「パソコンなんぞつけてどうしろっていうんや?」

平次がつぶやいた時、パソコンの画面がなぜか点滅し出した。

「は?」

そして、パソコンの画面が大きく輝き出す。

「な、なんやあああああ!?」

平次はその現象に驚きの声を上げた時、それは起こったのだった。


魔法少女 マジカル☆哀 魔法少女よ 永遠に!? 後編その1


翌日の昼。

米花町郊外にその研究所はあった。

『新エネルギー開発研究所』

表向きは、風力、太陽光などの自然エネルギー開発を行うのを目的として作られた研究所であったが、実際は魔法、超常現象研究を目的として作られた黒の組織の研究機関であった。

その一室ではキルシュによる歩美への尋問が行われていた。

「魔法のテクノロジーについて教えなさい!! 後、シェリーとはどういう関係なの!?」

後ろ手に手錠をかけられた魔法少女服姿の歩美に詰め寄るキルシュ。しかし……

「何言ってるかわかんない!! ヤダ! ヤダ! ヤダ!! おうちに帰してーー!!」

いくら身体が高校生に成長したとはいえ、中身が小学生の歩美に答えられるはずもない。

「く、らちがあかないわね」

だだっ子のように話も通じないことに業を煮やしたキルシュはいらだったようだった。

イライラしながら部屋を出たキルシュは黒服に命令する。

「とりあえずこのままこの部屋に閉じ込めておきなさい! しゃべりたくなるまでね。後、逃がさないように見張りもちゃんと付けておくのよ!!」

黒服がうなずくと、キルシュは自室へと足を向けた。

 

 

キルシュは自室に入ると机に向かい、イスに座る。

そこでキルシュは机の上に置いてあったブレスレットを取った。

アンティークショップの事件で池田安次郎という老人から奪ったブレスレットである。

そのブレスレットの表面には、普通の人間には読めない文字が記されている。

(レイ、ウィルフ、セイ、レイリューション、か)

おそらく呪文なのだろう。だが、この類のものはむやみに唱えるのは危険でもある。なにが起こるかわからないからだ。

突然、暴走するかもしれない。身体が化け物に変身するかもしれない。

魔法をかけられたものの研究は命がけなのだ。

(それをわかりもしないで、くだらない役に立たない研究ですって!!)

ジンがしゃべった言葉を思い出しキルシュが苛立っていると黒服が慌てた様子で自室に入ってきた。

「キルシュ様!! 大変です!!」

キルシュはその慌てた様子の黒服にいぶかしげに声をかけた。

「何よ? いったい?」

黒服が緊迫した表情で大声で叫んだ。

「この研究所が襲撃を受けています!!」

「なんですって!!」

キルシュは驚愕の表情で叫んだのだった。

 

 

その数分前。

哀は、魔法少女マジカル☆哀に変身して黒の組織の研究所に襲撃をかけようとしていた。

思わず手が震える。緊張のあまりノドが乾く。

そんな緊張をなんとか心の奥底に押し留めていると、コナンからDBバッジで連絡が来た。

『灰原か?』

「ええ」

『こっちは準備できたぞ。そっちはどうだ?』

「こっちもOKよ」

『わかった』

と、ここでコナンは一呼吸置くと哀に尋ねてきた。

『できそうか? 灰原?』

「ええ……なんとかしてみせるわ」

『それじゃあ、頼んだ』

そう告げて、コナンの連絡は途切れた。

「よし!! それじゃ、俺はこの封筒を置いてくるからなあ」

ヒョウちゃんが何やら手紙が入った封筒を持って哀に告げる。

「それじゃあ、行ってくるぞ!」

「ええ」

ヒョウちゃんがかき消えて、その2、3分後にまた再び現れる。

「置いてきたぞ」

「これで準備はいいわね」

哀は目をつぶりゆっくりと深呼吸する。そして、カッと目を見開いた。

「行くわ!!」

哀は決断すると呪文を唱える。

「……レイ……マジカル……トランス……ミューテーション」

棒読みの呪文に魔法の試験管が反応する。七色の光が哀を包み込んだ。

そして、魔法少女マジカル☆哀に変身した哀は黒の組織の研究所に対して攻撃をしかけたのだった。

 

 

そうして、今、哀は黒の組織の研究所に対して攻撃を仕掛けている。

高い塀を魔法で乗り越え現れたマジカル☆哀は、まず爆弾を投げつけて爆発させた。

どっかーん!

爆弾の爆発で辺りに大きな爆発音が響く。

「来たようね」

この騒ぎに研究所の黒服たちが駆けつけてきた。

「襲撃だと!?」

「見ろ!! 相手はシェリーだぞ!!」

「キルシュ様に報告しろ!!」

この突然の襲撃に黒服たちは慌てながらも銃を使って迎撃してくる。

それを空を飛びながら回避して、マジカル☆哀はたくさんのナイフを投げつける。

いくつかのナイフが黒服の一人に刺さり、その途端に黒服が昏倒する。

その様子を見ながら、哀はヒョウちゃんがこの襲撃前に言っていたことを思い出していた。

 

 

「とりあえず爆弾以外にもナイフにも魔法を掛けておいたからな!」

ヒョウちゃんが話した内容に疑問を哀は投げかけた。

「ナイフに魔法?」

「ああ。この魔法のナイフは人の身体に危害を加えず、刺さるとその衝撃を物理的なものから精神的なものに変換するしくみになってる」

「精神的なものに変換?」

「まあ要はこの魔法のナイフは刺さるとその刺さった相手に精神的なダメージを与えて、気絶させるって代物になってるってこと。これなら気軽に人に向けて投げつけられるから安心だぞ」

ヒョウちゃんは魔法のナイフに関してこう説明した。

 

 

(と、言っていたわね)

どうやらそのナイフにかけられた魔法は上手く機能しているようであった。

黒服たちが銃で迎撃する中、ナイフと爆弾を使って暴れる哀。

戦闘は激しくなっていった。

 

 

この研究所を襲撃してきたのがシェリーだという報告を受けて、キルシュは不敵な笑みを見せた。

「ふ。どうやってこの研究所の場所を突き止めたかはわからないけど、飛んで火に入る夏の虫よ! シェリーを捕らえなさい! なんとしても捕まえるのよ!!」

報告してきた黒服にキルシュは歓喜の声で命令した。

 

 

この黒の組織の研究所は高い塀で囲まれている。簡単には侵入できないようにするためだ。

普通では乗り越えられないような高い壁がそびえたっている。

もっとも……

「よっ……と」

空を飛べるものに対しては何の意味もないが。

コナンとフェンバルは研究所の高い塀を魔法の力で飛び越えて敷地内の裏手から侵入した。

フェンバルの魔法の力で空を飛んだコナンは地面へと降り立つと、ほっと一息をつく。

「なんとか上手くいったみたいだな」

魔法少女☆マジカル哀の騒ぎに気を取られているせいか、コナンたちが侵入したことはまだ気づかれていないようだった。

コナンたちが立てた歩美救出作戦。その作戦は単純である。

哀とヒョウちゃんがが黒の組織の研究所に陽動を仕掛けて、その間にコナンとフェンバルが歩美を救出する。こういう作戦であった。

敷地内の向こうでの爆発音がコナンの耳に聞こえる。哀が暴れて敵の目を引きつけてくれているのだ。

(任せたぞ。灰原。あまり無理するなよ)

暴れている哀を心配しながらも、コナンは研究所の建物内に侵入した。

 

 

警視庁刑事部捜査一課のある大部屋。

その強行犯捜査三係のある一角に目暮警部のデスクはあった。他にも、佐藤警部補のモノや高木巡査部長のモノもある。

そこに目暮警部、佐藤警部補、高木巡査部長がそれぞれ戻ってきた。それぞれが各々のデスクに着く。

「ん? なんだね? これは?」

目暮警部がデスクの上に置いてあった見慣れない封筒を見ていぶかしげな声を上げた。

佐藤刑事と高木刑事がそれぞれ立ち上がり、目暮警部のそばに近づく。

「佐藤くん。高木くん。この封筒を置いたのは君たちかね?」

「いえ。わたしは知りません」

「ボクも知らないです」

目暮警部の問いかけに二人は否定する。

「ふうむ」

目暮警部は自分のデスクの上に置いてあった見慣れない封筒を手に取った。何気なく裏返してみた時、目暮警部は驚きの目でその封筒の表面に書かれていた文字を見た。

そこには、『予告状』と書かれていた。

 

 

廊下の向こうから黒服が二人話しながら向かってくる。

「シェリーがここに襲撃を仕掛けてきたって?」

「らしいな。で、キルシュはなんとしても捕まえろってさ」

「はあ。相変わらず人使い荒いな」

そんなことを話しながら自分たちのことを気づかずに通り過ぎて行った黒服たちの後ろ姿を見て、コナンはほっとため息をつく。

今、コナンとフェンバルは黒の組織の研究所内に侵入している。歩美を救出するためだ。

「それにしてもすごいな」

今、黒服たちはコナンの間近を通り過ぎていった。にもかかわらず、やつらはまったく気づかなかったのだ。

コナンのつぶやきにフェンバルが答える。

「ああ。透明化の魔法のことか?」

今、コナンとフェンバルの身体には透明化の魔法が掛けられている。しかも、掛けられたお互いの姿は見えるという特別仕様だ。

「これなら監視カメラにも映ることはないよな」

「ああ。だが、身体の接触は避けてくれよ。さすがにばれるからな」

「わかった」

フェンバルの注意にコナンがうなずく。

黒の組織の研究所の内部構造ははじめて入ったためコナンにもフェンバルにもわからない。

だが、フェンバルは鼻をひくつかせながらコナンに行く先を示していった。

コナンがフェンバルにたずねた。

「歩美ちゃんの居場所、分かるのか?」

「ああ。ここまでくれば歩美の魔法少女の服の魔力を嗅ぎ分けられるからな。そっちの犯人追跡メガネとやらでも位置は把握できるのだろう? そちらはどうだ?」

「ああ。なんとか方向と位置くらいならな」

フェンバルとコナンはそれぞれ魔力を嗅ぎ分ける力と犯人追跡メガネの力を駆使して歩美の居場所を突き止めていく。

そうしてコナンとフェンバルは歩美が閉じ込められているらしき場所を発見した。

「あそこだな。歩美の魔法少女の服の魔力が感じられる」

「そうか」

コナンとフェンバルは歩美が閉じ込められているらしい部屋の入り口を見た。見張りらしき黒服が立っている。

「よし」

コナンはゆっくりと足音をたてずに見張りの黒服の前まで行く。透明化の魔法のおかげで気づかれてはいない。

黒服がやや緊張した顔で立っている。哀の襲撃を受けているのだから当然だろう。

コナンが時計型麻酔銃の針を黒服に撃ち込む。

途端に黒服はいびきを立てて寝転がった。

「上手くいったぞ」

すぐさま見張りの黒服のポケットやらをあさり、カギを取り出したコナンはカギを解除するとトビラを開けて部屋に入った。

部屋に入ったコナンの目に映ったのは、後ろ手に手錠をかけられた姿をした魔法少女プリティ♪歩美の姿だった。

「歩美ちゃん!!」

「え、な、なに?」

コナンが声をかけたが、歩美は戸惑ったように顔をきょろきょろさせている。

まるでコナンたちが見えていないようだった。

「あ、そうか。フェンバル。透明化の魔法をいったん解除だ」

「わかった」

コナンの言葉にフェンバルが透明化の魔法を解除する。

そうして、歩美からコナンが見えるようになってその姿を認めたのか、歩美は歓喜の声を上げた。

「コナンくん!!」

「ちょっと待ってろ! 歩美ちゃん。今自由にしてやるからな」

コナンとフェンバルが歩美の後ろに回り、手錠で縛られている手をなんとかしようとする。

「ち、フェンバル。なんとかならないか?」

「任せろ」

フェンバルが呪文を唱える。かけられていた手錠の鍵がカチャリと音を立てた。

「解錠(アンロック)の呪文だ。手錠の鍵は外したぞ」

「よし。これで大丈夫だぞ。歩美ちゃん」

コナンが縛っていた手錠を外し、歩美を自由にする。

「コナンくん!!」

途端に歩美が振り返り、コナンに抱きついてこようとする。

「ちょ、ちょっと待て!! 歩美ちゃん!!」

ここで考えてもらいたい。今、歩美は心は小学生でも、体は高校生くらいまで成長しているのだ。

高校生が小学生に思いっきり抱き着こうとしたらどうなるか?

「うわっ!!」

ドッターーーン!!

まあこのように歩美にコナンが押し倒されることになるのである。

「重い! 退いてくれ! 歩美ちゃん!」

「コナンくん! ひどい!」

押し倒した歩美が傷ついたように口を尖らす。コナンは思った。

(ああ、むねがあああ〜)

成長した歩美の胸がコナンの顔に押し当てられたりしてたりして……

(ううう、気持ちいいんだけど重い。押しつぶされそうだ)

コナンはしばらくの間この気持ちいいような苦しいような思いを味あわされることになったのだった。

 

 

そんな騒動はあったものの歩美も助けられた興奮から立ち直り、コナンとフェンバルに向き直っていた。

「よし、まずはここから脱出するぞ」

「うん!! わかった!!」

「そうだな」

コナンが音頭を取り、歩美とフェンバルが返事をする。

「フェンバル。頼む」

「わかった」

フェンバルがコナンたち全員に透明化の魔法をかける。

そうして、コナンたちはひとまずこの部屋から脱出した。

 

 

一方、警視庁では『予告状』に大騒ぎになっていた。

目暮警部のデスクに置かれた予告状と書かれた封筒。その中に入っていたのは、連続爆弾犯『魔法少女マジカル☆哀』による犯行予告状であった。

今日の午後、新エネルギー開発研究所を爆破する。

そんな内容と共に、予告状には魔法少女マジカル☆哀の名前も書かれていたのだった。

目暮警部が大声で指示を出す。

「すぐに特殊犯に連絡を!! いくら被害者がまったく出ていないとはいえ被害者が出る可能性もある!! 我々も特殊犯と連携して動くぞ!!」

高木刑事が目暮警部に報告する。

「新エネルギー開発研究所に連絡を入れましたが応答がないそうです!!」

「なんだと!?」

目暮警部が驚く。そして、改めて連続爆弾犯マジカル☆哀の犯行予告状を見る。

(しかし、どうやってワシのデスクにこれが)

警視庁に送られてくる郵便物は、基本的に一元的に管理されているはずである。こんな予告状が入っていれば、おそらくそこで気づくはずだ。

しかも、よく見て見ればこの予告状には郵便の切手も消印もない。つまり、誰かがこのデスクに直接置いたことになる。

(この厳重な警備のはずの警視庁にどうやってそんなことを……それにこの相手として名指しされている人物はいったい。なぜ彼が?)

そんなことを考えている目暮警部に、一人の刑事が部屋に入ってくると声をかけてきた。

「すみません。目暮警部」

「なんだね?」

「関西弁の少年が魔法少女マジカル☆哀の予告状のことについて話があると言ってここをたずねて来たのですが」

「何!?」

目暮警部は驚いた。まだマジカル☆哀の予告状については来たばかりでここの関係者以外誰も知らないはずなのだ。

「すぐに連れて来るんだ!! 早く!!」

目暮警部の指示に刑事が動き、しばらくしてその少年を連れてくる。

「キ、キミは!! なんでキミがここに!!」

目暮警部はその肌黒な少年を見て目を丸くした。

 

 

マジカル☆哀の戦闘はまだ続いていた。

黒服たちが撃ってくる銃弾をかわしつつ、ナイフや爆弾を使って哀は倒していく。

時折、ヒョウちゃんが黒服たちに幻影の魔法をかけたりとサポートしながら戦闘を続けていく哀。

「くっ! いったん退け!!」

黒服のリーダー格が命令し、哀を襲っていた黒服たちが一斉に退いていく。

「ふう」

黒服たちが退き、マジカル☆哀はひとつため息をついた。

そんな戦闘が終わった時、着けているDBバッジにコナンから連絡が入ってきた。

『灰原か! 歩美ちゃんは助けたぞ! 無事だ!!』

どうやら歩美は助けられたらしい。その連絡に哀はひとまず安堵した。

『それじゃ、オレたちも研究所から脱出するぞ! 灰原もオレたちが脱出した後退くんだ』

「それはできないわ」

『はっ!?』

哀が言った言葉にコナンがDBバッジの向こう側で驚く声がする。

ヒョウちゃんがDBバッジの通信でコナンに説明する。

「最後のマジカルモンスターが向こう側の手にあるからなあ。それを取り戻さないかぎり、魔法少女の仕事は終わらないのだあ!!」

「ということらしいわね」

『バーロー!! そんな場合じゃねーだろ!!』

「それにワタシが研究所に侵入すれば、さらにこちらに敵の目をひきつけられるはずだし、アナタたちが脱出する手助けになるはずよ」

『やめろ! 灰原!! 無茶−』

コナンの通信を途中で切ると、哀はひとつ深呼吸した。

「これで最後の仕事ね」

「ああ。最後だな」

哀とヒョウちゃんが言葉を交わし合う。

「それじゃ、行くわ」

哀は手近な研究所の壁に空を飛んで急接近すると、爆弾を投げつける!!

どっかーん!!

爆発で開けた穴からマジカル☆哀は研究所内へと入っていく。

こうして、マジカル☆哀は最後のマジカルモンスターを回収すべく黒の組織の研究所内に侵入した。

 

 

「あのバッカヤロー!」

黒の組織の研究所の中でコナンが悪態をつく。

哀が最後のマジカルモンスターを回収すると告げてDBバッジの通信を切ってしまい、そのことにコナンがののしりの言葉を上げていると、フェンバルが言った。

「まあしかたないな」

「しかたねーだって! そのマジカルモンスターを回収に向かうことで灰原のやつがどれだけ危険になるかわかってんのか!?」

食って掛かったコナンにフェンバルが諭すように告げる。

「私だってできればそんな危険はさせたくない。だが、この機会を逃せば最後のマジカルモンスターを回収することができなくなってしまう。それだけは避けなくてはいけない」

「しかしな!」

「それにこんな組織にマジカルモンスターを渡せばどんなことが起こるかわかったものではない。例の計画通りに行けばこの機会を除いてマジカルモンスター回収の機会はなくなってしまう。あいつらに任せるしかない」

「くそっ!」

「わたしたちはあいつらの邪魔にならないようここから脱出するしかない。歩美も助け出したことだし、あいつらが目を引きつけている間に逃げるしかないんだ」

確かにそうだった。目的が歩美の救出であった以上その歩美を救い出したのだから、ここから一刻も早く逃げ出さないといけなかった。

「それでは逃げるぞ」

フェンバルが告げ、コナンと歩美を先導する。歩美が後を追いコナンも従う。

(大丈夫か。灰原……)

コナンが哀のことを心配して神妙な表情でいるとフェンバルが言った。

「あの哀って子のことなら安心しろ」

「何?」

「認めたくはないがな。ヒョウレンはあんな性格だが、優秀な能力の持ち主だ。あいつならあの哀って子を守ってくれるはずだ」

それだけ告げると、フェンバルは脱出する先導に戻る。

そうして、コナンたち2人と一匹はこの研究所から脱出しようとした。

(灰原。無事に帰って来いよ)

コナンは心の中で哀の無事を祈った。

 

 

一方、研究所に侵入した哀はヒョウちゃんに聞く。

「それで最後のマジカルモンスターの位置はわかるの?」

「おそらくあのマジカルモンスターを封じ込めることができる魔法の玉を使って保管しているはずだ。なら魔法のアイテムの保管場所らしい所へ行けばいいと思うぞ。
]この場所の中で一番魔力濃度が高い場所に行けばなんとかなるはずだ」

「わかったわ」

そうしてヒョウちゃんの先導の下、研究所内で一番魔力濃度が高い場所、魔法のアイテムの保管場所を探しながら哀は所内の中を移動していく。

時折襲い掛かってくる黒服を撃退しながら、哀はその魔法のアイテムの保管場所らしい所へとたどりついた。

哀がヒョウちゃんに聞く。

「このトビラの向こうがその場所なのね?」

「ああ。ここが一番この建物の中で魔力が高い」

哀の目線の先には、保管場所らしき部屋へと通ずるトビラがある。

「うかつにトビラを開けるのは危険ね」

哀はつぶやいた。

もし部屋の中に敵がいたら、自分たちが危険な目に遭う。

「なら、トビラを爆破して開けるしかないな」

「そうね」

ヒョウちゃんの言葉に哀はうなずいた。

そうして、哀はトビラの前に爆弾を置くとその場を離れる。

どっかーん!!

爆発した後、部屋に侵入する哀。

そこで、哀が見たものは、

「な、何なのよ!?」

爆発に驚き椅子から転げ落ちたらしい黒の組織の魔法学研究者キルシュの姿だった。

 

 

「アイタタ。もう! いったい何事よ!」

キルシュが椅子から転げ落ちた体勢で悪態をついている。

その様子をやや呆れた目で見ている哀。

やがて、なんとか床から立ち上がり体勢を整えたキルシュと哀の目が合う。

「……」

「……」

しばし無言で見つめあう哀とキルシュ。

やがて、キルシュは髪をかきあげると右手をゆっくりと哀に伸ばし、おもむろに言った。

「ふっ。よく来たわね。シェリー!! だけど、あなたはもはやここまでよ。覚悟するのね」

「悪いけどかっこついてないわよ」

哀がかっこつけようとしたキルシュにクールに告げる。

「う、うるさいわね!!」

キルシュがやや悔しそうに叫んだ。

「だいたい何でアナタがここにいるのよ?」

「わたしが自分の部屋にいて何が悪いのよ」

どうやらキルシュは自分の部屋を魔法のアイテムの保管場所にしていたらしい。

「ふ、どうやってここまで来れたかはわからないけど。シェリー! もはやあなたは袋のネズミよ!」

キルシュが勝ち誇ったように宣言する中、哀は肩をすくめた。

「ねえ、キルシュ? ひとつ聞きたいのだけど?」

「何よ? 冥土のみやげに教えてあげてもいいわ」

「アナタ一人でどうやってワタシを倒すつもりなの?」

「え!?」

黒の組織の魔法学研究者は言葉に詰まった。

「だいたいあなたが持っている武器って拳銃くらいでしょ? しかもアナタは研究畑の人間で戦闘要員ではないわ。そのあなたが一人でどうやってワタシを倒すつもりなのよ」

それに対し哀はマジカル☆哀になってからというもの、マジカルモンスターと戦い続け、最終的にはプリティ♪歩美と協力したとはいえ、伝説級モンスター、ヒュドラまで倒している。

はっきり言ってマジカル☆哀を止めるにはキルシュ一人では役者が不足していた。

「それじゃアナタが奪ったマジカルモンスター、九尾のキツネを回収させてもらおうかしら。どこにあるの?」

「わ、渡さないわよ! アレは大事な研究材料なんだから!」

キルシュが子供のようにだだをこねた。

「まあいいわ。アナタから聞き出すのもめんどうくさいし、あなたを倒した後でこの部屋を探させてもらうとするわ」

哀がクールにそう宣言する。

「くっ!」

キルシュが身構える。そして、キルシュは自分のデスクの上にあったブレスレットを緊張した顔で手に取った。

(あれは!)

哀にはそのブレスレットに見覚えがある。

あれはアンティーク事件で池田安次郎が持っていた腕輪だ。

「あー!! それは魔法少女のブレスレット!! 持っていたのか!!」

ヒョウちゃんがキルシュが手に取ったブレスレットを見て、大声を上げる。

その大声を聞いて、キルシュはにやりと笑った。

「なるほど。魔法少女の代物だったのね。呪文の解読には成功していたのだけど、わからなかったのよ」

「がーん!! しまったあ!!」

「バカ……」

ヒョウちゃんの失言に哀はため息をついた。

「レイ! ウィルフ! セイ! レイリューション!!」

キルシュが魔法少女のブレスレットを右手につけて呪文を唱える。七色の光がキルシュを包み込んだ。

 

 

マジカル☆哀と同じような格好に変身したキルシュが宣言する。

「魔法少女キルシュよ!!」

そんなキルシュを数秒の間マジカル☆哀とヒョウちゃんは見ていたが……

「「どこが魔法少女なのよ(なんだ)? どこが?」」

キルシュの姿に一人と一匹はあきれたようにつぶやいた。

「う、うるさいわね!!」

まあ確かに30代後半のキルシュを魔法少女というのは、おかしいわけだが……

「そんなことはどうでもいいのよ!!」

キルシュはブレスレットをつけた右手を目の前に掲げ呪文を唱えると同時に振り払う。

「ウィルフ・バーン・レイディック!!」

キルシュの繰り出した赤い光線が哀に向かう!

ずがああああああん!!

マジカル☆哀が壁に叩きつけられる! 服がまるでぼろきれのようにずたずたにされていた。ヒョウちゃんが叫ぶ。

「耐魔法コーティングしてある服がああああああ!!」

魔法少女マジカル☆哀の服は耐魔法コーティング仕様だ。前にプリティ♪歩美のプリティ・ハート・イリュージョンを食らっても傷一つつかなかった。

キルシュの魔法攻撃はその防御力を紙のようの吹き飛ばしたのだ。

「これよ! これこそが魔法の力よ!」

魔法に魅せられた女はその力に酔っている。うっとりとした恍惚の表情さえ浮かべている。

「そんな力を持ったって、ワタシには勝てないわね」

ボロボロの姿になりながら哀はたくさんのナイフを構えた。

 

 

戦闘が始まった。

キルシュが呪文を唱えブレスレットをつけた右手を振り払う。

「ウィルフ・バーン・レイディック!!」

キルシュが繰り出した赤い光線を今度はかわし、ナイフを持ちながらスキをうかがうマジカル☆哀。

そんな哀に対し、キルシュは再び呪文を唱えて赤い光線を繰り出していく。

それなりに広いとはいえ、室内なのでなかなかかわすのも難しい中、キルシュが魔法攻撃をしかけ、哀がかわす。そんな展開が続いていた。

哀がヒョウちゃんに言う。

「まったくアナタのおかげで余計な手間が増えたわ」

それに対し、ヒョウちゃんはあっけらかんと答えた。

「あっはっは。まあいいじゃないか。魔法少女マジカル☆哀の最後の戦闘にふさわしいじゃないか」

「はあ……」

赤い魔法光線をかわしながらも器用に哀はため息をつく。

それでも気を取り直して哀はヒョウちゃんに聞く。

「それで、相手の魔法少女のブレスレットの能力はどんな感じなの?」

「そうだなあ。かなり強力な魔法のアイテムだぞ。何せ耐魔法コーティングしてあるこちらの防御を吹き飛ばすくらいだし」

「やっかいね」

さっき赤い魔法光線を食らったせいか、哀のかわす動きも本調子ではない。

しかし、ヒョウちゃんは気軽そうに哀に言ってくる。

「でもまあ、魔法少女のアイテムだから安全装置(セーフティ)がかかってるみたいだし、ま、なんとかなるでしょ」

「安全装置(セーフティ)?」

「対象以外の人や物をむやみに傷つけないってヤツ。現に哀の身体もあまり傷ついてないだろ?」

そういえば、あれだけの魔法攻撃を食らった割に哀の身体は全くと言っていいほど傷ついていない。服はボロボロだが。

「きっとナイフにかけられた魔法のように、攻撃力にリミッターがかけられてて、それ以上の衝撃を物理的な衝撃から精神的なモノに変換しているんだろうなあ。
だから、哀の身体はあまり傷ついていないんだ」

「要は、マンガとかアニメで出てくる、服だけダメージを受けて身体はまるで傷ついていない、っていう謎仕様の攻撃になっているってことね」

「そうそう。こっちもその仕様の攻撃だから安心して攻撃していいぞ」

「はあ……」

哀がため息をつく。と、ヒョウちゃんが急に顔を引き締めて言った。

「さっきの赤い魔法光線の攻撃は、こっちの耐魔法コーティングの服が身代わりになってくれたけど、もうその手は使えない。次に食らったら終わりだからな」

これだけの会話を戦闘しながらも器用にこなし、哀は魔法光線をかわし続ける。

対して、キルシュは哀に攻撃をかわし続けられてイラだっている様子だった。

「くっ。当たりなさい! このっ! このっ!」

何度も呪文を唱え魔法攻撃を繰り出すものの哀に当たらないのが腹立たしいのか、キルシュは不満を虚空にぶつけ続けていた。

「なんで当たらないのよ!」

「まあいちいち呪文を唱えて攻撃していたら、ね」

魔法攻撃を出すためには、その度に呪文を唱え右手を振り払わなければならない。そのため、攻撃するタイミングは相手にバレバレである。

そのおかげもあって、哀は何とか攻撃を回避できていたのだ。

そのことを指摘され、キルシュははっとするとにやりと笑う。

「あなたもたいがいね。戦っている相手にそんなことを教えるなんて」

「別に構わないわ。ちょうどいいハンデだもの」

「生意気なガキね。あなたのそういう人をバカにした態度が心底嫌いだわ」

「そりゃどうも」

(ふう)

哀は心の中でため息をついた。

キルシュは哀が何の気なしに呪文で攻撃のタイミングが読めることを指摘したと思っているだろうが、もちろんそうではない。

いくら読めるとはいえ何度も連続で攻撃され続ければ、かわせるものもかわせなくなってくる。

特に哀は最初にあの魔法攻撃を食らったこともあって本調子ではない。このまま連続で攻撃され続ければいずれ直撃を食らってしまうだろう。

だから相手に攻撃をためらわさせるために哀はさっきの指摘をしたのだった。

魔法攻撃が途切れ一瞬の間が生まれる。

そんな時、この部屋へとつながる通路の向こうから、こんな声が聞こえてきた。

「キルシュ様! 大丈夫ですか!?」

「や、やばっ!」

聞こえてきた声を聞いて、ヒョウちゃんが青ざめる。

そう。ここは敵の本拠地なのだ。当然、敵はキルシュ一人ではない。

これまではなぜかあまり妨害を受けずにここまで来られたが、おそらくここで戦闘していることが監視カメラなどで気づかれたのだろう。
敵の黒服たちが応援にこちらに向かっているのだ。

こちらに聞こえてきた声にキルシュが笑う。

「ふふ。どうするの?こちらにワタシの黒服たちが来ているわよ。そうなれば、有利になるのはこちらね」

そう言ってキルシュは余裕を取り戻した笑みを見せた。

NEXT


あとがき

はっはっは!! 探偵k、参上!!(ちゅどーん!!)

というわけで、マジカル☆最終話後編をお送りします。

夜中、平次がパソコン画面が大きく輝き出したことに驚いた、その翌日。

哀たちは、歩美を救出すべく作戦を決行します。

哀が黒の組織の研究所に襲撃をしかけ陽動を行い、その間に歩美を救出する作戦。
なんとか歩美を助け出すことに成功するも、最後のマジカルモンスターを回収するため哀は研究所に侵入します。

一方、警視庁では魔法少女マジカル☆哀からの犯行予告状が送られていました。そのことで大騒ぎになっている警視庁に、関西弁の肌黒の少年が訪れます。

そして、研究所に侵入した哀は黒の組織の魔法学研究者キルシュと対峙します。ヒョウちゃんの失言のせいもあって、キルシュは魔法少女(?)に変身。
哀はキルシュと戦闘を繰り広げます。

しかし、その最中に黒服たちが応援にかけつけ、キルシュは哀に対して余裕の笑みを見せるのでした。

と、いったところで次回に続きます。


探偵k様っ
本格的な戦闘がはじまりましたね〜!!もちろんキルシュの変身には笑わせていただきましたが(待て)確かにいちいち呪文を言いながら攻撃するのは魔法少女のお約束・・・
はたして続きはどうなる?!次週乞うご期待!!という感じでドキドキします!
歩美ちゃんも大きくなってるのを想像するとニヤッとしてしまいました(爆)
探偵k様ありがとうこざいますっ次週の更新も待ってて〜(^▽^)/
by akkiy