちゃんに話しかけた。

「フェンバルが戻ってくるのはいつ?」

「あと一時間後ってところだな。それまでに俺も逆探知の魔法の準備を整えておくぞ」

「わかったわ。それまでには戻るわ」

そう言うと、哀は歩美の部屋から出て行った。それをコナンは黙って見送った。

 

 

一時間後、フェンバルは魔法国家レインダムから戻ってきた。

眠っている歩美の姿を見るや、フェンバルがうなり声を上げる。

「くっ。わたしがこちらに居たらこんなことににはならなかったものを!」

フェンバルが悔しそうにする中、コナンはつぶやいた。

「それにしても哀のやつ遅いな」

コナンの言葉通り哀はまだ戻ってきていなかった。

確かにフェンバルが戻ってくるまでには帰ってくると言ったのだが。

そんな中ヒョウちゃんが言った。

「よし逆探知魔法の準備は終わったぞ。後は、フェンバル頼むぞ」

「ああ。後は任せておけ」

フェンバルが呪文を唱えると、目をつぶる。

そのまま呪文を唱え続けるフェンバルにヒョウちゃんが聞いた。

「フェンバル。この事件の主犯は何だと思う? 人間は除外するとして、俺たちはインキュバスか獏(バク)じゃないかと考えたんだが、オマエはどう思うんだ」

と言うと、先ほど哀やコナンと話し合った内容を告げた。

フェンバルはその内容を黙って聞いていたが、呪文を唱えるのを止めるとおもむろに告げた。

「おそらく獏(バク)だろうな」

「なんでだよ。フェンバル」

「消去法だ。人間には動機がない。妖精のインキュバスはこちらに来れない。なら、マジカルモンスターの獏(バク)しか考えられないだろう」

この事件の主犯を獏(バク)だと断定したフェンバルにヒョウちゃんが疑問を聞いた。

「だったらなぜ小学生の女の子ばかりが狙われるんだ? 獏(バク)だったら誰からでも魔力を奪えるぞ?」

「そんなもの。男より女の方が魔力が強いからに決まってるだろう」

「あ。そうか」

「ヒョウレン。お前は基本的なことが抜けているな。男より女の方が魔力が強い。これは常識だろう」

元々魔力は女の方が男より魔力が強い。
これは、世界中で神からの言葉を受けたり、神に伝えたりする役目に巫女など女性が多く受け持ったことでもよくわかるように女性の方が男性より魔力が強い傾向にあるのだ。

「それで小学生から魔力の糧を奪っているのはおそらくその獏(バク)がまだ未熟な個体なのだろうな。それでまだ小さい小学生からしか魔力を奪えなかったのだろう。
だから、小学生の女の子ばかりが狙われていたというわけだ」

「なるほどなー」

「では、わたしは逆探知を続けるぞ。これでもかなり大変なのだからな。もう話しかけるなよ?」

と言うと、フェンバルは呪文を唱えるのを再開した。

犯人の目星はついた。後は、逆探知魔法を成功させて、その獏(バク)とやらを捕まえるだけである。

「だってのに、灰原のやつ何してんだ?」

コナンはつぶやいた。哀はまだ戻ってこない。

哀のことをコナンが心配し始めたその時、フェンバルが声を上げた。

「捕らえた!!」

「やったか! フェンバル!」

「ああ。運がよかった。半日くらいはかかるかと思っていたが、上手くいったぞ。今、レインダムネットワークとリンクさせて位置を特定している最中だ」

レインダムネットワークとは、マジカルモンスターが出現した際にその魔力情報を元に現れた現場を特定する魔力ネットワークである。

今、フェンバルはそのレインダムネットワークと逆探知魔法で得た魔力情報を照らし合わせて位置を特定しようとしているのだ。

「よし。位置を特定した。現場に向かうぞ」

「おい。灰原はどうするんだよ?」

いまだ哀はこの場にいない。連絡を取ろうにも、携帯電話を学校に置き忘れているため連絡も取れない。

一応、哀の携帯電話にも掛けてみたが電話はつながらなかった。

ヒョウちゃんがコナンにさとす様に言った。

「しょうがないぞ。とりあえず俺たちだけでも現場に向かわなきゃ。逃げられたらまたやり直しだ」

「ち、しゃーねーなあ」

こうして、コナンとヒョウちゃんはフェンバルの先導の元、この眠り姫事件の主犯の獏(バク)がいると思われる現場に向かったのだった。

 

 

「こっちだ」

コナンは空飛ぶ小さなオオカミの先導の元、米花町を走り回る。

眠り姫事件の主犯と思われる獏(バク)の位置情報をつきとめたまではいいが、現場から移動されればアウトなのだ。

そのためには、なんとしても早急に現場に向かう必要があった。

そうして、30分ほどかけてコナンと2匹がたどり着いた場所は……

「帝丹小学校じゃねーか!」

一時間目の勉強の時間まで居た帝丹小学校だった。

「ここに獏(バク)が?」

校門の中に入るコナン。

と、そこでコナンは異変に気づいた。

今は勉強の時間だから静かなのはわからないでもない。だが、あまりに静か過ぎる。

コナンは校舎の中に入り、教室の一つを覗いてみた。

「!?」

思わずコナンは目を見張った。

その教室の中には、身動きするものが全くいなかった。ただ、子供たちは机の上に突っ伏したり、イスに倒れ掛かったりして全員が寝ていた。

先生も教卓の近くで寝転んでいる。

「まずいな」

「ああ。まずいぞー」

フェンバルとヒョウちゃんが顔を合わせて困った顔をする。

「おい。どういうことだよ?」

コナンの質問にヒョウちゃんが答えた。

「獏(バク)が力をつけてきているんだ」

「何だって?」

「今まで小学生の女の子から得てきた糧で力をつけた獏(バク)はこの小学校で一気に魔力の糧を得る気なんだ。だから、子供たちを全員眠らせたんだ」

「ああ。しかも、大人である先生も眠らせられている。相当獏(バク)が力をつけたことは間違いない」

ヒョウちゃんの言葉をフェンバルが補足する。

「くそっ! なんてこった!」

コナンが悪態をついた。と、そこでコナンの脳裏にこの学校に荷物を取りに戻った少女のことが思い浮かんだ。

「灰原!!」

思わずコナンはその少女の名前を叫んだのだった。

 

 

コナンが帝丹小学校に戻ってくる一時間ほど前。

哀は帝丹小学校の自分の教室へと向かっていた。

学校を早退したにもかかわらず再びまた学校に戻ってくる。しかも他の子供たちが勉強している中一人廊下を歩いている。普通なら少しやましい気分にもなるところだろう。

しかし、哀はそんな心境ではまったくないようで平然と一人廊下を歩いていた。

他の教室からは、何やらはしゃいだ子供たちの声がする。勉強の時間であっても、その元気すぎるエネルギーを持て余しているのだろう。

やがて、哀は自分の教室の前へとたどり着いた。

「さて、どうやって入ろうかしらね」

哀はひとりつぶやく。

早退すると言っておきながら荷物を持っていくのを忘れてしまい、また戻ってくる。

そのことにやや気まずい気分を覚えないわけではなかった哀は、自分の教室に入るのを少しためらった。

「まあ考えてもしょうがないわね」

しかし、哀は思い直すと平然と教室のドアを開けた。

「!?」

哀は教室に入るなり目を見張った。

まず気がついたのはあまりにも教室の空気が静か過ぎるということだった。他の教室のように騒がしいような声もない。

そして、教室内の全員が机に突っ伏したり、床に寝転んだりしてまるで動きがないことだった。

哀は近くの子供の一人に近づいた。すぐさま容態を確認する。

(呼吸はしている。心臓も動いている。これは寝ているの?)

どうやらこの子供は寝ているらしい。すーすーと寝息を立てている。

哀はぐるりと周りを見渡した。どうやらこの教室内の子供たちは、全員寝ているらしい。教壇の近くには担任の小林先生も眠っていた。

「どういうこと?」

哀が戸惑っていると背後で何やら動く気配がした。思わず哀は振り返る。

そこには、奇妙な生き物がこちらを見ていた。ゾウのように長い鼻、クマのような身体、脚はトラに、尾はウシに似ていてサイのような目を持っている。

そして、その身体の大きさは大きめのブタのようだった。

「獏(バク)!!」

哀はその奇妙な生き物の名前を叫んだ。間違いない。これはあのヒョウちゃんが言っていた獏(バク)だ。

哀が思わず身構えた時、獏(バク)はその長い鼻を哀の方へと向けた。

途端に哀のまぶたが重くなり意識が遠のいていく。

(ダメ。ここで意識を失ったら!)

そう思う哀だったが、どうやっても頭の中が睡魔に犯されていく。

そして、哀の意識は深い眠りの海へと落ちていったのだった。



next


あとがき

はっはっは!!探偵k、参上!!(ちゅどーん!!)

と、いうことで眠り姫事件の中編です。いや、書いていたら長くなってしまって。

歩美が眠り姫事件の被害者になったことを聞いた哀たち。あわてて歩美の家へと小学校を早退して向かいます。

そうして、歩美の家へとたどりついた哀たちは元太と光彦を眠らせるとヒョウちゃんの協力の下事件のてがかりを探します。

そして、こっちの世界に戻ってきたフェンバルの魔力逆探知の結果もあり、眠り姫事件の主犯の位置を特定することに成功します。また、フェンバルの推理により主犯が獏(バク)らしいことも判明。

そうして、コナンたちが主犯の位置の場所まで来ると、なんとその場所は帝丹小学校。そこでは、獏(バク)が学校中を巻き込んで子供たちを眠らせていました。

その少し前、一足先に帝丹小学校に戻っていた哀は獏(バク)と遭遇し、意識を失います。

眠りの中へと落ちた哀は大丈夫なのか! コナンはこの事件を解決できるのか!?

といったところで後編に続きます。




探偵k様!
中編ありがとうっ待ってました〜続きが気になってしょうがなかったです!
フェンバルが賢くて助かります(待て)ヒョウちゃんだけでは話が進まなかったはず(爆)
そしてここでまさかの哀ちゃんの意識が・・・・どうなるの?!大丈夫なの?!
そしてまさかコナンが変身するの?!気になるところで後編へ続く  by akkiy