これまでのあらすじ。
『どこにもいないちょっと変わった小学生の灰原哀は、ある日、魔法世界レインダムから来たヒョウちゃんに魔法少女になって欲しいと頼まれる。彼女は、それを喜んで受け入れ、世界の平和を守る魔法少女になることを誓った! 賢く、有能で、かっこいい、ヒョウちゃんのサポートの中、マジカルモンスターとの戦いの日々! 厚く結ばれる二人の絆! そこに現れる謎の敵! ああ! ヒョウちゃんが瀕死の大怪我だ! ヒョウちゃんが必死になりながら、哀に愛の告白を…』
「ちがうでしょ。あなた」
『ん? 哀? どうした?』
「いくら何でもあらすじが全然違うわ。自分勝手なあらすじ紹介は止めたほうがいいわよ」
『だって、これぐらいしないと話が盛り上がらないじゃないか』
「いいから、本当のあらすじをやりなさい。わたしは忙しいんだから…」
『しかたないなあ。ある日、灰原哀は、ヒョウちゃんの頼みによって、魔法少女になることを決意した。その理由は、江戸川コナンとの恋の縁結…』
シュッ!
グサッ!
『あ、哀。やるな…』
バタン!
「それじゃ…魔法少女マジカル☆哀の始まりよ…」

魔法少女 マジカル☆哀 ピンチ!マジカル☆哀戦闘不能!? 前編

これで5回目だ、とコナンは思った。
放課後、いつもの4人(元太、光彦、歩美、哀)で話をしていたコナンは、哀の口から漏れるため息の音を聞いた。
4人でたわいもない話をする中、哀一人だけが話に乗ってこず、一人黙り込んでいる。
そうして、深いため息をつくのだ。
その様子をコナンはじっとうかがっていた。
「どうしたの?灰原さん。さっきからしゃべってないけど?」
「そうですね。なんか調子でも悪いんですか?」
歩美と光彦が哀のことを気にかける。
「おう。なんか元気ねーぞ」
元太も哀のことを心配した。
「なんでもないわ」
哀が抑揚のない口調で話す。その様子は、平然としており、調子が悪いといった様子は感じられないのだが…
「ちょっとトイレに行ってくるわね」
哀が席を外す。4人が見守る中、哀は教室から出て行こうとする。
「ふう…」
6回目のため息をついて、哀は教室から出て行った。
「どうしたんでしょうか?灰原さん」
光彦が哀のことを心配する。
「そうだね。どうしたんだろ?灰原さん」
「おう。オレもそう思うぞ?」
歩美と元太も心配そうな顔だ。
(どうしたんだかな?灰原のやつ…)
コナンもその思いは同じだった。
「それにしても、どうして死んじゃったんだろうね。安次郎のおじいちゃん」
歩美がぽつりと言った。
「あのおじいさんですよね」
「おう。オレも悲しいぞ」
光彦と元太がそれぞれ痛々しげな顔になる。
歩美の言っている「安次郎のおじいさん」とは、ほんの一週間前までたびたび通っていたアンティークショップ『九月堂』の店主、池田安次郎のことだった。
その日、アンティークショップを訪れた歩美たちは、閉まっている九月堂とあちこちで動き回る警察の姿を見たのだった。
「なんでも殺されたらしいですよね…」
「うん」
光彦の言葉に歩美がうなずく。
(ああ。あれには、オレも戸惑ったな)
コナンもあのときのことを思い出す。
なんでも警察の人の話によると、窓ガラスを割って侵入した犯人は、店にいた安次郎を追い掛け回し、店の外で背後から拳銃を発砲し、死に至らしめたらしい。
そして、無くなっていたものは、腕輪の入った箱だったことから、犯人は気の荒い物取りの犯行ではないかとのことだった。
(もしかしてあいつの仕業か?)
コナンの脳裏に浮かんで来たのは、コナンたちが九月堂を訪れていた際に不吉な言葉を残して去っていった女のことだった。
全身黒ずくめの格好で、メガネをかけたどこかのキャリアウーマンといった感じの女。
その姿は、どうしても『あの組織』のことを想像させる。
(それにあの時の哀の様子もなんかおかしかったしな)
あの時、安次郎の死を知った時の哀はいつもの冷静な姿に見えた。
(だけど、何か違った気がする)
そう、あの時の哀はただ知り合いが死んだというだけではなかったような…
(なにか隠してるんじゃねえか?灰原のやつ)
コナンはなぜかそう思った。
 
哀は学校の廊下をあてもなく歩いていた。
「トイレに行く」と言って出てきたが、そのつもりはまったくなかった。
(まったくどうかしてるわね。わたし)
自分でも不調であることはよくわかっている。肉体的なものではなく、精神的なものだ。
哀の不調の原因。それは、池田安次郎の事件のことだった。
あの夜、魔法少女としてマジカルモンスターを捕獲しようとした哀。そこで、哀は謎の襲撃を受けたのだった。
確証はない。しかし、そこに、哀はある一人の女科学者の影を感じた。
(コードネーム『キルシュ』……)
魔法というものを研究する黒の組織の女科学者。その日の昼間に一度会っていたこともあり、疑惑は確信へと変わる。
黒の組織によるものと思われる謎の襲撃。そして、そのことが哀を不調に陥らせていたのだった。
(もし、キルシュにわたしの正体がばれていたら?)
哀の心の中で何度も何度も同じ言葉が繰り返される。自分の正体がばれていたら? そのことを思うとき、哀の心はとてつもない不安にさいなまれるのだった。
 
「じゃあねー。コナンくん。灰原さん!」
「また明日会いましょう」
「おう!また明日なー!」
歩美、光彦、元太たち3人が通学路の路上で別れの挨拶をする。
「ああ、またな」
「ええ」
コナンと哀もそれぞれ返事した。
歩美たち3人はそれぞれ楽しそうに話しながら家の方へ歩き去っていく。
コナンと哀も家の方へ歩き始めた。
しばらく歩いた後のことだった。
「灰原、お前なんか隠してること無いか?」
コナンが哀に向かって真剣な顔で聞いてきた。
哀の足がピタリと止まる。
「何を言っているの?あなたは?」
「とぼけるなよ?灰原。今までのお前の様子おかしいじゃねえか?何か隠してるだろ?」
さほど鋭い口調ではないが、コナンの口調には哀を追及するような色があった。
「何を言っているのか。さっぱりわからないわね」
そう言うがいなや、哀は再び歩き出す。コナンも哀の隣を歩きながら呼びかけた。
「おい、灰原!」
哀は答えない。ただ淡々と同じ歩調で歩くだけだ。
「答えろよ。お前はいったい何を隠してるんだよ!?」
哀は歩きながら、平然とした顔でコナンの方を向いた。
「あら?あなたは、わたしが何を隠してると思うのかしら?」
「そ、そいつは…」
コナンは戸惑った。哀の顔は冷静沈着そのもので動揺の色すら微塵も感じられなかったからだ。
なぜか不意にコナンの脳裏にある光景が次々と浮かび上がる。
それは、哀がヒラヒラの衣装を着て空を飛んでいる光景。『参上 魔法少女マジカル☆哀』と書かれた紙切れ。
今まで封印してきた疑問。
それが、なぜかコナンの脳内を駆け巡った。
「もう着いたわ」
「は?」
そこは、コナンと哀が別れる分かれ道だった。哀が淡々と言う。
「じゃあね。工藤君」
そう言うと、哀は阿笠博士の家へと歩き去っていった。
(灰原。お前はいったい何を隠しているんだ…)
その様子をコナンはただ黙って見守っていた。
 
「今、帰ったわ」
部屋の中に言葉をかけ、哀は阿笠博士の家へと入った。
「?」
返事が無い。いつもなら、阿笠博士が笑顔で出迎えてくるところなのだが…
(そういえば、昨日徹夜で何か作ってたわね)
朝、学校へ出かける際、阿笠博士のことを見かけたのだが、どうやら徹夜で疲れていたらしくグースカ寝ていたのだ。しかも、腹丸出しの格好で。
(また発明にでも没頭してるんでしょうね)
そう考えた哀はさほど気にせずに、カバンを置くと地下室へと降りていく。
地下室に降りた哀はパソコンを立ち上げると、なにやら作業を開始した。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタ……
哀のキーボードを打つ音が静かに響く。
「やっほー!哀ーーーーー!!おかえりーー!!」
哀が作業に没頭していると、不意に後ろから声がかけられた。
「あなた…後ろから声かけるのはやめなさいって言ってるでしょ」
哀は、驚きもせず、作業を行なう。もうすでにこのパターンには慣れつつあった。
「なんだ。驚かないのかあ。つまんないなあ」
哀の後ろから声をかけた人物(?)はつまらなさそうにつぶやいた。その小さい姿は、ネコの様な体を持ち全身が真っ黒でしっぽがついている。
そう、哀の後ろから声をかけたのは、いわずと知れたヒョウちゃんである。
「今まで退屈だったから驚かせようと思ったのに…」
哀は呆れのため息をついた。それにたいし、ヒョウちゃんは気を取り直したかと思うと明るく言った。
「ま、いいや。哀!退屈だから、なんかして遊ぼう!そうだな…芋虫ゴロゴロゲームなんてどうだ!?」
明るく哀を遊びに誘うヒョウちゃんに、哀は冷静につぶやいた。
「棚にケーキがあったわよ」
「よっしゃああああああ!!」
すぐさまヒョウちゃんは姿を消した。
「ああいうところはわかりやすいわね…」
苦笑した哀はまたパソコン画面の方に視線を戻す。そこには、様々なグラフやデータが並べられていた。
「……ただのガラスのように見えるけど構成素材はまったく未知の物のようね」
実は、前からひそかに魔法の試験管を調べていたのだ。
「いったいどうやったらあんな風に元に戻れるのかしらね?」
魔法の試験管を取り出して哀はつぶやいた。
アポトキシンの解毒剤を作ろうとしていた哀にとって魔法だかはわからないが、体が元に戻ったことは非常に興味深かった。メカニズムを解明すれば元に戻る方法も探れるかもしれない。
(それが、魔法っていうのがどうもね…)
哀としては、自分の不始末は自分で蹴りをつけたいのだ。わけのわからぬ魔法を頼りにすると言うのが面白くない。
「哀ーーーーーーー!!」
「なによ…」
ヒョウちゃんが急に哀の目の前に現われると真剣な声で言った。
「あのおじいさんが大変なんだ!!」
「阿笠博士が!!」
哀は試験管を机の上に置くと、すぐさま地下室から飛び出した!家の中にいる阿笠博士を探し回る。
寝室のドアを開けたとき、阿笠博士が寝室の床に倒れているのが目に入った!!
「大丈夫!?博士!!」
哀は倒れている阿笠博士に向かって大声で呼びかけた。
 
シャリシャリシャリ
リンゴの皮をむく音が静かに響く。阿笠博士は、寝室のベッドで哀に向かって申し訳なさそうにつぶやいた。
「すまんのう。哀くん。まさか、風邪をひいてしまうとは。ゴホッ。ゴホッ」
なんのことはない。さっきの大騒ぎも、阿笠博士が風邪をひいたというだけのものであった。
リンゴの皮をむく哀に向かって、博士は何度も申し訳なさそうに謝る。
「ホントにすまんのう。哀くん」
「お腹出して寝てるからよ」
「いやあ。ほんとにのお。ハッハッハ!ゴホ!ゴホ!」
笑っていた博士だが、急に咳き込んだ。
「寝ていたほうがいいわ。買い物に行くけど何か要る?」
「いや」
「おかゆでも作ってあげるわ。りんごでも食べてちゃんと横になりなさい…」
子供に接するような優しい声をかけると、哀は寝室のドアから出ていった。
「ふむ…」
哀がむいてくれたりんごを博士は口に入れた。
 
寝室から出た後、サイフを持って買い物に出かけた哀は米花商店街のスーパーにいた。
「ふーん。魚が安いわね」
どこにでもいる主婦のようなことを言いつつ、哀は買い物カゴに品物を入れていく。
(まったくしょうがないわね。阿笠博士も)
哀は呆れのため息をついた。発明に熱中するのはいいのだが、少しは自分の身も考えてもらいたいものだ。
哀が買い物を続けていると、ある女性の姿が視界に入った。
「あ」
その姿は、黒い服装をしていて、メガネをかけている。哀はその女性を見た瞬間、ぐにゃりと視界が揺れ曲がるような感覚を覚えた。
(チガウ。あれは、キルシュじゃない)
何度も哀は心の中で言い聞かせる。しかし、心の中の動揺は消えてくれなかった。不安が増幅され、哀の心を苦しめる。
(もしわたしの正体をキルシュが知っていたら?)
今まで何度も繰り返された疑問が哀の心の中を駆け巡る。もし知られていたら、元太も光彦も歩美も博士も、そしてあの推理フェチの少年にまで危害が及ぶのだ。
哀は、怯えていた。女科学者に。黒の組織の影に。
哀はその場に、いつまでも立ち尽くしていた。
 
ところで、買い物についてきたヒョウちゃんはというと、
「おお。お菓子がいっぱい!」
そんなことは知らず、お菓子の陳列コーナーで目を輝かせていた。
 
米花商店街で買い物を終えた哀は自宅への道を歩いていた。
黙々と哀は帰りへの道を歩いていく。
「なあ!なんで買ってくれなかったんだあ!仮面ヤイバーチップス!」
ヒョウちゃんが大声を上げる。仮面ヤイバーチップスとは、仮面ヤイバーのカードがおまけとしてついているポテトチップスである。
「今からでも遅くない。戻って買うんだ。買ってー、買ってー。買ってー」
駄々をこねるヒョウちゃんに、哀はただ何も言わず沈黙を続けていた。
「買って、買って、買ってえ!」
「…………」
そんなやりとりをしながら、一人と一匹は、そのまま家路へと急ぐ。
そんな時だった。
バリバリバリ!!
プラズマのような音が辺りに響き渡る。
人々がその音に一斉に驚く中、空間を歪ませてそれは現れた。
球状の形をしており黒い丸のようなつぶらな目がふたつ。大きさは、直径八メートルぐらいだ。
「かなり…間の抜けた姿ね」
哀が表現したようにはっきり言って気が抜けるモンスターである。
いままで現れたマジカルモンスターと違ってかなりかわいい雰囲気だ。
ヒョウちゃんが大声で叫んだ。
「パルルンだ!!」
「パルルン?」
「ああ!レインダムで今大人気のペットだぞ」
「これが…ね…」
まあ確かに丸い形状といい、つぶらな目といい、かわいらしいといえばかわいらしいのだが…
「よーし魔法少女マジカル☆哀に変身だ!!」
「…………」
「どうしたんだ?哀?」
不自然に沈黙する。いつもなら皮肉げな口調でなにか言うところなのだが…?
「大丈夫よ。何でもないわ…」
「なら、いいんだけどな」
哀とヒョウちゃんは、物陰へと移動し始めた。
 
「なんだ?」
コナンは大騒ぎする人々を見てつぶやいた。
ちょうど元太や光彦たちとのサッカーの帰りで手にサッカーボールを持っている。
コナンは、何の気なしに通りを眺めていたのだが、
「…ん?」
通りの向こうで気になる人物を見かけたのだ。
「灰原…!」
哀は通りの裏のほうへと入っていく。
近くにあの黒い猫のような妙な生物もいた。
不意にコナンの脳裏にヒラヒラの格好をした灰原の姿がよみがえる。
(どうやらまたのようだな…)
コナンは、哀を追って走りはじめた。
 
人々の騒ぎをよそに哀とヒョウちゃんは路地裏の方へとやってきた。
「よーし!ここでいいだろ!マジカル☆哀に変身だ!」
ヒョウちゃんの言葉に、哀は魔法の試験管を取りだそうとする。
しかし、その手を止めると、哀は不意にぽつりと言った。
「ダメ」
「どうしたんだ?哀」
「変身できないわ」
「なんだって!!」
変身できないとつぶやく哀に、ヒョウちゃんは驚きの言葉を上げたのだった。



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あとがき
とてつもなくお久しぶりです。探偵kです。長らくお待たせしました。魔法少女マジカル☆哀の新作をお送りします。
さて、前回の黒の組織の襲撃で調子を崩している哀。その哀の前に、マジカルモンスターが現れました。しかし、哀は「変身できない」とつぶやきます。
はたして、マジカル☆哀に変身できない理由とは!!
といったところで、後編に続く!!

探偵kーーーーさま
久しぶりですーーー!またまじかる哀が読めてうれしいですっ
いやーこの掛け合い懐かしい(笑)ヒョウちゃんと哀・・・そして今回はコナンくんがどうかかわってくるんでしょー♪
是非みなさん後編も読んでくださいーーー by あっきー