(だったら、願い事どうしようかしらね?)

哀がつらつらとそんな事について考えていると、ヒョウちゃんが急に現れた。

「哀! 大変だ!!」

ヒョウちゃんが切羽詰った声で哀に告げる。

「最後のマジカルモンスターが現れた!!」

 

こうして魔法少女マジカル☆哀、最後の事件が幕を開けた。


魔法少女 マジカル☆哀 魔法少女よ 永遠に!? 中編その1


一人の魔法少女と小さなイヌのような生き物が空を飛んでいた。

「よし! 最後の一匹だ。ヒョウレンより先にこちらが捕まえるぞ!」

「がんばろうね。フェンちゃん!!」

魔法少女プリティ♪歩美とそのマスコット、フェンバルである。

「後一匹だもん。これが終われば、願い事が叶うんでしょ? やったあ!」

歩美が空を飛びながら無邪気に喜ぶ。自分の願い事が叶えられるのが嬉しくてしかたないようだ。

そんな様子をやや複雑な様子でフェンバルは眺めた。

フェンバルの胸中を複雑にしていた物。それは、先ほど届いた魔法国家レインダムからの命令であった。

女王陛下の名と共にフェンバルに与えられた命令。それは、生真面目なフェンバルにとって承服できない命令でもあった。

(くっ! まさかあんな命令が下されるとは……)

フェンバルの心の中で葛藤がうずまく。自分の納得できない思いが嵐のように巻き起こる。

心の中でレインダムの命令と自分の思いがせめぎあっていた時、心配するような声がフェンバルに届いた。

「どうかしたの? 大丈夫? フェンちゃん」

歩美の心配するような声。その声にフェンバルはハッとなった。

「いや、なんでもない。歩美。」

フェンバルは気を取り直した。まずは最後の一匹となったマジカルモンスターを捕まえる。そのことに集中するべきだった。

 

 

やがて、魔法少女プリティ♪歩美とフェンバルは、最後のマジカルモンスターが現れたと思われる場所までたどり着いた。

「レインダムネットワークの情報によるとこの辺りのはずだ」

米花町上空に張り巡らされた魔力探知ネットワーク、レインダムネットワークによる魔力情報を元にマジカルモンスターの位置をフェンバルは探る。

「あそこが怪しいな」

フェンバルが怪しいとにらんだ場所は、ビル群の中のビジネスビルの廃墟であった。

おそらくなんらかの事情があったのだろう。解体もされずその原形を廃ビルはとどめている。

「近くの他のビル群は使われているみたいだからな。マジカルモンスターが現れれば大騒ぎになるはずだ。地上の道路も騒ぎになってない。
空にもマジカルモンスターの姿は見えない。おそらくあそこだろう」

フェンバルとプリティ♪歩美は空からその廃墟ビルに近づいた。廃ビルの屋上へと降り立つ。

「よし、侵入するぞ」

フェンバルとプリティ♪歩美は、屋上から廃ビルの中へと入るトビラへと近づいた。

そのままトビラを開けると、フェンバルとプリティ♪歩美は、ビルの中へと入っていく。

「わあ。なんかドキドキするね」

歩美が興奮したように声の調子を上げる。対して、フェンバルは答えずに歩美の前を飛んで警戒しながら進んでいった。

そうして、階段を下りたりしてしばらく進んだところで、近くのトビラを開ける。

「あっ!」

歩美が声を上げた。

おそらく仕事場として使う場所なのだろう。かなり広々としたスペースをとった空間、その中央に黄金色の毛並みをした小さな生き物が居た。

その生き物を見て、フェンバルは安堵の息を発するとつぶやいた。

「九尾の狐か。しかも、子供だな」

「キュウビノキツネ?」

歩美が不思議な顔でフェンバルの言葉を繰り返す。言葉の意味が理解できてないようだった。

そんな歩美にフェンバルが説明した。

「ああ。九つに別れたしっぽを持つキツネ。美しい女に化けて時の権力者にとり憑くとされているマジカルモンスターだ。
古代の昔に中国の殷(いん)の紂王(ちゅうおう)や日本の鳥羽天皇の寵愛を受けて災いを起こしたという伝説がある。まあ伝説上の話だけどな」

「寵愛?」

「すまん。歩美にはわからない話だったか」

どうやら歩美にはよくわからなかったらしい。そんな歩美にフェンバルは謝る。

「とにかくあれが最後のマジカルモンスターなの?」

「そうだな。まあ大人だったらどうかわからないが、子供だからな。戦闘はないだろう」

歩美とフェンバルが話している間もその九尾の狐の子供は動かなかった。その黄金色の毛を持った小さな身体を震えさせている。

そんな九尾の狐の子供に歩美が声をかける。

「大丈夫だよ。怖くないよ」

そう呼びかけながらゆっくりと九尾の狐の子供に近づいていく。九尾の狐は逃げようとはしなかった。

その様子を緊張を解いた顔で眺めていたフェンバルだったが、不意に壁のある一点に気がつく。

(あれは何だ? 魔法陣? しかも召喚系の物と、もうひとつは、…!?)

フェンバルが顔色を変える。思わず叫んだ。

「歩美! 危ない!! そこは!!」

「え!?」

その声に驚いた時には、歩美は既に九尾の狐のすぐそばに一歩を踏み入れたところだった。

壁のあちこちに描かれていた魔法陣が力を発揮する。その魔力は、空間を超えて、九尾の狐の近くにいたあらゆるものを金縛りにした。

「う、動けないよ!」

歩美が困ったように声を発する。歩美はまったく動けないようだった。

(くっ! まさか縛りの魔法陣があちこちに描かれているとは!)

そして、その魔法陣は九尾の狐の子供の辺りを中心にして発動するようになっていた。

九尾の狐の子供は動かなかったのではない。動けなかったのだ。

バン!バン!

その時、この広々とした部屋につながる2つのトビラが開き、黒服の男たちが次々と姿を現した。

「くっ!」

フェンバルが警戒する中、最後にメガネをかけた黒服の女が現れる。

「ふふふ」

その女はそれは愉しそうに含み笑いを上げた。

 

 

「捕らえなさい!!」

黒服の女は、黒服たちに命令を告げる。黒服たちが動けないプリティ♪歩美の方へゆっくりと近づいていく。

(困った。どうすればいい?)

フェンバルは、この黒服たちに囲まれた状況下で必死に頭を働かせていた。

歩美は縛りの魔法陣の力で動けない。そして、こちらに近づいてくる怪しげな黒服の男たちがたくさんいる。

なんとか歩美と一緒に逃げたいところだが、歩美のすぐ近くまで近づけばフェンバルまで縛りの魔方陣の魔力に捕らわれるだろう。

そう考えるとうかつに動けなかった。

「いい? そこの魔法少女の女の子と九尾の狐の子供は動けないから無視していいわ。捕らえるのは、そこのイヌの妖精よ!!」

黒服の女がフェンバルを指差す。黒服たちがフェンバルに一斉に銃口を向けた。

部屋の空気に緊迫感が満ちていく。しかし、フェンバルにはひとまず言っておきたいことがあった。

「わたしはイヌじゃない!! オオカミだ!!」

フェンバルのその叫びを皮切りにして黒服たちが一斉に銃弾を撃ち放った。

 

 

黒服たちが一斉にフェンバルに向かって銃弾を撃つ。

それをフェンバルはなんとか避けた。

黒服の一人が舌打ちする。さすがにちょっとのぬいぐるみほどの大きさのフェンバルを銃で狙い打つのはなかなか難しいようだった。

すぐさまフェンバルは巨大な咆哮を繰り出した。

その巨大な咆哮にその場の黒服たちが全員驚いたように身を震わせる。

銃弾をかわしながら巨大な咆哮を繰り返し、フェンバルは黒服たちをその場に押し留めようとする。

(くっ! しかし、いつまでもこの状況を続けるのは無理だな)

今は魔力を乗せた咆哮でなんとか押し留めているが、この世界の魔力濃度は極端に低いのだ。いつまでもこの咆哮を続けるのは無理である。

(あいつに頼るのはしゃくだが……)

フェンバルの望みとしてはこうやって時間を稼いでいるうちに、ヒョウレンとその魔法少女がこの場に駆けつけてくることに頼るしかなかった。

だが、どうやら時間切れのようだった。

「まったく!! 何をてこずっているの!!」

黒服の女がイラだったように叫んだ。そして、黒服たちに命令する。

「あの魔法少女に銃を向けなさい!! 人質にするのよ!!」

すぐさま黒服たちが動けないプリティ♪歩美に銃口を向けた。

「くっ!」

歩美に銃口を向けられ空中で硬直するフェンバル。

(くっ! しまった!)

フェンバルは心の中で自分の失態を悟る。

黒服たちが歩美に銃口を向けている中、黒服の女が勝ち誇ったようにフェンバルに告げてきた。

「抵抗をやめなさい。そして、大人しく捕まることね。でないと……わかるでしょ?」

(くっ! どうする?)

歩美を人質に取られてしまった。このまま抵抗すれば歩美が撃たれる危険性がある。

(どうすればいい?)

フェンバルは頭の思考をフル回転させる。

(このまま大人しく自分が捕まるのは論外。その後歩美がどうなるかわかったものではない。だが、抵抗もできない。歩美に銃口が向けられている以上は)

フェンバルが思考の金縛りに陥る中、黒服の女が告げる。

「さあ、早く決めるのね。なんならあの娘の足でも撃ち抜いた方が早く決断できるかしら?」

フェンバルはなかなか決断できない。そんな状況でフェンバルに叫んだ人物が居た。

「フェンちゃん!! 逃げて!!」

銃口を向けられている歩美だった。フェンバルはその叫びに判断を決めた。

(あの黒服の女は捕まえろと命令していた。なら歩美が殺されるようなことにはならないはずだ)

もっともそれは希望的観測にすぎない。しかし、このままフェンバルが捕まれば、歩美がこの黒服の連中に捕まったことを知らせる者はいなくなるのだ。

「歩美! すまん!」

フェンバルは謝る。すぐさま魔力を振り絞って巨大な咆哮を黒服たちに放った。

その咆哮に黒服たちがひるんだスキにフェンバルはその場から一人で歩美を残して瞬間移動したのだった。

 

 

オオカミの妖精がその場からかき消えた後、黒服の一人がキルシュに言った。

「キルシュ様。あのイヌの妖精には逃げられました」

「ふう。まあ仕方ないわ」

キルシュがあきらめたようにため息をつく。キルシュは思った。

(それにしてもまさか魔法世界の怪物を捕らえようとして、こんな幸運に出会えるなんてね)

キルシュが九尾の狐の子供の近くに居る黒髪の魔法少女を見つめる。少女は怯えたようにビクッと震えた。

キルシュたちがこの廃ビルで待ち構えていたその目的は、あくまでマジカルモンスターを捕らえようとしていたからであった。

魔法国家レインダムは、マジカルモンスターが現れる地域を米花町近辺に限定することに成功した。それと同じことを小規模でキルシュは行おうとしていたのだ。

この廃ビルの一室に召喚系の魔法陣を使い、米花町近辺に現れるマジカルモンスターをこの廃ビルに限定して召喚する。
そして、その召喚したマジカルモンスターを捕らえるためにキルシュたちはこのビルに待機していたのであった。

(だけど、まさかその召喚した魔法世界の怪物を捕らえるために設置した縛りの魔法陣に魔法少女がひっかかるなんてね)

そして、その様子を部屋に設置していたカメラからの画像で知ったキルシュたちは現場に駆けつけたというわけだった。

「まああのイヌの妖精も捕まえたかったけど、逃げられたものは仕方ないわ。それよりも……」

キルシュは少女に銃口を向けた。そして、そのまま引き金を引く。

銃口からは銃弾は出ず、そのかわりに紫色の霧のようなものが出て、黒髪の魔法少女に当たった。

「うーん」

その紫色の霧に当たった少女はすぐに眠りに落ちた。

同じように九尾の狐の子供を眠らせたキルシュは黒服に命令した。

「じゃあ、この少女と九尾の狐を研究所に運びなさい」

その命令を受けて黒服たちが動き始めた。

 

 

「よーし!!最後の一匹だ。ほら、哀! 急いで急いで!」

「あなたのせいで遅れたんでしょう?」

小さな黒ネコのような生き物と一人の魔法少女が空を飛んでいた。

魔法少女マジカル☆哀とそのマスコット(?)、ヒョウちゃんである。

「まったくあなたが『これでこの世界の食べ物とも終わりかあ。食い納めだあ!』とか言って、家にあったケーキとかタコヤキとかを食べなければこんなに遅れはしなかったのよ?」

「まあ哀! 済んだことはしょうがないって!」

あっけらかんとしたヒョウちゃんの言葉に哀がため息をつく。

そんなやりとりをしながら空を飛んでいた二人だったが、そんな二人の目の前に急に小さな影が現れた。

慌てて二人は急ブレーキをかけて宙に留まる。

「って、フェンバルか。いったい何の用だ?」

ヒョウちゃんの問いかけにフェンバルは悔しそうに返した。

「歩美が、捕まった……」

「え! あの女の子が!?」

フェンバルの言葉に驚くヒョウちゃん。しかし、そんなヒョウちゃんよりもさらに激しく驚いて詰め寄った人物がその場に居た。

「ちょっと! それはどういうこと!?」

「哀?」

歩美が捕まったと聞いて、クールな仮面をかなぐり捨てて詰め寄る哀。そんな哀をヒョウちゃんは驚いたように見る。

そんな哀にフェンバルは、先ほど遭遇したことを話して聞かせた。

歩美と一緒に最後のマジカルモンスターを捕まえに来たこと。怪しいと思った廃ビルに侵入したとき、九尾の狐の子供に会ったこと。
その後、歩美が動けなくなり黒服の男たちを従えた黒づくめの女が現れたこと。

「それで自分だけがおめおめと逃げてきたんだ。なんとか歩美と逃げたかったんだが……」

先ほどあった出来事を悔しそうに話すフェンバル。そんなフェンバルがしゃべった出来事を聞いて哀は呆然となった。

(吉田さんが黒の組織に捕まった……)

その事実だけが哀の頭の中を駆けめぐる。そして、その事実の重みに頭の中が真っ黒に染め上げられていく。

何も考えられない。思考が黒く重い事実を前にして働かない。

「とにかく助けてくれ! 手遅れかもしれないが、早めに戻ればまだ歩美を助けられるかもしれない!」

フェンバルの叫びに哀は我に返り、すぐさま叫んでいた。

「早く案内して!!」

「ああ! わかった! こっちだ!!」

フェンバルがすぐさま先導する。そのフェンバルの案内についていく形で哀は急いでついていく。

「こ、こらあ! 哀はこのヒョウちゃんの魔法少女なんだからなあ!」

阿吽の呼吸で動くフェンバルと哀にヒョウちゃんが文句を言いながらついていく。

しかし、哀の耳にそんなヒョウちゃんの言葉は届いていなかった。

哀の視界が狭くなる。頭は一つのことで一杯だった。

哀の頭を占めていたもの。それは、黒の組織に捕まった歩美、それだけだった。

 

 

廃ビルに侵入して、フェンバル、哀、ヒョウちゃんは九尾の狐の子供と歩美が捕まったという部屋へと慎重に入った。

しかし、その場にはすでに歩美も九尾の狐の子供の姿もなかった。

「くそっ! やはり遅かったか!」

フェンバルが悔しそうに叫ぶ中、哀は歩美が黒の組織にさらわれたという現実を前にして、目の前が真っ暗になったような感覚を覚えていた。

(吉田さん!!)

哀の心の中が嵐のように激しく渦を巻く。哀はその荒れ狂う感情を押さえ込むこともできなかった。

そんな哀の心境も知らずに、ヒョウちゃんがつぶやく。

「それにしても、まさかあいつらがそんなことをしてくるとはなあ」

このヒョウちゃんのつぶやきをフェンバルが聞きとがめた。

「『あいつら』とはどういうことだ? ヒョウレン!! お前、まさかあの黒づくめの連中のことを知っていたのか!?」

このフェンバルの問いかけにヒョウちゃんが答える。

「ああ。何か前に一回魔法陣でちょっかいをかけてきたことがあったんだよね」

ヒョウちゃんの話したその事実に、フェンバルは鼻息を荒くした。

「そんな大事なことがなぜ報告に上がっていないんだ!」

「いやあ、『魔法少女に現れた謎の敵』って感じだったからさあ。面白くなってきたなあって思って。それで、つい」

「ヒョウレン!! お前がそんな性格なのはイヤというほど知っているがな! マジカルモンスター退治の障害になるようなことはちゃんと報告しないといけないだろうが!!」

ヒョウちゃんとフェンバルが口論する。しかし、歩美がさらわれたという事実を前にしていた哀には、そんな二匹の言い争う言葉など全く耳に入ってこなかった。

 

 

ひとしきり口論していた二匹だったが、まずフェンバルが我に返った。

「まあいい。こんなことをしている場合ではない。歩美を助けなければな」

「そうだな。まずはあの歩美って女の子を助けないとな」

フェンバルの言葉にヒョウちゃんも同意した。

「とりあえず歩美って女の子がどこにさらわれたかどうかを調べるのが先だなあ」

ヒョウちゃんの提案にフェンバルが答えた。

「そうだな。わたしは探知魔法を使ってみるぞ。レインダムネットワークを利用して、歩美の着ている魔法少女の服の魔力を元に位置を追ってみよう」

「オーケー。じゃあ、俺はこの場所の残された痕跡を調べてみるぞ。……ん。哀?」

と、ここで、ヒョウちゃんは先ほどから哀が一言もしゃべっていないことに気がついた。

「哀、どした? まああの歩美って女の子がさらわれてショックなのはわかるけど、今はそのさらわれた女の子を捜さないと」

「そう……よね」

ヒョウちゃんのかけた言葉に哀はぽつりと一言だけ返した。

 

 

そうして、哀はヒョウちゃんと部屋に残された何かしらの痕跡がないかと探し出そうとしたのだが。

「………」

頭が働かない。

歩美が黒の組織にさらわれたという事実に哀は目の前の物が全く何も見えていないような状態だった。

フェンバルが使っている探知魔法の呪文が辺りに響く中、黙々と何か痕跡がないかと探し出そうとする哀だったが、つい悪い方向に想像をしてしまう。

わざわざさらった以上、歩美が殺されるということはおそらくないだろう。

しかし、それは歩美が無事で居られるということではない。

何を目的に魔法少女である歩美をさらったのかはわからない。だが、その目的が良い物であるとは到底思えない。

ならば、歩美を拷問することだって……

そんな想像をしてしまい、哀は思わず身震いをしてしまったのだった。

 

 

哀とヒョウちゃんは部屋に描かれた魔法陣をいくつか発見した。しかし……

「ダメだなあ。描かれている魔法陣はありふれているものだから、てがかりになりそうもないなあ」

てがかりは何も見つけることができなかった。

そして、あのオオカミの妖精の方もどうやら上手く行かなかったようだった。

「ダメだ! 隠蔽魔法が使われているのか、探知できない!!」

フェンバルがこう叫び、探知魔法の失敗を告げる。

何のてがかりも見つからず、フェンバルの探知魔法も失敗してしまい、困り果てる哀と二匹。

そして、色々と調べているうちに日が暮れて時間も遅くなってきた。

「もうこんな時間か。哀、あのおじいさんが心配するからいったん家に帰ったほうがいいぞ」

「でも!!」

ヒョウちゃんの言葉に思わず哀は反発する。歩美がさらわれたというのに、そんなことが出来るはずがなかった。

ヒョウちゃんの提案にフェンバルも賛成する。

「そうだな。子供はもう帰る時間だ。いったん家に帰ったほうがいい」

「イヤよ! それよりも、吉田さんを助ける方が先よ!」

そう頑なに哀は叫び返す。哀は意地になってヒョウちゃんの提案を拒んだ。

「ワタシは手がかりが見つかるまでここから離れないから!!」

思いつめた様子で叫んだ哀を、ヒョウちゃんとフェンバルが困ったような表情で見つめた。

ヒョウちゃんとフェンバルが互いに目配せするとうなずく。

突然ヒョウちゃんが呪文を唱えた。その途端、哀の意識がぼやけていく。

「な……なにを……?」

哀がもうろうとヒョウちゃんに聞く。ヒョウちゃんの呪文で哀の意識はゆっくりと眠りの世界に落ちようとしていた。

意識があやふやな中、ヒョウちゃんが明るく笑って哀に言った。

「哀、いったん家に帰った方がいいぞ。だいじょーぶ!! あの歩美って女の子の手がかりはこのヒョウちゃんが見つけておくから!!」

ヒョウちゃんのその言葉を境にして哀の意識は途切れたのだった。

 

 

哀が気がつくと、そこには歩美がそばに立っていた。

そばにいる歩美の姿を見て哀は驚く。

「吉田さん! 助かったのね!!」

黒の組織にさらわれたはずの歩美が自分のそばにいる。その突然の状況に驚きながらも哀は喜んだ。

だが。

「ふふふ。この娘はいただいていくわ」

不意に黒づくめの女がその場に現れる。そして、歩美を哀のそばから連れ去った。

「灰原さん!!」

「吉田さん!!」

歩美が叫ぶ。哀が叫ぶ。黒づくめの女、キルシュは叫ぶ歩美を強引に連れ去っていく。

哀は追いかけようとするが、黒服の男たちがそれを阻んだ。

「助けて!! 助けて!! 灰原さん!!」

連れ去られていく歩美が追いかけようとする哀に向かって手を伸ばす。

「吉田さん!! 吉田さん!!」

哀も追いすがろうとするが、黒服の部下に遮られ追いつけない。

「吉田さん!! いいえ、……」

哀は連れ去られる少女の名前を叫ぼうと大きく息を吸い込んで、そして、叫んだ。

 

 

「歩美!!」

哀はその自分で叫んだ大声で目が覚めた。

「っ!?」

一瞬、自分がどこにいるのかわからなくなる。哀は慌てて回りを見渡した。

部屋の光景に見覚えがある。そこは、どうやら博士の家のベッドのようだった。

哀はいったん呼吸を整えると、ゆっくりとつぶやいた。

「夢…か」

当然、そばには歩美の姿などまるでなかった。

「おお!! 哀くん!! 起きたようじゃな!! 大丈夫じゃったか!?」

阿笠博士が慌てて寝室に飛び込んでくる。どうやら今の大声を聞いて駆けつけたようだった。

「驚いたのじゃぞ? しばらく帰ってこんから心配していたところに、チャイムが鳴ったから出てみれば、哀くんがこの家の玄関先で寝ていたんじゃから」

(そういうこと…か)

阿笠博士の言葉を聞いて、哀は今の状況を悟った。

哀を眠らせた後、ヒョウちゃんは博士の家の玄関に哀を置いたのだろう。

(まあ玄関先だった理由は、博士が家に居たから寝室のベッドに寝かせられなかったせいね)

そして、玄関先で寝ていた哀を発見した阿笠博士が寝室のベッドに哀を運んだのだろう。

だから、今自分はこの寝室のベッドにいるというわけか。

そこまで理解した哀に、阿笠博士が声をかけてくる。

「目も覚めたようじゃし、とりあえず夕飯を食べたらどうじゃ?」

と、遅い夕食を哀に勧めてきたのだった。

 

 

どうやら阿笠博士は哀のことが心配で夕食を食べていなかったらしい。

哀は遅い夕食を博士と二人で一緒に食べることになった。

冷凍食品やレトルトのハンバーグといったところだが、博士が作ってくれた夕食を哀は食べる。

もっとも……歩美のことが心配な哀には味など全くわからなかったが。

「そういえば哀くん」

黙々と哀が夕食を食べる手を進めていると、博士が哀に声をかけてきた。

「歩美くんとは今日は一緒じゃなかったかね?」

(!?)

阿笠博士から歩美の話題を切り出されて哀は心の中で動揺した。

そんな哀の心境も知らず、博士は困ったような顔で話を続ける。

「さっき歩美くんの母親から連絡があってのう。こんな時間になっても歩美くんが家に帰ってきていないそうじゃ」

「……」

哀は答えない。答えられない。

やはり歩美は黒の組織にさらわれた。その事実がまたも確実になった。

「『こちらに泊まっていませんか?』とも、聞かれたのじゃがのう。残念じゃがいないしのう。どうしたんじゃろうな? 歩美くん。心配じゃ」

博士は歩美が家に帰ってきていない事実に不安そうな表情だった。

「それで、哀くん。歩美くんとは今日は一緒じゃなかったのかね?」

「……いいえ」

改めて歩美のことを尋ねてきた博士に哀はその一言を返すのが精一杯だったのだった。

 

 

遅い夕食を食べ終わり、食器などの後片付けをした後、哀はじりじりとしながらリビングのソファに座って博士が寝るのを待った。

(このままでは外に出られないものね。歩美の手がかりを探せないわ)

そうして、哀は時間が経つのを待っていると焦りの気持ちが哀の中に湧き出てくる。

未だヒョウちゃんから連絡は来ない。それはつまり、手がかりを探すのが全く進んでいない証拠でもあった。

しかし、博士は歩美の母親と連絡を取り合っている。まだ帰ってこない歩美を心配しているのだ。

このままでは一晩中博士は歩美を心配して起きているかもしれない。それはそれで困ってしまうのだった。

(歩美……)

哀の心の中にも歩美を心配する小さな感情がよみがえってきた。そして、時間が経つたびにそれは、徐々に勢いを増して嵐のような感情へと成長していく。

今まで考えないようにしていた黒く押しつぶされそうな感情がよみがえる。歩美を心配する激しい感情が吹き荒れる。

(どうすればいいの!?)

ヒョウちゃんからもフェンバルからも連絡は来ない。哀も現場でてがかりを見つけようとしたが、全く見つからなかった。

もはや八方ふさがりだった。

(どうすれば!!)

台風のような感情が哀を突き動かす。

思わず哀はソファから立ち上がった。そして、博士の家の玄関の方へと必死に走っていく。

哀の動きに気づいて阿笠博士が哀を大声で呼び止めた。

「どうしたんじゃ!? 哀くん!!」

その声に返事を返さずに哀は靴を履くと玄関から外へと飛び出していったのだった。



NEXT


あとがき

はっはっは! 探偵k、参上!!(ちゅどーん!!)

と、いったところでマジカル哀最終話中編をお送りします。

とうとう最後のマジカルモンスターが現れました。

そのマジカルモンスターを捕まえに先に向かった魔法少女プリティ♪歩美とフェンバル。

しかし、黒の組織の魔法科学者キルシュの罠にかかり、歩美が捕まってしまう事態に。また、最後のマジカルモンスターである九尾の狐の子供も捕らえられてしまいます。

そのことをフェンバルから聞かされた哀。捕まった現場に向かいますが、その時にはすでに手遅れでした。

なんとか歩美を探し出そうとてがかりを探しますが、全くみつからない状況。

そして、一足先に家に帰された哀は博士と遅い夕食を取ります。そこで歩美が家に帰っていないことを博士から聞かされます。

博士が寝るのを待ち、てがかりを探しに行こうと時間が経つのを待つ哀。しかし、居てもたってもいられなくなった哀は、博士の家から外へと飛び出していったのでした。

と、いったところで次回に続きます。



探偵kさまぁっ
中編その1でまさかの歩美誘拐事件!!
あの哀ちゃんが何も手につかないぐらいの動揺してて今回は最初からハラハラしっぱなしですっっっ
はたして歩美を助けられるのか!がんばれ哀ちゃんがんばれフェンバル!!(誰か忘れてる)
次号乞うご期待!!
by akkiy