壊れたハト時計。古ぼけた人形。かわいらしい皿。

長年の間、物置へ適当に放り込まれていたような物が雑然と並びたてられている。

「へえ。スゴイですね」

「でしょ!?」

歩美たち3人が、その品物を取って眺めている。目の色を輝かせて、だ。

(ガラクタばっかって感じなんだがな…)

コナンは、回りを見渡して心の中でつぶやいた。 

「これは、なかなかね」

哀の少し感嘆めいたつぶやきが、コナンの耳に聞こえてくる。

彼らがいるのは、どこかホコリくさい匂いを感じさせる古ぼけた店。

「おや、かわいらしいお客さんだね。坊ちゃんたち」

話し掛けてきたのは、温和な顔の老人だった。おそらく店の店主だろう。

「はじめまして。おじいさん」

五人が老人に挨拶を返す。

「君たちは興味がおありかな?」

そう、彼らはこの多彩な夢あふれる世界の扉へとその手を触れたのだ。


魔法少女 マジカル☆哀 ラブ・メモリーズ・アンティーク!! 前編
作:探偵k様


彼らがここを訪れたのは偶然であった。

公園でサッカーした帰り道。いつもなら通り過ぎるはずの所で、ふと立ち寄ってみた小さな店。

店の玄関には、ぼろくなった看板がかけられている。

アンティークショップ九月堂。

文字がかすれて消えかかっているが、人が何とか読もうとすれば、そう読むことが出来るだろう。

そして、今彼らは店主、池田安次郎(いけだ やすじろう)から品物を見せてもらっているのだが…

「これは、かの浦島太郎がおじいさんになった時の玉手箱じゃ」

「お〜!!」

元太たち3人が、いっせいに驚く。

「これは、かのゴメラが、生まれた時のタマゴのカラじゃ」

「ホントですか!?」

光彦が驚く。

「これが、かのシンデレラが履いていたと言うガラスのクツじゃ」

「え、ホント?」

歩美が驚く。

「そして、これがかの剣豪、佐々木小次郎が使っていたという名刀、『ものほしざお』じゃ」

「ケンゴーって何だ?」

「あ〜。そうか。わからぬか…強いサムライのことを言うんじゃ」

「強かったのか?」

「うむ。とっても強いサムライだったんじゃ」

「へ〜。すっげ〜!」

元太が驚く。

とまあこんな感じである。

「なんつうか、うさんくさいヤツばっかだな」

コナンがじと目で他の物を見る。他にも、一寸法師の打ち出の小づち、かの大泥棒、石川五右衛門が釜茹でになったときの釜、などなど。

誰が見ても、うさんくさい代物ばっかりである。

「いいんじゃない?彼らは楽しんでいるようだし」

哀の言うとおり、安次郎の言うことに、元太たち3人は喜んでいる。元々、子供好きだったのか、安次郎もうれしそうだ。

「ま、いいんだけどよ」

コナンが、少々呆れたように言った。

元太たち3人と安次郎は、とても無邪気に楽しんでいた。

 

そんなとても楽しい時間でも、時はあっという間に過ぎる。

安次郎が古ぼけた柱時計を見て言った。

「あ〜。もうこんな時間じゃな。そろそろ帰った方がええぞ」

「え〜。もっと色々見せてもらいたい!」

「だめじゃ。明日もあるんじゃしな。明日また来なさい」

そこで、安次郎は、思い立ったように手を打った。

「おお。そうじゃ!君たちにいい物をやろう。これをあげるから、今日は勘弁してくれ」

ごそごそと辺りを探る。その度に、ホコリが宙を舞った。やがて、安次郎は目当てのものを見つけ出したようだった。

「これは、願いがかなう魔法の球じゃ」

安次郎は、五人全員にビー玉くらいの大きさの綺麗な球を渡す。透明に透き通ったその球は、光を反射して淡く輝いた。

「きれい〜!」

「ほんとに願いかなうんですか!?」

「うはあ!すっげー!」

三人は、興味を持ったように、あちこちをベタベタ触ったりながめたりしている。

「どうかな?騙されたと思って試してみることじゃな」

安次郎の言葉に、3人は願いごとをはじめてみたようだった。小さな声でつぶやいている。

コナンはため息をついたが、適当に願い事する気には、なったようだった。駄目で元々と言った感じか。

(でも、これ、ただのガラス球ね)

冷めた目で、哀はその球を見つめた。哀の見たところ、これは明らかにただのガラス球である。
しかし、彼らの手前願い事をしている振りをする。

(無理に決まってるじゃない)

そんな思いすら哀の頭によぎってくる。

「だめだな。そんな気持ちでは願いはかなわん」

安次郎は、哀の気持ちを見透かしたかのように笑うと、

「いいか?願いがかなうためには、疑ってはならん。『願いがかなわないのではないか?』 そういう気持ちをちょっとでも持てば願いはかなわなくなる。
曇一つない空のように、一心に念じねばいかん。でないと、願いはかなわんのじゃ」

「そうなの?」

歩美が無邪気に問いかける。

「ああ。これはそういう物じゃ」

このやりとりを聞いて三人の真剣さが一段と増した。全員が目をつぶって必死に願いの言葉を発している。

元太は「うな重。うな重食い放題」とぶつぶつつぶやいているし、歩美は「コナンくんのお嫁さん」とつぶやいているのが聞こえる。

光彦は「えっと。うーん…あああ!ボクはどうしたらいいんですか!」などと小声で自問自答していた。

「で、あなたは蘭さんのところに戻りたいとでも願ったわけね」

「バ、バカ!そんなんじゃねえよ!」

哀のつぶやきにコナンが動揺するところを見るとどうやら図星らしい。

「で、お前はもう願わないのか?」

「わたしは、おまじないとかに興味ないから」

哀は、氷の冷たさを持った無関心な口調でそう言った。

「さ、願い事はもうやめて、家に帰るんじゃな。大丈夫じゃ。球は無くなりはせんよ」

安次郎は暖かい笑顔で、5人に言った。

 

「へ〜。そんな店があるのかあ」

ヒョウちゃんが、博士の家の居間で哀の話を聞いて興味をみせた。

「ええ。みんなこの一週間、あの店に行ってるわ。これから、また出かけるとこよ」

哀のいうとおり、哀たち5人はこの一週間、アンティークショップ九月堂を訪れていた。

安次郎の店はアンティークショップと言ってはいるが、実質的には何でも屋と言った方が正しいようである。

大半がガラクタに等しいみたいなのだが、中には掘り出し物のアンティークもあるらしい。

元太たち3人はもちろん、コナンもアンティークに興味があるのか付き合っている。

「ふーん。ま、古いモノってのは、魔力を持つからなあ。面白そうだけどなあ」

「で、あなたも来る?面白いものもあるかもよ?」

いつもヒョウちゃんを遠ざける哀だが、非常に珍しく誘ってくる。

「ん。忙しいからパス!」

この珍しい哀の誘いに、ヒョウちゃんはあっさりと断った。

「なぜ?」

「実は…」

ヒョウちゃんが、真剣な顔になる。

「昼ドラ!『探偵kは見た!あんたが犯人だ!』があるからなのだあ!」

このドラマは、犯人が殺人を犯すところを、探偵が目撃してしまい、あっさり解決するという、推理もサスペンスもない、わけのわからないドラマだった。

哀がいつものように呆れたため息をつく。

「ま、いいわ。それじゃ行くわ」

「行ってらっしゃい〜」

お気楽なヒョウちゃんの言葉を背に受けて、哀はでかけた。

 

「しかし、面白いですよね。あのおじいさんのお話」

「おう!すっげーおもしれーぞ!」

いつもの五人は安次郎の店への道を歩いていた。歩美たち三人が、安次郎の話で盛り上がる。

「今度、何見せてもらう?」

「そうですね…ボクはもう一度ゴメラのタマゴのカラを…」

「わたしは、きれいなお人形!」

やがて、話しているうちに、彼らはアンティークショップ九月堂へとたどり着いた。

「おじいさん。また遊びに来たよ〜」

「帰れ!!」

すさまじい怒鳴り声が店に轟き渡った。その怒鳴り声の大きさに哀たち全員が驚く。

彼らは、玄関からこっそりと店の中を覗き込んだ。

店内に複数の人影がある。女が一人と、傍らに男が二人。どうやら先客がいるらしい。

安次郎が怒鳴ったのは、歩美たちではなくその客に対してのようだった。

「どうか売ってもらえませんか?金ならいくらでも出しますが?」

「ふん!売らんと言ったら売らん!」

老人の前には札束の山だ。が、安次郎はそれには見向きもせず、腕を組んで睨みつけている。

「うはあ。あれ、一万円の何倍だ」

「一千万くらいはありそうですね?」

「いっせんまん!?うな重何杯食えるんだ?」

じゅるり。思考が食欲で一杯になった元太のよだれがこぼれ落ちる。

「ほら〜。元太くん。汚いよ」

歩美がハンカチを元太に渡す。

「ほらっ!とっとと帰れ!帰れ!」

「…わかりました。行くわよ」

女が不満げに傍らの男たちとともに立ちあがり、見ている子供達の方へ近付いてくる。

「さっさとどいてちょうだい!」

子供達を乱暴に押しのける。その時、女の視線が哀と出会った。

哀は動揺した。黒いスーツ。片手には黒いカバン。かけたメガネが知性を感じさせる。どこかのキャリアウーマンと言った感じの女。

(キルシュ!?)

哀が会ったのは、黒の組織に所属する、魔法学研究者。『キルシュ』だった。

しかし、彼女が哀に気づいた様子はなく、やや不機嫌な顔をしただけだった。

「今回もあきらめて引き下がりますが、そろそろお考え直しになった方がよろしいと思いますが?」

「ふん!」

「あなたに不幸なことが起こらないことを祈りますわ」

あざ笑うかのような不吉な言葉。キルシュは、見下すような目で一瞥し、九月堂を後にした。

「おい。あいつは、まさか黒の組織の関係者じゃ?」

コナンが哀に小声で聞いた。

「いいえ…違うみたいね。ちょっと危険な捨て台詞だけど…」

哀は内心の動揺を抑えつつ答える。真実を知れば、この探偵は何をするかわからない。

「ああ。そうだな」

不吉な予感にコナンの顔が曇る。

「おじいちゃん。あの人たち誰?」

「何やらどこかの金持ちらしいがな。子供には関係ないことだよ」

歩美の質問にやや刺々しい口調で不機嫌な顔で答えたが、気を取り直して彼らに優しい笑顔を浮かべた。

「さて、君らは何を見たいかな?」

「えっとね!」

「あの人たちが買おうとしていたものを見せてくれない?」

歩美が何か言おうと口を開けたが、哀が鉄面皮に近い表情で遮った。

安次郎の表情が一瞬曇る。

「ン…アレか…まあ君たちにならいいだろう…」

安次郎は、店の奥に入っていく。やがて、少し経った後、一つの箱を持ってきた。20センチ四方の小さな箱だ。

「は〜きれい…」

箱から安次郎が取り出したのは、腕輪であった。複雑、精巧な細工と、控えめに付けられているそれを彩る宝石類。
バラのような華やかさではなく、百合のようなひっそりとした美しさだった。

「これは、大事な人たちの形見でな」

安次郎は語り始めた。

 

池田安次郎の若かりし頃、ある家にゆきという少女がいた。

少女の家の名前は、城明院家。昔から続く名門の家だった。

これは少女の家に代々伝わったという腕輪で、昔、天から現れた神から城明院家の先祖が授かった大事な腕輪だったらしい。

腕輪には、その力で何度もこの世の危機を救った、と言う伝承もあったようだったが、安次郎はよく知らなかった。

その城明院家のゆきと言う少女と安次郎の友人が、恋人関係になった。

友人は少女の家に結婚を申し込むが、平民の身分であったためあっさりと断られる。身分違いの恋というわけだ。

安次郎は、そんな友人のためにいろいろと手伝っていた。

友人は、彼女と駆け落ちの約束までしていたらしいが、友人は城明院家の差し金で殺されてしまい、ゆきはその死を聞いて世を儚んで、安次郎に家に代々伝わる腕輪を渡し、自殺してしまった。

安次郎も実は彼女のことが好きだったのだが、友人のために身を引いた。

だから、安次郎は、この腕輪を友人とゆきのために持っていたのだ、と。

 

安次郎は、しみじみと言った。

「きれいな少女だったよ。ほんとにな…だからこそ、わしはこの腕輪を売るわけにはいかんのだ」

「売った方がいいわ」

哀が言った。医者が患者にガンだと告げるような、冷酷な現実を告げる口調だ。

「悪いことは言わないわ。売らないと危険よ。売ったほうが身のためだわ」

キルシュの言った不吉な捨て台詞は、明らかな脅し。もし、それを断った場合、安次郎が安全だと到底いえない。

黒の組織は、そんなに甘い組織ではない。それを哀は骨身にしみて知っている。

「それだけは、出来ん相談じゃ。お嬢ちゃん」

真顔で、安次郎は哀に言った。

「これは、友人の形見であり、ゆきの形見でもある。いくら、自分の身が危うかろうと、売ってはいけない代物なんじゃ」

安次郎の口調は真剣そのもので、決して引くことはない決意を持っていることを明確に示していた。

場が沈黙する。五人は、その決意に圧倒され何も言えなくなってしまったようだった。

「さ、この話は終わりじゃ。次は何を見せてやろうかな」

沈黙を破るかのように、安次郎は子供好きのする笑顔を浮かべて笑った。

 

「頑固なジジイね。まったく」

キルシュは、帰りの車の中で悪態をついていた。

「何度交渉しても「売らない」の一点張り。金を積んでもダメ。これだから、ジジイは嫌なのよ」

黒服たちは、黙って彼女の愚痴を聞いている。

「あれは、わたしの物になるべきなのよ!わかる!?あのブレスレットの伝承を紐解いてみると、かの…」

「す、すみません!!その話は後にしていただいて、定期報告の方を先によろしいでしょうか?」

なぜかあせったように黒服はキルシュに聞く。

「そうね。で、どうなの?」

一瞬不満そうな顔をしたキルシュだが、黒服に話を促した。

「はい。依然として居場所は特定できませんでした」

「それだけ!? そんな報告ならしないほうがましよ!」

キルシュは、その報告に機嫌を損ねたようにヒステリックな口調になる。

頭をさげる黒服を無視すると、考え込むようにあごに手をあてる。

(なぜ見つからないの?)

キルシュは、黒服たちに二つのことを命じている。ひとつは、怪物、マジカルモンスターの捜索。もうひとつが、このシェリーの居場所だった。

怪物が現れたと思われる地域から米花町近辺にいるだろう、と言うことは推測できた。潜伏場所の見当さえついてしまえば、探し出すのはそれほど難しいことではないはずだった。

なのに居場所どころか、てがかりすらつかめない。常に住む場所を移動していると考えても、これは異常だった。

キルシュは首を振って思考を中断する。

「まあいいわ。あのブレスレットのことだけど…」

彼女は、口の端を少し上げて、酷薄に命じた。

「奪いなさい。どんな手を使っても組織の物にするのよ」

黒服の男たちは、黙ってその指示にうなずいた。

 

その日の深夜…

哀は眠れなかった。

あの後も、哀は安次郎に腕輪を売るようほのめかしてみたのだが、決して首を縦に振らなかった。

魔法科学者キルシュ。哀も会ったことがあるのだが、いい人間とはとても言えなかった。

魔法に取り付かれた研究欲の権化で、プライドが高い性格の人間だ。年下の自分に対して明らかな敵意を見せていた。また、魔法に対する執着心もかなり高い。

そんなキルシュは、目的のものを手に入れるためなら何でもするだろう。

(明日、もう一度なんとか説得するしかないわね)

たとえ、大事な形見でもそれが安次郎のためだと哀は思った。

「哀!起きろ!哀!!」

「なによ…」

哀は、ヒョウちゃんの叫び声でベッドから起き上がる。

「マジカルモンスターが現れた!!」

この出来事が魔法少女と黒の組織を接触させるひとつの契機となる。



後編へ


あとがき

ひさしぶりです。探偵kです。

黒の組織と接触した哀!!

哀とマジカルモンスター、キルシュの運命が複雑に絡み合う!!

ブレスレットが、新たな展開の始まりとなるのか!?

ってなとこで!次回に続く!!


うわ〜い探偵k様ぁ☆
相変わらずめっちゃおもしろい小説ありがとう(笑)
っていつの間に連ドラに出てたんやぁぁぁ(爆笑)
後編での哀ちゃんの大活躍楽しみにしてます〜☆
byあっきー

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